不良
「おはよー!」
俺が教卓の上でしゃがんでいると日本人離れした綺麗な顔立ちの女子が元気に挨拶をしてきた。
彼女の名は田渕圭子。
腐れ縁の幼なじみだ。
「まーたあんたは教卓の上で煙草吸って!本当どうしようもないわね、このクソヤンキーは」
「うるせぇ!犯すぞこのクソビッチが!」
「うわぁ…ドン引きだわ」
いつも通りのやり取りをして圭子は席につく。
それと同時に俺は教卓に煙草を押し付けて火を消し、席に戻る。
「あんたどうせ宿題やってないんでしょ。はい」
そう言って隣の席の圭子がノートを差し出す。
「余計なお世話だわ。本当にお節介なババアだ」
そう言って俺は圭子からノートを受け取り一心不乱に自分のノートに解答を写す。
ガラララ。
「お前ら席につけー。朝のHRはじめるぞー」
担任の日下部が入ってきた。
肥えた身体に薄くなった毛髪、見ているだけで吐き気がする。
俺は普段どおり圭子の解答を書き写しながら、今朝のことを思い出していた。
「俺を魔法青年にする…?どういうことだ?」
天使は虫けらを見るような目をして答える。
「鈍いなぁ。本当に人間は馬鹿ばっかりだ。今説明したように僕らは魔法青年を倒すのが使命だ。だから君に魔法青年になってもらって、僕は君を倒す。これで全てが丸く収まるだろ?」
「何でだよ!どうして俺がお前に倒されなきゃならない!?俺じゃなくてもいいだろ!?」
他にも言いたいことはたくさんあるが、とりあえずそこが一番納得いかない。
「確かに魔法青年になるのは君じゃなくてもいい。誰でもいい。つまり君でもいいんだ」
そんな理不尽なことがあってたまるか。
「理不尽ねぇ。この世は常に理不尽なことで溢れている。理不尽で不公平だ。交通事故に遭って死ぬ人間と交通事故に遭わずに普通に生活している人間がいる。人間は毎日、毎秒、そういった理不尽に遭うか遭わないかギリギリのところで生きている。君は今、たまたま事故に巻き込まれてしまった。ただそれだけのことなんだよ」
納得出来るはずがない。
俺は思わず天使に殴りかかった。
バキ。
天使に当たるはずだった俺の拳は何故か俺の頬に直撃した。
「人間ごときが天使に触れられると思うな。何と愚かな生物なんだ。憐れみのあまり涙が出そうだよ」
俺は痛みのあまり流れる涙を拭いながら天使を睨みつける。
「まぁそう怖い顔するなよ、弱いくせに。ただ安心しなよ。君を倒すのは君が魔法青年としての自負を高めてからだ。自覚のない魔法青年を倒したところで僕のランクは上がらないからね」
ランク?
何の話をしているんだ?
「詳しい説明はまた改めてするよ。君はそろそろ学校という場所へ行かねばならないんだろ?送ってあげるよ」
その瞬間視界は闇に包まれ、気付くと俺は通っている高校の校門前に立っていた。