2013年07月03日

「続きは有料で」のステマ色に関する雑感

ネット時代以前、売文のお金の流れは、読者>小売>出版社>売文家というほぼ唯一の形が存在した。

ネットのインフラが成熟してきて、特にマイクロペイメントのシステムが徐々に浸透してきて、出版社の役割が小さくなり、売文家がどうやって読者から集金するかという新しい秩序を構築する必要が生まれてきている。今はその試行錯誤の段階である。なので、「?」と首を傾げたくなる場面も少なくない。個人的に特に違和感を持つのが、コンテンツそのもののステマ化である。何かといえば、例えばこの記事をここで終了して、

「続きは有料メルマガでどうぞ」

とやるようなことである。前振りの文章そのものが有料メルマガの宣伝であって、しかもそのことは文章を読み進まないとわからない。一番最初に「この文章の後半は有料です」と記述されているのなら全く問題ないのだが、全部無料だと思って読み進めると、途中で記事が終了してしまうので筋が悪い。

こうした手法では、無料で読める部分の情報性が少ないほどステマ色が濃いと言える。ただし、タイトルのみなどであれば単なる告知で、前ふりだけで内容が全くないものが一番ステマ色が濃いと言える。もちろん、冒頭に「後半は有料」と明記されているのであればステルスではなく普通の広告なので、全く問題がないのは言わずもがなである。記事の導入部分だけを読ませておいて、「続きは有料」というのがどうも、ということである。

また、有料化されている情報には「有用な情報」と、「発信者の主義主張」の2種類がある。これを簡単に表現するなら、前者は「読ませてあげる情報」であり、後者は「読んで欲しい情報」である。さらに簡単な事例を挙げるなら、前者にはお買い得情報など、後者には新聞社の社説などがある。「今、ここでこんなバーゲンをやっていますよ!」という情報は受信者にとって有用性が高く、有料化される裏付けがある。一方で、「今の政府の方針はこんな風に間違っている」という情報は発信者が発信者の主義主張に理解を求めているのであって、発信者が情報を広く伝えたいのだから、こういう情報を有料化するのはお門違いである。

一番リーズナブルなやり方は、無料で記事の大半を読むことができて、記事自体は一応そこまでで完結していて、有料でプラスαの情報を得ることができるというスタイル(これはいわゆるfreemium)である。

以下、身の回りの事例で検証してみる。

事例:cakes(ケイクス)
【特別編】シャラップ上田事件の教訓 vol.3 部下の怒り方
https://cakes.mu/posts/2243
無料で読める文字数:約350文字
無料で読める文章の情報性:ほぼゼロ
情報全体の性格:有用情報の提供
無料で読める文章の性格:ステマ色が濃い
所感:ケイクス自体はコンテンツ販売サイトなので、そこに掲載されている記事が途中から有料化されようと、ステマとは言えない。問題は、1.ケイクスがコンテンツ販売サイトであるというコンセンサスが十分に形成されているとは言えない、2.Twitterなどで、「ケイクスによる有料販売」である旨を表明せずに記事へ誘導されることがある、の2点である。1.については今後は徐々に浸透していくと考えられるが、2.については記事のタイトルに「後半は有料」「一部有料」といった但し書きをつけることが親切だと思う。

事例:MyNewsJapan
早大が「授業上限週4コマ」強行、「非常勤5年でクビ」に追い打ち 講師15人が鎌田薫総長を告訴
http://www.mynewsjapan.com/reports/1851
無料で読める文字数:約2,100文字
無料で読める文章の情報性:かなり高い
情報全体の性格:有用情報の提供と主義主張色が混在
無料で読める文章の性格:ステマ色が薄い
所感:MyNewsJapan自体は記事が途中から有料化されるので、読者との間にMyNewsJapanはそういうもの、という了解が形成されて来るなら問題はなくなっていく。ただ、これもケイクスと同様、Twitterなどの外部サイトからの誘導があるのが問題である。無料の情報でもかなりの分量になるため、Freemiumと捉えることも可能だが、無料パートと有料パートの切り分け方針が不明瞭なため、若干のステマ的色彩を帯びている。

事例:Joe's Labo
採用活動とは、一言でいえば「ブラック労働者をふるい落とす作業」です
http://jyoshige.livedoor.biz/archives/6621201.html
無料で読める文字数:約1,900文字
無料で読める文章の情報性:かなり高い
情報全体の性格:主義主張を無料(一部有料)、有用情報を有料
無料で読める文章の性格:ステマ色は薄いとも濃いとも言えない
所感:Joe's Laboの最大の問題点は、ブログ内で完結している記事と、有料コンテンツに誘導される記事が混在していて、それが記事の最後まで読まないとわからないという点である。色々と参考になる記事が多い城繁幸さんのブログなので、この点は是非改善して欲しいと思っている。

事例:朝日新聞 社説
http://astand.asahi.com/column/editorial/
無料で読める文字数:約75文字
無料で読める文章の情報性:ほぼゼロ
情報全体の性格:主義主張
無料で読める文章の性格:ステマ色はない
所感:最初から「有料です」と謳っているので、ステマ色は全くない。ただ、天声人語を有料化するならともかく、自身のアイデンティティを含めて展開している主義主張を有料化する意図は皆目不明である。読んでもらってなんぼのものなのが社説であって、むしろここだけでも無料化すべき部分であると、小一時間問い詰めたい。ナベツネは嫌いだが、読売新聞の社説は無料で読むことができるし、毎日新聞などはアーカイブへのアクセスも容易である。
読売新聞 社説
毎日新聞 社説


追記のテンプレ
事例:
無料で読める文字数:
無料で読める文章の情報性:
情報全体の性格:
無料で読める文章の性格:
所感:

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