エゾトリカブト (蝦夷鳥兜)
Aconitum sachalinense subsp. yezoense
別名:テリハブシ、ウスバトリカブト

キンポウゲ科 トリカブト属

低地~山地のやや湿った林内や林縁に生え、茎の高さは60~150センチで、茎は弓なりに曲がり
上部で枝分かれする。茎先や葉の付け根から伸びる散房花序に、長さ約3センチの紫青色の花を
まばらにつける。烏帽子状の花弁は萼で、5個(上の1個が兜状で大きい)ある。花弁は2個あるが、
兜状の頂萼片に囲まれて見えない。雌しべは3~5個。雄しべは多数。茎葉は3個に全裂し、小葉は
さらに2深裂する。終裂片は欠刻状に分裂する。
全草(花、葉、茎、根などその植物の全ての部分に)に毒がある。『山溪ハンディ図鑑2 増補改訂新版
山に咲く花』によれば、今までに知られている限りでは、世界で最も強い毒性をもつトリカブトだという。

花期:8~10月  分布:北海道(道東、道北を除く)

参考資料
新分類 牧野日本植物図鑑 北隆館 原著 牧野 富太郎 編集 邑田仁(東京大学大学院理学系
研究科教授)米倉浩司(東北大学植物園助教)平成29(2017)年6月20日 初版
門田裕一 『山溪ハンディ図鑑2 増補改訂新版 山に咲く花』 山と溪谷社 2013年3月30日
梅沢俊 『新北海道の花』 北海道大学出版会 2007年3月25日
トリカブトの分類(花弁の構造や形を参考にした)2019年9月25日参照
昆虫エクスプローラのハサミムシ図鑑 2019年9月28日参照

最終更新日:2019年10月3日
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エゾトリカブトは、野幌森林公園一帯で見られる。しかし、6月10日にヒグマの出没が78年ぶりに
確認された。危険なため入園を控えていたが、9月5日に北広島市内で捕獲・駆除され
9月13日に野幌森林公園で採取した糞と遺伝子が一致したと発表された。
その期間、野幌森林公園を管理する北海道博物館は、ホームページでヒグマの出没情報を発信して
いた。その情報をもとに、比較的安全と思われるコースを選び、8月31日から散策を開始した。
エゾトリカブトは見頃を迎えていたが、花弁を4個付けるなど、変異の大きい個体を確認できたのは
収穫だった。2019.8.31~10.3

エゾトリカブトは、野幌森林公園一帯で見られた。花弁を写すには花を分解しなければならないが
全草に毒があるため手を出せない。ある日、森の観察会の一行が通りがかり、自然解説員が
「きれいな花ですが、全草に猛毒があるため触れないで下さい」とメンバーに注意していたのが
印象的だった。筆者の画像DBには8月上旬~10月中旬までの画像データがあり、よほどこの
花に魅せられたみえる。(笑)2006.10.9

江別市 野幌森林公園
茎は弓状に曲がる。
花は茎頂の花序から咲き始め
順に、下の方の花序へと移る。
↑は、先に咲いた花序に、緑色
の果実(袋果)ができている。
2006.8.27
時に、茎は直立する。
この個体は、茎頂で、枝が横に
張り出しているものの、茎全体は
直立している。
多くはないが、このように直立する
タイプも見られる。
2019.9.9
時には、特大のエゾトリカブトが見られる。計測したところ
茎の長さは、205センチに達していた。
2019.9.27
茎葉は3全裂し、小葉はさらに2深裂する。裂片はさらに欠刻状に分裂する。2019.10.2
個体数は少ないが、白と淡紫のツートンカラーや青紫色の花も見られる。
花色は↓の花の拡大画像に見られる色が多い。
2019.9.18
烏帽子状の花弁は頂がく片、その下の左右に
側がく片。さらにその下に、不ぞろいだが
下がく片が2個見える。
側がく片にはさまれるように、雄しべの集団が
あり、それぞれの先端に葯が見える。
中心には、淡緑色の雌しべが3個見える。
雄しべの集団の背後から頂がく片に向って
2個の花弁の柄が伸びている。
先端には花弁(蜜弁ともいう)が付く。
2019.9.1
頂がく片、側がく片、下がく片
及び、雄しべには毛がある。
2019.9.5
雌しべは3~5個付くとされるが、3個の
個体が多い。
2019.9.5
がく片がほぼ落下した個体。
手前の花の花托には、5個の雌しべと
多数の雄しべが残っている。
一方、後方の花の花托には、雌しべが
3個の花と4個の花があったことを示す
果実が付いている。
2019.9.9
 
果実は、長さ20ミリ前後の袋果。
袋が裂けて種子が見えている。
2019.9.27
ハサミムシの一種が、袋状の果実に
体を頭部から突っ込み、尻にあるハサミを
外に出しているのを観察できた。
エゾトリカブトの種子が好物なのだろうか
種子が残っているものに多い。
2019.9.28
 エゾトリカブトの花弁(蜜弁)
野幌森林公園の遊歩道沿いでは、例年、8~9月にエゾトリカブトの花が見られる。
個体数が多いため、どのコースを歩いても、間近に見ることができる。
ふつう、花弁(蜜弁)は、がく片の中に隠れていて、表から見え難いが、がく片の外に
飛び出す個体に出合うこともある。
2019.9.14~9.30
普通、花弁は上がく片の中にある。花の盛りが過ぎる頃、上がく片と側がく片が
離れてくる。下から見上げると中の様子が分かるようになる。
横から透けて見える場合もある。
 これは、意図的にがく片(下がく片は2個が残っている)を剥がしたものではなく
この状態で風に揺れていた。「隅々までよく見てね!」と言っているように・・・。
トリカブトの分類によれば、エゾトリカブトは、白い←の部分が距(左側の内側に
巻いている部分)に向って、額のように上部がふくらむタイプに属するという。
この個体は、それに当てはまる。
以下は、変異の大きい個体で、一つの花に4個の
花弁(蜜弁)が付いている
同じ花を、ほぼ正面と真横から見た。
2個の花弁が、雄しべの集団の下の方から、がく片の外に突き出すように出ている。
一方、横から見ると、上がく片の中にも、花弁が2個、透けて見えている。
つまり、この花には、花弁が4個ある。普通は、上がく片の中にある2個だけである。
この花は、↑とは花弁の形状が異なるだけでなく、花弁が雄しべの集団の
上の方から
2個が突き出すように出ている。
さらに、上がく片の中には、花弁の柄が2個見え、花弁は都合4個ある。
 
 花弁の形は、時間の経過とともに、さらに変化していく。
花弁の形状の差異が著しい個体
左は、ほぼ正面。右は、ほぼ真横からみた。
雄しべの集団から真上に伸びる花弁のうち、右側は変異が大きい。
また、雌しべは2個しかない。

現在、恵庭公園内ではエゾトリカブトを見ることはできない。人づてに聞いたところでは、入園者(子供)の
安全を確保するため、処分したのだという。それを忘れて観察にでかけた。小さいが、1株だけ筆者の目に
留った。しかし、花は散り、若い果実を付けていた。2019.9.30

恵庭公園と河畔公園を結ぶ遊歩道がユカンボシ川に沿ってつけられている。エゾトリカブトは
その遊歩道沿いで見られた。2011.8.28/9.11

恵庭市 恵庭公園
茎は地上から15センチほどのところで枝分かれし
奥の枝は直立し、手前の枝は弓状に曲がっている。
どちらも枝先に花をつけている。
2011.9.11
2011.8.28

エゾトリカブトは、シュウパロ湖と夕張岳登山口を結ぶ林道でごくふつうに見られた。トリカブトの仲間は
葉の裂け方や花柄の毛の種類で見分けるようだが、素人には難しい作業だ。本種は、梅沢俊 著
「北海道 夏~秋の花 絵とき検索表Ⅲ」を頼りに、形質をたどって同定できた。素人には誠に有り難い
図鑑で手離せない。
なお、夕張岳の前岳湿原から吹通しの間ではエゾノホソバトリカブトが見られた。

トリカブト属は猛毒を持つことで知られるが、その中でも、エゾトリカブトは今のところ世界で最も強い毒性
を持つそうだ。根が最も危ないが、できるだけ花や葉にも触れないように恐る恐る近づきシャッターを
押したら、へっぴり腰になってブレてしまった。(笑)

2003.8.19(2019.10.1画像サイズ変更)

夕張岳
(夕張コース駐車場)
2003.8.19