総売上58兆円と世界最大の企業グループとなった三菱グループ。経済誌でも特集が組まれるなどその強さの源泉に注目が集まっている。

 三菱の結束力を示す中枢ともいえる「金曜会」では、三菱グループの主要企業29社の会長・社長が一堂に会し、昼食を共にする。この会は「あくまで親睦目的であり、メンバー企業の経営に干渉したり、グループとしての政策や経営戦略を討議決定する場所ではない」(三菱グループ全体の広報活動を行なう三菱広報委員会)という。

 ただし、三菱の社名が付いた企業が経営危機となった場合は、金曜会主導で救済するといわれている。

「三菱ブランド死守」という動きが顕著に表われたのが「三菱自動車リコール隠し事件」だ。2000年7月、内部告発で組織的なリコール隠しが明らかとなった。経営危機に陥った三菱自動車を独ダイムラー・クライスラー(当時)が救済提携に乗り出した。

 ところが大型車のタイヤ脱落事故が起き2004年にトラック・バス部門のリコール隠しも明らかになりダイムラー・クライスラーが支援を打ち切ると通告してきた。

「近年の日本企業であれば、自動車事業を切り捨てていたと思います」(経済ジャーナリスト)

 不採算部門はリストラするのが21世紀型経営のセオリーだ。例えば日立は2009年3月期に7873億円の最終赤字を計上していたが、赤字部門だった薄型テレビ、ハードディスクドライブ、電力事業について撤退や売却、統合を進めた結果、2016年3月期では1729億円の黒字を計上するなどV字回復を果たしている。

 ところが三菱は決して「不採算会社」を切り離そうとしなかった。ここで動いたのが金曜会だ。前述の通り公式見解では「親睦目的」のはずだが、当時の世話人代表が会の中で異例の声明を発表したという。

「三菱グループに対する社会の見る目が厳しさを増している。各社におかれても三菱の信用維持、向上のため十分に心して頂きたい」

 ダイムラー・クライスラーが支援を打ち切った後は、三菱重工業、東京三菱銀行、三菱商事の「御三家」が金曜会メンバーの企業に支援を要請、御三家の増資を柱とする新再建策を公表し、グループ全体で三菱自動車を支えたのだ。当時、「この不祥事で三菱は終わった」と思った社員は少なくなかったという。

「しかし結果的にはグループの底力、有事における対応力を内外に示すこととなった。社員から“三菱であることを誇りに思った”という声が聞かれたのもこの頃です」(経済誌記者)

 雨降って地固まる。トップが示した「仲間は絶対に見捨てない」という精神が、結束力を強くしたことは間違いない。スリーダイヤを守ることが至上命題の三菱。それを物語るエピソードがある。

「三菱グループと全く資本関係のない三菱鉛筆も、三菱の名前があり、スリーダイヤのマークを持っています。御三家の幹部に冗談で『三菱鉛筆が経営危機に陥ったらどうしますか』と聞いたら、真顔で『助ける』というんです。三菱グループが危ないという風評が流れたら困る、グループでなくてもスリーダイヤは守る、というのです」(経済ジャーナリスト)

 現実にはそのようなことは起こらないかもしれないが、スリーダイヤの重みとそれを守るためのグループの結束力が窺える話だ。

※週刊ポスト2016年3月4日号