失禁
けたたましい騒音の中、ゆっくりと重い瞼を持ち上げる。
一日の中でこれほどに不快な瞬間は無いと、毎朝そう思っている。
体を横たえたまま諸悪の根源であるメザマシドケイに手を伸ばし、それを床に叩きつける。ようやく静寂が訪れた。
「今日も買って帰らなきゃな」
木っ端微塵になったメザマシドケイを横目にそう呟く。
老人の如く時間をかけて体を起こし、目をこする。
床に散らばる悪魔の破片を踏まないよう気を配りながら、部屋の中央にある座椅子へと歩を進め腰を下ろす。
「ふぅー…」
目覚めの一服は格別だ。死んでいた脳が徐々に覚醒していくのがわかる。
心地よいラッキーストライクの香りに包まれながら、俺はゆっくりと立ち上がりカーテンを開ける。
6時間ほど闇を見ていた俺の網膜に、日光の刺激は強すぎた。思わず目を細める。
「何だ、あれ」
狭めた瞼の隙間から覗くいつもの街並みに違和感を感じる。
何かが宙に浮いている。
遠くに豆粒のように佇むそれは一瞬にして膨張した。
バァーン。
膨張したように見えたそれは窓を突き破って俺の部屋に侵入してきた。
風圧で俺は吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
「かはっ…!」
人生で初めて吐血した。
思考が追いつかない。何が何だか分からないままそれを見上げる。
人間?
顔の前に紙っぺらがくっついている。
紙の中央には「New-2」と書いてある。
怖い。震えが止まらない。
死を覚悟する俺の前でそれは静かに呟いた。
「魔法青年を倒したいんだ、僕は」
その言葉を聞きながら俺は失禁しつつ気を失った。