博麗異変・後編
レミリアが右手に渾身の力を込めた時、グシャッという鈍い音が静かな荒地に響いた。
そして砕けた赤い何かがボトボトッと地面に落下する。
紫「えっ…」
レミリア「な、何コレ…」
レミリアの手の平に魔理沙の首を握り潰した感触があった。
だが実際に彼女の目の前で砕けたのは何の変哲も無いただの林檎だった。
こんな芸当が出来るのはレミリアの知る限り、幻想郷に一人しか居なかった。
魔理沙「(だ、誰だ…霊夢か?)」
意識が飛ぶ直前まで首を絞められた所為で魔理沙の目は一時的に視力を失っていた。
ただ誰かに助けられ、今優しく抱かれているのは感覚で分かった。
レミリア「…咲夜」
魔理沙「げほっ…さ、咲夜ぁ?。何でここに…」
咲夜「気になって様子を見に来たのよ。危ない所だったわね」
ゆっくりと魔理沙を地面に寝させると、着ているメイド服のベストを掛ける。
咲夜「待ってなさい」
魔理沙に掛けたベストから懐中時計を取り出し、魔理沙の上に乗せる。それに右手を当てた
咲夜は魔理沙の時間を急激に進めた。一秒が数分の速度で時を進め体力を回復させていく。
咲夜「あと少しすれば動けるわ」
魔理沙「助かったぜ。一応形式上礼は言っておくぜ。サンキューな」
咲夜「…礼を言うのは早いわよ」
両手にナイフを携えた咲夜は一歩、また一歩とレミリアに近づく。
レミリア「まさか貴方が邪魔するなんてね」
咲夜「従者とは常に主人に従う者。しかし例え蛇蠍の如く嫌われようとも主人の為に尽くす者
こそ真の従者。お嬢様はそう仰いましたからね」
レミリア「エクセレント、よく出来たわ咲夜。それじゃあ…私を止めてみなさい」
咲夜「お嬢様………行きます!」
数えるのが嫌になるくらい膨大な量のナイフが全方位からレミリアを目掛け放たれる。
得意のナイフ投擲で相手の足を止め、一気に接近戦で仕留めるのが咲夜の戦法だ。
レミリア「(いつぞやの時よりさらに強くなったわね。でも…)」
飛んでくるナイフを打ち払っていた手を止め、レミリアはナイフの雨の前に無防備で身を晒した。
ザクザクッドスドスッ…
フラン「お姉様!」
宙を舞っていたナイフは一本残らずレミリアの身体に突き刺さった。
魔理沙「や、やり過ぎじゃないのかよ」
咲夜「………」
レミリア「大丈夫よフラン…咲夜、貴方の覚悟はその程度なの?」
フラン「も~、一瞬本気で心配しちゃったよ」
魔理沙「い、生きてる…つーか何で平気そうな声なんだよ」
レミリアは身体中に刺さったナイフものともしていなかった。
そして肩に乗った埃を払うようにナイフを落とすと咲夜を睨みつけた。
レミリア「退魔効果も無ければ強度もまるでオモチャ。お遊戯のつもり?」
レミリアは手に持ったナイフを指でパキンッと折る。言葉通り玩具のように…
破片を拾った魔理沙は驚いていた。咲夜が使っていたのは全部鉄製のナイフだったのだ。
どうやら咲夜はいつも丁寧に手入れしている銀のナイフを一本も使っていないようだ。
吸血鬼の弱点を突かずに戦う様に咲夜の甘さが見え隠れしていた。
レミリア「興醒めよ。貴方とはもう一度本気で向かい合いたかったのに…」
咲夜「…お嬢様。私は今、全力で貴方と戦っていますわ」
レミリア「聞くに堪えないわね。相手の弱点すら突けない戦い方の何処が本気なの」
咲夜「…お分かりになりませんか?。お嬢様に逃げ場は無いと言う事に…」
カチンッと咲夜が懐中時計の蓋を閉じた瞬間、新たなナイフがレミリアを包囲した。
しかもそのナイフは先程降ってきたナイフより鋭く光っている。
レミリア「銀のナイフ…なるほど。貴方を見くびってたわ」
咲夜「負けを認めてください」
レミリア「この程度の数じゃ降参する気にはなれないわよ」
咲夜「…なら、試してみますか?」
不意に落ちてきたナイフをレミリアが素手で掴んだ。試す程の価値は無いと言うように…。
だが強烈な痛みを感じ、即座にナイフを放した。見ると手の平が焼け爛れていた。
レミリア「たっ…ただの銀じゃない!?」
咲夜「聖水で磨き上げ魔術で強化したパチュリー様特製の白銀のナイフです。人間にはただの
ナイフでもお嬢様にとってはこの世で一番危険なナイフですわ」
レミリア「…パチェもやってくれるわね。こんな隠し玉を咲夜に渡してたなんて…」
咲夜「いかにお嬢様といえど一本残らず避けるのは不可能です。御決断を…」
レミリアは一瞬目を瞑り俯いた。だが………やはり答えは一つだった。
今までで一番紅く輝く神槍を握り、咲夜に狙いを定める。
咲夜「それを撃っても私には当たりませんよ」
レミリア「それはどうかしら。ナイフを止めている間は他の時を止められない。それが貴方の
時を止める能力の欠点だって言ってたわよねぇ。この距離で避けられる?」
咲夜「…秘密にしておくべきでしたわね」
レミリア「今頃それ言っても遅いわよ」
互いに引けない状況まで持ち込んでレミリアは咲夜を試していた。
今の咲夜がレミリアに勝つのは実に簡単な事だ。固定したナイフを同時に放てばいいだけなのだ。
しかし甘さが残っていれば咲夜はグングニルを避けられない。
レミリア「見せてみなさい、あなたの覚悟を…『スピア・ザ・グングニル』」
咲夜「…私は……こうしますわ!」バシューン…
咲夜は身動き一つせずまともに神槍を喰らった。
運がいいのか悪いのか、致命傷にだけはならなかったが重傷には違いなかった。
それなのに彼女は何事も無かったかのように立ちあがりレミリアに向かって歩き出した。
レミリア「咲夜…貴方は最初から…」
咲夜「お嬢様…」
彼女が一番優先した事はレミリアを無傷で負かす事であり、自分が負う傷はどうでもよかった。
そして出来ればレミリアを止めたかった。だがそれは叶わぬ望みだったと今さらながらに悟った。
咲夜「仕方が…ありませんね…」
ふと、寂しげに咲夜が笑った。それは何かを諦めたような笑いだった。
そしていつの間にか右手に懐中時計を握っていた。
レミリア「(…来る!)」
咲夜になら殺されてもいい。そんな考えがレミリアの頭を過(よ)ぎった。そして次の瞬間、
動いたのはナイフではなく咲夜だった。咲夜はレミリアの正面に移動していた。
咲夜の能力で時を止めれば造作も無い事ではあるが…
レミリア「ナイフの時間を止めてる間は他の時は止められないんじゃなかったの?」
咲夜「いつまでも弱点をそのままにはしませんよ。切り札だから最後まで取って置いたんです」
レミリア「…貴方が霊夢と同じ位嫌な相手に思えてきたわ。でも一つ違う所があるわ」
何を考えたのかレミリアは今出せる最大の速度で咲夜の腕を掴んだ。
ただ掴んだだけだ、それなのにレミリアは勝ち誇った顔をしている。
レミリア「咲夜、貴方は詰めが甘いのよ」
咲夜「…バレてましたか」
レミリア「えぇ、流石の貴方もこれじゃあ時を止めて逃げる事は出来ない」
咲夜の立つ場所はナイフの射程圏内である。さらに咲夜は逃げる手段がない。
レミリアに掴まれたのが腕ではなく服なら切り離して逃げれたのだが。
レミリア「そしてこれだけの数、貴方もただでは済まないでしょ?」
咲夜「…それは覚悟の上ですわ」
レミリア「えっ??」
咲夜「私はお嬢様に仕えると決めた時に幾つか心に誓った事があります。もし万が一…
お嬢様を傷付けなくてはならなくなった時が来たら…例えどんな理由があっても
この命をもって償う、と…」
咲夜が先程諦めた事、それは勝ち負けでも自分の命でもなく、レミリアの無傷だった。
彼女にとっての最善が不可能になった今、咲夜がレミリアを止められる手段は他に無かった。
レミリア「ま、まさか…止めなさい咲夜。私の負けでいいわ。だから…」
常に咲夜の中心はレミリアだった。そんな咲夜が悩んだ挙句に選んだ手段はもう止まらなかった。
咲夜自身にも止める力が残っていなかったのだ。
咲夜「残念ですが力を使い過ぎました。実はもう十秒も止めておけないんです。お嬢様…
もし縁がありましたら、また…来世で…」
最後に残された力で咲夜はレミリアに別れの口付けをした。
その後、力尽きた咲夜はレミリアの腕の中で静かに目蓋を閉じる。
そしてそれを合図に時は動き出す。時に縛られたナイフは自由を得て一斉に二人に降り注いだ。
レミリアと咲夜、二人の姿はナイフの雨に中に消えた。
紫「あえて共に散る、か…ある意味羨ましいわね」
魔理沙「嘘だろ…咲夜、レミリア、返事しやがれぇ!」
魔理沙の叫びが空しく響いた。
総てが吹き飛んだ荒地に出来たナイフの山がまるで咲夜とレミリアの墓標に思えてくる。
紫「全く予定外もいいトコよね。第一段階で二人も消えるなんて」
魔理沙「第一段階だって?」
紫「邪魔な人間を消すのが第一、その次が博麗大結界の解除。最後は世界征服って感じかしら?」
魔理沙「…いいのかよ、そんなにペラペラ喋ってもよ」
紫「別に構わないわ、どうせアンタもここで終わりなんだから」
紫はフランに手で合図を送った。
親指を下方に向け、首元で左から右に移動させる。ザ・グレートムタの首を掻っ切るポーズだ。
幻想郷の者には何の事か分からないが、何を意味するかは雰囲気で分かる。
咲夜のおかげで魔理沙の体力は大分回復していたが、まだフランや紫と満足に戦える程ではない。
魔理沙「(三分、いや二分でいい。時間が稼げれば…)」
思いが天に通じたのか、それともただの偶然か、はたまた魔理沙の持って生まれた運なのか…。
魔理沙がそれを願った瞬間、全員の動きを止める出来事が起こった。ナイフの山が崩れたのだ。
それが何を意味するのか答えは一つ。レミリア、もしくは咲夜が生きているのだ。
魔理沙「咲夜、生きてるのか!?」
フラン「…お姉様?」
崩れていくナイフの山から見えた動くモノは歪な羽のシルエットだった。
レミリアの羽は見るも無残だった。まるでフランの羽のように芯となる部分を残して破れていた。
それでも彼女は咲夜を抱えナイフの山から這い出てきた。
レミリア「最後の最後で私の手を煩わすなんてね…咲夜もまだまだのようね」
呆れたような口調のレミリアだが心の中では咲夜を認めていた。
咲夜「…お嬢…様?……」
レミリア「咲夜…貴方の覚悟、見せてもらったわ。もう私は満足、またね…」
その言葉を最後にレミリアの身体は大量の灰クズになって崩れ去った。
意識が虚ろだった咲夜はそのショックで一気に覚醒した。そしてレミリアに手を伸ばす。
だがもうレミリアの姿は既に灰となっていた。
咲夜「そ、そんな…」
魔理沙「レミリア……」
咲夜「お嬢様……私も今行きます」
咲夜は拾ったナイフを自分の首筋に当てて力を込める。が、咲夜の腕は動かなかった。
間一髪で魔理沙が咲夜の腕を止めたのだ。
魔理沙「止めとけよ、死んで何になる」
咲夜「放して、私をお嬢様の所に行かせて」
魔理沙「…なら好きにしろよ。何の為にレミリアはお前を助けたんだろうな」
咲夜「そ、それは…」
カラーンと咲夜の手からナイフが落ちた。どれだけ力を入れても心が折れた咲夜の腕はナイフで
自分を刺す事どころか握る事すら出来なくなっていた。
魔理沙「…やっぱりな。咲夜、レミリアは死んでないぜ。これがその証拠だ」
咲夜「何よ、それ…」
魔理沙「見覚え無いか?」
魔理沙が灰の中から取り出したのは文字らしき物が書かれた長方形の紙切れ、早い話が御札だ。
そして幻想郷で御札を使う者など限られている。
魔理沙「さっき戦ったレミリアは…早く言えば偽物だったんだよ」
咲夜「偽…物?」
魔理沙「この御札で作った、良く出来た人形ってトコだな。前に霊夢に使われた事があるんだよ。
アレはマジで性質(たち)が悪かったぜ…」
紫「(…知ってたか。予定変更もやむをえず、ね…)」
魔理沙の注意が逸れている隙に紫は隙間に手を突っ込んで仲間を増やそうとしていた。
現状は二対二、そして個々の強さなら紫側が有利だったが紫はギリギリの勝負を避けたかった。
窮鼠猫を噛むの諺(ことわざ)通り魔理沙はしぶとい。紫はヤバイ橋は渡りたくないのだ。
紫「悪いけど手を貸してもらうわよ」
強制的に戦場へ連れ出されたせいか萃香の機嫌は悪そうだ。紫の顔を一度チラッと見た後、
スタスタと魔理沙に向かって歩き始める。魔理沙はかなりのプレッシャーを受けていた。
推測だが萃香は幻想郷に生きる者の中で一番力が強い。もし本気を出されたら人間の身体など
紙を千切るようにバラバラに、そして卵を割るように潰せるだろう。だが―――
萃香は後一歩進めば魔理沙に手が届く距離まで近づきながらクルッと魔理沙に背を向けた。
紫「萃香?」
萃香「紫…悪いけど私は魔理沙の方に付くよ」
紫「な、何言ってるの。どうなるか分かってるの」
萃香「分かってる、でも…これ以上人間に嘘を吐くのは嫌だ」
魔理沙「いいのかよ?、私はお前の嫌いな嘘吐きだぜ」
萃香「でも言っていい嘘と言っちゃいけない嘘の区別はつくだろ」
お互いに突き出した拳の先をコツンと当てて二人が笑う。一方紫は自分達の不利な状況に顔を
醜く歪めていた。だがキレているように見えるがそうでない気もする。
何かがおかしい。今日の紫はなんと言うか、いつもの紫らしくない。
魔理沙「(…そうか!)くくく…あーはっはっはっ…」
紫「自分が優位に立った事がそんなにおかしい?」
魔理沙「紫、今のミスは致命的だったぜ」
紫「何の事かしら?」
魔理沙「今回の黒幕、霊夢だろ」
いきなり思いもしない所から核心を突かれた紫は今度こそ本当の表情を出した。
魔理沙「やれやれっ…ビンゴみたいだな」
紫「な、なんで…」
魔理沙「カマ掛けてみただけなんだが…お前でも引っ掛かる事あるんだな…」
紫・咲夜・萃香「なっ……」
空気が固まっていた。三人は開いた口が塞がらず、そのまま硬直していた。
しばしの沈黙の後、やはり最初に口を開いたのは魔理沙だった。
魔理沙「頭の切れるお前のこった。萃香がこっちに付く事は予想してたんだろ」
紫「…まあね」
魔理沙「その読みの深さが仇になったな。予想通りに事が運んでつい笑いが隠せなかった。
それに気付かせちまったのが最初のミス、その後の自爆なんてオマケに過ぎないぜ。
霊夢が黒幕って可能性は最初から考えてた事だったからな」
紫「予想してた?。何を馬鹿な事を…」
平静を装うため、苦し紛れに紫が魔理沙の揚げ足を取ろうとする。
しかし今日と言う日は紫にとって厄日だったのだろうか、また墓穴を掘る結果となる。
魔理沙「悪いが今のはブラフでもハッタリでもないぜ。お前にレミリア、フランに幽々子。
これだけの連中を全員動かせるのは霊夢だけだしそれ位簡単に予想できるだろ。
全く…予想してた中でも最低最悪のシナリオだぜ」
咲夜「初めから目星は付いてたのね。なら何でもっと早く言わなったのよ」
魔理沙「確信が無かったんだよ。それに…黒幕は霊夢だから諦めろとでも言わせる気か?」
咲夜「そ、それは…」
もし最初からその事を知っていれば咲夜と妖夢はどうしただろう。
自分や主人が負けた相手…いや、一度も勝てなかった相手と言う方が正しいだろう。
その霊夢を相手に…この二人は勝てる見込みが全然無い無意味な闘いに身を投じただろうか…
魔理沙「霊夢に危害を加える奴がいるなら私がフッ飛ばしてやろうと思ってたのによぅ…
まさか私自身が霊夢の敵になるなんて、本当に皮肉な話だぜ…」
紫「…かと言ってこっちに来る気は無いのよね?」
魔理沙「当然だろ!、もう後に引けない所まで来ちまってるんだからよ」
約束を破られた。魔理沙の引けない理由はそれだけで十分だった。
何があっても守って欲しい。そんな思いをあっさりと踏み躙られた気分だった。
だが魔理沙は昔、約束は破る為にあると言った事がある。
事実、魔理沙はよく約束を破っていたのだから弁解の余地は無い。故に自業自得とも言える。
魔理沙「フラン、後でお願い一つ聞いてやるから手を貸してくれないか?」
フラン「ヤダ、魔理沙いつも嘘吐くもん」
紫「日頃の行いの悪さが祟ってるわね」
魔理沙「…なら今できる事もやってやるぜ。手付けの代わりでな」
フラン「……じゃあ魔理沙、キスして…」
魔理沙「分かった」
パシンッ……
魔理沙「えっ…」
フラン「魔理沙の……魔理沙の馬鹿ああぁぁ…」
魔理沙「お、おいっ……」
訳が分からなかった。自分は言われた通りキスをしようとしただけなのに…
魔理沙は突然ビンタを喰らい、フランはは泣きながら何処かへ飛び去っていった。
咲夜「この大馬鹿っ!」
フランのお願いは彼女にしてみれば精一杯の告白のつもりだった。
だがそれに気がつかなかった魔理沙は軽い気持ちでフランにキスをしようとした。
フランにはそれが許せなかった。自分の気持ちに全く気がつかない鈍感な魔理沙が…
魔理沙「なっ、おいちょっと…」
止める間も無く咲夜はフランを追いかけて飛んで行った。
魔理沙「痛ってぇ…手加減なしかよ…」
紫「あっはっはっはっ…いい気味ね」
魔理沙「ふん、色々あったが…これでこの場に残ったのはお前だけだぜ」
紫「そんなザマで戦えるの?」
魔理沙「私はどんな手を使ってでも霊夢に会わなきゃいけない理由が出来ちまってんだ。
お前も素直に霊夢を呼べば軽く気絶だけで済ませてやるぜ?」
紫「どんな手を使っても、ねぇ。ならこの子に向かって自慢の魔砲が撃てるかしら?」
何処に潜んでいたのか紫は自分の目の前に幼い妖怪の子を連れ出し、自分の盾にした。
それで魔理沙の攻め手を防いだつもりだったがそんな紫の目論見はあっさりと外れた。
今さらその程度では魔理沙は止まらず、何の躊躇いも無く凶悪な魔砲を紫目掛けて放った。
紫「なっ…ちょっと……」
咄嗟の行動には本音が出てしまう。やはり紫は骨の髄まで妖怪だった。
そして予想していた事だが的中すると魔理沙は少し心が痛んだ。
幼き妖怪は迫ってくる魔砲の輝きから目を離せなかった。そして動けなかった。
魔理沙「…避けてんじゃねぇよ。喰らってさっさとくたばっちまえ!」
紫「本当に撃つとは思わなかったわ……」
紫はさっきまで自分が居た場所を眺めながら不敵な笑いを浮かべていた。
紫「けど…、結果オーライね」
魔理沙「どう言う事だ?」
紫「なんの考えも無しに私があんな事を言うと思った?」
魔理沙「あぁ?」
紫「貴方は霊夢を怒らせた。私もただじゃ済まないだろうけど魔理沙にやられるよりマシね」
紫の指差す方向にはさっきの妖怪の子供だけではなく、見慣れたシルエットも混じっていた。
徐々に消えていく土煙の中から現れた姿は……
霊夢「…間に合ったみたいね。恐かったでしょ、怪我はない?」
妖怪の子供は涙を拭きながらコクンと頷いた。
魔理沙「れ、霊夢……お前なんで…」
魔理沙の目に霊夢の痛々しい傷を負った背中が見えた。
霊夢が強いと言われる理由…それは絶対と言えるほど弾に当たらない恐ろしいまでの回避能力、
そして卑怯なまでに高いホーミング性能を持った弾幕を使えるからだ。
しかしそれ故に本人の防御力は乏しく、直撃一発が致命傷になりかねない。
魔理沙「何でお前が妖怪を庇うんだよ」
霊夢「この子はこの前私が助けた子なのよ。人間に襲われてる所を、ね…」
魔理沙「人間が!?」
霊夢「私は人間は弱い生き物だから守るべきだと思ってたわ。でもそれは思い違いだった。
人間から妖怪に対する恐怖が薄れた所為でこの子のような悲劇が生まれたわ。
そしてその恐怖を消しちゃったのが…」
自分の言葉を遮る様に霊夢が針を飛ばした。
霊夢「…私や貴方のような力を持った人間の存在よ」
ある程度は手に持った箒でガード出来たが何本かは魔理沙の身体に突き刺さっていた。
霊夢「…私はその罪を償う為に戦うわ」
魔理沙「痛ってぇ…じゃあ何か?、お前はもう妖怪の味方って事か?」
霊夢「そうね、紫が言ってたみたいに人間を滅ぼすのも一つの手かしらね?」
魔理沙「…香霖も半分人間だぜ。お前はあいつも…」
霊夢「お喋りの時間は終わりよ!!」
さっきまで能面のように表情を変えなかった霊夢が今度は般若のような顔になっていた。
魔理沙は説得のつもりでつついてはならない藪をつついてしまったようだ。
霊夢「博麗の巫女は人間と妖怪、どちらに傾いてもいけないモノだったのよ」
魔理沙「だったら…今のお前は何やってるんだよ」
霊夢「長年人間側に傾いていた事への埋め合わせ、かしら…」
魔理沙「そうか…なら私はお前の敵になるぜ!!」
先手必勝と言わんばかりに魔理沙は突進し、箒で殴りかかった。
霊夢も魔理沙をとことんやり合うつもりなのかお払い棒で箒を受け止める。
二人の気迫の所為か金属でもない箒とお払い棒の間に火花が散っているように見えた。
魔理沙「この勝負、勝たせてもらうぜ!」
霊夢「魔理沙、一つ聞かせて…貴方は何の為に闘うの?」
魔理沙「簡単なこった。私がお前より強いと証明する為にだ!……うぉおおお!!」
怒号と共に押し寄せる魔理沙の力に霊夢は弾き飛ばされた。
霊夢は飛ばされた反動を利用した。空中で一回転して態勢を立て直したのだ。
だがその時には既に魔理沙が次の攻撃の用意をしていた。
魔理沙「隙あり、貰ったぜ!」
スペルカードを使用した一対一の弾幕戦ならまず魔理沙に勝ち目は無い。
だから魔理沙はそうならぬように接近戦を仕掛けた。
魔理沙の発想は良かったのだがそれでもまだ霊夢には及ばなかった。
魔理沙「なっ…」
霊夢「悪いわね魔理沙。化かし合いは私の勝ちよ」
振りかぶった箒が霊夢に当たる瞬間、霊夢の身体は煙と御札に変わった。
魔理沙は戦う前から霊夢のペースに嵌まっていたのだ。
空振った勢いは霊夢がちょっと蹴ってやるだけで魔理沙の身体を地面に叩き付ける。
さらに霊夢は結界で魔理沙の動きを封じ、その上で夢想封印まで放った。
萃香「くっ…黒いの……」
紫「大人しく見てなさい。もうすぐ終わりなんだから…」
魔理沙を助けに行きたいが流石の萃香も紫に邪魔されて身動きが取れなかった。
萃香「黒いの、お前はここに何しに来たんだよ!」
紫「無駄よ。今まで良く持った方だけどこれが人間の限界…」
萃香「あの時の覚悟は何処に行った!、起きろ!!」
今の萃香に出来るのは魔理沙に声を掛けてやる事くらいだった。
魔理沙「萃香…もう少し小さい声にしてくれ。耳が痛いぜ」
萃香「じゃあさっさと起きろよ」
魔理沙「はいはいっ、立ってやるよ。よっこらしょっと…」
紫「(もう限界と思ったのに…人間ほど境界が曖昧なモノは無いわね)」
老人の掛け声を使って魔理沙は余裕を見せながら立ち上がる。
しかし震える膝がやせ我慢だと物語る。それが余計に霊夢を苛立たせる。
霊夢「何で立つのよ!」
魔理沙「…お前に勝ちたいからだよ」
霊夢「それだけでそこまで戦える筈無いじゃない…なんでよ…」
魔理沙「お前より強くなればもうお前を異変の解決に行かせずに済むんだ。それに…
私さえ強ければ……お前にこんな事をさせずに済んだんだ!!」
霊夢「…馬鹿っ……」
魔理沙「さぁ来いよ。私は動ける限り負けを認めねぇぜ」
なんとか立っていたが萃香は魔理沙に勝算は無いと思った。
魔理沙は駆け引きや弾幕戦では勿論、接近戦ですら格の違いを思い知らされている。
魔理沙「…どうした、来いよ」
霊夢「(もう終わりにしなきゃね)紫、あとは任せたわよ」
紫「…やっぱりこうなるのね」
紫が何をするのか気になったが魔理沙はそれを考えるのは止めた。
目の前には霊夢がいる。霊夢を倒さない限り考えるだけ無駄だから…。
再び霊夢の夢想封印が魔理沙を襲う。更に霊夢は御札と大弾をスペルに混ぜる。
そして魔理沙が動きを止めて防御に徹した時、それを隙を見て直接攻撃に切り替えた。
霊夢「これで…終わりよ」
霊夢は大きく振りかぶったお払い棒を振り下ろした。
受け止めようとした魔理沙の箒をへし折った。左肩にお払い棒の一撃を受け、魔理沙が倒れる。
見た限り魔理沙には戦う力が残っていないように見えた。霊夢は終わったと思った。
霊夢「紫、悪いんだけど……」
紫の元に歩き出した霊夢がふと、歩みを止めた。何かに引っ張られているような感覚があった。
振り向くと魔理沙が服の端を掴んでいた。
魔理沙「ははっ…やっと捕まえたぜ」
霊夢「…やっぱり馬鹿よ、貴方」
魔理沙「あぁ、自分でもこんな方法、らしくねぇと思うぜ。でも、お前に勝てるならこの程度…
どうって事ないぜ…『ドラゴンメテオ』」
当たらないなら当たる状況を作ればいいのだがどうすればいいか?。霊夢を捕まえればいいのだ。
言えば簡単だが容易ではないそれを体現出来たのは魔理沙の覚悟の現れだろうか。
ともあれ破壊力抜群の魔理沙のスペルが霊夢に直撃した。
魔理沙「…どうだ!」
霊夢「(お、御札の数が…足りなかった…)ゆ、紫……」
紫「…結局こうなるのね」
紫の手の上に小さな空間の歪みが見えた。やがてそれは大きな隙間へと変化し始める。
魔理沙「紫、お前何するつもりだ…」
紫「何ってこれで終わりにするつもりなんだけど?」
霊夢「悪いけど……付き合ってもらうわよ魔理沙」
魔理沙「ぐっ…畜生ぉぉぉ……」
紫の隙間はまるで生き物のように口を開き、二人を飲み込んで消えた。
数日後―――
人間の里は何事も無かったように普段の生活を続けていた。そう、何事もなかったのだ。
慧音の話によると数日前に起こった事は総て結界の中での事だったらしい。
破壊された建物は萃香が分身して作った後、皆で楽しく壊したモノだそうだ。
実は慧音も霊夢サイドにいた。慧音の役割は里の人間達の記憶操作だった。
闘いの一部始終と妖怪への恐怖を記憶として植え付ける。
それが二度と妖怪が襲われないようにする為に霊夢が考えた計画だった。
だが本来の目的は霊夢と魔理沙が戦う前に全部終了していたらしい。
魔理沙「まんまとお前の計画に乗せられちまったみたいだな」
霊夢「悪いわね、利用しちゃって…」
魔理沙「つーか私と戦う前に説明してりゃそれで終わってただろが…」
霊夢「でもそれじゃスッキリしなかったでしょ?」
神社の境内を眺めながら包帯だらけの二人は並んで冷たい麦茶を飲んでいた。
魔理沙は隙間に入るといきなり霊夢に謝られた。何の事だか分からない魔理沙に今回の計画を
簡単にだが説明し、魔理沙がもういいと言うまで霊夢は謝り続けたのだ。
魔理沙「…ったく、私にも教えてくれりゃいいのによ」
霊夢「妖怪以外の悪役は私だけで十分なのよ」
魔理沙「そうかよ…。里じゃ博麗の巫女はもぅ味方じゃないって騒いでるらしいぜ?」
霊夢「そう…まぁ当然の運びよね」
魔理沙「生活はどうすんだよ。賽銭は全く期待できないぜ?」
霊夢「その時は魔理沙が世話してくれるんでしょ?」
魔理沙「…馬鹿っ……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
たまには霊夢が異変を起こしても良いんじゃないかと思って書いたんですが…
スイマセン……また無理矢理終わらせちゃいました
何と言いますか…おれには長編って向いてないですね
大半のSSが勢いだけで書き始めたモノばっかだし……
ちなみに最近ネタが無くなりつつあるので今まで書いたSSの
後日談とか続きとかを書こうかと思案中です
リクエストがある方は管理人の方へ御一報をお願いします
・
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ただし………出来るのがいつになるか分かりませんし、出来る保証もありません(オイコラッ
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