祝日
やっほーい!
おめでとう太一!!!
大好き太一!!!
めでたい。そして久方ぶりにSS書ききれてテンションも上がっております。
まだまだ大好きでございます太一。もうこれ一生好きだな。関白宣言!!!
テンションが高いのでございます。
まるで休止中なのに拍手ありがとうございましたです!
嬉しかったでございます!
ありがとうございます!
誕生日SSはなんかいろいろ捏造&妄想満載で、久しぶりに書いたらなんじゃこの恥さらし的趣味はって驚愕したんだけどまぁいいや!お話は東京戻ってから少し経った頃の二人です。オリジナルキャラも出てきます。
末永く幸せに。
崖の上でも下でも一緒なら幸せだろうけど、音楽もあきらめない道のほうがやっぱりたくさん笑えるから誕生日はそっちで!
おめでとう太一!!!
大好き太一!!!
めでたい。そして久方ぶりにSS書ききれてテンションも上がっております。
まだまだ大好きでございます太一。もうこれ一生好きだな。関白宣言!!!
テンションが高いのでございます。
まるで休止中なのに拍手ありがとうございましたです!
嬉しかったでございます!
ありがとうございます!
誕生日SSはなんかいろいろ捏造&妄想満載で、久しぶりに書いたらなんじゃこの恥さらし的趣味はって驚愕したんだけどまぁいいや!お話は東京戻ってから少し経った頃の二人です。オリジナルキャラも出てきます。
末永く幸せに。
崖の上でも下でも一緒なら幸せだろうけど、音楽もあきらめない道のほうがやっぱりたくさん笑えるから誕生日はそっちで!
スポンサーサイト
hometown
※オリジナルのキャラ等捏造があります。
季節外れの大型連休を迎えた街から予想以上に人は減り、車は首都高沿いの道を渋滞もなく進んでいく。
騒がしかったFMラジオはいつの間にかミリオンレイのアルバムに切り替えられていて、まだ若いリドリーの歌声が、静かなエンジン音に重なっていた。
信号待ちで、隣の太一を確認する。
革のシートにもたれて、街灯に照らされる街を見つめる横顔。流れる曲が懐かしくて、それを伝えようとした唇を克哉は閉じた。
太一が深く考えごとをするときの、動かない視線と組んだ腕がそのままだったから。
どうかしたの?
直ぐに訊けないのは何年経っても踏み込めない部分があるせいで、それは少し寂しいことのような気もする。けれど不揃いのパーツで組み上げたパズルを、今さら台無しには出来ない。バランスを変えたらきっと簡単に壊れてしまう。
cant find a good reason
アメリカで、ノブさんと大喧嘩して、バンド辞めるって啖呵を切ってしまった日にも、太一がリビングで聴いていた曲だ。
あの時は、どうしたんだっけ。
歩行者信号の点滅を見つめながら、数年前、同じように逡巡していた夜を思い返した。
普段と様子の違う太一に気付きながら、問いただすことなんてできなかった。そっと様子を伺って、もやもやしたまま何日か過ごして結局、ノブさんからの電話で事情を教えてもらったのだった。
「バンド、辞めちゃうのか?」
勇気を出して尋ねたら、腕を掴まれベッドに押し倒された。荒っぽく抱いた末にやっと太一は自分の言葉で語りだし、「明日謝りに行くから」と、既に出した結論を述べた。そう聞いて少しはほっとしたけれど、何の助けにもならない自分が悲しかったし、それ以上に「心配かけてごめんね」と謝る太一の声が切なくて、いっそ気付かぬ振りを貫き通せばよかったと思った。いいやそれより、心配なんていくらかけてくれたっていいのだと、あの時強く言えばよかったのだろうか。あの夜、どんな些細な不安も恐れも共有したいと、素直に言えていたなら、今頃何かが違っていたのだろうか。
cant find a good reason
信号が青になって、静かに滑り出した車内のBGMはまだ変わらない。
「懐かしいね」
呟いてみた克哉の声に気付いて、太一はオーディオディスプレイの画面に視線を落とした。だけど曖昧に頷いただけ。
何かを喋らせたくなって、「秋野さんとはどうだった?」
仕事の話を持ち出した。
「んー・・・、よかったよー。こだわるけど、やっぱ、基本はすげー優しい人だから」
口調はいつもと同じに、でも少し言葉を選んだように太一は応えた。けれど窓の向こうに視線を移し、それ以上会話をつづけようとはしない。
「そう」
頷きながら、克哉は音楽上のことかなぁと思う。だけど例えば今日の現場で何か腹立たしいことがあったりしたなら、太一は一番に教えてくれるはずだ(というか文句を言う)。今日会った他のメンバーにも、変わったところは一切なかった。
だったらやはり、家のことだろうか。
そう考えただけで嘆息してしまう。
横目で様子を伺うと、太一は腕組みしたまま下向いて目を閉じていた。
とりあえずはそうっとしておこうと決めるのに、10分もするとやっぱり気になって、どうにかしたくなるけれど、効果的な策は見つけられない。
「あ、昨日新しいプリン出てたよ。ローソンに寄っていく?」
とってつけたような問いかけに、太一は顔を上げてほんの一瞬克哉を見つめた。
揺れる瞳に過ぎる克哉の期待は、だけど直後に裏切られる。
「マジで?寄る寄る―」
太一は乗っかった素振りで頷き、克哉は左ウィンカーをあげながら、不甲斐ない自分に失望した。
祝日のせいか深夜のせいか分からないけれどデザートの陳列棚は殆ど空で、目当てのプリンが無かったことを克哉さんは三度も謝った。ハロウィン仕様の、かぼちゃのプリンだったって。別の店に寄ってみる?なんて、夜中なのにそんな提案、普段ならこっちからしたって却下するのに。
「いいよ。ハーゲンダッツにする。マロングラッセ味とか出てたじゃん」
困り顔でデザートコーナーを離れない克哉さんを見ながら思う。
出来ることなら、何ひとつ心配させずにいたい。困った顔なんてさせたくない。
克哉さんを不安にさせたり、悲しませたり、怯えさせたりしたくない。オレといてよかったって、いつも思っていてほしい。
「克哉さんバニラでいい?」
「え、オレも太一と同じのにする」
会計の時も何かを確かめるように、入り口で待つオレを見た。アイス二つだけの買い物袋を差し出して、「マロングラッセってどんなのだっけ」って、さして興味も無さそうな質問。
「栗のケーキじゃない?まぁ、結局はマロン味じゃんねー」
オレが笑ったら、分かりやすく安堵する。さっきからずっとそう。
だから話そうと思う。別に秘密じゃない。お互いにきっと秘密なんてない。ただ、長い間発露されなかった鈍色の感情が、胸の底のほうに沈んでいるだけ。
「今回の仕事、降りようと思ってるんだ」
風呂上がり、テーブルの上にはマロングラッセのアイスとシルバーのスプーン。きれいに並べられたそれが幸せの象徴みたいに感じられて、やけに嬉しかった。
「え?秋野さんのチャリティー?」
「うん」
「どうして?」
克哉さんはちょっと驚いた顔をして、だけど冷静にソファに座ったまま訊いた。オレはカーペットに腰を下ろし、二枚のアイスの蓋を順番に剥した。
「なんつーかさ、やっぱチャリティーはガラじゃないないって感じがすんの。オレ抜けて、他のメンバーの個人名で参加ってもオッケーくれそうだからそうしてよ。あ、せっかく声かけてもらったのに申し訳ないとは思ってるし、克哉さんにもホント、凄い迷惑かけると思うんだけどさ」
「オレのことはいいよ、でも・・・」
アイスを食べるオレを、克哉さんはじっと見つめて真意を探る。けれどそんな大袈裟なことじゃない。
「ごめんね、心配かけて」
「え?ううん、でも、もう少し詳しく理由を教えてくれよ。秋野さんと合わなかったのか?」
「いや、それはない。マジでいい人だったし、やっぱ才能あるしさ」
数年に一度懇意のアーティストを集めてカバーアルバムを作成し、その収益を児童養護施設に寄付する活動を続けてきた人だ。親と変わらぬ年代ながら、瞳の奥の純真さを失わないその人に会った時、ひどく後ろめたいような気になったのがそもそもの始まりだった。
「オレね、ガキの頃友達がひとり居てさ」
「え?」
「星野って名前で、だからホッシーって呼んでたの」
十数年ぶりにあだ名を口にした途端、込み上げる懐かしさに驚いた。自分が思うよりずっと、大切だったのかもしれない。忘れたふりをしてきただけで、頭の隅にはずっとあった名前。
「今回の仕事を降りたい理由と、関係あるのか?」
まぁねって頷いたら、克哉さんは背筋を伸ばした。聞く体勢になったよって、オレに教えるみたいに。
「小学校6年の時、GW過ぎたあたりで転校してきたんだ。親が再婚するってことで引っ越して来たんだけど、母親はホッシーとアパート借りて暮らしてて、男の家に通うみたいな生活してたんだよね。まぁ、あんまり恵まれた境遇じゃない感じ。そういうのオレぱっと見てなんとなく分かるし、多分向こうもこいつ学校で浮いてんなって分かったんじゃないかな。何か、仲良くなってさ、放課後毎日そのアパートに遊びに行くようになったんだ」
質素な部屋に流行りのゲーム機はなく、代わりに母親の前の男が置いていったという洋楽のCDアルバムが大量にあった。ポータブルのCDプレーヤーにイヤホンを繋いで聞くのがホッシーの一人遊びで、世界とダンゼツされるのがいい、とのたまう彼を、憐れに思う気持ちはその頃微塵もなかった。
「ホッシー君と気が合ったの?」
「うーん、何か一歩引いてるんだけど、時々言うことが面白いっていうか」
律儀に君付けする克哉さんが愛おしかった。傍に行きたくて、ソファの隣に移動したオレの腕に、克哉さんの左腕が触れる。
「お母さんも?」
「いい人だったよ。少なくともオレには。夜は結構いなかったけどホッシーも普通に慕ってた。普通っていうかそれ以上だったって、今となっては思うよね」
溶けかけのアイスを食べる。十数年前、100円のアイスを二人で分け合った遠い夏を思い返しながら。
友達と海水浴も花火大会も盆踊りも、行ったことがなかった。幼い頃は大人か姉に連れられて、それが嫌になった頃にはひとりきりでいたから、同年代の彼と自転車に二人乗りして、ただ街を走り回るだけで嬉しかった。一日中騒いで、笑って、海からの坂道を登りきってモルタルのアパートに帰ると、寝起きの母親と温いスイカが待っていた。その種を三人交互に吹き飛ばしあって、ムキになってした初めてのケンカの仲裁は、母親が玄関先まで飛ばした新記録だったっけ。
「太一?」
「うん?」
「大丈夫?」
笑って頷いたのに克哉さんは困った顔をする。
「ほんとう?」
確かめるように頬に触れ、まだ湿った前髪を指で選り分けた。
キスして欲しいと思う。
そのまま優しくキスしてくれたら、この胸の澱みが掬われる気がする。
「ごめん、続けて」
だけど克哉さんは首を振ってそう呟いた。心臓の鼓動がはやい。曝け出すのは怖い。弱さや汚さを打ち明けて、今さら救われたいなんて言えば他人はきっと笑うから。
「夏が過ぎて、秋になったら籍入れたらしくホッシーの名字が変わってさ、でも相変わらず父親には会ったことなかった。どんな奴かも知らなかった。クリスマスもアパートで母親と三人でケーキ食べて、あだ名も変え時だって笑ってた。だけど、年末の、28日だったかな、親が逮捕されたんだ」
「えっ、ふたりとも?」
「うん。未成年使ってさ、売春のあっせんするのが男の仕事だったわけ。母親もこっち来てから手伝ってて、踏み込まれた現場にいたから言い逃れもできなかったと思う」
「そんな」
「滅茶苦茶だよね。今思えば滅茶苦茶なんだけど、その時は全然そう思わなかった。オレやっぱ常識とかなかったし、ホッシーのこともネジの緩んだかーちゃんのことも、多分、すごい好きだったから」
克哉さんは、聞きながら両腕でオレのことを抱きしめてくれた。大好きな匂いのする首筋に顏を埋めると、もっと甘えてしまいたくなる。短く息を吸い込んだ。抱き返す腕に、ほんの少し力を込める。
「旦那がね、オレのとこの、傘下の組員だったの」
優しい掌が、12歳のオレを励まそうとするように、背中を強く撫であげた。
「知ってる人だったの?」
ニュース映像で見た、ふたりの顔写真を思い出す。母親のほうはもう曖昧なのに、モノクロの男の顏写真だけはくっきりと脳裏に浮かび上がってくる。覇気のない瞳と無精髭。重なる名前の上に、鉄友会の白いテロップ。
「知らないよ。会ったことも無い」
慎重に言葉を選ぶ克哉さんが数秒の間を開ける。
「どっちにしても、太一は関係ないだろ」
本当に、関係なかったらよかった。だったら直ぐにあのアパートに駆けつけられた。
「けどオレがあいつ乗せた自転車だって、元を辿ればその金だったんだよ」
強い口調になったら、克哉さんが短く息を吐いて頬のあたりが温まった。
「太一は全然悪くないよ」
穏やかで、優しい声。肩から背中のラインに沿って動く掌。ただこうやって、慰められたかっただけなのかもしれない。ただこの人に、肯定されたかっただけかもしれない。
「でも充分だったの」
耳に、克哉さんの鼻先が当たる。広い部屋の大きなソファの上、滑稽なくらい丸く小さく抱き合って、ひたすらに優しい恋人は見えない傷痕を塞ごうとする。
「太一、泣いてるの?」
「まさか、やめてよ」
顔を上げて、群青色の瞳を見つめた。そっちのほうが涙目で、笑おうとしたのにうまくできなかった。
唇が、自然と重なりあう。同時に閉じた瞼の裏側には、忘れえぬ情景が浮かび上がってくる。
長野の児童養護施設に行く日、アパートの錆びた階段に座っていたオレを見つけたホッシーは、肩口に鮮やかな夕陽を背負っていた。知らない大人に手を引かれて階段を三段降りた時、立ち上がったオレに向かって、
「たいっちゃん、また来てたのぉー」
母親の真似をしながら、いつもみたいにふざけて笑った。
後にも先にも、そんなダサいあだ名で呼んだのはホッシーとその母親だけだ。
あの町で壊れた、ふたりきりの家族だけ。
もどかしいくらい丁寧に、優しく、身体の隅々までを愛撫されて長い時間抱かれた。繋がっている間、零れた涙を受け止めた同じ唇で、太一は何度も「好き」と囁いた。その度に、克哉は太一の頭や背に腕をまわしてその裸体を引き寄せた。
出来ることなら、12歳の彼を直接この手で抱き締めたかったと思う。ただ隣に座っていることでも出来たなら、小さな胸に抱えた孤独は量れなくても、きっと少しの慰めにはなれた。
「何考えてるの?」
かつての少年は、腿まで足を絡めながら不満げにそう尋ねる。うらはらに揺れる瞳で。
「太一のことだよ」
柔らかな髪を撫でると、太一は安堵したように笑って首を振った。
「オレは大丈夫だよ」
強がりではないのだろう。ただ少しセンチメンタルになっただけ。ただ少し、昔を思い出しただけ。
「克哉さんがそんなにオレのこと考えてくれるなら、たまにはテンション下げてみるのもいいかもねー」
いたずらな笑みで言って、太一が首筋に指を這わせる。
「なんだよそれ」
「だって、超思われてる感じがするじゃん」
半分冗談で、半分本気みたいな琥珀の瞳。何て答えたらいいか分からなくて、照れ隠しに克哉は太一の額を指ではじいた。
いってーと大袈裟に言ってから、「けど、ほんと。話してよかった」と声のトーンを落とした。
「うん、ありがとう」
克哉も素直に言葉を返したら、太一は少しの間黙り込む。それから、「忘れたって決めてもダメなんだよね」と呟いた。
「忘れなくても、いいと思うよ」
言いながらシーツを引き寄せ、太一の肩まで覆ってあげる。
「チャリティーとか、そんな資格、オレにあるのかなって考えはじめたら止まんなくなったの。ホッシーも、地元の奴も、どう思うのかなって。すっげーダサいけど、なんかね、怖くなっちゃった」
資格なんて要らないし、もしも必要なのだとしても、太一の手にだってそれはあると思う。幼い頃別れた友達もきっと、太一が家業を継がずにバンドマンになったことを是認してくれるはずだ。
けれど克哉はもう一度頷いてから、「いいよ。秋野さんにはオレから伝える」と優しく言った。
太一はちょっと驚いた顔をする。まだ迷う気持ちがあるのだろう。説得してもいいけれど、克哉は少し待とうと決めた。今回のタイミングは逃すかもしれない。けれどこの先にも機会は待っているはずだから、作戦を立てよう。太一が自身の持つ資格とやらに気付くように。何の憂いもなく、気負いもなく、ただ他人を助けるためのギターを弾ける日が来るように。
「なぁ、来月の誕生日、ニューヨークに行かないか?」
突然の提案に、太一は目を丸くした。それから、急に早口になる。
「え?何言ってんの?オレもう旅館とったって言ったじゃん。え、言ったよね?露天風呂付き個室。離れの特別室。つーか23日は部屋から出ないってふたりで決めたよね?」
決めた覚えはないけれど、克哉は一応ごめんと謝ってから、でも、と続ける。
「メールが来てるんだ。ジェシカやケン君やライブハウスのオーナーからも」
「だから何よ」
「皆日本でバンドがうまくいってることすごく喜んでくれてるんだよ。アメリカに帰ってこないんじゃないかって、オーナーなんか心配してるくらい。だから一度、皆に報告に行きたいなって思ってたんだ」
「メールでいいでしょ。つーかそれ今度でいいでしょ」
「じゃあ、年末?」
「いや克哉さんの誕生日はオレ計画練ってんの!マジアメリカとかじゃないから。勘弁して」
「じゃあやっぱ来月。決めた。太一の誕生日なんだから、オレが決める番だろ?」
太一は呆れた表情になって克哉の顏を見上げた。それから、少しの沈黙。素早い計算。
「じゃあ・・・、別日に休みとってよ。温泉」
克哉がどうやら本気らしいと気が付いたので、交換条件を出してきたのだ。
「いいよ」
簡単に飲んだ克哉を、太一はついに怪訝な表情になって見つめた。
「なんでそんな急にアメリカ行きたくなったの?」
自分が行きたいというより、太一を連れて行きたくなったのだ。今、このタイミングで。待っている人がいることを知ってほしいと思った。太一の成功を心から喜んでくれる人たちがいること。生まれ故郷ではないけれど、三年の間に太一が作ったふるさととも呼べる場所。
「だって、きっと楽しいよ。皆喜んでくれるし、太一だって会いたいだろ?」
「オレは克哉さんと浴衣でエッチしてたいですけどー」
とはいえ諦めたみたいで、太一はシーツの中の手を克哉の下腹部に這わせてきた。恥骨をなぞり、指先が陰毛に触れる。陰茎を掴まれると腰が隠しようもなく揺れて、あんなに長い時間したばかりなのに、今日は眠りたくないって思ってしまう。
「裸のほうがいいよ」
「何それ、大胆」
「え・・・、だって・・・」
克哉が口籠ると、太一が嬉しそうにふふっと笑う。
からかうようなキスをされれば、愛しさが唇から溢れて直接、彼に伝わっていくような気がした。
「ねぇ・・・、そうだ、太一、住んでた部屋にも行ってみようよ」
「ん・・・、まだ、空いてんのかな」
「どうだろう。なんか懐かしいね。オレすごく楽しみになってきちゃったよ」
「うん、もう・・・、はい。分かったからこっちに集中してねー」
焦れた太一を、だけどもっと幸せにしたい。だから11月23日は、ふたりのホームタウンに帰ろうよ。
Happy Birthday
季節外れの大型連休を迎えた街から予想以上に人は減り、車は首都高沿いの道を渋滞もなく進んでいく。
騒がしかったFMラジオはいつの間にかミリオンレイのアルバムに切り替えられていて、まだ若いリドリーの歌声が、静かなエンジン音に重なっていた。
信号待ちで、隣の太一を確認する。
革のシートにもたれて、街灯に照らされる街を見つめる横顔。流れる曲が懐かしくて、それを伝えようとした唇を克哉は閉じた。
太一が深く考えごとをするときの、動かない視線と組んだ腕がそのままだったから。
どうかしたの?
直ぐに訊けないのは何年経っても踏み込めない部分があるせいで、それは少し寂しいことのような気もする。けれど不揃いのパーツで組み上げたパズルを、今さら台無しには出来ない。バランスを変えたらきっと簡単に壊れてしまう。
cant find a good reason
アメリカで、ノブさんと大喧嘩して、バンド辞めるって啖呵を切ってしまった日にも、太一がリビングで聴いていた曲だ。
あの時は、どうしたんだっけ。
歩行者信号の点滅を見つめながら、数年前、同じように逡巡していた夜を思い返した。
普段と様子の違う太一に気付きながら、問いただすことなんてできなかった。そっと様子を伺って、もやもやしたまま何日か過ごして結局、ノブさんからの電話で事情を教えてもらったのだった。
「バンド、辞めちゃうのか?」
勇気を出して尋ねたら、腕を掴まれベッドに押し倒された。荒っぽく抱いた末にやっと太一は自分の言葉で語りだし、「明日謝りに行くから」と、既に出した結論を述べた。そう聞いて少しはほっとしたけれど、何の助けにもならない自分が悲しかったし、それ以上に「心配かけてごめんね」と謝る太一の声が切なくて、いっそ気付かぬ振りを貫き通せばよかったと思った。いいやそれより、心配なんていくらかけてくれたっていいのだと、あの時強く言えばよかったのだろうか。あの夜、どんな些細な不安も恐れも共有したいと、素直に言えていたなら、今頃何かが違っていたのだろうか。
cant find a good reason
信号が青になって、静かに滑り出した車内のBGMはまだ変わらない。
「懐かしいね」
呟いてみた克哉の声に気付いて、太一はオーディオディスプレイの画面に視線を落とした。だけど曖昧に頷いただけ。
何かを喋らせたくなって、「秋野さんとはどうだった?」
仕事の話を持ち出した。
「んー・・・、よかったよー。こだわるけど、やっぱ、基本はすげー優しい人だから」
口調はいつもと同じに、でも少し言葉を選んだように太一は応えた。けれど窓の向こうに視線を移し、それ以上会話をつづけようとはしない。
「そう」
頷きながら、克哉は音楽上のことかなぁと思う。だけど例えば今日の現場で何か腹立たしいことがあったりしたなら、太一は一番に教えてくれるはずだ(というか文句を言う)。今日会った他のメンバーにも、変わったところは一切なかった。
だったらやはり、家のことだろうか。
そう考えただけで嘆息してしまう。
横目で様子を伺うと、太一は腕組みしたまま下向いて目を閉じていた。
とりあえずはそうっとしておこうと決めるのに、10分もするとやっぱり気になって、どうにかしたくなるけれど、効果的な策は見つけられない。
「あ、昨日新しいプリン出てたよ。ローソンに寄っていく?」
とってつけたような問いかけに、太一は顔を上げてほんの一瞬克哉を見つめた。
揺れる瞳に過ぎる克哉の期待は、だけど直後に裏切られる。
「マジで?寄る寄る―」
太一は乗っかった素振りで頷き、克哉は左ウィンカーをあげながら、不甲斐ない自分に失望した。
祝日のせいか深夜のせいか分からないけれどデザートの陳列棚は殆ど空で、目当てのプリンが無かったことを克哉さんは三度も謝った。ハロウィン仕様の、かぼちゃのプリンだったって。別の店に寄ってみる?なんて、夜中なのにそんな提案、普段ならこっちからしたって却下するのに。
「いいよ。ハーゲンダッツにする。マロングラッセ味とか出てたじゃん」
困り顔でデザートコーナーを離れない克哉さんを見ながら思う。
出来ることなら、何ひとつ心配させずにいたい。困った顔なんてさせたくない。
克哉さんを不安にさせたり、悲しませたり、怯えさせたりしたくない。オレといてよかったって、いつも思っていてほしい。
「克哉さんバニラでいい?」
「え、オレも太一と同じのにする」
会計の時も何かを確かめるように、入り口で待つオレを見た。アイス二つだけの買い物袋を差し出して、「マロングラッセってどんなのだっけ」って、さして興味も無さそうな質問。
「栗のケーキじゃない?まぁ、結局はマロン味じゃんねー」
オレが笑ったら、分かりやすく安堵する。さっきからずっとそう。
だから話そうと思う。別に秘密じゃない。お互いにきっと秘密なんてない。ただ、長い間発露されなかった鈍色の感情が、胸の底のほうに沈んでいるだけ。
「今回の仕事、降りようと思ってるんだ」
風呂上がり、テーブルの上にはマロングラッセのアイスとシルバーのスプーン。きれいに並べられたそれが幸せの象徴みたいに感じられて、やけに嬉しかった。
「え?秋野さんのチャリティー?」
「うん」
「どうして?」
克哉さんはちょっと驚いた顔をして、だけど冷静にソファに座ったまま訊いた。オレはカーペットに腰を下ろし、二枚のアイスの蓋を順番に剥した。
「なんつーかさ、やっぱチャリティーはガラじゃないないって感じがすんの。オレ抜けて、他のメンバーの個人名で参加ってもオッケーくれそうだからそうしてよ。あ、せっかく声かけてもらったのに申し訳ないとは思ってるし、克哉さんにもホント、凄い迷惑かけると思うんだけどさ」
「オレのことはいいよ、でも・・・」
アイスを食べるオレを、克哉さんはじっと見つめて真意を探る。けれどそんな大袈裟なことじゃない。
「ごめんね、心配かけて」
「え?ううん、でも、もう少し詳しく理由を教えてくれよ。秋野さんと合わなかったのか?」
「いや、それはない。マジでいい人だったし、やっぱ才能あるしさ」
数年に一度懇意のアーティストを集めてカバーアルバムを作成し、その収益を児童養護施設に寄付する活動を続けてきた人だ。親と変わらぬ年代ながら、瞳の奥の純真さを失わないその人に会った時、ひどく後ろめたいような気になったのがそもそもの始まりだった。
「オレね、ガキの頃友達がひとり居てさ」
「え?」
「星野って名前で、だからホッシーって呼んでたの」
十数年ぶりにあだ名を口にした途端、込み上げる懐かしさに驚いた。自分が思うよりずっと、大切だったのかもしれない。忘れたふりをしてきただけで、頭の隅にはずっとあった名前。
「今回の仕事を降りたい理由と、関係あるのか?」
まぁねって頷いたら、克哉さんは背筋を伸ばした。聞く体勢になったよって、オレに教えるみたいに。
「小学校6年の時、GW過ぎたあたりで転校してきたんだ。親が再婚するってことで引っ越して来たんだけど、母親はホッシーとアパート借りて暮らしてて、男の家に通うみたいな生活してたんだよね。まぁ、あんまり恵まれた境遇じゃない感じ。そういうのオレぱっと見てなんとなく分かるし、多分向こうもこいつ学校で浮いてんなって分かったんじゃないかな。何か、仲良くなってさ、放課後毎日そのアパートに遊びに行くようになったんだ」
質素な部屋に流行りのゲーム機はなく、代わりに母親の前の男が置いていったという洋楽のCDアルバムが大量にあった。ポータブルのCDプレーヤーにイヤホンを繋いで聞くのがホッシーの一人遊びで、世界とダンゼツされるのがいい、とのたまう彼を、憐れに思う気持ちはその頃微塵もなかった。
「ホッシー君と気が合ったの?」
「うーん、何か一歩引いてるんだけど、時々言うことが面白いっていうか」
律儀に君付けする克哉さんが愛おしかった。傍に行きたくて、ソファの隣に移動したオレの腕に、克哉さんの左腕が触れる。
「お母さんも?」
「いい人だったよ。少なくともオレには。夜は結構いなかったけどホッシーも普通に慕ってた。普通っていうかそれ以上だったって、今となっては思うよね」
溶けかけのアイスを食べる。十数年前、100円のアイスを二人で分け合った遠い夏を思い返しながら。
友達と海水浴も花火大会も盆踊りも、行ったことがなかった。幼い頃は大人か姉に連れられて、それが嫌になった頃にはひとりきりでいたから、同年代の彼と自転車に二人乗りして、ただ街を走り回るだけで嬉しかった。一日中騒いで、笑って、海からの坂道を登りきってモルタルのアパートに帰ると、寝起きの母親と温いスイカが待っていた。その種を三人交互に吹き飛ばしあって、ムキになってした初めてのケンカの仲裁は、母親が玄関先まで飛ばした新記録だったっけ。
「太一?」
「うん?」
「大丈夫?」
笑って頷いたのに克哉さんは困った顔をする。
「ほんとう?」
確かめるように頬に触れ、まだ湿った前髪を指で選り分けた。
キスして欲しいと思う。
そのまま優しくキスしてくれたら、この胸の澱みが掬われる気がする。
「ごめん、続けて」
だけど克哉さんは首を振ってそう呟いた。心臓の鼓動がはやい。曝け出すのは怖い。弱さや汚さを打ち明けて、今さら救われたいなんて言えば他人はきっと笑うから。
「夏が過ぎて、秋になったら籍入れたらしくホッシーの名字が変わってさ、でも相変わらず父親には会ったことなかった。どんな奴かも知らなかった。クリスマスもアパートで母親と三人でケーキ食べて、あだ名も変え時だって笑ってた。だけど、年末の、28日だったかな、親が逮捕されたんだ」
「えっ、ふたりとも?」
「うん。未成年使ってさ、売春のあっせんするのが男の仕事だったわけ。母親もこっち来てから手伝ってて、踏み込まれた現場にいたから言い逃れもできなかったと思う」
「そんな」
「滅茶苦茶だよね。今思えば滅茶苦茶なんだけど、その時は全然そう思わなかった。オレやっぱ常識とかなかったし、ホッシーのこともネジの緩んだかーちゃんのことも、多分、すごい好きだったから」
克哉さんは、聞きながら両腕でオレのことを抱きしめてくれた。大好きな匂いのする首筋に顏を埋めると、もっと甘えてしまいたくなる。短く息を吸い込んだ。抱き返す腕に、ほんの少し力を込める。
「旦那がね、オレのとこの、傘下の組員だったの」
優しい掌が、12歳のオレを励まそうとするように、背中を強く撫であげた。
「知ってる人だったの?」
ニュース映像で見た、ふたりの顔写真を思い出す。母親のほうはもう曖昧なのに、モノクロの男の顏写真だけはくっきりと脳裏に浮かび上がってくる。覇気のない瞳と無精髭。重なる名前の上に、鉄友会の白いテロップ。
「知らないよ。会ったことも無い」
慎重に言葉を選ぶ克哉さんが数秒の間を開ける。
「どっちにしても、太一は関係ないだろ」
本当に、関係なかったらよかった。だったら直ぐにあのアパートに駆けつけられた。
「けどオレがあいつ乗せた自転車だって、元を辿ればその金だったんだよ」
強い口調になったら、克哉さんが短く息を吐いて頬のあたりが温まった。
「太一は全然悪くないよ」
穏やかで、優しい声。肩から背中のラインに沿って動く掌。ただこうやって、慰められたかっただけなのかもしれない。ただこの人に、肯定されたかっただけかもしれない。
「でも充分だったの」
耳に、克哉さんの鼻先が当たる。広い部屋の大きなソファの上、滑稽なくらい丸く小さく抱き合って、ひたすらに優しい恋人は見えない傷痕を塞ごうとする。
「太一、泣いてるの?」
「まさか、やめてよ」
顔を上げて、群青色の瞳を見つめた。そっちのほうが涙目で、笑おうとしたのにうまくできなかった。
唇が、自然と重なりあう。同時に閉じた瞼の裏側には、忘れえぬ情景が浮かび上がってくる。
長野の児童養護施設に行く日、アパートの錆びた階段に座っていたオレを見つけたホッシーは、肩口に鮮やかな夕陽を背負っていた。知らない大人に手を引かれて階段を三段降りた時、立ち上がったオレに向かって、
「たいっちゃん、また来てたのぉー」
母親の真似をしながら、いつもみたいにふざけて笑った。
後にも先にも、そんなダサいあだ名で呼んだのはホッシーとその母親だけだ。
あの町で壊れた、ふたりきりの家族だけ。
もどかしいくらい丁寧に、優しく、身体の隅々までを愛撫されて長い時間抱かれた。繋がっている間、零れた涙を受け止めた同じ唇で、太一は何度も「好き」と囁いた。その度に、克哉は太一の頭や背に腕をまわしてその裸体を引き寄せた。
出来ることなら、12歳の彼を直接この手で抱き締めたかったと思う。ただ隣に座っていることでも出来たなら、小さな胸に抱えた孤独は量れなくても、きっと少しの慰めにはなれた。
「何考えてるの?」
かつての少年は、腿まで足を絡めながら不満げにそう尋ねる。うらはらに揺れる瞳で。
「太一のことだよ」
柔らかな髪を撫でると、太一は安堵したように笑って首を振った。
「オレは大丈夫だよ」
強がりではないのだろう。ただ少しセンチメンタルになっただけ。ただ少し、昔を思い出しただけ。
「克哉さんがそんなにオレのこと考えてくれるなら、たまにはテンション下げてみるのもいいかもねー」
いたずらな笑みで言って、太一が首筋に指を這わせる。
「なんだよそれ」
「だって、超思われてる感じがするじゃん」
半分冗談で、半分本気みたいな琥珀の瞳。何て答えたらいいか分からなくて、照れ隠しに克哉は太一の額を指ではじいた。
いってーと大袈裟に言ってから、「けど、ほんと。話してよかった」と声のトーンを落とした。
「うん、ありがとう」
克哉も素直に言葉を返したら、太一は少しの間黙り込む。それから、「忘れたって決めてもダメなんだよね」と呟いた。
「忘れなくても、いいと思うよ」
言いながらシーツを引き寄せ、太一の肩まで覆ってあげる。
「チャリティーとか、そんな資格、オレにあるのかなって考えはじめたら止まんなくなったの。ホッシーも、地元の奴も、どう思うのかなって。すっげーダサいけど、なんかね、怖くなっちゃった」
資格なんて要らないし、もしも必要なのだとしても、太一の手にだってそれはあると思う。幼い頃別れた友達もきっと、太一が家業を継がずにバンドマンになったことを是認してくれるはずだ。
けれど克哉はもう一度頷いてから、「いいよ。秋野さんにはオレから伝える」と優しく言った。
太一はちょっと驚いた顔をする。まだ迷う気持ちがあるのだろう。説得してもいいけれど、克哉は少し待とうと決めた。今回のタイミングは逃すかもしれない。けれどこの先にも機会は待っているはずだから、作戦を立てよう。太一が自身の持つ資格とやらに気付くように。何の憂いもなく、気負いもなく、ただ他人を助けるためのギターを弾ける日が来るように。
「なぁ、来月の誕生日、ニューヨークに行かないか?」
突然の提案に、太一は目を丸くした。それから、急に早口になる。
「え?何言ってんの?オレもう旅館とったって言ったじゃん。え、言ったよね?露天風呂付き個室。離れの特別室。つーか23日は部屋から出ないってふたりで決めたよね?」
決めた覚えはないけれど、克哉は一応ごめんと謝ってから、でも、と続ける。
「メールが来てるんだ。ジェシカやケン君やライブハウスのオーナーからも」
「だから何よ」
「皆日本でバンドがうまくいってることすごく喜んでくれてるんだよ。アメリカに帰ってこないんじゃないかって、オーナーなんか心配してるくらい。だから一度、皆に報告に行きたいなって思ってたんだ」
「メールでいいでしょ。つーかそれ今度でいいでしょ」
「じゃあ、年末?」
「いや克哉さんの誕生日はオレ計画練ってんの!マジアメリカとかじゃないから。勘弁して」
「じゃあやっぱ来月。決めた。太一の誕生日なんだから、オレが決める番だろ?」
太一は呆れた表情になって克哉の顏を見上げた。それから、少しの沈黙。素早い計算。
「じゃあ・・・、別日に休みとってよ。温泉」
克哉がどうやら本気らしいと気が付いたので、交換条件を出してきたのだ。
「いいよ」
簡単に飲んだ克哉を、太一はついに怪訝な表情になって見つめた。
「なんでそんな急にアメリカ行きたくなったの?」
自分が行きたいというより、太一を連れて行きたくなったのだ。今、このタイミングで。待っている人がいることを知ってほしいと思った。太一の成功を心から喜んでくれる人たちがいること。生まれ故郷ではないけれど、三年の間に太一が作ったふるさととも呼べる場所。
「だって、きっと楽しいよ。皆喜んでくれるし、太一だって会いたいだろ?」
「オレは克哉さんと浴衣でエッチしてたいですけどー」
とはいえ諦めたみたいで、太一はシーツの中の手を克哉の下腹部に這わせてきた。恥骨をなぞり、指先が陰毛に触れる。陰茎を掴まれると腰が隠しようもなく揺れて、あんなに長い時間したばかりなのに、今日は眠りたくないって思ってしまう。
「裸のほうがいいよ」
「何それ、大胆」
「え・・・、だって・・・」
克哉が口籠ると、太一が嬉しそうにふふっと笑う。
からかうようなキスをされれば、愛しさが唇から溢れて直接、彼に伝わっていくような気がした。
「ねぇ・・・、そうだ、太一、住んでた部屋にも行ってみようよ」
「ん・・・、まだ、空いてんのかな」
「どうだろう。なんか懐かしいね。オレすごく楽しみになってきちゃったよ」
「うん、もう・・・、はい。分かったからこっちに集中してねー」
焦れた太一を、だけどもっと幸せにしたい。だから11月23日は、ふたりのホームタウンに帰ろうよ。
Happy Birthday
あなたの恋の話2
「太一と飲むの、久し振りだね」
「つーか、会うのも久し振りじゃん」
「そうだっけ?」
「そうだよ10日振り。克哉さん全然こっちに帰って来ないんだもん」
バイトの顔も覚えた近所のコンビニで350mL入りの発泡酒を6本買って、公園に行った。
風に当たっていたいという理由で、克哉さんがその場所を選んだ。
誘っても、オレの部屋に来なくなった理由は簡単なこと。御堂と付き合い始めてから、会えるのはロイドでだけになったのだ。
「あの人と、何かあったんだよね?」
お互いに二本目の缶を開けてから、前を向いたままの姿勢で尋ねた。克哉さんも視線を合わさずに、ちょっとの間黙り込んでから、
「太一に隠しごとってできないのかな」
呆れるみたいに笑った。
「できないよ。だから話してよ。克哉さん元気ないんだもん。元気な振りしてるだけで、さっきからずっと泣いちゃいそうじゃん」
「そんなことないよ」
いくら否定したって、どんなに取り繕ったって、好きな人の嘘なら分かる。
そのひどく単純な理由に、克哉さんは気付かないで首を振る。
「隠されんのはさぁ、友達として結構傷つくんですけど」
どれほどキツイ役回りでも、とにかく彼の傍に居ることを選んだのは自分なのだ。目の前のこの人を、鈍感過ぎると攻めたりするのはルール違反になる。
「隠してるわけじゃないよ」
「なら言って。教えて」
横顔を見つめたら、克哉さんはちょっと息を吐きながら、革靴の踵で砂を蹴るように膝を伸ばした。腿の間に缶を持った両手を置いて、少し迷った親指がアルミ缶の飲み口をなぞると同時に、小さな声で喋りはじめた。
「隠すっていうか・・・、積極的に話すことでもないかなと思って」
「うん」
「ついさっきで、心の整理もついていないし」
「何があったの?」
「うん・・・、今日、御堂さんにね」
風に揺れる枝葉の音が、頼りない彼の言葉を遮ってしまう。
身を乗り出し、ベンチに並んだ克哉さんの顔を思わず覗き込んだ時、胸はもう期待していた。今日会った時、最初からだ。朝が来ることを知らないみたいに下向いて歩くこの人を見つけたときから、ずっとずっと期待していた。
「別れましょうって言ったんだ」
「マジ!?」
手に持ったアルミ缶を握り潰してしまいそうなほど、緊張して力が入った。胸がドッと音をたて、いつか御堂との関係を打ち明けられた日と同じくらいに、速く激しい鼓動を打った。
「どうして?」
「うん、やっぱり」
克哉さんは足許を見つめて数秒黙った後、
「男同士だし」
と、ひどく今更な感じのする理由を告げた。
「急にだね」
俯いた姿勢で頷きながら、克哉さんは前髪に隠した目尻に左の指先を一瞬当てて膝に置いた。こんなに傍に居るオレが、その仕草に気付かないはず無いのに。
「そうだね」
なんて一層へたくそな誤魔化し笑いを加えるから、思わず動いた手が赤い目尻に触れてしまった。
薄い皮膚は見た目よりずっとあたたかくて柔らかい。克哉さんは驚いた顔をして、でも頬の手を払うこともせず、
「泣いてないよ」
と怒ったように言った。
「うん」
指先がほんの少し涙に触れた気がしたその瞬間に、温もりは逃げていく。擦り合わせて確かめた指先はもう、風にさらさらと乾いていた。
「御堂さんのこと、嫌いになったの?」
反射的に、細い髪が左右に揺れる。
間髪を置かずに見せた、その弾かれたような否定の身振りに、彼の想いは全部現われていた。
「なんだ・・・」
――まだ、好きなんじゃん。
攻めるような言葉は、再びあおったアルコールと一緒に喉の奥へ飲み込んでしまう。
人のことは言えない。
オレのほうだってまだ、あなたのことが大好きだから。
「つーか、会うのも久し振りじゃん」
「そうだっけ?」
「そうだよ10日振り。克哉さん全然こっちに帰って来ないんだもん」
バイトの顔も覚えた近所のコンビニで350mL入りの発泡酒を6本買って、公園に行った。
風に当たっていたいという理由で、克哉さんがその場所を選んだ。
誘っても、オレの部屋に来なくなった理由は簡単なこと。御堂と付き合い始めてから、会えるのはロイドでだけになったのだ。
「あの人と、何かあったんだよね?」
お互いに二本目の缶を開けてから、前を向いたままの姿勢で尋ねた。克哉さんも視線を合わさずに、ちょっとの間黙り込んでから、
「太一に隠しごとってできないのかな」
呆れるみたいに笑った。
「できないよ。だから話してよ。克哉さん元気ないんだもん。元気な振りしてるだけで、さっきからずっと泣いちゃいそうじゃん」
「そんなことないよ」
いくら否定したって、どんなに取り繕ったって、好きな人の嘘なら分かる。
そのひどく単純な理由に、克哉さんは気付かないで首を振る。
「隠されんのはさぁ、友達として結構傷つくんですけど」
どれほどキツイ役回りでも、とにかく彼の傍に居ることを選んだのは自分なのだ。目の前のこの人を、鈍感過ぎると攻めたりするのはルール違反になる。
「隠してるわけじゃないよ」
「なら言って。教えて」
横顔を見つめたら、克哉さんはちょっと息を吐きながら、革靴の踵で砂を蹴るように膝を伸ばした。腿の間に缶を持った両手を置いて、少し迷った親指がアルミ缶の飲み口をなぞると同時に、小さな声で喋りはじめた。
「隠すっていうか・・・、積極的に話すことでもないかなと思って」
「うん」
「ついさっきで、心の整理もついていないし」
「何があったの?」
「うん・・・、今日、御堂さんにね」
風に揺れる枝葉の音が、頼りない彼の言葉を遮ってしまう。
身を乗り出し、ベンチに並んだ克哉さんの顔を思わず覗き込んだ時、胸はもう期待していた。今日会った時、最初からだ。朝が来ることを知らないみたいに下向いて歩くこの人を見つけたときから、ずっとずっと期待していた。
「別れましょうって言ったんだ」
「マジ!?」
手に持ったアルミ缶を握り潰してしまいそうなほど、緊張して力が入った。胸がドッと音をたて、いつか御堂との関係を打ち明けられた日と同じくらいに、速く激しい鼓動を打った。
「どうして?」
「うん、やっぱり」
克哉さんは足許を見つめて数秒黙った後、
「男同士だし」
と、ひどく今更な感じのする理由を告げた。
「急にだね」
俯いた姿勢で頷きながら、克哉さんは前髪に隠した目尻に左の指先を一瞬当てて膝に置いた。こんなに傍に居るオレが、その仕草に気付かないはず無いのに。
「そうだね」
なんて一層へたくそな誤魔化し笑いを加えるから、思わず動いた手が赤い目尻に触れてしまった。
薄い皮膚は見た目よりずっとあたたかくて柔らかい。克哉さんは驚いた顔をして、でも頬の手を払うこともせず、
「泣いてないよ」
と怒ったように言った。
「うん」
指先がほんの少し涙に触れた気がしたその瞬間に、温もりは逃げていく。擦り合わせて確かめた指先はもう、風にさらさらと乾いていた。
「御堂さんのこと、嫌いになったの?」
反射的に、細い髪が左右に揺れる。
間髪を置かずに見せた、その弾かれたような否定の身振りに、彼の想いは全部現われていた。
「なんだ・・・」
――まだ、好きなんじゃん。
攻めるような言葉は、再びあおったアルコールと一緒に喉の奥へ飲み込んでしまう。
人のことは言えない。
オレのほうだってまだ、あなたのことが大好きだから。