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第2回手塚治虫文化賞
選考委員のコメント集

   | マンガ大賞 | マンガ優秀賞 | 特別賞|選考委員のコメント集 |

■本賞選考方法
選考は、1997年中に発売されたマンガ単行本を対象に、本賞選考委員による一次選考を経て候補6作品を選び、さらに最終選考の投票で受賞作を決定しました。また、特別賞は選考委員の推薦をもとに本社が慎重に審議、決定しました。

■選考委員(50音順、敬称略)
荒俣宏(評論家・小説家)、石上三登志(映画評論家)、いしかわじゅん(マンガ家)、大月隆寛(民俗学者)、岡田斗司夫(東大講師)、印口崇(評論家・マンガ専門店勤務)、唐沢俊一(評論家)、呉智英(評論家)、小松左京(SF作家)、斉藤由貴(女優)、里中満智子(マンガ家)、三代目魚武濱田成夫(詩人)、鈴木光司(小説家)、関川夏央(ノンフィクション作家)、高橋源一郎(小説家)、タケカワユキヒデ(ミュージシャン)、鶴見済(フリーライター)、長谷邦夫(マンガ家)、荷宮和子(評論家)、古川益蔵(マンガ専門古書店社長)、フレデリック・ショット(ノンフィクション作家)、村上知彦(評論家)、夢枕獏(小説家)、養老孟司(解剖学者)、米沢嘉博(評論家・コミックマーケット代表)


選考委員のコメント 複数作品をまとめて論じたコメントは 最も強く推薦された作品の項目に掲載しました。 2次投票時のコメントは「2次」と注記しました。


「坊っちゃん」の時代

 原作との共同作業の「豊かさ」を、理想的な形で現実のものとし続けてきた営為に対して深く敬意を表します。もちろん、シリーズ全体に、ということで。(大月隆寛氏)

 明治末期という時代を様々な角度から描いたシリーズの完結。虚々実々の人間模様がまんが読者の近世文学に対する興味をかきたてたと思う。
 小説でもなく、映画でもなく、まんがという表現作品だから成立した世界観であると思う。(印口崇氏)

 ひとことで言えば「上品な格調」。一見地味なテーマをひたすらきちんとコツコツ描ききった名品といえる。(里中満智子氏)

 文学の「名作」をマンガにすると、普通生まれるのは「文学でも漫画名作」でもなく、単なる「マンガ」です。
 しかし、『「坊っちゃん」の時代』は明治時代の複数の文学名作や実際の文学者をベースにし、とても面白い、もしかしたら本当のマンガ名作を提供してくれています。この作品を読んで、時々難しい表現や漢字に遭遇しながらも、私にとって明治時代が本当に生きてきました。(フレデリック・ショット氏)

この作品の中で提示されている「明治文学」像は、現代文学論としても圧倒的に素晴しく沢山の発見に満ちている。まさに「文化」としての漫画の到達点。(高橋源一郎氏)

 実在の文学者を軸にして、時代を描くという、マンガにしては最も困難な"事業"に挑戦し、見事にそれを完結させ得たことに拍手を贈りたいと思います。
 この作品は、マンガの表現領域を大きく大きく拡大させた。そういった点で作品イメージは全く異なるが、石ノ森章太郎の『ファンタジーワールド・ジュン』以来の新しい冒険といえるかもしれないのです。(長谷邦夫氏)

(第5部 「不機嫌亭漱石」について)  十二年にわたった長編の結末にふさわしく、これまでの登場人物たちが勢ぞろいし、伊豆修善寺で生死の境をさまよう漱石と、幻想の対話をかわす。思弁的に組み上げられた関川原作を、明晰な谷口の絵で読み解く喜び。明治末年の日本に現代を透視する著者たちのもくろみは、現代まんがに何が可能かを問い、その到達点ともいえる傑作を生んだ。文学的まんがでも、文学をしのぐまんがでもなく、ここでは文学とまんがは互いに自立し、批評を交わしている。(村上知彦氏)

 明治という時代について、ここまでていねいに、たしかな画力をもって描かれた作品はありません。大ケッサクであると思います。(夢枕獏氏)

 

基本的に原作付はリストアップしない方針だが、この作品に関しては、完全な共同作業といってよく、精緻に端麗に描き出された画像が、明治という時代の空気までも捉えており、多彩な実在の人物達を活写している。文芸物だからではなく、時代を生きた市井の人間たちの内側から、歴史が描かれているだけでなく、人間のからみが生みだすドラマ、リアルの物語性のダイナミズムは他に比べるものがない。マンガだから描き出しえた作品の完結に対して......。(米沢嘉博氏)

 国民文学『坊っちゃん』をインターフェイスにして、日本史を新たな視点で読み解こうとした原作者の努力と成果、そしてそれを優れた画力と構成力で美しい物語として構築した漫画家の才能、その両方を評価したい。(いしかわじゅん氏・2次)

 『「坊っちゃん」の時代』は、私たち日本人の中にある、変革期としての「明治」への切実なノスタルジアをドラマティックかつ日常的に「見せ」、圧倒的。
 とりわけ、日本語の美しさ、簡潔さを、「絵」的にレイアウトして「読ませ」、秀逸。これは、手塚治虫の登場に似た、メディア合体的な新「作品」として、きわめて新鮮。
 たとえば高校あたりの副読本に最適だろう。(石上三登志氏・2次)

 『「坊っちゃん」の時代』の完結は、およそマンガ業界における"内情"を多少とも知る者にとって、快挙としか言いようがない。選者自身、以前明治ものを謀大手出版の雑誌で連載するにあたり、すさまじいまでの編集部の抵抗を受け、連載中およそ考えうる限りの妨害(!)を受けた経験がある。明治という時代に対するマンガ編集部のアレルギーのすさまじさには想像を絶するものがあるのだ。これが許された背景には山田風太郎の明治もの小説の成功という事情があり、事実、この作品にも山田作品からのインスパイアが各所に見られるが、しかしマンガにおいて明治を描くことの難しさを十年という年月をかけてクリアした作者コンビの努力と熱情には賞賛の念を禁じ得ない。
 実を言うと、第一部を最初に読んだとき、マンガというより絵物語という印象を受け、マンガ作品としての完成度においてはいまだ足りないものがあるのではないかと懸念したのだが、谷口ジローの精進は、巻数をすすめるにしたがって、見事に明治という時代をマンガに映すことに成功した。惜しむらくは原作の方が、逆に巻をすすめるにしたがって既製のイメージにひきずられ、人物造形の点でいまひとつオリジナル性を欠いた感があるのだが、ここらは某蜀の感というべきだろう。(唐沢俊一氏・2次)

 スクリプトと作画の幸福な融合と言える作品である。資料を博捜し、明治の青年群像を魅力的に浮かびあがらせている。現代という時代のみなもとが明治にあることを実感させてくれる。(呉智英氏・2次)

 フィクションというより、社会風俗史的「時代」そのものに「物語り」させるものを、マンガでしっかり読める、ということに感心した。
 また、関川氏の原作と、谷口氏の絵とがよくマッチングしていて、みごとである。(小松左京氏・2次)

 夏目漱石や森鴎外、石川啄木など、明治を代表する文豪たちが大集合。作家群像を描くことによって、現代の抱える諸問題は明治期に萌芽を見るのだと、関川夏央氏は主張する。実在の作家をモデルとした小説や漫画は、もうそれだけで大好きである。学生時代から、作家の生き方になんと憧れたことか。そのあまりに個人的な好みを、この賞の選評として一般化できるのかどうかと、ちょっと躊躇するところだ。(鈴木光司氏・2次)

 『「坊っちゃん」の時代』は、原作と作画がみごとに合った好例と思います。
 この作品によって、明治という時代のおもしろさに気づいた人も多いでしょう。(夢枕獏氏・2次)

 本来なら、原作付の作品をこの賞に推す気はなかった。絵、構図、コマ運び--スタイルと語られるべき物語は不可分であり、スタイルもまた思想だと考えるからである。
 だが『「坊っちゃん」の時代』は、分業というよりまさに共同作業であり、描き出された情景やキャラクターが、ドラマ以上に雄弁に語り出す。スタティックで、多くも少なくもない情報を詰めこんだ画面が、マンガという表現でなければ出来ない世界を現出させる。この後、こうした作品が出てくる可能性は低く、一つの到達点として記憶されるべきであると考え、今回第一位にしたいと思う。(米沢嘉博氏・2次)


ナニワ金融道

 7年間も続いていた『ナニワ金融道』は1997年にいよいよ終わりましたが、日本経済の特殊性、そして今現在日本経済が苦戦している理由を理解する上で、このマンガは私にとって大変参考になりました。「ワン・パターン」ものが氾濫している今のマンガの世界では、ストーリーも絵もオリジナリティに富んでいます。「名作」マンガが少ないといわれている最近では、今年連載が終ったこの作品はまさに名作に値するように思います。(フレデリック・ショット氏)

 絵も中味も、すべて見たことのないものであった。比類のないインパクト。(高橋源一郎氏)

 証券会社の不祥事や倒産、株価の暴落による金融不安など、現代を象徴する『お金』がらみの事件にさきがけて、街金融を舞台に『お金』のからくりに焦点を当て、いままでにない興味深いドラマを作った作者の先見の明と技量は、賞賛に値する。
 この後、実際に種々な職業に従事している人々への取材を元に作られたと思われる作品が増えたが、どの作品もこの、『ナニワ金融道』の足元にも及んでいない。単に知識だけでは、優れた作品はできないということも示した作品でもある。(タケカワユキヒデ氏)

 うーむ、やはり旬の時期と受賞の時期とのズレが気になる。
 『ナニワ金融道』は本年度よりもむしろ、2年前くらいが熱かった。おもしろい作品で、絵も素人画の勝利だが、どうも今年じゃないような気がして、4点。(荒俣宏氏・2次)

 特異な題材を、腕力で引き寄せ、卑近なといってもいい程のわかり易い物語に織りこんだ、その漫画力。とてつもない絵も、とてつもない個性に転化させることに成功してしまったのはすごい。(いしかわじゅん氏・2次)

 とにかく、その作品のもつアクの強さが全てである。そしてもうひとつは、連載当初、作者がマンガの素人であるが故の大胆な"業界の常識の無視"も痛快だった。連載開始のころ、この作者が次にどういう風に、"マンガの描き方"のセオリーをぶち壊してくれるか、が楽しみで仕方がなかった。以前、「この作品の出現で、絵のテクニックなどというものはマンガの面白さになんのかかわりもないことが証明されてしまった」、と言って、若い編集者と言い争いになったのも懐かしい思い出である。ただ、巻数を重ねて作者がマンガの技法に慣れるにつれ、この楽しみは激減してしまったことが惜しまれる。(唐沢俊一氏・2次)

 遅咲きの新人がこの一作でマンガ界を席捲した。描法・テーマともに泥臭いが、そこが魅力になり、多くの読者を惹きつけた。これ以後出現しないタイプの作品であり、作家である。(呉智英氏・2次)

 絵とテーマの一体性がすばらしい。このテーマはこの絵でなくては成り立たない。ひとつの道をきわめたよみごたえのある作品。(里中満智子氏・2次)

 「金」の移動を描くことによって、生活の様がこれほどあからさまになるとは実に驚きである。街金融の実際に関して、その怖さともども、なにかと勉強になった。(鈴木光司氏・2次)

 題材のユニークさと、その個性的な絵柄によって、金をめぐる人間達の欲望とその悲しみが、見事な表現に達していました。(長谷邦夫氏・2次)

『ナニワ金融道』は、マンガの原点と面白さを再確認をさせてくれた作品であり、進化の袋小路に入りかけていたマンガを見直させるきっかけともなった。その描かれた世界への好奇も含めて、唯一無二の存在感は、マンガ界に多くのものを残したと思う。(米沢嘉博氏・2次)


ピンポン

 96年度同様、そのアンチ手塚的な奇妙かつ新鮮な画像処理と時間レイアウトに注目。(石上三登志氏)

 昨年と同じ理由でこの作品を推薦します。
 画力は群を抜いていますし、コマ割りやページ構成も、まるで映画をみているような気分にさせてくれました。尚、基本ストーリーもキャラクター描写も面白く、最後まで楽しませてくれました。そして、「エンドレス・ストーリー」にならずに『ピンポン』は今の人気マンガでは珍しく、5巻で終ったことも好きです。最近、松本さんはもしかしたらマンガ世界の新しい「天才」ではないかと思うようになっています。(フレデリック・ショット氏)

 昨年の選考で読み、心を奪われた。昨年受賞を逸したことは実に惜しい。この作品こそ、現在クラシファイされ、かつクオリファイされつつある日本の物語マンガの今後の方向を示しているのではないかと思う。(関川夏央氏)

 昨年と同じ。
 最終回で主人公があくびをして、「眠い」と言って終る。
 その感じが、しばらく心に残った。本当に。(鶴見済氏)

 小さな生活からドラマ性を掘り出す非凡な目が素晴らしい。
 それに加えて、圧倒的冒険に満ちた画力。誰にも似ていない絵柄。ワンアンドオンリーの存在だ。(いしかわじゅん氏・2次)

 見事なまでの感動をあたえてくれる「根性」ではないスポーツまんが。挫折と栄光がこきみよく描かれています。
 ぼくの思い込みで、昨年対象になった作品は除外するものと思い、第一次にはとりあげなかったのが、残念!!(印口崇氏・2次)

 描線・コマ展開とも独創的で、若い作家に大きな影響力を持っている。一見ひとりよがりで狷介な印象を与えながら、叙情性や物語性もきちんとふまえている。(呉智英氏・2次)

 若い世代を強くひきつける絵の新鮮度が何よりの魅力です。登場人物たちの感情表現にも、同様の力を持っています。世界がせまくまとまってしまわず、外側へとこわしていく作品を読んでみたいと、先年より想いつづけてきました。(長谷邦夫氏・2次)

 とてつもなく、新しい。もっと高い点数をつけたかったのですが、配分上こうなってしまいました。醒めたスポ根、という感じが、とても身体にしっくり来る時もあるし、全然受けつけなくなる時もある。こちらの体調や気分によって印象が激しく揺れる、不思議な作品です。(村上知彦氏・2次)


蒼天航路

 独特のペンタッチ、魅力的なキャラクターとストーリーテリング。マンガの原始的かつもっともあるべき姿を示した。(岡田斗司夫氏)

 昨年度の選考でも高い評価を得たが、そのパワーは相変らず維持されています。
 いまマンガが失いつつある、マンガ的大胆強烈な主人公やわき役の性格表現が、実に見事です。絵画的な表現においても、筆のタッチをとことん追求し、作品世界との絶妙なマッチングを示し、迫力ある画面で楽しませてくれる。
 再読しても全くあきることなし!(長谷邦夫氏)

 三国志のまったく新しい現代的解釈。
 主人公は実は歴史そのものである。人間を生かし殺し、育み、愛し、滅ぼす。  そのすべての土壌となる歴史の流れ、歴史の法をダイナミックに描き出している。近来まれに見る傑作。(古川益蔵氏)

 『蒼天航路』は万年2位の危険性がある。こういう長い年月にわたる作品の扱いは再検討が必要ではあるまいか。(荒俣宏氏・2次)

 第2候補として挙げた『蒼天航路』は、そういう意味では(事務局注:『「坊っちゃん」の時代』の項をご参照下さい)見事に既製のイメージを破壊して、オリジナルの三国志物語を紡ぎあげている。ときに原作のもつ英雄のイメージを損ねるほどの大胆な描写もあるが、現代にマッチするストーリー構成で、幾多の三国志に挑んだマンガ作品としては出色のものであることに変わりはない。マンガの真の魅力はダイナミズムである、ということを、最近のチマチマしたマンガ群の中で圧倒的な迫力を持って証明している作品と言える。しかし、例えば宦官の手術法など、歴史考証の面においてはもう少し精緻を希望したい。精緻と大胆と、その組み合わせによってマンガ作品は大人の読者に対する訴求力を持つものだと思うからである。(唐沢俊一氏・2次)

 男たちは一体何によって動かされるのか、流された大量の血の根拠はどこにあるのか。キャラクターの熱気は思う存分、絵の中に生きている。描出のダイナミズムもここまでくれば見事というほかない。(鈴木光司氏・2次)

 テーマ、構成ともに堂々たる大作。(里中満智子氏・2次)

 作品に力が満ちている。董卓、呂布、など、曹操や劉備以外の登場人物までもが個としての魅力と限りない生命力に溢れている。(タケカワユキヒデ氏・2次)


MONSTER

 手塚治虫氏の『BLACKJACK』に直結するユニークかつダイナミックな医師物サスペンス。同じく『アドルフに告ぐ』に直結する、大スケールの国際型群像ドラマ。まだ未完ながら、96年度以上に展開は充実し、クライマックスが期待出来る。(石上三登志氏)

 もっとも達者なマンガ家だと思う。絵のみならず、ストーリーテリングにもその実力は遺憾なく発揮されている。選考を機会にじっくり読みこんでみたい。(関川夏央氏)

 ドクター・テンマと悪魔の少年ヨハンの運命の対決も、そろそろクライマックス...と思ったら、作者によれば「まだまだ物語は五合目」なのだそうだ。大きな謎、不気味なムード、巧みなエピソード、どれをとっても一級品のエンタテイメントであり、その背景に横たわる、ナチ残党が行なった人体実験により、心に傷を負った子供たちというテーマも今日的だ。文句なく、いま続きがもっとも気になるまんが。(村上知彦氏)

 海外を舞台にしたサイコサスペンスということになるのだろうが、その計算された展開と抜群のエンターテイメント性は、まさに良く出来た海外ミステリーを思わせる。さらにその過不足なく描き込まれた絵やキャラクターも良く、一般性を持つスタイルも心地良い。良質の海外にも通用するエンターテイメント作品として、今のところこの作品をしのぐものはない。(米沢嘉博氏)

 アゴタ・クリストフの四部作を換骨奪胎したようだが、それをさらに万人向きに楽しめる作品にしあげている。複雑な構成ながら、一本の大きな骨格があり、ドラマとしてよくできている。小さな物語が多くなっているマンガの世界で、この成功の指し示す意義は大きい。絵の親しみやすさも評価できる。(呉智英氏・2次)

 文句なしに説得力のある作品。すばらしいタッチで人の心を描ききっていて医学という面からも手塚賞にふさわしい。(里中満智子氏・2次)

 小説としても十分通用し得る緻密な構成が魅力だ。崩壊後のドイツを舞台にしているのも新鮮。先の展開に目が離せない。(鈴木光司氏・2次)

 異常犯罪者を中心にしたストーリーが良くできている。話が陰鬱なわりに、全体としては暗く悲惨なイメージがないのは、絵柄が少年マンガのせいだ。新しくて、古い、優れた作品だ。(タケカワユキヒデ氏・2次)

 手馴れたうまさで、あきさせない作品で、ハイレベルな仕事です。ただ『MASTERキートン』を超える、もうひとつの発見が欲しかったと考えます。(長谷邦夫氏・2次)

 私個人は、漫画というメディアに対して、基本的にはエンターティメントとしての存在意識を求めている。そのため、成年男性向け雑誌に連載された作品の場合、読むだけで拷問に等しい場合がままある。その種の作品を読む際には、「名誉男性」となり、女ならば抱いて当然の、いや、人間ならば抱いて当然の、素朴で自然な感情を切り捨て、心を閉ざし、死んだふりをして、その作品の芸術的・文化的側面のみに着目し、鑑賞しなければならない、そう覚悟する必要があるためだ。
 浦沢直樹は、その意味で女性読者を裏切ってくれる、希有な男性作家の一人である。
 『MONSTER』も、そんな彼の仕事の系譜上にある。
 よく出来た悲劇とは、誰も悪くないのに登場人物すべてが不幸になってしまう物語のことである。この種の仕掛けのそつの無さこそが、エンターティメントの成否の鍵を握っている。
 「あなたは悪くない」
 ドクター・テンマには悪気はなかった。「頭のいい男前の苦労知らず」だったドクター・テンマが、人間らしい感情を持つようになってしまったために、悲劇が始まってしまったのだ。こういう意味でのやりきれなさこそが、エンターティメントを支える屋台骨となる。
 ただ、ストーリーテリングが大きな要素をしめている作品であるのにまだ物語が完結していないということ、そして、ついつい前作「マスター・キートン」の素晴らしさと比較してしまうということ、この二点から、今回の大賞候補として一推しすることにはためらいを感じた。満点をつけるか否かは、完結後に改めて考えたい。(荷宮和子氏・2次)

 『MONSTER』は、ドラマ構成、テクニック共に、上質のエンターティメントを演出しており、「マンガ」という物語る方法が世界にも通用する共通言語であることを知らしめる格好のテキストであると思われる。題材ストーリーも知的でよく練られており、世界に通用する商品価値を持っている。(米沢嘉博氏・2次)


ゆんぼくん

 無頼と抒情とが、これほど不都合なく融合したケースも珍しい。傷つきやすくふてぶてしいゆんぼは、ぼくでもあるし、誰でもある。お涙ちょうだいのフリをしながら、人間の存在にまで踏みこんで決めつける西原の腕力には、恐れいる。(いしかわじゅん氏)

 四コマ系のジャンルからここまで広がりを持たせることができる、そのことを果敢に示した成果に対して。(作者自身の"キャラ"化の七転八倒に対してもちみっと(笑)直接にではないけど。)(大月隆寛氏)

 すでに去ってしまったかと思われた児童文学は、実はこういうところにあった。散文よりもはるかに雄弁な描写力とリリシズムは、マンガ表現というものが持つ本質的な力を感じさせる。一種の天才の仕事だ。(関川夏央氏)

 ナイーブな少年とたくましいシングルマザーの、山村の豊かな自然の中でののびのびとした共生。村の少年や大人たちはみな、どうしようもないけど愛しい人間たちであり、平凡だがかけがえのない人生の仲間たちである。4コマによる大河ビルドゥングス・ロマンの試みは、ゆんぼの反抗と自立、かあちゃんの見事な子離れを描ききって完結した。『ぼくんち』をはじめ、西原理恵子のあらゆる作品の原点ともいえる代表作。(村上知彦氏)

 『ゆんぼくん』は、もはやどこにもないだろう家庭的、田園的ユートピアを、きわめて「今」の言葉を駆使して強引に描ききり、まさにマンガである。甘く、切なく、いい気分である。(石上三登志氏・2次)

 人の心の痛みが、この作家はすごくわかっている。
 子供時代、弱い立場だった人は、笑って読めないと思う。たくましさ、とか、したたかさとか、にも縁のない、ただ弱い人の心のあり方が、しっかりと描かれ、涙をさそう。この作品は、本質的にとってもこわいものをもっている。(印口崇氏・2次)

 投げやりのように見えながら、素朴とも言える叙情性と繊細さが感じられる。『ぼくんち』と並べて高く評価したい。(呉智英氏・2次)

 「私は家族が欲しかったからこの子を生んだ」
 家族が欲しい、たいていの人間ならば思うことだろう。
 だから「子供が欲しい」。
 どちらを選ぶかは、人それぞれである。だが、いずれにせよ、「伴侶と子供の両方が欲しい」とは素直に思えないのが本音である、という意味で、現代の人間は本能が崩れた生き物だと思う。いや、たとえ同じ会社に生きていても、男に生まれてさえいれば「両方が欲しい」と思える屈託のなさを持つことが出来たようにも思える。ということは、壊れているのは、やはり女だけなのだろう。いや、壊れざるを得なかった、というべきか。
 男とはセックス出来るが子供とはセックス出来ない。
 男とは別れることが出来るが子供とは別れることが出来ない。
 これらの理由から、「だから子供よりも男が欲しい」、そう考える、私のような女とは異なるメンタリティを持った女が登場する作品である。
 あるいは、「その子が自分の子である、ということ以上に、その子が誰との間に出来た子であるかにこだわる」、そんな女である私とは異なるメンタリティを持った女が登場する作品でもある。
 まったく相容れない価値観をもった女性が登場する作品であるにもかかわらず、私は「ゆんぼくん」の母親を支持する。西原理恵子は、女の読者にみじめさと嫌悪感を味わわせることなく、女なんかに生まれてしまったこと、女なんかに生まれてしまったため母親なんかになってしまったこと、母親になってしまったため子育てなんかをしなければならなかったことを、描いてくれたからだ。
 「子育て」は、女であればまともに見つめたくはないモチーフである。そして、男であれば絶対に描けるわけがない、男のくせにわかったふりをして描くことだけは決して許してはならないモチーフである。西原理恵子という作家は、この困難で無茶な課題に挑戦しただけではなく、この無謀な試みを成功させた作家なのである。
 一方、肝心の主役であるゆんぼくんは、子供でいる間はいい思いなんか出来るわけがない、だから今は死んだふりをして早く大人になろう、そう思ってがんばってきた私のような女にとって、まぶしすぎる存在である。ゆんぼくんのように素直にグレることが出来なかったのは、私が男の子に生まれることが出来なかったせいだろうか。男の子にさえ生まれていれば、こんな風にまっすぐグレることが出来たのだろうか。それともやはり、単に個人の資質の問題なのだろうか。
 それはやはり個人の問題である、と証明してくれるような、女性を主人公にした作品を今度は見てみたい。(荷宮和子氏・2次)


あずみ

 感情移入できる登場人物が、惜しげもなく殺されてゆくという、贅沢で、先の読めないストーリー展開、「あずみ」という少女の生い立ちやキャラクターが魅力である。殺陣のシーンも迫力とスピードに満ち、描きかたが丁寧。単なるアクションだけでなく、その裏にあるヒューマンな香りに好感が持てる。特に、一体何が真実で何が正義なのかわからなくなった「あずみ」に向かって、「井上勘兵衛」が答える言葉が重く胸に迫ってきた。人間を見る視線の確かさと柔らかさが、この作者の持ち味だろう。(鈴木光司氏)

 しっとりとした日本風の画風の小山氏にぴったりの作品。
 人間の正と悪、生と死、愛と憎という二元の対立の中であまりにも気高く生き抜いて行く"あずみ"の生き様は、小山氏の絶妙の筆に依りエンターテイメントをふまえた芸術の域にまで引きあげられている。
 "がんばれ元気"のようなマンガの歴史に残る作品に仕立てて欲しい。(古川益蔵氏)


行け!稲中卓球部

 ここ数年、わかりやすいものや、作者がすべて解いてくれたものを、読者がただ受けるだけという漫画が増えていると思う。その中にあって、稲中の不親切さは特筆されるべきものであると思う。どんどんエスカレートしていったのに、最終回で空中分解せず身を引くように、さりげなく終ったことも興味深かった。(いしかわじゅん氏)

 日本の週刊誌メディアでのマンガ表現が、すぐれて同時代的なものであることの最も雄弁な証左として。(大月隆寛氏)


ムジナ

 「自己批評する」漫画という、いまだかつて誰もやり遂げられなかった世界を構築した。
 しかも、その上充分にエンタテインメントし、なおかつ感動的。ただただ驚くのみ。(高橋源一郎氏)

 最初から最後まで、どこも良かったとは思わないが、少なくとも最終章の展開や心理描写や結末は極めて優れて......、いや面白かった。スゲー面白かった。全体の構成もまとまっている。力作だと思うし、誠実な作品だとも思う。(鶴見済氏)

こちら葛飾区亀有公園前派出所

 こんなむちゃくちゃなギャグ漫画が、こんなにながいことTVのお茶の間で受けいれられつづけている、ということに対して評価する。(小松左京氏)

 これだけ長期間にわたり毎回読む者を笑わせるのは並大抵のことではない。笑いを描く、しかも罪のない笑いをオーソドックスな手法で描くのは、誰にもできることではない。(里中満智子氏)


ベルセルク

 中世を舞台にした冒険ファンタジーであるが、ファンタジーにありがちな安直なドラマ展開は微塵もない。ひたすら主人公の強靱な意思と肉体によって運命が切り開かれる様は爽快な感動をあたえる。
 テレビアニメによって大ブレイクし、一般読者への知名度がひろがったことも、賞をあたえる好機だと思う。(印口崇氏)

 オリジナルのソードアンドソーサリィ漫画の中で、唯一と言っていい傑作。単なるファンタジーものに終わらず、主人公の負っている暗い過去を通じて、人間性もしっかりと描けているし、キャラクターの描き分けも的確。異世界の描写のイメージと迫力は漫画の原点と言っていい魅力を備えている。(唐沢俊一氏)


グラップラー刃牙

 おもしろい、ただひたすらおもしろい。
 こうした作品によくある末路--次第に設定がエスカレートして行って破綻する--といった予感もするが、とにかくここまでよく読者を引っぱって来ている。格闘物の出来はまさに作者自身のレベルに依っている。
 どこまで作者が格闘技を理解しているか。これまで様々な格闘技マンガがあったが、この作品によってこのジャンルのレベルがまた1ランクUPした。(古川益蔵氏)


ドラゴンヘッド

 96年度同様、ダイナミックなドラマ性と、よりスケールアップしたビジュアルを今年も評価。(石上三登志氏)

 カタストロフィものの傑作である。阪神大震災、オウム事件を予見したような設定といい、細部の描写といい、これまで蓄積してきた作者の力が遺憾なく発揮されている。凡百のカタストロフィものとちがって、恐怖というものの本質をよく理解している点でも秀逸。連載三年半にしてまだ読者を引き込む面白さに満ちている。(呉智英氏)


The World Is Mine

 テーマ、素材の過激さに作者が振り回されず、壮大な神話を埋めるように描き出している。97年最大の収穫。(岡田斗司夫氏)

 現実への激しい苛立ちが破壊衝動の奔流となって描かれ、現代人の心の闇が照射されている。それでいて大きな骨格は崩されることなく、物語としての興味は尽きない。主人公たちの意図も、また怪獣の意味も、何ひとつ明らかでないにもかかわらず物語が進行する手法は、昨今のマンガでは珍しい。作者の意欲と情熱を評価したい。(呉智英氏)


SF大将

 手塚治虫と杉浦茂が合体したような、ユニークな笑いとSF性。とにかく手塚治虫のSF性があまり受けつがれていない昨今、こういうものこそ評価しておきたい。(石上三登志氏)

 文春マンガ賞受賞作とはちがった、SFマンガ家 とり・みきらしい作品である。(小松左京氏)


おたんこナース

 作家の密な性格がよく表れていて細かいところ迄よく描かれている。 患者のキャラクターにリアリティがあり、コメディなのに病院内の真剣なドラマがかいまみえてあったかい。(斎藤由貴氏)

 前回と同様です。たしかな筆力と、話づくりのうまさは、たいへんなものです。(夢枕獏氏)


風雲児たち

 雑誌休刊が残念です。おもしろいマンガでした。(夢枕獏氏)

 『コミックトム』の休刊にともない関ケ原の戦いから維新までの日本史を描き続けようとする試みは中断した。
 マンガの自由さ、ギャグのリズム、歴史の中の人物への好奇が一つとなって展開されてきた、歴史マンガの最大の大作の完全なる完結のために。またその面白さが一部にしか知られていないことへの再評価のために、再度押したいと考える。(米沢嘉博氏)


エロイカより愛をこめて

 「男同士の変な関係」で始まったと思ったのだが、今となってはものすごい深い"友情"になっている、エージェントとどろぼうのお話。背景が世界中にわたっていておもしろいし、人物のキャラクターがいちいち笑える。主人公二人のかけあいがBest。(斎藤由貴氏)


カイジ

 ストーリーマンガの面白さは、人物や現実を自由にデフォルメし、どんな奇想天外な物語をも作りうることにあるだろう。本作は、借金地獄に落ちた若者たちがそこからはいあがろうとして人生をかけたギャンブルにはまり込んでゆく物語である。他人を食いものにしなければ自分が食われるという極限状態の中でいかにして人間としての矜持を守りぬくのか。解答困難な設問を作者自らが作り、作者自らが解いてゆく面白さはマンガならではものである。
 1996年に第一部が終了した「銀と金」(第二部開始は未定)でその力量が注目された福本が今一番力を注いでいる作品である。マンガ本来の魅力が溢れている傑作である。(呉智英氏)


COBRA

 まんがの技術革新、テクノロジーの進展については、先進国アメリカの動向を見すえる寺沢の独壇場である。
 紙メディアにモニターの透過光的表現をもちこむかれに、一度、大きな賞を与えたい。(荒俣宏氏)


少女革命ウテナ

 『少女革命ウテナ』はおとぎ話、すなわち「お姫様は王子様といつまでも幸せに暮らしました、めでたしめでたし」に対するアンチテーゼ、すなわち「それでいいの、ほんとにそれで?」を、てらいなく打ち出した、ケレン味たっぷりの娯楽作品である。
 おとぎ話に異議を申し立てるということは、現在の社会を維持していくための必要悪として、その存在を許されている類の価値観、すなわち、道徳だのモラルだの倫理だのと呼ばれているものを打ちこわし、再構築する、ということである。
 道徳だの倫理だのといったものを隠れ蓑に、「性」にまつわる部分で、女を出来るだけ無知・無能の状態のままでとどめておこう、女には自分の意志など持てないようにしておこう、他のメディアがしょせんはこういった価値観を根底にすえたままで作品を発表し続けている中、『ウテナ』は「男とセックスすることは、少なからぬ女にとって気持ちいいことである」という事実を、まだ幼い少女をも含めた女性読者に向けて女用の表現で語ってくれた、という点で『ウテナ』を評価したい。女用の表現とは、即物的な視覚に頼らずセックスの快感を描写している、という意味である。その意味で『ウテナ』は、まるで宝塚歌劇を観ている時のような淫らな気分をわきたたせてくれたと言え、その点もまた魅力的だったと言える。
 手塚治虫作品の原点の一点として宝塚が挙げられることを考えると、前述の理由、「現在の社会を維持していくための必要悪として、その存在を許されている類の価値観、すなわち、道徳だのモラルだの倫理だのと呼ばれているものを打ちこわし、再構築を目指した」に加え、「宝塚にその志の部分で共通していた」という理由ともあわせ、『少女革命ウテナ』は、手塚治虫文化賞にふさわしい作品である。(荷宮和子氏)


デビルマンレディー

 ダンテ神曲の暗黒編を描かせては右に出るもののない永井豪が、名作デビルマンの女性版に着手。すでにして現代の男女関係がホラーであることを示しつつある。胸にサメの歯をもつ女たちは、やがてさらに内奥の牙をむきだすだろう。永井のエロティシズムに期待。(荒俣宏氏)


バクネヤング

 前半のスピード感や迫力、全体の主題の置き方や画力は群を抜いていると思う。 マンガ全般がどうしようもなくなっている現在、こうした期待の持てる新しい描き手に焦点を当てずに、どうしようっつう、いや、当てるべきではないだろうか。(鶴見済氏)


SEED

 漫画が娯楽の要素を強く持っている以上、その枠の中で、たとえば環境問題を語るのは、非常に困難だ。説教や教訓にならず、魅力的な主人公、楽しいストーリー展開を持たなくてはいけない。この漫画が、そういう種類の表現の中で最高のものだとは思わないが、勇敢なトライをしていることは認めていいと思う。(いしかわじゅん氏)

 地味な作品ですが、昨年につづいてもう一度推したいと思います。『もののけ姫』の提示したテーマに関してぼくはマンガでは『鉄腕アトム』(赤い猫の巻)と『SEED』に注目しました。
 この作品の誠実なテーマを実現することは、それこそ我々にとって新しいSFなのかも知れないのです。(長谷邦夫氏)


Spirit of Wonder

 近未来を描きながら、どこかノスタルジックな世界観に、おおらかだった時代に誰もが抱いていた科学に対する憧れを思い起こさせる。
 達者なタッチによる魅力的なキャラクターと情景の描写は、九年ぶりに復刻された作品とは思えない新鮮さを感じさせる。(印口崇氏)

 Spirit of Wonderを読んで、時々「気になる」ような要素もなくはなかったのですが、鶴田さんが作り上げた、全く不思議な世界に妙に魅せられました。(フレデリック・ショット氏)


クレヨンしんちゃん

 こんなむちゃくちゃなギャグ漫画が、こんなにながいことTVのお茶の間で受けいれられつづけている、ということに対して評価する。(小松左京氏)


こどものおもちゃ  

「生活の手段としてこの恋愛をしているわけじゃあない」、そう言い切れる年ごろの恋愛を描くことは、少女漫画の使命である。
 この重要なモチーフを、恋愛そのものをまだ知らない子供に対して、更には、生活の手段としての恋愛を知ってしまった大人に対して、説得力のある形で語ることの出来る作家小花美穂は、手塚が切り開いた少女漫画というジャンルの王道を進む者として、評価されるべきである。(荷宮和子氏)


フラグメンツ

 肉体も精神も、全体性と連続性を失ってしまった現代を象徴するかのような、どこか現実感のない、閉塞した夢のような断片的エピソードによって構成された短編集。
 Ⅰに収録の「夕方のおともだち」が秀逸。放置プレイの最中に姿を消した女王様の幻を追って、SMクラブに通い続ける公務員の物語。山本直樹の描くセックスは、いかなる意味も担わない。愛でも、闘争でも、快楽ですらなくなり、ただ人間が人間としてある根元と、そこに漂うかなしみを指し示す。(村上知彦氏)


ミナミの帝王

 わかりやすいといえば、これほどわかりやすいものはない。好き嫌いはおそらくかなり激しく分かれるとは思うが、その卑近さと大衆性は文句なくナンバーワンだと思う。身近なテーマをごくわかりやすい解釈で、思い切りなオーバーアクションで演じてくれた。これは、忘れていたが漫画の王道だったのではないか。(いしかわじゅん氏)


無限の住人

 時代劇漫画の新境地を開拓した画期的作品。時代考証など、無視する部分とやたら克明な部分を使い分けており、しっかりと自己の作品世界の確立を行なった上で描いているのがわかる。お遊び心も秀逸で、海外での評価がやたら高いことも納得できる。(唐沢俊一氏)


龍-RON-

 今から六十年ほど前という近くて遠い時代の日本と中国、これまたお互いが近くて遠くに感じている二国が舞台。こんな難しい設定で、読者をわくわくさせる大河ドラマを綴る作者の底知れない力量に脱帽している。
 勢いだけではない、円熟した作品を推薦したい。(タケカワユキヒデ氏)


伊藤潤二 恐怖マンガ Collection

 アンチ手塚的な表現ながらも"恐怖"のみに徹底して描き続け、かつ着実に点をかせぎ続けている。その執念深さを認めて......。(石上三登志氏)

 こういう分野の作品は候補にあがりにくいと思うのであえて入れておく。ホラーコミック界にひさびさに出た正当派の大物であり、本質的な"怖さ"の点でこれまでにないムードを持っている。また、その量産ぶりも、かつてのひばり書房などのホラー作家の伝統をきちんと受け継いでいて、頼もしい。(唐沢俊一氏)


いいひと。

 マンガへのデジタル技術の導入。デジタル処理された画像が作家本人のペンタッチと違和感なくマッチし、さらに表現を豊かにしている。(岡田斗司夫氏)


OL進化論

 ノンキャリアOLの生活に取材し、現代日本の普通の人々の、ありふれた日常を、非凡なユーモア・センスで描く。(関川夏央氏)


女には向かない職業

 当代最高の教養人、いしいひさいちによる、恐るべきリアリズム。そして恐るべき批評。(関川夏央氏)


きらきらひかる

 法医学の現場というものはいかにもドラマチックで、 マンガ化し易いテーマだと思いつく人は多いだろうが、実際に描くとなると資料調査だけでも大変だと思う。(里中満智子氏)


じゃりン子チエ

 息の長い連載の中でひとつの"世界"を辛抱強くつむいできた作者の創作意欲の腰の強さに対して。(大月隆寛氏)


ジョジョの奇妙な冒険

 マンガの持つ荒唐無稽性を、ていねいな絵柄と、計算しつくされた意外性で包んだ、独自の世界を持つSF作品だ。その誰も真似ることのできない独自の世界をこれだけ長い間描き続けていることにも、敬意を表したい。(タケカワユキヒデ氏)


新・白鳥麗子でございます

 斜陽気味の少女漫画の中で気を吐いている鈴木由美子の奮闘ぶりはもっと認められていい。これまで漫画の中で嫌われものとして描かれることの多かった性格設定のキャラクターを堂々と主人公にしてしまうあたり、漫画のお約束をすべて心得た上でひっくり返す作者の確信犯ぶりが心地よい。(唐沢俊一氏)


黄昏流星群

 日本列島の高齢化を意識した、作者の秀でた社会性に基づいた優れた作品だと思う。お年寄りの恋を描いた作品群だが、いくつかの作品は、ハリウッド映画の大人の恋の名作よりも、読んだ人間の心を動かす。(タケカワユキヒデ氏)


天才柳沢教授の生活

 「人間のもつ味わい」を決してあせることなく、しかも押しつけがましくないかっこよさで楽しく見せてくれる。(里中満智子氏)


どんぐりの家

 こういうテーマは、描きたくても細かい配慮が必要となるので、なみなみならぬ心使いぬきには描けない。厳しい現実をありのまま描くのは努力さえあれば可能だが、それをドラマとして完成させるには勇気と使命感が要求される。
 精神力のこもった力作だ。社会性の面からも手塚賞にふさわしいと思う。(里中満智子氏)


BASARA

 ちいさな世界、ちいさな人間関係に傾きがちな少女マンガにあって、これはその対極にあるようなワイドでワイルドなロマンです。しかも優美さを兼ねそなえたキャラクター造形が見事で、多くの読者の眼を楽しませている点も見逃せません。
 20巻を超える物語の展開もスピーディなタッチであきさせませんでした。(長谷邦夫氏)


乾からびた胎児

 楠本まきのように描く人は、ここのところきわめて多くなった。そのため、今はそれほど目立たないが、やはり質は抜群だと思う。(荒俣宏氏)


みのり伝説

 きちんと、終わるべくして終った話で、ラストのありかたも、あれでよかったと思います。(夢枕獏氏)


ランポ

 手堅い画力に描かれる細部にこだわったディティールによって構築された異世界を舞台に、不幸な境遇にさらされた少女を救おうと旅立つ少年の熱い思いが描かれる。
 ロマンあふれるすがすがしい少年冒険ドラマ。(印口崇氏)


ロダンのココロ

 日本の懐かしい風景がバックにあって、犬のロダンの素朴さとよくあっている。
 犬らしい忠実さにあふれたロダンと家族の関係がほのぼのしている。(斎藤由貴氏)


王様はロバ

 過剰なまでのロジック展開で、4コマギャグに新しい風を吹き込んだ。(岡田斗司夫氏)


頭文字(イニシャル)D

 作者の持つ天性のエンターテイメント性はとにかくあきる事なく読者をぐいぐい引きつける。
 物語はただ車が公道を走るだけという単純なストーリーだが、それがこの作者の手にかかると不思議なくらい生き生きとして来る。
 やはり作者自身のテンションの高さ故なのか。(古川益蔵氏)


The Five Star Stories

 あまりにもオリジナリティの高い絵は、画風通り日常性にひたった凡人を射るように拒否する。
 しかし作品の内深く流れる時代を越えた感性は、次代を見る眼にはやさしく多くの物を語り伝えて来る。(古川益蔵氏)


死びとの恋わずらい

 『ハロウィン』『ネムキ』を中心にホラー短編を描き続けてきた描き手であり、一作毎に驚かせてくれる奇想とシュールな画像は衰えを知らない。グロテスクな、だが独自の美学を備えたその世界、連続して生み出されていく奇妙な物語への評価だが、数少ない長編であるこの作品の、何処か懐かしい心象風景に似たイメージとドラマがからみあいながら崩壊していく街、人々の業への取り組みは圧巻である。(米沢嘉博氏)


奈緒子

 坂田の過剰なほどの美文は、決してただ過剰なわけではない。心の裡の熱情を、坂田は語りたいのだ。物語を、人間を語りたいのだ。それを、絵で受け止めるのはむつかしい作業だと思う、中原裕は、健闘している。(いしかわじゅん氏)


忍ペンまん丸

 「天才」いがらしみきおは幼児マンガにおいても天才だったのである。去年いちばん笑ったマンガです。(高橋源一郎氏)


編集王

 漫画によって描かれた「漫画史」。歴史は過去の事件について語ることではなく、現在について語ることでなければならないのだが、その意味でも全く正統的な「歴史」の本。(高橋源一郎氏)


ぼくんち

 市民社会から外れた人たちの殺伐たる風景の中に、ぎりぎりに残された笑いと涙が感動的である。なまぬるいマンガが多い中で、"激辛"とも言える衝撃を覚える。
 本作を読みながら涙が止まらなかったという話もしばしば耳にしている。(呉智英氏)


夜叉-YASHA

 本当は『BANANA・FISH』も推薦したいところだが、新刊のみなので。 双子の少年が、(吉田氏得意?の)天才少年で2人の対立と、巨大企業との戦いや友人とのかかわりが、とてもドラマティック。今後の展開がたのしみ。(斎藤由貴氏)


石神伝説

 単発の短編というジャンルでのマンガ表現の可能性を淡々と深めてゆこうとする姿勢に対して。(大月隆寛氏)


唐沢なをきの楽園座

 版画マンガもすごいし、「けだもの会社」のバカバカしさもいい。かれに職人魂を感じる。この一冊あたりから唐沢が巨匠という意味での〈親方〉をめざしてほしい。(荒俣宏氏)


新世紀エヴァンゲリオン

 昨年、映画でヒットする迄全然知らなかった作品だが、大人もまきこむその魔的な魅力は、ある種カリスマティックなものがある、と思う。(斎藤由貴氏)


月的愛人

 バッドテイストではある。しかしそれを隠さず描きつづける丸尾の、実にすがすがしいばかりの近作。(荒俣宏氏)


ネオブラッド

 最近、若者たちにファッションとしてもてはやされているアメコミのテイストをベースに、スーパーヒーローチームという題材を日本まんがのドラマ性に見事にアレンジした快作。新しいタイプのまんがとして注目できる。(印口崇氏)


パトロールQT

 女流作家は往々にして、女の子の内面を描いてこと足れりとする安直な(しかしそれなりにウケる)道に走りやすいが、安野モヨコはもちろんそれを踏まえつつも、そこから先へ進もうという意欲を持っている。この作品がその跳躍台になりそうな気がする。(唐沢俊一氏)


真夜中の弥次さん喜多さん

 人生に対する真摯な姿勢がしばしば揶揄の対象になる昨今、それでも笑ってすごすわけにはいかないテーマが「死」である。これをマンガはどう描きうるか。パロディやギャグを織りまぜながら、人間にとって最大の不条理である死を描こうとした異色作である。変化球の中の直球として評価したい。(呉智英氏)


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