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姉上。スカートをまくって股を開いて見せてくれませんか? 作者:サクチル
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第3話

貴族言葉にも翻訳入れました。

ちょっと紛らわしい表現もあるので、一応ロレッタちゃんの翻訳が必要な発言には全部。

夜会に出席した。今晩は仮面舞踏会ではないし、通常の夜会だ。我が家主催でもない。ソロック侯爵家主催である。ソロック侯爵家の所有する中々大きなホールで行われた。高位貴族はこういった大ホールを所持しているものが多い。我が家にもあるが結構維持が大変だったりする。細かな細工の施されたシャンデリアとか、下ろして磨くのも一苦労ですもの。私はその労働を味わったことはないけれど、侍女や侍従は大変そうにしている。

今夜はその夜会に美しい濃紺のドレスで出席した。夜空のような濃紺に銀の星のようなビーズが縫い付けられている。


「ロレッタ様、お久し振りですわ。」


友人のバーベナ様が声をかけてきた。バーベナ様は私と同じ茶色い髪に青い瞳。私よりだいぶ明るい水色の瞳かな?猫のようなアーモンドアイ。髪も私と違ってストレート。体つきもシュルンとしなやかで細い。御気性も気まぐれな猫の様な方である。


「小憎たらしい顔も久しぶりに見ると味わいがあるものですわね。(訳:お久し振りですね。顔が見られて嬉しいですわ。)」

「相変わらずですわね。今日は噂のアルト様はご一緒ではないの?」


バーベナ様はロレッタ語も上手に翻訳できるので、とても親しげだ。私の厭味ったらしい発言も飄々と流している。


「一緒の馬車で来ましたわ。今どこにいるかは知りませんけれど。噂…?」


アルトとは一緒の馬車で来て会場で分かれた。一緒の馬車で帰るつもりではいる。

噂ってどんな?私はこの通り口を開けば悪態しか出ないような他人に好かれない少女なので社交界に出ても、あまり親しくお話をしてくださる方はいない。必然的に情報量も少ない。


「淑女に『スカートをまくって股を開いて見せてください』って仰ったそうですわね?色んな意味で大評判ですのよ。」

「まあ……」


どうしよう、アルトの評判が大変なことに…

おねーちゃん心配です!


「失礼で汚らわしいって仰る方もいるようですけれど、男らしいって仰る方もいるわ。アルト様が褥を共にしたご令嬢の股に何があるのか、みんな気になっているようですわよ。」

「社交界の方々って相変わらず暇人ばかりですのね。(訳:くだらない話ばっかりして!いやんなっちゃう!)」

「ふふ。今お話ししたので、わたくしも暇人の一人ですわ。」


二人で楽しく(?)お喋りした。バーベナ様は気さくな方なので情報通。色んな噂を教えてくれる。今最もホットな話題はベアトリーチェ様がご病気を患い、王太子様の婚約者を降りたというお話。「娘を王太子妃に」やら「王太子妃になりたい」だの王家周辺は中々騒がしいらしい。ベアトリーチェ様の破談もご病気で…ってことになってるけど、本人の駆け落ち説が有力。ベアトリーチェ様の御実家のロズモンド家の御当主はどこか肩身が狭そうだ。


「ロレッタ嬢。」


噂の王太子、ジョセファン様がいらっしゃった。キラキラの金の御髪にエメラルドのような緑の瞳の華やかな方。とっても美男子。若いご令嬢方が王太子妃になりたがる気持ちもわからなくはない。性格もとっても朗らかな方だ。


「ご機嫌麗しゅう。殿下。」

「ふふ。久しぶりだね。中々外に出られないものだから…本当に久しぶり。」


春の王宮での花苑会以来ですよね。警備上の関係、殿下は殆ど王宮から出ていらっしゃらないから。今日は何故だかご出席されているようだけれど。


「御身は尊きにあれば、致し方なきことかと。」

「もっと気楽な立場がいいんだけどね。ロレッタ嬢はまた美しくなったのではない?」

「花盛りでありますれば。(訳:でしょ?)」


私も見た目はまあまあ美しいんですよ?色彩はありがちだけれど。アルトはもっと美しいし。ちょっと悔しい。アルトめ。男のくせにあんなに綺麗なんて反則だ。


「僕の噂は聞いた?次の婚約者はロレッタ嬢のような美しい令嬢がなってくれれば、嬉しいのだけれど。」

「お戯れも度を過ぎれば誰も微笑まなくなりましてよ。(訳:寝言は寝て言え。)」

「本気なのだけれど…」

「ほほほ。人には向き不向きがございますわ。(訳:やだ。)」


バーベナ様は会話の邪魔にならないようにさっさと引っ込んでしまっている。裏切り者め。ぺっ。

遠い昔、まだ子供の頃ジョセファン殿下が私のことを妻に迎えたいと指名したことがあったけど、その時も断ったんだよね。正直言語と態度の特殊極まりない私に王太子妃は荷が重い。他人に悪態つく嫌味っぽい王妃とか絶対無理でしょう?

ジョセファン様から熱心に口説かれていると横入りする声があった。


「ロレッタ嬢。つれないですね。私に顔を見せてくださらないなど。」


アドヴァンス様だ。

黒髪に碧眼の麗しい方だ。優しい微笑みを浮かべていらっしゃる。アドヴァンス様は少し優男風の紳士。大仰なリアクションが時々芝居がかって見えることがある。


「私に会いたいとお思いでしたらご自分の足で歩いていらっしゃいまし。」

「それは失礼。麗しのレディ。お会いできて光栄です。」


恭しく私の片手を取って甲に口付けた。芝居がかった仕草が本当に様になる。大人の色香駄々洩れである。生娘なら一発でノックアウトされそうな妖艶さ。私には効果ないけど。生娘じゃないし。アルトの方がすごかっ…な、なんでもない!なんでもない!


「アドヴァンス。失礼じゃないか。ロレッタ嬢は僕と話していたのだぞ。」


ジョセファン様がクレームを入れた。


「それは失礼、殿下。何分婚約者である麗しのロレッタ嬢しか目に入らなかったもので。」

「まあ。もう婚約者面ですの?随分と気がお早いですわ。(訳:やめてよー。まだ婚約するって言ってないじゃん!)」


いきなり婚約者を名乗られてぎょっとした。その話本決まりじゃないから!私まだ婚約するって言ってない!勝手に外堀埋めようとするのは止めてくれないかな!?

アドヴァンス様は大仰に嘆いた。


「何故色好い返事を頂けないのでしょう?こんなにも想っているのに。」

「アドヴァンス様は女性関係が大変華やかな方だと聞きましたわ。躊躇するのは当然ではなくて?」

「男性の生理現象です。他ならぬロレッタ嬢の弟御も同じ生理現象に基づく行動をとられたでしょう?」

「……アルトはきちんと責任を取るつもりでしたわ。(訳:遊ぶだけのあなたと一緒にしないでください。)」


ムッと不快感を覚える。アルトはちゃんと『運命の女性』って言ってくれたもん。アルトに正体を明かしたら手のひらを返されそうな気がしなくもないけれど。


「意外ですね。姉弟仲は良くないとお聞きしておりましたが。」


私がアルトを庇うのが意外なのだろう。確かに他所からは仲の悪い姉弟だと思われているし、悪態は沢山つく。アルトからも「大嫌い」と言われている。が、私は決してアルトのことを嫌いではないし、寧ろ好きだ。「嫌いだ」などと言ったことは一度たりともない。


「姉弟仲は良くありませんね。でもアルトが一方的にわたくしを嫌悪しているだけですわ。(訳:私はアルトのこと嫌いじゃないもーん。)」


嫌われるのは悲しいけどね。私はロレッタ語を上手に翻訳できる人としか仲良くなれないのよね。これ、もう癖になっちゃってるから。


「そのように仰られると不安になります。この国が義理の兄妹姉弟も結婚できなければ良いのに。」


ロレッタ語をきちんと翻訳できるアドヴァンス様が表情を曇らせた。ジョセファン様も表情を曇らせている。二人ともアルトを『恋敵』として見ているようだ。


「私はアルトと結婚するつもりはないですわ。」

「向こうがどのように考えられているかはわからないでしょう?」


アルトが私と結婚したがる?ありえないっしょ。あんなに嫌われてるのに。

アドヴァンス様とジョセファン様とお喋りした。ジョセファン様は途中で令嬢に囲まれて離脱したけれど。


「ねえ、ロレッタ嬢。私は世界で一番あなたを好きですよ?」


アドヴァンス様が瞳に熱を乗せて囁いた。

それはきちんと格付けされている2番や3番がいるのかもしれないな…とちらりと思ってしまった。







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