3月中旬の日暮れごろ、観光客の姿もほとんど見当たらない薄暮時、東尋坊を一周できる荒磯(ありそ)遊歩道の脇に設置してあるベンチに関西から来た30代の男性が弱々しく独り座り込み日没を待っているところを見つけました。私たちNPO法人の女性スタッフが「今日は、どうされましたか…」と声掛けしたところ、大粒の涙を浮かべ「僕は、もうダメです。死んでお詫びするしか無いんです…」と言って泣きじゃくるため説得して相談所まで来てもらい、待ち構えていた茂代表を含めた3人のスタッフで話を聴きました。

 男性は親元を離れた20代半ばのとき、友達に競馬好きの人がいました。その友達とスマホで簡単に投票ができるギャンブルにはまってしまい、約4年間で消費者金融から500万円の借金をしてしまったのです。すると、毎日のように督促状が来て、差し押さえするとの通告がきました。そして父親がその事態を知るところとなり、借金を親に精算してもらったのです。しかし、ギャンブルから抜け出せず、31歳になった時にもまた300万円の借金をしてしまい、親に精算してもらいました。昨年10月には再び400万円の借金をしてしまいました。父親から「ギャンブル依存症を治すために精神病院に入院し金融機関にブラックとして登録してもらって今後は融資を受けられないことにする」ことを条件に精算してくれたのです。

 精神病院では認知行動療法や一週間毎のプログラムを組んだ治療を約4カ月間続けました。会社を辞め、親の知り合いの会社に転職しましたが、結局、親から合計1,200万円の尻ぬぐいをしてもらってしまったにもかかわらず、どうしても競馬のギャンブルから抜け出すことができませんでした。今月の上旬に自分の有金であった80万円の貯金を全て使ってしまい、スッカラカンになってしまったのです。親からは「今度ギャンブルに手を出したら親子の縁を切る」と言われていたため、これ以上親を頼ることもできません。かといって今後の生活費も無い。死んでお詫びするしかないと思い立ち、仕事の昼休み中にパソコンで遺書を書きました。そして無断で会社を飛び出して自家用車で午後4時ごろ、東尋坊へ。飛び込む場所を決めて日没を待っていました。私たちが声を掛けたのは、そのときでした。

 本人に、何故こんなにギャンブルにはまったのかと聞くと「ギャンブルで100万円~200万円位の大金を今までに2、3回当ててしまったことからお金に対する感覚がマヒしてしまい、勝った時のことしか夢を見なくなり、ダメだとは思っているのですが自然と指が動いて手元にあるスマホで投票してしまうのです。僕は長男で小さい時から甘やかされて育てられており、親父は大手企業の役員をしていることから、どうしても自分の甘さから抜け出せず、我慢の出来ない自分になっているのです」。自分の不甲斐なさを悔やんでいました。そして自分の口から父親に許しを乞うことが出来ず、自殺に追い込まれていたのです。

 私たちで東尋坊から父親に連絡を取り本人と話をさせたところ、父親の「帰って来い」との一言で元気を取り戻し、自力で帰って行きました。「ブラック金融もあり、そこから借りることもできます。しかし、家に帰ったら親と相談して物理的に環境を変えることを考え、スマホを手放すなどして自分の生活を取り戻したいと思います。また、心が揺れたら相談に来ますのでお願いします」と約束の言葉を残していきました。

 新型コロナ禍の影響により失業者、収入減、交流減、社会的孤立、閉そく感、先行きの不透明感などによりコミュニケーション不足が続き、東尋坊での自殺も増加するのではと危惧されているため、地元警察や当NPO法人では自殺防止のためパトロールを強化しています。彼が元気になって帰っていく姿を見た時、私たちの活動を続けてきてよかったと、あらためて感じた一日でした。

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 福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。

 相談窓口は電話=0776817835

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