川崎医科大学 小児科学
川崎医科大学 小児科学
日本国内で新型コロナワクチンの接種対象となるのは12歳以上の小児です。乳児や幼児に接種できるワクチンはまだありません。12歳以上の小児に対して、2種類(ファイザー社と武田/モデルナ社)のmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンを接種することが可能です。健康な子どもでも、ワクチンを接種する意義があります(※1、※2)。それは、なぜでしょうか。
流行の始まった当初、子どもの患者数は非常に少なく、重症化する頻度も低いと考えられました。その理由は確定していませんが、ウイルスが体内に侵入する際に使われる入り口(ACE2受容体)が子どもの気道粘膜には少ないことや、子どもがよくかかる通常のコロナウイルスに対する免疫が防御的に働く可能性が考えられています。
ところがより感染力の強い変異株の出現により、子どもの感染者は増えました。子どもに感染しやすくなったというよりは、各年齢層の患者が増える中で子どもも多く感染するようになり、結果として保育所や学校でのクラスター、家族内の感染も数多く報告されました。ただし患者数が増えれば、一定の頻度で重症者が発生するので油断はできません。
特に、基礎疾患のある子どもでは新型コロナウイルス感染症が重症化するリスクが高いとされます(※1、※2)。
さらに、新型コロナウイルス感染後数週間以上を経て発症する「小児多系統炎症性症候群(Multisystem Inflammatory Syndrome in Children (MIS-C))」は、心臓など多臓器に影響が及ぶ重篤な病態です。国内でもMIS-Cの報告はあり、患者数の多い海外では半数以上に集中治療室(ICU)での治療が必要で、死亡した例もあります(※3)。
また、新型コロナウイルス感染症の流行が続くと、子どもの社会生活や学校生活は様々な制限を受け、学びや成長への影響が懸念されています。
これまで一般的に、呼吸器感染症に対する有効率の高いワクチンの開発は難しいとされていました。しかし、新型コロナのmRNAワクチンは大人で高い発病予防効果が確認され(ファイザー社:約95%、武田/モデルナ社:約94%)、子どもでも以下に示す高い効果が海外で報告されています。
ファイザー社ワクチンを12~15歳の子どもに2回接種後、ワクチン接種群1,119人で新型コロナウイルス感染症を発症したのは0人だったのに対して、プラセボ群(ワクチンを接種していない人)1,110人では18人が発症しました(※4)。また、ワクチン接種後の中和抗体価は、16~25歳と比べて12~15歳は劣っていないことが示されました(※4)。
武田/モデルナ社ワクチンでは、12~17歳の子どもに2回接種後、ワクチン接種群2,139人で新型コロナウイルス感染症を発症したのは0人だったのに対して、プラセボ群(ワクチンを接種していない人)1,042人では4人が発症しました(※5)。12~17歳のワクチン接種後の中和抗体価は、18~25歳と比べて劣っていないという結果でした(※5)。
これらから、ワクチン接種は大人と同様に子どもでも新型コロナウイルス感染症を予防する効果が期待でき、結果として、同居する家族等に感染を広げる可能性を減らすことで、子どもたちが安心して日常生活をおくることにつながると考えられます。
ただし、接種することは義務ではありません。ワクチンのメリットと以下に示すようなデメリットの双方について、本人と保護者(接種者本人が16歳未満の場合)が十分理解した上で、接種に同意した人が接種します。適切な判断のためには、もしわからないことがあれば、かかりつけの医療機関や地域の相談窓口等に相談するなど、納得できるまで情報を得ることが大切です。
大人と比べて、これまでにmRNAワクチンを接種した子どもの人数は少ないですが、海外の臨床試験において子どもに接種した場合の副反応は許容範囲とされています。ワクチン接種後の接種部位の疼痛や、全身性の副反応としての発熱、からだのだるさ、頭痛などの頻度は、大人では若年層で頻度が高いと報告されています。
したがって、子どもに接種した場合、接種部位の痛みや発熱、からだのだるさ、頭痛などは一定の頻度で出現することが想定されます。国内20歳以上の数万人を対象に実施された健康状況調査では、これらの副反応のほとんどは、接種翌日までに出現し、通常は数日以内に回復しています(※6)。
症状に我慢できなかったり、2~3日を超えて症状が続く場合は、接種した医療機関、かかりつけの医療機関、もしくは地域の新型コロナワクチン相談窓口に相談しましょう。日常使い慣れた解熱鎮痛薬を使用することは問題なく、子ども(15歳未満)ではアセトアミノフェンを使用する場合が多いです。また、学校が休みとなる前日に接種を行うなどの配慮も有用です。
これまでの接種経験から、頻度としてはまれですが、mRNAワクチン接種後の副反応が疑われる疾患として心筋炎/心膜炎があり、思春期から若年成人の男性に多いとされます。また、1回目より2回目接種後の1週間以内に起こることが多いとされます。今のところ、心筋炎/心膜炎を発症しやすい体質や要因はよくわかっていません。
心筋炎/心膜炎で現れる症状は、胸の痛み、息切れ、動悸(心臓がドキドキする)などです。激しい運動が心筋炎/心膜炎の原因になるわけではありませんが、心筋炎/心膜炎を発症した場合は心臓に負担をかけることはよくないので、接種後1週間程度は自覚症状に気をつけて、はげしい運動は控えて過ごすことも選択肢である旨、関連学会からも見解が示されています(※2)。新型コロナワクチン接種後の心筋炎/心膜炎に関してさらに知りたい方は、こちらの資料も参照してください。
行政・医療者・保護者・子どもの相互で、ワクチンを接種することで期待できるメリットと、生じ得るデメリットを、接種前から情報共有しておくことが大切です。十分なコミュニケーションを相互に行うとともに、より良い接種環境の整備に努めましょう(※7)。
接種翌日には接種部位の痛み、発熱、からだのだるさ、頭痛などが起こることが多いため、登校や課外活動に影響が出る場合があることをあらかじめ子どもにも伝えておきましょう。
子どもは副反応と思われる症状をうまく説明できなかったり、本人が副反応に気づかない場合もあるので、周囲の大人が日頃から子どもの体調の変化に注意深く気をつける必要があります。
子どもが落ち着いて接種できる会場や医療スタッフがいることが望ましいと考えます。最適な医療機関を探すのに難しいケースもあるでしょうが、接種後の救急対応と併せて心身の安楽が保てる環境も大切です(※7)。
痛みに過敏な子どもに対しては、リラックスできる会話や、痛みから気をそらさせるようにして接種を心がけます。注射や採血で気分が悪くなったことがある子どもに対しては、ベッドに横になっての接種や、接種後にすぐに立ち上がらせないなどの配慮が必要です。
接種後15~30分ほどは、アナフィラキシーなど即時型アレルギー反応が起きないかを観察するために接種会場で待機をすることになります。接種直後の皮膚のかゆみや赤み、息苦しさやゼーゼー、吐き気などがあれば、対処が必要です。子どもに慣れたスタッフがいる環境や子どもが過ごしやすい環境が望ましいと考えます。
接種会場では、接種後の注意事項についてリーフレットなどを配布される場合が多いです。また、厚生労動省でも子どもと保護者が一緒に読むことができる、12歳以上のお子様とその保護者の方向けのリーフレット(※8)を作成しています。
子どもは様々な特性を持つ多様性に満ちた集団です。単に年齢や体格が異なるだけでなく、病原体やワクチンへの感受性や副反応も異なる可能性があります。また、知的および心的成熟の度合いにより、ワクチンに対する受容性や効果への期待、副反応の受け止めにも個人差が大きいと考えられます。その点をふまえて、子どもに説明する際には、本人の理解度に合わせて平易な言葉を用い、可能な限りわかりやすく説明することが大切です(※7)。
また、子どもは自らだけで接種するかどうかを判断することはできません。しかし、子ども自身が考え、意思を伝えることができる環境を整えることも大切です。より健やかな毎日を送るために、子ども自身が適切な選択に関われるように日頃からサポートする姿勢が周囲の大人には望まれます。
(参考資料)
※1:新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~(2021年9月3日改訂)(日本小児科学会)
※2:「新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~」に関するQ&A(2021年9月22日改訂)(日本小児科学会)
※3:小児COVID-19関連多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)診療コンセンサスステートメント(2021年9月16日改訂)(日本小児科学会)
※4:コミナティ筋注 添付文書(2021年9月改訂第7版)等(ファイザー(株))
※5:COVID-19ワクチンモデルナ筋注 添付文書(2021年9月改訂第5版)等(武田薬品工業(株))
※6:新型コロナワクチンの副反応について (厚生労働省)
※7:子どもの接種に際して必要なコミュニケーションと環境整備(中野貴司)
※8:接種のお知らせ(12歳以上のお子様とその保護者の方へ)(厚生労働省)
・ファイザー社ワクチン
・武田/モデルナ社ワクチン
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