目下、大きな話題となっている『全国部落調査』の扱いをめぐる裁判。東京地裁は公開禁止を求めた原告の関係する都府県の部落一覧の公開を禁止する判決を下した。一方、原告はもちろん、各メディアは頑なに報じていないが、全国部落調査以外の部落一覧は問題にされておらず、むしろ原告らはそれらは正当なものと主張している。
弊舎が裁判所にも提出した、公開が問題ないとされている、解放同盟や行政等が公開し、現在でも図書館等で見ることができる部落・同和地区リストをここに掲載する。部落地名がプライバシーに属するという裁判所の判断が本当に妥当なものか、検証するためには欠かせない資料である。
1. 50年のあゆみ
社団法人大阪市人権協会が2003年に設立50周年を記念して発行した冊子。同会は事実上は部落解放同盟の大阪市における事業部門であった。しかし、同和地区の雇用対策として運営されていた駐車場の多額の収益を横領し、それを大阪市に返還することができず破綻し解散した。
同会は「10年の歩み」以降10年ごとに記念誌を発行しており、それらには大阪市内の同和地区の位置を示す地図と、全ての同和地区の状況が詳細に書かれていた。
2. 大阪の同和事業と解放運動
1977年に財団法人大阪府同和事業促進協議会が発行し、3000円で一般販売していた書籍。同会も部落解放同盟の事実上の事業部門である。「部落地名総鑑事件」が発覚したのが1975年であるが、その直後でも大阪府内の部落一覧が当たり前のように掲載されている。なお、 「部落地名総鑑 」と言われた書籍の一部は、部落解放同盟が行政交渉に用いた資料がもとになっていた。
3. 大阪府解連協10年のあゆみ
大阪府解放会館連絡協議会が10周年を記念して1981年に発行した記念誌。解放会館、あるいは同和地区解放会館と呼ばれた施設は大阪府内に各同和地区に存在した。現在でも人権文化会館等と名称を変えて多くが残っている。それらが同和地区のランドマークであることは公然の事実である。同書には解放同盟の支部名が記載されており、多くの解放同盟支部が同和地区名を冠していることが分かる。
4. 部落問題・水平運動資料集成
1978年に三一書房が発行した部落問題や水平社運動に関する研究書。編者の秋定嘉和氏は京都部落問題研究資料センター所長である。本書は多数発行されたと見られ、大きな図書館には大抵所蔵されている。
同書には全国水平社の要請を受けて真宗大谷派が作成した部落寺院のリストが掲載されている。特に鳥取県では歴史的に穢多村が2つの大谷派寺院の檀徒に集約されたことから、鳥取県の部落地名はほぼ全て網羅されている。
また、群馬県内の「被虐部落」を列挙した文書が収録されている。
5. 滋賀の部落
昭和40年代に滋賀県部落史研究会が発行していた研究書。部落解放同盟滋賀県連合会が、それらをまとめたものを過去に2回発行している。圧巻なのは「部落巡礼」という本で、滋賀県内の部落を全てめぐってその現況や歴史がまとめられている。文中には滋賀県内の部落の新旧名の一覧がある。
6. 群馬解放 同和関係予算一覧表
昭和46年作成の群馬県の同和対策のための行政資料。世帯数・人口とさらには「混住率」が記載されている。 混住率 とはその地域におけるいわゆる部落民(同和関係者)の割合を言う行政用語であるが、どの範囲を同和地区とするのか、どのような基準で部落民を認定するのか何とでもやりようがある。例えば 混住率100%とは、属地的に、その地域の住民全員を部落民と認定していたということを意味し、全てが歴史的な意味での部落民ということではない。
7. 漁村型同和地区の実態と行政の課題
1968年に発行された書籍。発行者は高知県大方町長とある。調査者は部落解放研究所の設立者である村越末男。
8. 差別とのたたかい 部落解放運動20年の歩み
1967年に部落解放同盟長野県連合会が発行した書籍。同和対策審議会が長野県に委託して実施した同和地区調査の資料が掲載されている。行政が行った同和地区の実態調査資料が解放同盟に渡されていたことが分かる。
9. 和歌山県同和問題研究委員会 調査その一
昭和29年に発行された和歌山県の同和地区実態調査資料。この書籍には当時の和歌山県知事による資料の活用を求める序文がある。同和地区一覧が掲載された資料の扱いはこのようなものだった。
10. 奈良県同和問題資料No.3
これも昭和29年に発行された資料で、活用を求める奈良県民生労働部長による序文がある。
11. 京都府未解放地区の生活実態
昭和28年に部落問題研究所が発行した書籍。当時の部落問題研究所は部落解放同盟の研究部門だったが、後に解放同盟本体と対立して分裂した。
掲載されている同和地区の戸数・人口データの一部は、明らかに全国部落調査がもとになっている。
12. 同和問題の解決のために 鳥取市職員研修資料
1997年に鳥取市職員のために発行された資料。同和地区が分からなければ同和行政に携わることは出来ないので、当然のように同和地区名が記載されている。ただ、同和地区の呼称には大字が用いられたので、この名称だけで正確な同和地区の範囲は分からず、鳥取市の職員でもこの名称の大字全体が同和地区の範囲だと誤解している人が意外に多い。
以上紹介したものの他にも、部落・同和地区地名のリストは多数存在している。
本サイトで紹介した同和地区精密調査報告書も重要な文書である。政府が一部の同和地区を文字通り精密に調査した報告書で、3回にわたって作られた。これらは過去に古書店等で流通したことが国会で問題とされたが、既に著作権が切れたり、政府刊行物の著作権が認められていない国の図書館に所蔵される等して、インターネットで公開されて事実上のフリー素材となっている。