屋上
「どうしたの?阿呆みたいな顔してボーッとして」
圭子が俺の顔を覗き込んで言った。
いつの間にか俺の右手は動きを止めていた。
あんな出来事を思い返しながら何かをするなんて不可能だ。
「いや、何でもない」
そう言って俺は席を立った。
「おい
醜い中年親父の言葉を無視してトイレへ向かった。
「くそ…朝からあんなことがあったんじゃ何も集中出来ない。今日はもう帰るか」
水道で顔を洗い鏡を見ながら呟く。
ズッ。
鏡に映る俺の背後の空間が一瞬歪んだように見えたかと思うと、見覚えのある何かが現れた。
「天使…!」
俺は後ろを振り返り身構える。
「連れないなぁ。僕にはちゃんとNew-2って名前があるんだから名前で呼んでよ。もう初対面でも無いんだし。仲良くしようよ、58(ごっぱー)くん」
58(ごっぱー)というのは俺のあだ名だ。苗字が五十八であることに由来している。
「あだ名まで知ってるのか…。何の用だ?」
「いやぁ、58くんが現状を飲み込めず困ってると思ったからまた説明しに来てあげたんだよ。色々聞きたいこともあるだろ?」
New-2はパーカーのポケットに手を突っ込んだまま見下すような態度で言った。
「確かに、聞きたいことはたくさんある。でもこんなところを誰かに見られたら騒ぎになる。場所を変えよう」
「馬鹿な58くんにしては珍しく良い提案だね。まぁ他の人間には僕の姿は見えないけれど、58くんが独り言を言っているようには見えちゃうしね。いいよ、どこでもついていくよ」
俺はNew-2を連れて屋上へ向かった。
「で?何から知りたい?」
New-2は屋上のフェンスの上に立ち、文字通り見下しながら言った。
俺は何が知りたい?
分からないことが多過ぎて困る。
とりあえず順を追って質問していくか。
問一、何故俺の元へ来た?
答え、魔法青年になってくれる人間を探してふらついていたらたまたま君と目が合ったから。
問ニ、「魔法青年になる」とはどういうことだ?
答え、文字通り魔法が使える青年になるということ。
問三、どんな魔法が使えるようになる?
答え、人それぞれ。君次第だ。
問四、魔法青年になって欲しいというお前の願いを断ったら?
答え、人間世界で言うところの2万年に値する時間に及んで、拷問のような苦しみを与えて殺す。
問五、魔法青年になってもどうせ殺されるんだろ?
答え、そうとは限らない。魔法青年になれば君にも僕を倒す
問六、それなら魔法青年を生み出すことはお前にとってデメリットなんじゃないのか?
答え、そんなことはない。確かに自分が倒されるリスクを背負うことにはなるが、魔法青年を倒さなければならない理由が僕にはある。
問七、どんな理由がある?
答え、それはまだ言えない。
問八、今朝言っていた「ランク」に関係があるのか?
答え、ランクについてもまだ言えない。
問九、いつになったら言える?
答え、それはまだ言えない。
問十、人間を魔法青年にする力がお前にはあるのか?
答え、ある。
問十一、今朝俺が眠っていたあの部屋はどこだ?
答え、僕の部屋だ。人間の意志では絶対に来ることが出来ない次元にある。ちなみにあの部屋での1時間は人間世界の1秒に該当する。
問十二、お前ら天使にはどんな能力がある?
答え、魔法青年と同じように各個体によって異なる。
問十三、お前の能力は?
答え、教える訳ねーだろ。バーカ。
流石に我慢の限界だった。
俺はNew-2に再び殴りかかり、俺の拳は再び俺の頬に直撃した。