飲みが唯一の趣味のアラフォー
こそこそ外出する背中
Bさん(42歳男性)は飲みが趣味で、日々、妻と小学生の娘から「お酒くさい」などと小言を浴びせられながら、めげずに外でアルコールを浴びてくる働くお父さんであった。
そして自粛要請が出て、唯一の生きがいを取り上げられたBさんはしょげた。散歩させてもらえない犬くらいかわいそうである。「家にいたらいたで家族から『また家にいる』というオーラが出ているような気がする」と言うのだから涙すら誘う。
「コロナ初期は飲み屋さんが開いていて、客寄せのために料理や飲み物の値段が格安になっていたりしたから、いつもの飲みよりむしろ断然居心地が良かったんです。
でも、世間の危機感が高まってきて、周りも『開いていてももう飲み屋さんには行かない方がいい』という認識になって、誘っても誰も付き合ってくれなくなりました。
飲まずに早く帰宅しても家で何をしていいかわからず、書店に寄って漫画を買って帰る日々でした。『鬼滅の刃』は娘が喜んでくれ、そのうち妻もハマったのでよかったです」(Bさん)
“鬼滅効果”で父としてのありがたさを家族に再認識させるに至ったようで何よりである。
「さらに在宅時は『パズドラ』などスマホアプリゲームをやって時間をつぶしました。クレーンゲームアプリも面白かった。取った景品が実際に届くので、娘に『何が欲しい?』とリクエストを聞いてからプレーして、家族ウケが良かったと思います。」(Bさん)
家族と過ごす時間が必然的に増える自粛期間において、飲みに使われなくって浮いたお金は子どもに向かった。お金の力で子供の歓心を買うのは、しごく真っ当で正当な大人の流儀である。
しかし、それでもBさんは決して満たされなかった。飲みたい。飲んで、語って、騒ぎたい。家族のいないところで楽しみたいのである。Zoom飲みも2度ほど試したが「自分には性に合わなかった」とのことである。
そしてついに外出欲が制御しきれなくなったある夜、家族が寝静まったのを確認したBさんは足音を忍ばせて玄関から外の世界へと、身を躍らせた。
向かった先はラーメン店であった。