彩色
「…とにかく俺は魔法青年になるしかないってことか」
俺は痛みのあまり流れる涙を拭いながらNew-2に言う。
「そういうことだね。でも悲観することでもないよ。何たって魔法が使えるようになるんだ。人間としては夢のような出来事なんじゃないの?それに今朝言ったように、まだ僕は君を倒さない。君が魔法青年として一流になるまではね」
New-2の話を聞いていてずっと違和感を感じていることがあった。こいつは魔法青年を『倒す』と表現し続けている。『殺す』こととは違うのか?
「魔法青年や天使には『殺される』『死ぬ』といった概念はない。だから僕は『倒す』と表現している」
そうだ、こいつは俺の脳内を読み取れるんだ。
わざわざ言葉を発して質問する必要がなかったことにようやく俺は気付いた。
それでは魔法青年や天使が『倒される』とどうなるんだ?
「それは僕にも分からない。ただ、死ぬよりも辛いことなんてこの世にはたくさんあるからね。倒されて楽になれるなんて僕には思えない。それよりも『クリア』という確実な道を僕は歩むよ」
クリア?何だそれは。
「それもまだ言えない。さて、僕はそろそろ帰るよ。この体でいるのにも少なからずRPを使っているからね。RPについても詳しいことはまだ言えないけれど、ランクポイントの略だということは教えておいてあげよう。後は自分で勝手に推測するなりしてよ。じゃあまたね、魔法青年の58くん」
画面がフェードアウトするようにNew-2は少しずつ存在を薄くして消えていった。
まだまだ分からないことだらけだ。
時間をかけて考えてみるしかないのか。
そして、俺はもう魔法青年になったのだろうか。
全く自覚がない。
「…チンカラホイっ!」
小さい頃見た青い猫型ロボットの映画を思い出して呪文を唱えてみる。しかし何も起こらなかった。
「そりゃそうか…」
俺は一人、赤面しながら呟く。
しかし、何だろうこの気持ちは。
New-2の口車に乗せられたようで癪ではあるが、魔法という人類の夢とも言える能力を手にしたということに少なからず気分が高揚している自分がいた。
もちろん恐怖はある。
ただ、マンネリ化した日々に退屈するだけのモノクロの人生に彩りが加えられたような感覚があった。
「今日はもうしばらく学校にいるか」
俺は教室に戻ることにした。