地方の郷土料理を手軽に味わえるのが、駅弁のいいところ。滋賀県の駅弁といえば、最初に挙がるのが近江牛のすき焼きや焼肉のお弁当。でも、それだけではありません。歴史ある滋賀ならではの、ワクワクするとっておきのお弁当を紹介します!
隠れた人気の「忍者弁当」
滋賀県南部・草津市に位置するJR草津駅は、京都や大阪、岐阜に繋がるJR琵琶湖線と、滋賀県南東部から三重県へ繋がるJR草津線が走る、県下の主要ターミナル。同駅の改札を出たところに、駅弁を販売する明治22年創業の「南洋軒」があります。
同店で販売しているいくつかの商品のうち、今回紹介するのは「忍者弁当」。2017年にJR草津線でスタートした、忍者をデザインしたラッピング電車「SHINOBI-TRAIN」の運行を記念して誕生した商品です。
忍者弁当は、忍者を連想させる手裏剣型のおにぎりと「忍」の焼き印がついた卵焼き、海老を使った郷土料理「海老豆」などを詰め合わせた幕の内。竹の皮に似せた容器とかわいい忍者のパッケージが、シンプルな献立によく似合っています。
もっちもちのおにぎりが最高!
おかずは卵焼きや海老豆のほか、焼き鮭に、がんもどきやこんにゃく煮、人参煮、そしてデザートの「うばがもち」の7種。塩加減が絶妙な焼き鮭のほか、がんもどきやこんにゃく煮、人参煮は出汁がきいていて、ほっとする味わいです。忍の焼き印が目印の卵焼きはちょっと甘めの味付けがたまりません! また甘く煮た豆と、噛むほどにじわっと旨みが増す香ばしい海老のコンビ・海老豆は、ごはんだけでなく、うま口の地酒が欲しくなります。
そして、あまりの美味しさに驚いたのが弁当のメイン・手裏剣型のおにぎり。
一口食べると、もちもちっとしたねばりともち米のような弾力、優しい塩加減と甘み、海苔の風味が口いっぱいに広がります。中に具材は入っていないので、まさにシンプル・イズ・ベスト。素朴だからこそ、湖国の米の味わいがダイレクトに伝わってきました。
おにぎりは白ごはんに海苔を巻いたタイプと、白ごはんの上に梅干しをたたいて載せ、海苔を巻いた2種。おかずを一口、おにぎりを一口…と交互に食べたくなるほど、おかずとごはんのバランスが整っています。
もう一つの名物・草津の「うばがもち」って?
忍者弁当に入っているデザート「うばがもち」も、歴史ある草津の名物です。
この餅が作られたのは、今から約450年前の永禄12年。織田信長が今川義元を倒し、天下に名をとどろかせた戦国時代まで遡ります。
織田信長に滅ぼされた近江源氏・佐々木義賢(ささきよしたか)は、3歳のひ孫を乳母の「福井との」に託します。餅を作り、売ったお金で幼子を必死に育てる乳母の誠実さが知れ渡り、いつしかその餅は「うばがもち」と呼ばれるようになりました。
草津は当時から近江随一の宿場町として栄えていたため、餅の評判は瞬く間に広がり、絵師の歌川広重や葛飾北斎がこぞって浮世絵の題材に取り上げ、徳川家康や俳人の与謝蕪村もこの餅を求めたのだとか。
それは、滑らかな舌触りの滋賀県産の羽二重もち米を、甘さひかえめに炊き上げた北海道産小豆のこしあんで包んだ素朴な味。創業当時から変わらない美味しさです。
なぜ滋賀で「SHINOBI-TRAIN」が走り、「忍者弁当」が生まれたのか
滋賀と忍者の関係について、歴史好きの読者ならピンと来たかもしれません。実は、三重県の伊賀と双璧をなす忍者の里が、滋賀県の南東部・甲賀(こうか)市にもあります。
実在したのか伝説の人物なのかは諸説ありますが、甲賀忍者の有名人といえば猿飛佐助。彼をはじめとする甲賀流忍者が、豊臣秀吉や織田信長、徳川家康などを主君とし、持ち前の薬の知恵を武器に、諜報部隊として戦国の世を駆け抜けました。
JR草津線は、途中この甲賀市内の5つの駅を経由して三重県の伊賀市と滋賀県の草津市を結びます。つまりJR草津線が忍者の里にゆかりのある路線だから、「SHINOBI-TRAIN」を運行しているというわけです。
ちなみに甲賀市に製薬会社が多い理由は、薬の扱いに長けていた甲賀忍者の知恵が活かされていると言われています。
忍者の面影を感じに、草津へGO!
さて、草津駅で購入した忍者弁当は、駅の改札を抜け、左側へ進むと見える広場でどうぞ。時間があるなら、「SHINOBI-TRAIN」に乗って駅弁を食べたり、JR甲賀駅の忍者トリックアートを楽しむのも乙ですよ。
なお、忍者弁当は週末のみの販売。午前中で売り切れることもあるのでご注意を。ただし、電話で予約をすれば平日でも入手可能です。
近江で活躍した忍者に思いを馳せながら、老舗のお弁当屋さんが作る、心なごむ駅弁を味わってみませんか?
南洋軒
住所:滋賀県草津市渋川1-1 JR草津駅改札外
TEL:077-564-4649
定休日:なし
営業時間:8:30~17:00
URL:http://www.nanyouken.co.jp/bento/1102/
撮影・取材・文/中河桃子
編集・ライター、京都出身滋賀育ち。大学在学中に京都でライター業を開始、グルメ・エンタメ・街・旅情報を中心に18年以上携わる。今は酒蔵巡り・和菓子作り・美術鑑賞・旅にハマり中。
編集/くらしさ