■本賞選考方法
選考は、1996年中に発売された単行本を対象に、25人の本賞選考委員による一次選考を経て候補6作品を選び、さらに最終選考の投票で受賞作を決定しました(投票結果および選考委員のコメントもあわせてご覧ください)。また、特別賞は選考委員の推薦をもとに本社が慎重に審議、決定しました。
■選考委員(50音順、敬称略)
荒俣宏(評論家・小説家)、石上三登志(映画評論家)、いしかわじゅん(マンガ家)、大月隆寛(民俗学者)、岡田斗司夫(東大講師)、印口崇(評論家・マンガ専門店勤務)、唐沢俊一(評論家)、呉智英(評論家)、小松左京(SF作家)、斉藤由貴(女優)、里中満智子(マンガ家)、三代目魚武濱田成夫(詩人)、鈴木光司(小説家)、関川夏央(ノンフィクション作家)、高橋源一郎(小説家)、タケカワユキヒデ(ミュージシャン)、鶴見済(フリーライター)、長谷邦夫(マンガ家)、荷宮和子(評論家)、古川益蔵(マンガ専門古書店社長)、フレデリック・ショット(ノンフィクション作家)、村上知彦(評論家)、夢枕獏(小説家)、養老孟司(解剖学者)、米沢嘉博(評論家・コミックマーケット代表)
選考委員のコメント 複数作品をまとめて論じたコメントは 最も強く推薦された作品の項目に掲載しました。
2次投票時のコメントは「2次」と注記しました。
『ドラえもん』
「死去による最終45作目まで、驚異的に持続したそのSFマインドと日常的ギャグの合体。児童マンガ本来の童話性を、さり気ない知性と品位でもって描きあげたこれは、それゆえに『大人』ですら楽しめると思われる」(石上三登志氏)
「つけ加えれば『残酷な神が支配する』も力作ですが、子供対象にもこだわり続けた手塚氏を思うとき、『第一回目』の評価はそういうものの方に受賞させたいと願うものです」(石上三登志氏・2次)
「一貫して少年マンガの王道を歩み続けた藤子・F・不二雄(藤本弘)の代表作である。本作は四半世紀以上にわたって描き続けられ、親子二代の読者も珍しくない。単一作品ではマンガ界最多部数を発行しており、海外でも広く親しまれている。自由で豊かな想像力に裏打ちされた楽しい作品で、教訓臭くなく、かといって下卑てもいない。作者は、昨秋物故しているが、若き日に手塚治虫に師事しており、手塚賞第一回作にふさわしいと思量する」(呉智英氏)
「今回の推薦にあたって、自らルールを決めました。基本的に完結した作品であることが、まずひとつ。完結していない場合は、それが、短編連作、あるいはそういう型式の作品であることがふたつめ。『ドラえもん』は長大な作品でありながら、どの作品も水準以上であり、ここまで毒を作品からけずっておきながら、なお、おもしろいというのはただごとではありません。もし可能なら『風の谷のナウシカ』を、『ドラえもん』と同じ5点で推薦したいところです。その場合は、Bに5点。C・Dはナシ(事務局注:1次選考時の推薦作品ワクはA~Eまで5つを設けました)」(夢枕獏氏)
「本来一番高いポイントをいれたい作品ですが、賞は生きておられるときに差し上げたかった、ということで(事務局注:2次投票時に印口氏は3点を配点されました)」(印口崇氏・2次)
「第一次選考の際に点を入れなかった『ドラえもん』に5点を入れた。第一次選考でこの作品を外したのは、単純に『賞は活躍し続けている人にさしあげることで生きたものとなる』という理由からである。元気で頑張っているうちは一瞥だにせず、その人が亡くなるとあわてて授与するどこかの国の国民栄誉賞のような賞にこの手塚治虫文化賞をしたくなかったのである。
しかし、第一次選考の後で、作者藤子・F・不二雄氏が、亡くなった時点でドラえもんのネームを驚くほどの数完成させており、アシスタントたちの手によって、ほとんどオリジナルの質にせまるだけの新作をあと何年も発表し続けられる状態にある、ということを聞き、考えを変えた。マンガ家はその作品によって生きる。と、すれば、藤子・F・氏は、読者にとってはまだ現役で仕事を続けておいでの作家なのである。ドラえもんという、戦前ののらくろに匹敵する国民的キャラクターを生んだことひとつで、その業績は他の数百人のマンガ家の上を行くものだろう。推挙することに躊躇しない。
しかし、とはいえ、『賞はその受賞者に、さらにいい作品を生み出してもらうためのはげましとして存在すべきもの』という考えに変わりはない。その意味で、この賞が『すでに岸に上がった者に投げ与えられた救命ブイ』(バーナード・ショー)にならぬために、同点を、萩尾望都氏の『残酷な神が支配する』にカウントした」(唐沢俊一氏・2次)
「キャラクター・デザインやストーリーの基本設定はまさに子供マンガの天才藤子・F・不二雄先生ならではの素晴らしさがあります。マンガというジャンルを越えて、半永久的に生きつづける子供文化のシンボルになりつつあるように思う」(フレデリック・ショット氏・2次)
「ほのぼのとした味わいはこの作品ならでは。しかし、おもしろいと感じるには、ぼくのほうが年を取り過ぎてしまったようだ。小学生の娘たちは大ファンなのだけど」(鈴木光司氏・2次)
「第一次選考では“現役作家”を念頭においていた関係で、はずしておりました。しかし『1996年発行の単行本』を対象とするルールにした以上、本賞での受賞をさまたげるものではありません。秀れた低学年マンガを描こうとする作家が少ない点を考えても、本作品は貴重です。そのSFマインドと共に子供たちに柔らかな笑いを、コンスタントに提供し続けてきたことを、大いに評価したいと思います。更に、劇場アニメのために描かれた。長編ドラえもんも非常にユニークで夢あふれる作品です。手塚治虫文化賞にアニメ部門が加わっていれはと思いました」(長谷邦夫氏・2次)
「単なる子供向けマンガというだけでなくその作品の持つSF性は独立したSF作品としても立派に通用するレベルになっている所が素晴らしい。またその高度なSFを子供にも分かりやすくおもしろく展開して行くストーリーは此類のないテクニックである」(古川益蔵氏・2次)
『残酷な神が支配する』
「少女マンガに革命的衝撃を与えたデビューから三十年近く、常に斬新な作品を生み出し、また、後に続く新人たちの指標となってきた。この『残酷な……』においては、これまでの女流作家の描き得なかった非情で冷酷なドラマが展開されており、並のサイコドラマの比ではない人間性の恐怖を描いている。このベテランにしてこの新分野への挑戦の意欲とその結実の成果は、いまだ継続中の作品とはいえ確実に受賞に値するだろう」(唐沢俊一氏)
「一体何年のキャリアーになるのか定かではないが、これだけ長い間質の高い作品を輩出しつづけるパワーは、少女マンガ界の最大の功労者といえると思います。この『残酷な神が支配する』は、登場人物一人一人に多面的なリアリティが感じられ、とても魅力的な作品。主人公がどうしようもなく追い詰められていく様の心理描写が、とても丁寧で、又望都さん独特の幻想的な絵がところどころで美しく印象をつけていると感じました」(斎藤由貴氏)
「少女漫画の定番設定だったヨーロッパ的学園生活やラブ・ロマンスを、一挙に転倒し、大人も読めるレベルのドラマとして昇華してみせた。近年の有害漫画批判に対し、漫画家は性的表現の規制に反対したが、それに見合った作品を産み出せなかった。その点この作品はセックスによるイジメという現代的テーマから入り、青年の悩みや悲しみを通し、ヒューマンな人間関係を求めつつ苦闘する主人公の心を見事に描き出した」(長谷邦夫氏)
「性的虐待を受け続けた義父を事故に見せかけて殺した少年と、疑惑を追及するうち真実を知ってしまう義兄との間に繰り広げられる心理サスペンス。『親から捨てられた子ども』『親に傷つけられた子ども』を描き続けてきた萩尾望都の、到達点を示す作品」(村上知彦氏)
「この作品は一番高いポイント、もしくはポイントいれないか、のいずれか、だと決めていました。衝撃的なドラマ展開、翻弄される少年の叫び。読めば読むほど、緊張感を強いられる。まちがいなく傑作です! しかしぼくは松本大洋氏の『ピンポン』を一押しすることを決めた時点で、この作品は選外としました」(印口崇氏・2次)
「萩尾氏の作品に加点する理由は第一次選考の際に述べたことと同じなのでここでは略するが、この賞のように手塚治虫という個人の名を冠した賞を与える場合、まず受賞者が手塚治虫氏の功績にせまるだけの実績を挙げたことを受賞理由の第一とし、次に、その受賞者が、手塚治虫の業績をどこかの部分で越えたことを受賞理由の第二とすべきであると考える。それでなければ、マンガ界はいつまでも手塚治虫が到達したレベルから上昇できないことになる。それは、泉下の手塚氏も望まないことであろう。 萩尾氏の『残酷な神が支配する』は、一読してわかる通り、すさまじいまでの非情さ、救いのなさをテーマにしている。主人公の母親に対する愛情が原因となって、彼を奈落の底へつきおとす。このストーリィの冷酷さは、これまでの、どこかにハートウォーミングな感触を残していた萩尾作品のイメージを一変させるものであり、そして、これまでのマンガ作品が--手塚治虫氏のものを含めて--ここまで徹底しては描けなかったものであった。ここにおいて、萩尾氏は手塚治虫を“越えた”のである。その他の候補作もそれなりの完成度とおもしろさを持ち、十分に受賞に価するものではあるが、この一点、『手塚治虫が描きえなかったところに到達している』、という部分で、『残酷な神が支配する』に及ばない。
以下、個人的なことに及ぶ。萩尾望都という名は、われわれ世代にとっては、そのマンガ狂少年時代、実は手塚治虫氏よりも『マンガの神様』という名前が実感できる作家であった。手塚氏が『大神』ならば、萩尾氏は『新女神』であった。その同じ作家が、今なお作品を描き続け、そして新境地を開きつつあることは大奇跡に近いことである。氏のそのあくなき創作力の秘密は、業界で名声を得てもなお高みに安住しようとせず、第一線の若手作家たちの作品や市井のファンの声からエッセンスを吸収しようとする熱心さにあると思う。
選考委員の一人、岡田斗司夫氏は、大学生時代、萩尾氏の作品を批評した手紙を送り、長文の反論の手紙をもらって驚愕した思い出を持つという。また、私の妻(鹿野景子)は、新人マンガ家のころ、あるパーティでそのころすでに超人気作家であった萩尾氏の姿を認め、サインをもらおうと近づいたとき、逆に『いつも読んでます。サインをください』と言われ、これまた驚愕したという。新人の作品にきちんと目を通し、ファンの手紙にもきちんと反論をしたためる。このバイタリティが、今の若手の人気作家にあるだろうか。 この賞が作品に与えられるものであって、作家個人に与えられるものでないことは承知しているが、このエピソードは、そのまま手塚治虫氏のものとして聞かされても違和感がない。萩尾氏こそ、手塚治虫氏の名を冠した賞の第一回を受賞される作家にあいふさわしいと信ずる所以である」(唐沢俊一氏・2次)
「『少女マンガ』という枠の中に、性的・心理的虐待を受ける少年だけではなく、すべての被害者の、自意識が崩壊する様を大変リアルに描いているように感じた」(フレデリック・ショット氏・2次)
「物語の構成が巧みである。緻密なストーリー展開に、ぐいぐいと引き込まれる。それぞれの登場人物が、心理的に追い詰められていく様はリアルだ。ただ、ほとんどの男に同性愛の素質があるような描きかたには、男として辟易した。女性の読者ならこの点、問題はないのだろうか」(鈴木光司氏・2次)
「不勉強なために、この作品の存在も知らなかったが、読んでみて、改めて萩尾望都氏の力量に驚かされた。氏が、今までもパイオニア的な作品を数多く発表しているのは、よく知られていることだが、この作品は、あくまでもエンターテインメントの範疇で、数奇な運命をたどる登場人物たちの心理描写を、まるで純文学のように細かく紐どいてくれる習作だ。僕は、このような質の高い作品を今まで見た事がない。この作品は、必ずしも地球の未来のことを考えた作品ではないが(事務局注:タケカワ氏の選考基準については『美味しんぼ』のコメントを参照してください)、作品の出来が特出しているので、推薦した」(タケカワユキヒデ氏・2次)
「萩尾さんの作品だができれば彼女の作品では『ポーの一族』を推したかった。『ポーの一族』は古い作品だが、おそらく歴史に残る作品になる事だろう」(古川益蔵氏・2次)
「表現が、円熟して、なお、新しい。できのよい舞台を観るようなところもあります」(夢枕獏氏・2次)
「萩尾作品を5点としましたが、上位三つ(事務局注:『残酷な神が支配する』『ドラえもん』『ドラゴンヘッド』)はあまり差がないので、あとを4点、4点としています。ドラえもんはややいまさらという感があります。ドラゴンヘッドはまだ先があるでしょうから、1点引きました。あとは好みの問題です」(養老孟司氏・2次)
『ドラゴンヘッド』 「理由は『MONSTER』と同じ。ただし、ほとんどの作品が『大河ドラマ』化、大連載化されている現在、一体どの時点で評価するかは、論議すべきではある。終了した時までは待てないということもあるだろう」(石上三登志氏)
「ここ数年、人間心理の裏にある恐怖を描く作品を発表し続けてきたが、本作はその集大成の感がある。破滅・終末テーマものだが、単に物理的な恐怖を描くだけでなく、人間の心の闇も照らし出し、きわめてスリリングである。描写も細密で、時代の先端をいくような手法を使い、それでいて独りよがりにならず、エンタテインメントとしても楽しめる」(呉智英氏)
「黙示録的世界を、スリリングにどこまでも深化させ続けた。そのドラマ構築力と画力が素晴らしい。異常心理にとらわれるさまざまな人間たちの行動と崩壊世界の風景は、連載開始後に起きた阪神大震災と重なって、読者に大きなインパクトを与えた。安易なゲームファンタジー的漫画が多いなかでこの作品は、作者独自の想像力が目一杯展開され、リアリティのあるキャラクターを創りあげている」(長谷邦夫氏)
「終末の中の少年・少女たちのサバイバルを迫真のリアリティで描き出し、物語るための今日的スタイルを完成させている。日常を描くことが多かった作者が物語作家へ踏み出したことも、マンガにとって、よかったと思われる。マンガ表現へ寄与したものは大きい」(米沢嘉博氏)
「難しい題材を、非常にていねいに描いている。絵柄もますます魅力的になってきている」(いしかわじゅん氏・2次)
「おもしろいのですが、他の作品にくらべるとややパワーが弱い、という印象をもちました。話の展開がまだ見えてこない、という点で、今後の展開でまた考えたいと思います」(印口崇氏・2次)
「大変オリジナルな、しかも異様な世界を作り上げていて、その世界に読者をかなり強引にひっぱり込んでいくところが凄いですね。世紀末にふさわしいマンガのテーマです」(フレデリック・ショット氏・2次)
「冒頭は実にスリリングで、興味をそそられる。この先どうなるのかと目は離せない。しかし、この作品に関しては、未完結の時点で評価を下すことができそうもない。冒頭部分だけなら、どんなおもしろい展開も可能だからだ。最後まで読み終わって、『うーん』とうならせてくれたのなら、これは凄い作品になる」(鈴木光司氏・2次)
「この作品は、初めて読んだが、パニックものというある意味で新しい(『漂流教室』はSFの分野として考えたい)ジャンルに挑戦したパイオニア精神溢れる、素晴らしい作品だと思った。あらゆる危機に満ちた『今』を扱いつつ、人間を描き、尚且つ、作品がスリルに満ちている」(タケカワユキヒデ氏・2次)
「さまざまな意味で衝撃的な作品です。極限状況における少年、少女のサバイバルを描いた作品は過去にも数多くありましたが、個人の心理的恐怖に焦点をしぼり、その混沌とした不安を表現として徹底して描いている点で注目に値します。ただ、対象となった3・4巻では、物語としての展開がやや緩慢になり、緊張感が薄れたような気がします。とはいえ有力な優秀賞候補であることは間違いありません」(村上知彦氏・2次)
「じっくり書き込んでいるのがよいと思います。この物語がどこへ向かおうとしているのか興味があります」(夢枕獏氏・2次)
「『ドラえもん』のレベルを維持した面白さと児童マンガとしての質は評価に価するが、95年という時点においてアクチュアリティを持つかというと疑問が残る。藤子F氏は特別賞がふさわしいと考える。候補6作について見るなら、『残酷な神が支配する』の完成度とテンションの高さが頭抜けていると思うが、テーマ的に第一回目の受賞作にするには難があるだろう。アンモラルな内容でもあり、一般的に拒絶感を抱かせる恐れもあるからだ。『蒼天航路』の技術、迫力は見事だが、読む『マンガ』として、うまく流れてくれないきらいがある。表現やスタイルにおいて独自の世界を創り上げている『ピンポン』も同様に、日本のマンガの持つドラマのダイナミズムとは違うところにある作品だろう。--手塚マンガということを考えると、やはり読むことの快楽、物語性、を第一にすべきではなかろうか。第2回目以後はマンガの様々な可能性を探っていき、それを盛っていかなければならないと思う。すると、ぼくの中では、『ドラゴンヘッド』の、今日的リアリティにこだわったサバイバルストーリーが、受賞にもっともふさわしいという結論に達した。また少年マンガ的想像力にあふれた『覚悟のススメ』は個人的に好きな作品だが、正統からのズレを評価すべき作品であり、マニアックであるような気がする。第一回目であるが故に、オーソドックスへと落ち着くところから、始めた方がいい。『ドラゴンヘッド』はまた正統少年マンガへの挑戦でもあるのだからだ」(米沢嘉博氏・2次)
『ピンポン』
「現在、未完、連載中ではあるが、きわめてユニークな画像処理と時間レイアウトは、それだけでも魅力的で納得できる。『映画的』ともまた異なった、いわくいいがたい手法ではある」(石上三登志氏)
「画力は勿論優れていますが、コマ割りやページ構成はとても映画に近い構図になっていて、感動的です。その上、基本ストーリーやキャラクター描写が面白くって、読んでいるうち大変引き込まれてしまいました。60年代後半にいわゆるスポコンまんががブームだったけれど、これも一種の心優しいスポコンものではないかという気がしました」(フレデリック・ショット氏)
「抜群の画力と構成力、誰にも似ていない絵柄と妥協しないテーマの追い方を評価したい」(いしかわじゅん氏・2次)
「最終選考に残るだけあっていずれも、誰が読んでもおもしろい作品であると思います。非常に悩みました。そのなかで、松本大洋氏の『ピンポン』はエンターティメントな読物として、飛び抜けておもしろいとぼくは思い、高いポイントを入れました。ドラマ的には非常にオーソドックスなスポーツものをテイストにしながら、ポップなタッチの絵柄で描いている点が、今後のスポーツまんがの在り方を問うている、と考えます」(印口崇氏・2次)
「日本人には身近で手軽なスポーツ、卓球を通して才能の有無の残酷さが描かれる。絵、物語展開、キャラクター等なんとも独特のタッチ」(鈴木光司氏・2次)
「特異な作風を持つ松本大洋の、異色のエンタティンメント作品として、極めて興味深い作品だと思います。友情、努力、勝利といったスポーツまんが的主題が、見事に解体され、松本大洋独自の世界に再構成されてゆく様子を眺めるのは、一種の快感です。ただ、雑誌連載と違い単行本で一度に読むと、その解体と再構成の極端なダイナミズムが、読者にやや疲れを覚えさせるようにも思います。それを乗り越えるにはより大きな次元の物語への回収が必要となるのでしょうが、本作品はまだその途上にある段階のように思えます。今後の展開に期待したいと思います」(村上知彦氏・2次)
「連載で読むよりまとめ読みするとさらにおもしろい」(夢枕獏氏・2次)
『蒼天航路』
「『三国志』などという、語りつくされた素材を、全く新しい切り口でリファイン。ハッタリのきいた画面創りで、読み手のエリ首つかんで引きずりまわす力強さが心地よい」(岡田斗司夫氏)
「いわゆる“三国志”モノだが、これまでにない新鮮で大胆な解釈でそのダイナミックな展開に驚かされる。三国志は登場人物が多いが、その一人一人に多彩な個性をもたせ、歴史的な解釈というよりキャラクターの個性を中心に進行するストーリーは、人間性を奥深くまで掘り下げ赤裸々に浮上さす。これ程のマンガ原作者が日本人以外にいたとはうれしいような怖いような気分だ。もちろん絵を担当する王欣太という作者自身も単独で見事な作品を残してはいるが、この原作に出会ってその才能が爆発したようである」(古川益蔵氏)
「ひさしぶりに登場した、スケール感のある歴史ものとして、じっくりと読み込めせることに評価します。また海外の作家としては、日本の読者になんの違和感もなく読ませる絵柄、ドラマ展開を作り上げている点にも評価します」(印口崇氏・2次)
「アクション・シーンの描き方がとても感動的だと、久しぶりに感じた」(フレデリック・ショット氏・2次)
「曹操にスポットを当てたもうひとつの三国志。絵に迫力があり、すばらしくうまい。たとえば合戦のシーン。敗走する騎馬武者の表情ひとつひとつが、手を抜くことなく丹念に描かれ、臨場感が伝わってくる。敵に追われて敗走するときの恐怖……、今にも追いつかれ、背中に刃をたてられるのではないかという背筋がもぞもぞするような恐怖が、絵に込められている。こういった歴史ものでは、人物造形が類型に陥りがちだが、その点も、クリアしている。曹操を筆頭に、どの人物も魅力的だ。候補作の中で、もっともおもしろく読むことができた」
「『ドラえもん』のような『漫画』と『蒼天航路』『残酷な神が支配する』『ピンポン』『ドラゴンヘッド』という『劇画』を同じ土俵で評価できるかという問題にぶつかった(『覚悟のススメ』は中間に位置すると思われる)。とにかく、この六本が候補作として上がってきた以上、評価の基準をどこかに設定しなければなるまい。社会的な貢献度や人気度などはむろん度外視して、自分自身がおもしろく読めるかどうかという点に重きを置くことにした結果、上のような結果(事務局注:鈴木氏は『蒼天航路』に5点を配点し1位に推した)になった。未完結作品の評価に関しては、これからの課題としたい。『ドラえもん』を除けば、完結しているのは『覚悟のススメ』だけである。ぼく自身、普段から小説を書いている経験上、思いつきだけの設定が、そう難しくないことを知っている。発想豊かな、尋常ならざる冒頭部分を思いついても、その後がつづかないことはよくある。『ドラゴンヘッド』にはその可能性が見えた。しかし、やっかいなのは、思いもよらない、真に独創的なラストがこの先に待ち受けているかもしれないということだ。もしそうであるのなら、この作品を、ぼくは過少評価してしまったことになる」(鈴木光司氏・2次)
「何よりも、絵柄と登場人物の書き分け方が新鮮だ。歴史上の人物を扱った作品は、今までも数々あったが、これほど、登場人物の何人もが、独特の魅力を持って迫って来る作品はなかったと思う。若々しい曹操と、チャランポランな玄徳との対照も良い。中国的な世界感に宇宙を感じながら、個々の人物達から深い愛情も感じる。他の三作品(事務局注:このほかタケカワ氏は『美味しんぼ』『金田一少年の事件簿』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を1次投票で推薦されました)と比べて知名度は、遥かに劣るが、内容の充実度は、優るとも劣らない」(タケカワユキヒデ氏)
「主人公曹操の性格描写がユニークで、ドラマもダイナミックに読ませてくれます。今後の展開により、これまでの三国志をどこまで超えていくかで、再評価のチャンスも充分ありえるでしょう」(長谷邦夫氏・2次)
「スケールの大きな物語性と描写の迫真力には目をみはります。ただ魅力的な娯楽作品という以上の何かが、決定的に欠けているようにも感じます」(村上知彦氏・2次)「迫力とパワーがあっておもしろい。雑な部分もありますが、迫力がそれに勝っています」(夢枕獏氏・2次)
『覚悟のススメ』 「青年誌界に異質な漫画家が現れなくなったといわれ始めて久しい。それは、少年誌界においても同じ、あるいはもっと極端で、みんな平均的中庸な、絵だけ達者な漫画家ばっかりになっている。その中で、唯一山口のこの作品は、少年漫画界に異物として、異彩を放っている。ある程度のヒットもした」(いしかわじゅん氏)
「奇矯のようで、少年誌の王道ともいえる想像力と、対象から逃げずに取り組んだ熱意に対して」(いしかわじゅん氏・2次)
「わずかなキャリアでこれほどパワフルな作品を週刊連載ペースで描いたことのすごさ、創作に対する真摯さ、ドラマ性の潔さ、を高く評価します」(印口崇氏・2次)
「マンガの世界にアナーキズムが到来し支配する、という感じが面白い。絵もとても迫力がある」(フレデリック・ショット氏・2次)
「発想はおもしろく、大団円に至るまでトーンは一貫している。しかし、やはりドラえもんと同様、おとなの読み物としてはどうかと思う」(鈴木光司氏・2次)
「そのグロテスク、ナンセンスぶりによって新しい笑いとキャラクターを創造しました。過剰さの面白さは、その作画と性格創造の両面に見事に発揮されています」(長谷邦夫氏・2次)
「『自身の望む平和を実現させるためには暴力に頼るしかない』、現実であれフィクションであれ、そう思える部分は多々ある。が、現実の場面では『でも、私にはそれを実行するだけの能力がない』、そう思い知らされながら生きているのが大多数の女である。電車の中で遭遇した痴漢を完膚なきまでに叩きのめせる腕力が女に備わってさえいれば少なからぬ女が救われることは、その卑近で矮小な一例である。生来非力な女と同様に、男でありながら非力で暴力そのものを生理的に嫌悪し、しかもそのことを自身の作品の中で包み隠さず表明した、それが手塚氏の特徴である。だからこそ、男性の人気作家であるにもかかわらず、女の読者は手塚作品を受け入れることが出来たのだ。 だが、暴力を生理的に嫌悪し、自身の非力さを認めてしまえば、問題の解決は永久に不可能となるのも事実である。たとえ、娯楽作品として作家の頭の中で空想されたものでしかない場合であっても、だ。ところがそのジレンマを解決してみせたのが、山口氏による『覚悟のススメ』だったのである。
この作品と類似したプロット、すなわち人類を破滅させようとする敵に立ち向かう無敵のヒーローの活躍を描いた他の作品群が、あくまでも『暴力で他人を叩きのめす快感が大好きな僕たち』のマスターベーションの役割を担っているに過ぎない状況の中、山口氏は独自のスタンスをしめしてみせた。すなわち、『暴力は手段であり、目的ではない』と。 この作品に登場する暴力場面は、一見グロテスクである。にもかかわらず、女性読者の支持を得ることが出来た。なぜならば、他の男性作家との志の違いを、女ならば見抜くことが出来たからである。同様に、もし手塚氏が生きていたならば、この作品中の暴力描写を、手塚氏自身が捨てることが出来ずにいた『暴力に対する強い生理的嫌悪感』ゆえに抱える『理想とする平和の実現への困難さ』に対する、一つの解答と見なしたのではなかろうか。
更にはこういった理屈を越えて、『こんな男に愛されたい』と思えるヒーロー像、『こんな風に生きたい』と思えるヒロイン像、そして『こんな人を癒してあげたい』と思える敵役像を、女の読者に対して提示してみせた作家のエンターティナーとしての力量にも敬意を表したい」(荷宮和子氏・2次)
「思想的にも物語的にも、また図像的にも、過剰さと乱雑さが混在した、混乱に満ちた、しかし奇妙に魅力的な作品です。一歩まちがえば、と思わせる危うさが魅力であることは認めつつ、今回は佳作の評価に止めたいと思います」(村上知彦氏・2次)
『おたんこナース』
「独特のユーモアセンスは万人向け。突飛なキャラクターたちの行動に読者はとまどいながらもはまってしまう。卓越したドラマづくりだと思う」(印口崇氏)
「この佐々木倫子氏は、『動物のお医者さん』で有名になった人ですが、緻密な取材と独特の間があって、とても面白いと思います。看護婦の世界、患者との攻防がよく描かれていて、好きです」(斎藤由貴氏)
「病院、看護婦、を素材にしながら、おもしろく、笑えて、しかも泣かせるというとびぬけた芸の持ち主です、この作者は。前作、『動物のお医者さん』より、この芸がみがかれて、現在最高のおもしろさであると思います」(夢枕獏氏)
『スラムダンク』
「『スラムダンク』は男女共に支持された作品だが、『男の作家が男を主人公に男に向けて描いた』という、作品そのものには罪の無い事実によって、『どうして女を主人公に据えた同タイプの作品がないんだ』という口惜しさを想起させる結果となった。マイナス1点(事務局注:荷宮氏は1次選考で4点を配点されました)はそのためである」(荷宮和子氏)
『賭博黙示録 カイジ』
「けっして『王道』のマンガではない。単行本一巻の第1ページから50ページまでで主役の『カイジ』の顔も変わりまくっている。しかし、とにかく読み続けなければ、いてもたってもいられなくなってしまうという麻薬的なマンガ。次から次へとページをめくってしまう、読んでる最中もずっとテンション上りっぱなし。ああ、早く続きが読みたい」(岡田斗司夫氏)
「ギャンブル漫画は数多くあるが、この作品ほどギャンブルにかかわる人間の感情・精神面を適確にとらえた作品を知らない。作者は以前からマージャン物を多く描いていたが、やはり他のマージャンマンガとは一味も二味も違う解釈と展開でマージャンを知らない私でさえ夢中にさせた。作者は、おそらくギャンブルというものの本質、それにひき寄せられる人間の弱さ、逆に挑戦しようとする力強いエネルギーのすべてを知り尽くしているのだろう。“カイジ”はマージャン漫画ではないが、ギャンブルマンガをここまでエンターテイメントに仕上げた腕はこれからますます楽しみである」(古川益蔵氏)
『おーい!竜馬』
「幕末の英雄“竜馬”に関しては多くの作品がマンガに限らず制作されてきた。司馬遼太郎の“竜馬がゆく”はそんな中でも最も完成度が高く、読者にも読まれている作品だろう。この小山ゆうと原作武田鉄矢の“おーい竜馬”は、すでに“司馬竜馬”があっての作品であるから、どこまで新しい解釈が打ち出せるか疑問であったが、マンガという手法を見事に使いこなし、人間竜馬に焦点を絞った構成は、無慈悲な歴史の激流の中で存分に発揮される彼の人間性、やさしさ、存在の大きさ等生々しい人間竜馬を描き出している」(古川益蔵氏)
「人気さえあれば、いくらでも続けてしまうというマンガ界にあって、描くだけ描いて、しかも、終わるべくして終わったという、めずらしい作品と思います。司馬さんの『竜馬がゆく』と並んで、竜馬ものの傑作と言えるでしょう」(夢枕獏氏)
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』
「出発は1976年ときわめて古いが、96年にはなんと100巻目が刊行され、しかもそのナンセンスな活力は少しもパワーダウンしていない。手塚治虫氏すら実現しなかった、この前人未踏の快挙は、96年度ナンバーワン作品としてまとめて、決してほめすぎではない」(石上三登志氏)
「言うまでもなく、20年間も続いているギャグマンガの大御所だ。特に何かジャンルを築いた訳ではないが、このマンガの存在が、一つのジャンルと呼んでいいほど、20年という年月は重い。少々荒っぽい描き方ではあるが、充分に愛情に満ちている」(タケカワユキヒデ氏)
『チワワちゃん』
「表題作の『チワワちゃん』は、バラバラ殺人された主人公の友人達が生前のチワワちゃんを回想するストーリィで、岡崎さんの作品で扱われる“死”はとても特殊な色合いをもっていて、いいと思いました。暴力的で、ある種なげやりだったり軽かったりするけど実はすごく繊細で」(斎藤由貴氏)
『青い車』
「短編集の表題作。震災の日、遠く離れた地で無関係に死んだ少女をめぐる、その恋人と妹の会話。死者を悼むどのような言葉も、生き残った者の疎外感を癒すことはないのか。阪神大震災に触発された表現の中で、最も心に響いた一作」(村上知彦氏)
『ゴーマニズム宣言』 「正義をふりかざしたりやたらとアジるのではなく、自分自身への疑問ともきちんと対峙してる感じがしました。マンガの新しいかたち、というか小林さんによるマンガ、というのが確立されていて気持ちよく、作者の不安や迷いが作品に正直に反映されているように感じました」(斎藤由貴氏)
『Palepoli』
「マンネリ化の多い漫画世界では、この作品は目が飛び出るほどのオリジナリティを持つ。画力はとにかくすごい。コンセプトもユニーク。表紙や装丁やデザインもとても普通の漫画ではないということを強調しているし、ストーリー漫画が主流となっている今の日本漫画世界では久しぶりに四コマまんがの可能性に挑戦している感じがする」(フレデリック・ショット氏)
『うしおととら』
「妖怪マンガ、伝奇ロマンとしてよく出来ているのみならず、主人公が少年マンガらしいまっすぐさを持ち、明るく、また問い続けていくところが好ましい。ラストのクライマックスに向けて、きちんと物語り終えたことも、久しぶりの正統少年マンガとして大いに評価できる。手塚マンガの匂いがここにはある」(米沢嘉博氏)
『ぼのぼの』
「いささか旬をすぎてはいるが、自然と生命について、一種の諦観さえ感じさせる視点が面白い。ほのぼのとした話にみせかけて、時々どきりとする笑いが現れる点も類を見ない。本賞のうたう『自然との調和』を、本来の意味で描いた作品というべきである」(呉智英氏)
『美味しんぼ』
「この賞に推薦する作品を選ぶのにあたって、次の三つのポイントを基準に判断することにした。(1)マンガとしてパイオニア精神に溢れているか。(2)地球の未来の事を考えているか。(3)人間の描き方に愛が溢れているか。全て、手塚さんの作品に溢れているファクターである。この『美味しんぼ』という作品は『食物』という、それまでマンガのテーマになり得なかったものを、マンガ史上、最初に興味深く、面白く、世の中に知らしめた作品で、充分すぎるほど、パイオニア精神に溢れていると思う。さらにこの作品の食材をテーマとして扱う時の地球の未来、人類の未来に対する、深い思考。そして、人間愛に溢れている登場人物たち。知名度、作品のクオリティも含めて、第一回手塚治虫文化賞にふさわしいと思う」(タケカワユキヒデ氏)
『大阪豆ゴハン』
「軽快、軽妙。大阪の日常が淡々と、しかし明るく描かれ、なんとなく勇気づけられる。大阪が舞台という点も、マンガ文化の広がりに資するところ大だと思う」(関川夏央氏)
『陰陽師』
「あえて推薦作とはしませんが『陰陽師』は、傑作です。推薦者本人の原作、手塚治虫の息子さんのお嫁さんの岡野さんが絵を描いているということで、ぼくが推薦作にしたらシャレにもなりません。しかし、あえて、このEにいれたいほど、作品としてのできはすばらしいものがあります(事務局注:1次選考時の推薦作品ワクはA~Eまで5つを設けました)」(夢枕獏氏)
『かちかちやま』
「寡作ながら、洗練されたタッチによる、緻密な画面構成は、日本を代表する作風だと思う。ファンタジーを主な題材にした作品でありながら、大人の読者にとって読み応えのある重厚なドラマづくりを行っている。特に表題作『かちかちやま』は、黒沢明が寓話を題材にした映画を撮るならば、このような世界観ではと思わせる」(印口崇氏)
『こどものおもちゃ』 「手塚治虫の作品の根底に流れる思想について、私は以下のように考えている。すなわち、(1)『生まれてしまった』ことを肯定している。(2)暴力を嫌悪している(理性に基づく憎悪や否定、というよりも生理的に拒絶している)。(3)キャラクターの性別による描き分けがない(女に生まれたみじめさを女の読者に感じさせない)。(4)とにかくエンターティメントであろうとしている。--以上の4点である。今回の候補作品の選定について、これらの条件をクリアしているかどうか、これらの条件とすりあわせた場合にどういったことが導き出されるか、を最重要なポイントと見なした。客観的に考えれば不幸であるはずの子供達が妙に元気で、しかもコメディとしての出来も良い『こどものおもちゃ』は、(1)~(4)の要素を難無くクリアしているヒット漫画である。大賞にふさわしい作品として推薦したい」(荷宮和子氏)
『ゴン』
「場面展開と動きだけでドラマを見せる画期的な作品。世界に通用し、愛されるキャラクター性は手塚作品の精神を表現していると思う。ダントツでこれ1本。他に思いつかないのでこれを推薦させていただきます」(里中満智子氏)
『栞と紙魚子の生首事件』
「マンガ界随一の奇才である作者は、最近その作風に円熟味を加え、不気味さとユーモアの共存が描ける、日本有数の語り部的存在となっている。特にこの作品はユーモア度が強く、マンガの表現をまたひとつ広げたと言っていい。なお、作者はデビューが『少年ジャンプ』誌の手塚賞受賞であり、この賞にも縁がある」(唐沢俊一氏)
「奇想に満ちた短編の面白さを味わわせてくれる作品であり、手塚マンガの短編の面白さに比肩できるのは、今、これしかない。長編『西遊妖猿伝』そしてこれまでの諸星作品全てを考えての上でのノミネートである。第一回手塚賞(事務局注:集英社主催の新人マンガ賞)の受賞者である作者であるが故に、因縁めいてくるセレクトではあるのだが…」(米沢嘉博氏)
『新世紀エヴァンゲリオン』
「SF的設定の謎の解明を残したまま終わったTV版アニメの話題と人気が先行したかたちであるが、キャラクター設定に参加した貞本版雑誌作品も、独立して面白く読ませる。特に主人公シンジが、現代の普通の少年としてリアルに描かれている点がユニークで新鮮だ。成長物語というよりは、“少年期の絶望観”を体験していくシンジの姿が印象的。唐沢俊一氏が指摘したように、SF設定の全てが、ヒッチコックのマクガフィンである、とすればSF漫画をひっくりかえす新世紀漫画だ」(長谷邦夫氏)
「父に疎まれながら、その建造したロボットに乗り、襲来する謎の敵『使徒』と戦い続ける少年。司令官である少年の父に全幅の信頼を寄せる、過去を失ったもう一人のパイロットの少女。親子の絆の喪失と孤独な子どもたちの魂の再生を描く、現代の『鉄腕アトム』」(村上知彦氏)
『Tales of Joker』
「マンガ開始時より、全体の年表を発表してしまい(『Five Star Stories』)、その通りにストーリーを進めていく、というすさまじいマンガ。アニメ世代である作者の美意識は、けっして一般性をもちえないかも知れないが、そんなものくそくらえ。とにかく面白い『SFマンガ』である」(岡田斗司夫氏)
『MONSTER』
「出発は95年で、しかも現在進行中。にもかかわらず、先を期待させるダイナミックなドラマ性は、この時点でとりあえず評価しても間違いではないだろう」(石上三登志氏)
「統一前後のドイツを舞台に、人命を玩ぶ残虐な天才少年と、彼を追う日本人医師。ナチの残党が、子どもたちに行った人体実験の謎をめぐる、スケールの大きなサスペンス。医のモラルを問う、ヒューマンドラマでもある。深刻なテーマをエンタティンメントとして見せ切る作者の力量を買う」(村上知彦氏)
『薫の秘話』
「恐るべきブラックユーモア、恐るべき教養」(関川夏央氏)
『きらきらひかる』
「関西を舞台に、新米女性監査医の奮闘を描いたこの作品は独特の人情味と毎回、よく考えられた推理ネタで楽しませてくれる。クセのある絵柄がとっつきにくいが、この絵柄が、関西弁にマッチし、個性のある世界観をつくりあげている」(印口崇氏)
『金田一少年の事件簿』
「この作品も、推理マンガという新しいジャンルのパイオニアだったという点に於いて、この賞にふさわしいと思う。マンガというメディアを使って、推理ものを面白い作品にするという試みは、今まで、多くの作家によって、何度も試みられていたと思われるが、この作品の出現まで、成功したものはなかったと思う。テレビドラマ化と相成って、異常な人気があるが、それは、決してこの作品の価値をおとしめていないと思う。地球規模の平和や幸せを描いている作品ではないが(事務局注:タケカワ氏の選考基準については『美味しんぼ』のコメントを参照してください)、登場人物が、人間愛に満ちているのは言うまでもない。その一点こそが、殺人という凶悪犯罪を扱うことを宿命としたこの作品に暖かさと、安心感を与えている」(タケカワユキヒデ氏)
『風雲児たち』
「関ヶ原から維新までの日本の歴史を、この上もないマンガの自在さを自由に操りながら語り継いでいく持久力には脱帽するしかない。細かな資料の使い方も興味深く、まさに、マンガでしか語りえない切り口を見せる。知的で、しかも様々な人間たちがからんでいく大河物は、手塚マンガの系譜に連なるものだ」(米沢嘉博氏)
『問題外論』
「底の浅いギャグばかりの時事漫画の中にあって、徹底して事件の主役たちをおちょくり、ディフォルメし、傷をえぐりだす手腕は、まさにマンガの王道を行っている。ここまでひどい描き方をしても、ちゃんとモデルがわかるのが凄い。この絵が汚い、などという評論家もいるが、漫画の本質をわかっていないだけである」(唐沢俊一氏)
『ルームメイツ』
「物語のうまさは出色。この作品では中高年の独身者群という今後の深刻な主題を、さわやかな筆致で先どりしている」(関川夏央氏)
『私たちは繁殖している』 「内田春菊さんは“性”を人間の生命の当然の基本としてとらえていて、それがこの作品の中でよく表れている気がします。又、女らしさと母親としてのあたたかさが作品をやわらかくしていて、子供をもたない私も楽しく読めました」(斎藤由貴氏)
『SEED』
「主人公森野は、雑草を愛し『自然に無駄なものは無い』と言い、世界各地へ出掛けて行き、自然を回復する仕事に精を出す。金と物を大きく動かすことだけが、全てに優先するような国際援助に対して、森野はネンド団子の中に保存した種で戦う。このヒューマニティあふれる人間像が素敵だ。自然との共生というテーマで、さまざまな視点から、しっかりした取材が行われている。作品テーマに絵柄もピッタリと合って、楽しめる作品にもなっている」(長谷邦夫氏)
『大平面の小さな罪』
「SFを題材にした日常ドラマを描ける数すくない作家。親しみやすい絵柄で、奇抜な設定をわかりやすくドラマに盛り込み、エンターテイメントな読み物として完成させている」(印口崇氏)
『ナニワ金融道』
「この作品は長く続いているが、バブルがはじけた後日本経済の底辺やウラを、今もなお独特な視点で紹介してくれている。住専問題、銀行倒産、政府高官の汚職問題などに時々触れながら青木さんのドラマが繰り広げられる。記号化されている絵も大変なオリジナリティを持っているし、ストーリーには文学性を感じさせる要素もたくさんある」(フレデリック・ショット氏)
『百鬼夜行抄』
「これは知る人ぞ知る『ネムキ』に連載されている作品で、まさに現代において妖怪ものをやるのであればこうだというひとつの答であると思います。生きいきとした妖物たちがすばらしいと思います。絵も上手でていねいです」(夢枕獏氏)
『ぼくんち』 「母親が男と家出しながらも、たくましく生きる一太と二太の兄弟。浮浪者、酔っ払い、ちんぴら、売春婦ら、兄弟をとり巻く人々が身をもって語る厳しく優しい人生哲学は、西原理恵子が人間に注ぐ目の曇りのなさを示している」(村上知彦氏)
『あじさいの唄』
「早くに母をなくした浪人の子と父と犬の物語。ごくありきたりの舞台でよくあるテーマが展開するだけなのだが人の生の心地良さを見せてくれる。特別なテーマや複雑なシナリオ、目をみはるようなキャラクターがなくてもこれだけの味わいある作品が描けるとは驚きである。作者の才能と言ってしまえばそれまでだが、無垢な魂をわかりやすく簡潔にまとめダイレクトに読者の魂にうったえる力は、なかなかのものである」(古川益蔵氏)
『行け!稲中卓球部』
「ギャグ系の優れた新人が出なくなって久しいが、古谷は、やっと出てきたストーリーギャグの可能性だ。バイタリティとその観念の遊びは並外れている。しかもそれは偶然ではなく、古谷の冷静な計算の上で、表現されている」(いしかわじゅん氏)
『Water』 「まだ、この一作しか出ていない人ですが、平易なシチュエーションでも独特の絵とことばで進めていくやり方がとても素敵でした。現代的で、乾いた感じがします。マンガ家というより詩人、というふうに思えました」(斎藤由貴氏)
『風の大地』
「ルーティンに沈みかけたベテランを、ここまで清新に生まれ変わらせた作品の力は凄い。坂田の手柄でもかざまの力でもあるが、この作品自体の力がそうさせたといってもいいと思う。気持ちと技術がうまく噛み合った幸福な例だ」(いしかわじゅん氏)
『銀と金』
「野望に燃える青年を描きながら、その裏にヒューマンなものが感じられる。現在ドラマが作りにくくなっていると言われるけれど、青年の心を動かすドラマはまだ作りうることを実証している。描線は劇画調ではなく、正統なマンガ調であることも興味深い」(呉智英氏)
『クレヨンしんちゃん』
「サザエさんにかわる国民的人気マンガになった感のあるこの作品は、沈滞のひさしかった子供マンガに活気を与え、現代の理想的子供像を描き出した。しんちゃんを嫌う子供はいるまい。もっとも、母親を呼び捨てにするなど、おぎょうぎの面で問題視する人もいるだろうな」(唐沢俊一氏)
『凍りついた瞳』
「幼児虐待の現実をケースワークとして描いていくドキュメンタリーマンガとして、虚構のサイコミステリ以上の不気味な恐さを見せつける。また、問題意識を持って取り組んだ、社会派物として、マンガの一つの方法論を再認識させたし、女性の目をきちんとすえているところも作品に奥行きをもたせた」(米沢嘉博氏)
『こんな女じゃ勃たねえよ』
「露悪的タイトルだが、作者のキャラクター造形のテクニックには他者の追随を許さないものがあり、主人公デビィは徹底した小人物の悪党でありながら、存在感にあふれた憎めない人物に描かれている。これは、作者の人間を観察する目と、その本質をとらえる感性の天才性によるものだろう。マスコミ等での多彩な活躍にも、手塚治虫に通ずるものがある」(唐沢俊一氏)
『重役秘書リナ』
「ごく普通の女の子が秘書になり、その上役につかえるという人間関係を通して、人の本当のやさしさ、心使いというものをさりげなく、時にドラマチックに描き出している。“ごく普通の女の子”と書いたが、格別な才能は持たないがういういしい感性と細やかな気遣い、それに意外な大胆さを持つこの女性は、いちずな程に上役に仕えるが、その関係が上役と部下、封建的な男と女という風なものではなく、素直なサラリとした関係で実にすがすがしい作品に仕立てられている」(古川益蔵氏)
『虹色のトロツキー』
「雄大な構想力。しかし、もっと長編であるべきだった」(関川夏央氏) 『編集王』 「漫画は単なる『読まれる』ものだけではなく、『作られる』ものでもあるし、『創る』のは漫画家だけではなく、編集者でもある。土田さんの『編集王』はその作られるプロセスをいつも面白く紹介してくれている。ドラマ性もあれば、ユーモアもある」(フレデリック・ショット氏)
『無限の住人』
「最近時代物が少なくなっているような気もするが、この作品はとても現代風な時代物ともいえる。漫画としては殆ど『ウマすぎる』ほどの絵だけれど、ストーリーにはドラマ性だけではなく、ブラックユーモアもあって、作者の遊び心を感じさせてくれる」(フレデリック・ショット氏)
『ラヴァーズ・キス』
「『ラヴァーズキス』は『女の子なんか欲しくなかったのに』といういわれの無い非難に苦しむ少女の話を、『娯楽作品』に仕上げた上で連発することで、少女達からの支持を集め続けている吉田秋生の96年度の単行本である。長編連載の合間に発表された掌編のため、5点満点を付けるには躊躇があった」(荷宮和子氏)
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