“優しいエビデンス”でワクチン接種のサポートを。「みんパピ!」座談会~みんなで知ろうHPVプロジェクト~【配信後インタビューVol.2】

2020年10月10日土曜日、AntaaではHPVワクチンの啓発や普及に取り組む「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」メンバーの三ッ浪真紀子先生、坂本昌彦先生、一宮恵先生のお三方にご登壇いただき、オンライン配信を行いました。稲葉可奈子先生、木下喬弘先生ご登壇の前回に続き、今回も最新のエビデンスに基づくHPVワクチンの解説など大変勉強になるお話をいただきました。

 

 

Antaa編集部では前回同様、オンライン配信終了後にインタビューの機会をいただき、先生方がそれぞれHPVワクチンへの問題意識を持たれたきっかけ、エビデンスを持ち出す上での心構え、そしてこれから「みんパピ!」が向かっていく方向など、貴重なお話をたくさん伺いました。上記アーカイブ動画とあわせて、ぜひご覧ください!

先生方のプロフィール

三ッ浪真紀子先生
医師・日本産科婦人科学会専門医
ハーバード大学医学大学院臨床疫学コース


坂本昌彦先生
医師・小児科専門医
佐久医療センター小児科医長
日本小児科学会小児救急委員、健やか親子21委員
「教えて!ドクター」プロジェクト責任者

 

一宮恵先生
公衆衛生学修士・戦略コンサルタント
ケイスリー株式会社 医療・行動科学顧問
一般社団法人サステナヘルス プログラム・ディレクター

行動科学、産婦人科医、小児科医…なぜ「みんパピ!」の活動に参加したのか?

Antaa編集部
本日はレクチャーをありがとうございました。先生方がそれぞれHPVワクチンについて問題意識を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?
一宮先生
日本には公衆衛生の問題が多種ある中で、HPVワクチンが1番大きな問題の1つだと思っていました。当時私のまわりはワクチンを打たない人が多く、「その現状を変えたい」という気持ちが大きかったのが関心を持ったきっかけです。
Antaa編集部
一宮先生は現在アメリカの公衆衛生大学院でもご活躍されていますが、アメリカと日本を比較して感じられた点は何かございますでしょうか。
一宮先生
アメリカでは政府や企業にも行動科学のチームが入っており、本格的にその知見が取り入れられています。

それと比べると、日本ではまだまだ行動科学やサイエンスを用いたコミュニケーションが浸透しておらず、発達していないことが問題としてあると思います。具体的に言うと、ただエビデンスを突きつけるのではなく、行動科学を用いて相手に伝わるような伝え方をするということですね。

そこはアメリカと日本の大きな違いだと感じました。

三ツ浪先生
私は日本でHPVワクチンの公費補助が始まった頃から、産婦人科医として対象年齢の子たちにワクチン接種を行っておりました。

しかしちょうどHPVワクチンが定期接種になった時期に重い副作用が出たというニュースが繰り返し報道され、私たち医師も大変驚き不安になりました。

その後、国内外から多くの研究結果が報告され、HPVワクチンの有効性と安全性は再確認されましたが、それでも社会からのHPVワクチンへの信頼は下がったままで、ワクチン接種を勧めたいけれど、どうしたらいいのか悩みながら病院で働いていました。

たまたまそのタイミングで海外の大学院でHPVワクチンについての調査研究に携わらせてもらうことになり、今はこうやって啓発活動をしているのですが、ここまで実行するのは一人では成し得なかったですね。

Antaa編集部
そうしますと、先生にとって「みんパピ!」との出会いはとても大きなものだったのですね。
三ッ浪先生
はい、みんパピの活動を始めたのは副代表の木下とHPVワクチンの日本の現状に関して政策研究を行ったことがきっかけです。もともとSNSはあまり得意ではなかったのですが、「みんパピ!」の活動の中で意思表示、情報発信をすることの大切さを、日々学んでいます。
坂本先生
私たち小児科医は、「HPVワクチンは産婦人科医の先生方の問題だ」とどこか他人事のように感じていました。むしろ世間からの反発を招くこともあるので、この問題になるべく関わらないようにしよう、という風潮すらあったかもしれません。

また市によっては「初回接種は産婦人科医に限る」という自治体もあり、現実問題としていち小児科医がなかなか関われないところもありました。

ただそれでもこのワクチンの問題はとても大きな課題だとずっと思っており、自分の中で葛藤を抱いていた中、たまたま木下先生にお声をかけていただきました。

ちなみにその時に木下先生に見せていただいたグラフが、私が配信の中でもお示しした、「誰の話を聞いて接種を決めるか」というグラフだったんですね。

その結果は、母親に次いで2番目が「かかりつけ医」であるというものでした。それを見て自分はいかに傍観者だったのかと感じ、今までできなかった分この啓発活動に貢献したいという今のモチベーションになっています。

「エビデンスで殴りつける」は共感を生まない

Antaa編集部
今回の配信でも患者心理に関するデータや行動科学に基づくアンケート結果などを数多く示していただきましたが、「みんパピ!」では、データやエビデンスを扱う上で特に大事にされている点などはございますでしょうか。
坂本先生

これは「みんパピ!」に限ることでは無いのですが、出典を明記することですね。「誰かが何かを言っていたらしいです。」ということを伝える上で、その根拠はしっかりと示せなければなりません。

三ッ浪先生
一般的に、有意な結果があると積極的に公表され、逆に結果が良くない場合は公表されにくい傾向があります。そうなるとパブリケーション・バイアスが生じ、結局効果があるというデータばかりが集まってしまいます。

本当はどっちもどっちなのに、どうしても良いように見えてしまう。私たちが正確だと思っていても、それが歪んでいる可能性があることを認識しながら判断しなければなりません。

「その情報の発信者が、なぜそのような考えに至ったのか」にまで思いを馳せ、情報が正しい限りきちんと平等に取り上げる。それが信頼にもつながると思います。

一宮先生
いち早く情報発信するということはモットーにしていますが、その一方でエビデンスだけで殴りつけたりはしないことですね。

相手が不安を持っているときにただ単にエビデンスを押し付けてしまうと、かえって反発心が生まれたり上から目線で言われているとして不快に思ったりする人もいると思うのです。

エビデンスを大事にする一方、それを用いて相手に寄り添うということを大事にしています。

Antaa編集部
エビデンスを持ってくることと押しつけすぎないこと、そのバランスが難しいですね。

肩書は違えど、向かう先は一つ

Antaa編集部
お三方の肩書もそれぞれ違うように、「みんパピ!」は本当に多様な分野の方々が集っていらっしゃいますよね。そのことの強みと、逆にそうしたメンバーで活動をすることのハードルについて教えていただけますでしょうか。
一宮先生
様々な視点からのコメントがし合えるのは大きいですね。例えば産婦人科からは日々検診をしている中での現場の様子、小児科からは母親や子どもがどういう不安を持たれているかという視点が得られます。

さらに私たち行動科学チームからは、医師が考えることと患者さんが気にしていることのズレを指摘したりしています。

また、そうした分野の専門性に加えて、医療者と非医療者が混ざり合っていることも強みではないでしょうか。ホームページの記事を作成する際も必ず医療者と非医療者とが組み、一般の方にも伝わりやすいかをダブルチェックするようにしています。

三ッ浪先生
自分もずっと医師をやっているので「患者さんはこうであろう」という勝手な思い込みを持ってしまっていることがあります。HPVワクチンに関しても、不安があってワクチンを接種しないものだと思っていましたが、患者さんが実は全くワクチンのことを知らなかったり、お話をしても伝えたい意図とは違うように受け取られたりする可能性があることも、改めてチームでの活動を通して気づかされています。


配信の中で、患者さんのお悩み相談に対応するケーススタディをしてくださいました!

三ッ浪先生
様々な活動の経験があり、多様な意見を持つメンバーが、私たち産婦人科医の意見を最大限汲み取りながら、それをどう発展させていくかということを、チーム全員で考えていけるのは心強いです。

ハードルはほとんどないですが、唯一あるとしたら時差ですね。私はアメリカ在住なのですが、日本の日中に仕事がかなり進んでおり、起きたときに感謝と同時にびっくりすることがよくあります(笑)。

坂本先生

僕たちのチームは10人なのですが、実際にはそこにデザイナー、イラストレーター、漫画家の方たちも加わりバックアップしていただいています。

そういったいわゆるアーティストの方々からも学ばせてもらうことが多々あります。このようにたくさんの層が重なっていて、バランス、雰囲気が共にとてもよいのが「みんパピ!」の魅力だと思います。

「その言葉で、本当に振り向いてくれるだろうか……?」

Antaa編集部
「みんパピ!」は医師への正しい知識提供に加えて、患者さんや一般の方への啓発というようにターゲットとする層がとても広いように感じます。その点感じる難しさなどありますでしょうか。
三ッ浪先生
初めにターゲットを絞って、そのターゲットにどう変化をもたらしたいかをきちんと明確にすることですね。

患者さんに伝えるためであれば分かりやすい言葉にしますし、逆に知識を持っている産婦人科医の先生方が対象であればもっとアカデミックに押しています。

そこの切り替え、メリハリをつけることを大事にしています。

一宮先生

ターゲット層ごとに捉え方が違うということを意識して、ポイントごとに立ち止まりながら「それは誰向けのプロモーションなのか?」をメンバーで指摘し合っています。

一宮先生
患者さん向けのコミュニケーションでは共感や傾聴を大事にしますが、実は医師向けでも同じです。医師の皆さんは限られた時間の中で患者さんに情報を伝えなければならないので、そこをサポートできたらと思っています。

さらに近年は、行動科学の分野としてエンターテイメント・エデュケーションというものも確立されてきています。アートや謎解きのようなエンターテイメントを取り入れて関心のない層にもアプローチするという試みを今後取り入れていきたいと思っています。

 

インフルシーズンに、学会に。これからの「みんパピ!」の活動とは

Antaa編集部
今後の展望ですとか、現在進めていらっしゃるプロジェクトはございますでしょうか。
一宮先生
まず直近では、冬のインフルエンザワクチン接種時に患者さんに配っていただけるようにと、フライヤーの作成を急ピッチで進めています。
さらに今年の高1の皆さんには3月までにワクチンを打っていただきたいので、その啓発が今年のメインになってきます。それと同時に今後、学会において活動することが決まり始めているのですが、長期的には活動に賛同してくださる方々をさらに募ろうとしています。


※編集注:完成したフライヤーはまだまだご希望受付中(送料含めて全て無料)とのことです。
以下を添えてinfo@minpapi.jpまでご連絡ください。
① 代表者氏名
医療機関名
郵送先住所
④ 電話番号
⑤ 希望枚数(原則50-300枚/300枚を超える場合は応相談)  

 

坂本先生
色々なメンバーがいる分、それぞれに注力したいところがあり ます。例えば私であれば「小児科医を啓発に取り込みたい」というのが最重要課題だと考えています。

ですが、それだけですとバランスが崩れてしまうので、そこを産婦人科医や行動科学のチームの方に整えていただいています。

学会でのセミナーや小児科医がよく目にする雑誌への寄稿を通し、少しでも多くの小児科医にこの活動を知ってもらいたいです。

三ッ浪先生

イラストレーターやアーティストの方がチームに入ってくださることで、また新たなターゲット層にメッセージが響くと思います。

メンバーそれぞれに興味分野や得意分野があり、さらに知り合いをチームに次々と誘って活動の幅が拡大している今、これから先の活動がどんな方向に進んでいくのかがとても楽しみですね。皆様も楽しみにしていてください!

Antaa編集部
ありがとうございます。「みんパピ!」の活動もこれからもどんどん盛り上がっていきそうですね!!

ここまで読んでくださった医師の皆さんは「みんパピ!」の一員

Antaa編集部
最後に、医師の方々へのメッセージをいただけますでしょうか。
坂本先生

HPVワクチンの問題は産婦人科医だけの問題ではなく、10代の女性を診る可能性があるすべての診療科の先生方に関わる問題です。地域の最前線で戦う先生方とつながり、皆で協力して立ち向かっていきたいと思います。

三ッ浪先生

HPVワクチンの啓発に関しては、10代の女の子本人だけではなくその親御さんや学校の先生方、地域全体を巻き込んでいくことで大きな変化をもたらすことができると思います。

それを支えてくださるのは、やはり地域で医療活動をされている先生方です。皆でつながりを通して、その流れを作っていけたらと思います。

一宮先生

私たちは、医療現場で直接患者さんに接される医師の先生方のことをとても頼りにしています。

やはり接種対象年齢の女の子が「誰から情報を得るか」がとても大事です。親御さんもネットの情報を漁っては不安になられている方々も多いと思います。

でも、顔を知っている専門家である医師の話を聞けば安心できますよね。今日配信で話を聞いてくださった方々や、この記事をお読みになって共感してくださった皆さまは、既にもう「みんパピ!」の一員です。引き続きご協力をお願い致します。

Antaa編集部
本日はお忙しいところ貴重なお話をいただき、ありがとうございました! 

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