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梅味
梅味
逃げられない - 梅味の小説 - pixiv
逃げられない - 梅味の小説 - pixiv
12,022文字
逃げられない
attention
・キメ学世界線
・鬼滅世界線は前世設定
・捏造に捏造を重ねてあります
・死ネタも含んでます
・宇の様子がおかしい
・仄暗い雰囲気()

Twitterに吐き出してたネタからできた、自分の好きな要素を詰め込んだらこんな宇善になりました。たのしんでいただければ幸いです。
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2019年7月20日 20:17

「思い出してはいけない」 鏡に映った不思議な格好をした俺みたいなやつが、俺に向かってそう言う。 「思い出してはいけない」 夢だ。明晰夢だ。何度も見ている夢だ。少し動いてみても、鏡の中の俺は動かない。ただずっと壊れたレコードのように「思い出してはいけない」そう言うだけ。 俺と同じ顔の男は、髪を長く伸ばし後頭部あたりで結っていて、三角が散りばめられた黄色の羽織と何かの部隊みたいな黒い服、腰には白い柄と鞘の刀を提げている。いつの時代の服なんだ?歴史は得意ではないから、思い出せない。そもそもなぜ俺がそんな格好をしている?長い髪、知らない服、知らない刀、知らない自分。だけど、どこかしっくりとくる鏡越しの自分に触れようと手を伸ばすと、鏡はひび割れ崩れ落ちた。バラバラと砕けた鏡には知らない自分はもう映っていない。 妙にリアルな夢のせいで寝汗によって背中はぐっしょりと濡れていて、その気持ちわるさで目が覚めた。寝汗を吸ったTシャツを変えるために洋服タンスを開けると備え付けの鏡が目に入る。映っているのはいつもの俺、ただの我妻善逸だ。だけど、夢から醒めても耳の奥には、「思い出してはいけない」の声だけがこびりついて離れなかった。

❇︎❇︎

「はい、そこボタンしっかり留めてくださーい。富岡先生に言いつけますよ〜」 運が悪いことに風紀委員となってしまった俺の朝は早い。当番の日は誰よりも早く学校へ来て校門前に立たないといけない。ここ数週間の変な夢のせいで夜眠れなかったことは理由なんかにはならないのだ。寝坊、遅刻、それは即ち死を表している。風紀委員会の先生である富岡先生に既に髪色で目をつけられている俺にはその2択を選んだ場合死しか待っていない。富岡先生は直ぐに手が出るから極力関わらない、怒らせないが吉なのだ。だから寝不足だろうが身体に鞭を打って登校をする。俺よりも後に登校してくる生徒もみんなどこか眠そうで、朝はこんなものなんだと安堵していると、見知った顔が校門を潜り抜けた。 「あっ、炭治郎おはよう!」 そう声をかけると、炭治郎はギョッとした顔をして駆け寄ってきた。 「善逸!なんて顔してるんだ!」 「おはようよりも先の一言がそれぇ!?どうせ俺はいつもどおりの不細工ですよぉ」 思っていたのとは違う反応炭治郎にされて少し傷ついたよ俺は!そう泣き真似をしてアピールしていると炭治郎は心配そうな顔と音をして、顔を覗き込んできた。 「ごめんって善逸、そうじゃなくてな?顔色が悪そうだし、隈が酷いから心配になってしまって」 炭治郎の暖かな指先が目の下にそっと触れる。瞬間、バチッと静電気のような痛みが頰から全身にかけて走った。持っていたバインダーを落とし、後ろへ倒れ尻餅をつく。何が起きたかはわからない、だけどぐらぐら目眩がして炭治郎の顔が見えない。ごめんって炭治郎、そんな不安そうな音をするなよ。意識が途切れる寸前、暗くなったまぶたの裏に夢に出てくる鏡に映った知らない俺が浮かぶ。 「思い出してはならない」 そう告げた俺が消えると同時に今朝の俺の記憶もそこで途絶えた。

✴︎✴︎

「なあ、いつになったら俺のとこに嫁いでくるんだ?」 「いつになっても嫁ぐ気はありませんけど」 「はは、お前は頑固だなぁ」 暖かな日が差す縁側に座って、お茶をしながら話をする。束の間の休息、次いつ任務に召集がかかるか分からないから、こういった休息は大切にする。××さんのお屋敷の縁側はいつも暖かくて、こうやってお茶をするのが楽しかった。こんな俺にも気をかけてくれる××さんは、俺を茶化すけど真剣な音で話をする。だめだよ××さん、××さんには3人のお嫁さんがいるんだから、俺なんかに気を取られていたら逃げられちゃいますよ。肩より下に伸びた俺の髪を××さんが指先で弄る。 「伸びたな髪」 「そうですね、願掛けです」 「なんの?」 「秘密」 「あっそ」 興味を無くしたのか弄るのをやめた指先は、そのまま俺の耳に触れそのまま顎先まで肌を滑り、人の呼吸が重なるまでに時間はかからなかった。

陽だまりのように暖かな縁側が俺は大好きだった。

❇︎❇︎

夢から覚めると、見慣れない天井だった。カーテンで仕切られた世界、外から聞こえる生徒の笑い声、チャイムの音、保健室だと気づくまでにそう時間はかからなかった。なぜ俺は保健室のベッドなんかに寝ているんだ?朝からの記憶を辿ると、風紀委員の仕事中に炭治郎と会話したところまでしか記憶がなかった。保健室にいる経緯がわからないと言うことは少なくとも炭治郎との会話中になにかがあったことしか考えられない。記憶を遡ってみると炭治郎の不安そうな顔が浮かんだ。 「あー…炭治郎に悪いことしたな…」 寝不足で倒れるなんて情けない、炭治郎は俺の寝不足に気づいて声をかけてくれたのに更に心配させてしまっただろうか。後で謝らないとな、そう考えてベッドから起き上がり少しふらつく脚でカーテンの世界から外へ出ると保健室は無人で静まり返っていた。 「ありがとうございました」 誰もいない保健室に一応声をかけて、その場を後にする。保健室からそんなに遠くないはずの教室がいつもよりも遠く感じた。 教室への道すがら先ほど見た夢のことを思い出してみるが、霞がかかったようにぼやけて上手く思い出せない。ただ、陽だまりのような縁側の暖かさだけは何故か今も肌に感じていた。 あの2人は誰なんだろう。 自分に似た誰かともう1人の影。 2人が夢に出るようになって実を言うと2週間は経っていた。夢の中でははっきりと見えているはずなのに、目が醒めると霞がかかって見えなくなる。さっきみたいな暖かい夢の時もあるし、思い出したくないくらいの悪夢の時もある。傾向としては昼のうたた寝の時の夢は暖かな夢が多くて、夜の夢は大抵が悪夢だった。夜の悪夢は俺を寝不足にするには十分すぎるほど頻回だった。寝て、悪夢で目が醒めて、寝直して、悪夢で目が醒める。これの繰り返しばかりで、ここ最近しっかり寝れたのは今さっきのベッドの中と授業中の居眠りだけだ。眠らないと人は活動できない、眠りたいのに眠れない俺の身体はとうに限界を迎えたらしく今朝ブツリと意識を飛ばしたのだろう、人の身体はうまくできていると思うよ本当に。 ふらつく脚で3限の教室である美術室にたどり着くと、授業中なのに賑やかな声が漏れていた。この学校の美術教師は少々ブッとんでらっしゃるので、美術室の壁をブッ飛ばしたりもしているらしく賑やかなのは怒らないし、楽しくやってる様子を見るのが好きらしい。静まり返った教室に途中から入って注目を浴びるよりかは幾分かマシなので、3限が美術だったことに感謝するしかない。恐る恐るドアに手をかけると、自分で開けるよりも先にドアが開いた。 「よぉ、我妻。俺の授業遅刻するとはいい度胸じゃねえか」 自分の頭の位置より更に上にある声の主の顔を見上げるとブッ飛んだ美術教師が笑っていた。 「オッ…オハヨウゴザイマス…」 「おはよう、我妻。倒れたんだって?動いて平気か?」 ブッ飛んだ美術教師の宇髄先生は一言目は怒ってる音をしてたくせに、俺の顔を見るなり優しく声をかけてきた。 「はい、大丈夫です」 「まあ 無理すんなよ」 俺に頭を大きな手で髪を梳くように撫でると教室の中央へ戻っていった。宇髄先生が触れた頭には何故か、あの陽だまりのような暖かさが残っていた。 俺はこの暖かさを知っている? いや、知るわけがない。宇髄先生に頭を触られたのは初めてだ。そもそも野郎に触られる趣味はない、気のせいだ。 「思い出してはいけない」 耳にこびりついた声が聞こえた気がして、俺は考えるのをやめて席へと脚を進めた。

✴︎✴︎

走る、走る。 逃げるために走る。 何から?? 何って、何から逃げているんだ? 腰には自分の刀を提げているのに、何故抜かない?何故切らない? 何故って、相手が。 相手は?

相手はなんだ?

くらい森の中を走り抜ける。 気色の悪い生命体が俺を追ってくるから、逃げるのだ。俺は弱いから、すぐ死んじゃうくらいには弱いから。最弱だから。 何の中で最弱なんだ?

何って鬼殺……

❇︎❇︎

(鬼…殺隊…?) 目が醒めると今度は屋上だった。 どうやら俺は炭治郎と伊之助との昼食中にこっくりと寝入ってしまったらしい。3限は何事もなく美術の授業を終え、4限も煉獄先生の歴史の授業を受けた気がする、廃刀令は明治時代に出されたという授業だった。昼放課になったからいつもの3人で屋上に出て弁当を広げて食べていたはずなのに、寝入ってしまっていたようだ。 「善逸、本当に大丈夫なのか?朝も急に倒れてしまうし、夜そんなに眠れていないのか?」 「朝のことは本当に悪かったって炭治郎。俺は大丈夫だからそんなに心配しないでくれよ、な?」 「そうか…でも無理は絶対にするなよ?」 「わかった、わかった」 炭治郎の優しさにはいつも救われている。心配かけないようにしないといけない。昼に誰かに迷惑をかけないためにも夜どうにかして眠らないといけない、帰りに薬局で睡眠導入剤でも買って帰ろう、そうしよう。広げた弁当からお気に入りの卵焼きを突いていると、伊之助が「おい」と声をかけてきた。 「紋逸」 「善逸だ」 伊之助はまっすぐ俺を見て真面目な音を立てて口をひらく。 「思い出さなくていいこともあるんだぞ」 ひゅっと自分の喉が鳴った。 夢の中で俺に似た男が言っていた、「思い出してはいけない」と重なる。伊之助は何を知っている?何を思って今それを俺にいった? 「なっ…なにを……?」 震える唇が音を紡げたのはそれだけだった。伊之助は俺と目を合わせたまま動かない。伊之助はなにかを知っているのか?何って何を知っているんだ?思い出さない方がいい何かを伊之助は知っているのか? 「善逸!」 声をあげたのは炭治郎だった。指先がガタガタ震えて箸が手から溢れ落ちる。状況が読み込めなくて冷や汗が背中を垂れる。炭治郎もばつが悪そうな顔をして不安そうな音を立てている。2人が知っていて俺が知らないことがある?2人の顔が俺を覗き込んでいる。 既視感。

あれ、この2人と俺はいつから知り合いだったっけ??

❇︎❇︎

流石に1日に2回も倒れたら、病院に送られて早退ルートですよね。起きたら保健室でも家でもなくて病院の診察室だった時は流石に驚いたけど、仕方の無いことだと思う。屋上で再びぶっ倒れた俺は、炭治郎によって呼ばれた煉獄先生におんぶされて保健室に運ばれ、授業がなかった富岡先生によって病院へ連れてこられたらしい。救急車を意地でも呼ばない姿勢に感動したね俺は!!俺には救急車で運ぶ価値もないってか!?って富岡先生に言ってやりたかったけど、富岡先生から珍しく不安そうな音が聞こえたから言うのはやめておこうと思う。 「目が醒めたのか」 「すみません、連れてきて頂いて」 「べつにいい」 会話が止まる、富岡先生のこの会話を続けようとしない姿勢が苦手だ。怒られるのも怖いので黙っておこう、そう思った矢先に相手が口を開いた。 「医者が、寝不足だと言っていた。眠れていないのか?」 「……はい」 心底驚いた。他人に興味がないとばかり思っていた富岡先生が話を振ってくるとは思わなかったからだ。人の話を聞こうとする気があったことに驚いてしまっていると、富岡先生は淡々と言葉を紡いでいった。 「何故、眠れていないかは知らないが、夜眠れないのならば授業中以外の寝れるときに寝ておけ。倒れてしまったら意味がない。しばらく風紀委員の当番も休みでいい」 「ほっ、本当に富岡先生ですか……?」 今までとはまるで違う富岡先生に思わずそう声をかけると、あからさまにしょげた音がした。 「普段通りにしているつもりだったが、そんなに違ったか?」 「全然違いますよ…??今日は優しいんですね、明日は槍でも降るんじゃないですか?」 「槍は、降らないだろ…」 思わず笑いが溢れてしまう。怖いとばかり思っていた富岡先生の違った一面を見れて得をした気分になった。静かに笑いあったあと、ふと昼時に見た夢で出てきた言葉があったのを思い出した。先生なら知識がある分知っているかもしれない。 「あの、富岡先生。き…鬼殺…隊ってご存知ですか?」 富岡先生の目が驚いたように丸く開かれた。先生は嘘をつくのが下手らしく、動揺の音を立てながら、「知らない」とだけ目を合わせることもなく呟いた。 「そうですか…」

自分だけ知らない何かがある。 知らない方がいいことがある。 思い出してはいけない何かがある。

夢の中だけで確証がなかった何かが、存在する何かだと言うことだけが形付いてきた。

結局、精密検査の結果にも異常は見つからずただの寝不足ということで強めの眠剤を処方された。長いこと病院にいたらしい、時刻は夕方となっていて、じぃちゃんが迎えに来てくれていた。富岡先生に改めてお礼をいい、病院を後にする。

長い夜は始まったばかりだ。

✴︎✴︎

「雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃」 目にも留まらぬ速さで、何かの頭が身体と離れ離れになる。離れ離れになってしまった何かは血を撒き散らし、灰になるかのようにぼろぼろと崩れ落ちその場から消えてしまった。

俺はこの状況を知っている。

倒した何かの仲間がわらわらと男の周りに集まってくる。 「おい、鬼狩り。喰ってやるから、最期に名乗れよ」 1匹の異形の何かが声を荒げる。 すると血溜まりの上に立つ、黄色の羽織を着て白い鞘の刀を提げた、長髪の金髪の男が優しい声色で名乗る。 「鬼殺隊 雷柱の我妻善逸だ」

❇︎❇︎

「うわぁぁぁっっ!!!」 ベッドから飛び起きると寝汗でTシャツがぐっしょりと濡れていた。悪夢を見た後はいつもこうだった。べたべたとTシャツが肌につく感覚がいやで、変えるために洋服タンスを開けると、備え付けの鏡に自分が映った。 鮮やかで透き通るような金髪。 今は短いが、“以前”は長く伸ばしていた。 今、鏡に映るのは今の自分だが、夢の中に出てくる自分に似ている男は、前の俺だ。あの男は俺だ。夢で俺は前世の記憶を追っているのだ。 「鬼殺隊…我妻善逸……?」 しっくりくる響きと刀を握っていた感覚が生々しく手の平に残っている。自分の中のものすごく大切な部分を忘れていたような気がして、欠けていたものが埋まった気がして力が抜ける。伊之助や炭治郎や富岡先生が濁していたのはこのことだったのだろうか?3人が濁したことがこれだったのかどうかも分からない、なにせ自分が誰だったのかだけを思い出しただけだからだ。また夢を見たら思い出していくのだろうか?少しでも誰かに近づきたい気持ちと眠りたい気持ちとが混ざり合う。力の入らない手足で机まで行き病院で処方された睡眠薬を規定量の倍を手の平に出して飲み込む。今は夢だとか前世の記憶だとかは置いておいて、周りに心配かけないようにすることが最優先に感じた。しばらくするとどっと眠気が襲ってくる、このまま何事もなく朝を迎えれますように、川の中へ落ちるように俺の意識も落ちていった。

❇︎❇︎

「朝じゃん…」 カーテンから溢れる暖かな光によって目が醒める。ひさびさに熟睡感のある朝を迎えられた。服を着替えていることや、机の上に空になった薬の包みが置いてあることから夜中に起きて行動したとは考えられるが、真夜中に見たであろう悪夢と同様に霞がかったように覚えていない。だけど、頭の中は何故かスッキリしていて、無くしていたパズルのピースを見つけたような感覚だった。 「人間、寝れるだけでこんなにもスッキリするんだな……」 今日は倒れないで過ごせそうだ。 風紀委員の仕事も免除された猶予のある朝を軽くなった身体で過ごす。身支度に時間をかけられるのも久しぶりで、いつもは長時間立つことのない洗面台の前に立つ。鏡に映る自分はいつも通りの我妻善逸だ。 「あれ……?髪、こんなに短かったっけ?」 違和感。 伸ばせと言われて伸ばしていた髪。 伸ばすと怒られるので切った髪。 互いに死なないようにと願をかけた髪。 校則違反にならないように切ってある髪。 あの人にもらった結い紐で結ってある髪。 櫛でとかすことも稀な髪。 長かった髪と短い髪。 違和感しかない。 霞が少しずつ晴れていくように、悪夢の記憶が見え隠れする。頭は殴られたようにガンガンと痛んで目が眩む。違和感しかない鏡に映った自分は、「もう戻れない。思い出してはいけなかったのに」そう言っているように見えた。 知らないといけない何かがある。 自分の前世 そんなものは信用していなかったけれど、もう違和感はそれとしか考えられなかった。 既視感。 そうだ、昨日の夜に同じことを考えていたんだ。夢で追う自分の記憶は確かなものである確証は無くて、全て俺の妄想かもしれない。真実を知るためにも心あたりのありそうな人に聞くしかないのだ。しっかり寝たはずなのにグッと重たくなった身体を引きずって学校へ向かう。

これは知らないといけないことなんだ。

❇︎❇︎

「炭治郎、伊之助、聞きたいことがあるんだけど」 昼食を摂るためにいつもどおりの屋上にあつまる。炭治郎も伊之助も緊張した音をしている。きっと俺が何を聞こうとしているのか大方予想がついているのだろう、張り詰めた様子だ。 「どうした、善逸」 「…なんだよ、早く言えよ紋逸」 「……前世ってあると思うか?」 炭治郎も伊之助からも息を飲む音がした。返事に迷っている音がするし、2人とも心臓の音がうるさい。 「…どういうことだ?善逸」 沈黙を破ったのは炭治郎で、まっすぐ目を合わせながら聞いてくる。 「伊之助が、昨日思い出さない方がいいって言ってたのは何だろうって考えてみたんだ。そしたら、夢に知らない自分が出てくることに気づいたんだよ。長い金髪に黄色の羽織を羽織った俺みたいな男が、鬼の頭を刀で切り落とす夢。鬼殺隊って名乗ってた。炭治郎と伊之助と過ごすこの時間もなんだか何度も何度もあったような気がするんだ。なあ、こんな夢だったり既視感を前世だって思う俺はどこかおかしいかな……?」 淡々と話す俺の話を2人は真面目に聞いてくれて、次第に俯いていった。反応がないのは流石に恥ずかしいから、何か反応が欲しいのだけど… 「思い出さなくていいって俺は言ったからな。もうそんなとこまで思い出したんなら、後戻りは出来ないだろ。地獄しか待ってねえよお前には」 「伊之助、そんな不安を煽るようなことを言うな。善逸はただでさえ怖がりなんだから、地獄とか言ったらダメだろ」 炭治郎は優しい声でポツポツと話を始めた。 「善逸、きっとその夢も既視感も善逸が思っている通りだよ。だけどな善逸、俺たちは今を生きているんだ、あまり深くは知らなくていいと俺は思う。俺も伊之助もきっと全部を覚えている、覚えていない善逸は思い出さなくてもいいんだよ。記憶の先はきっと伊之助が言うように辛いものも多いだろうから。俺はこうやってまた3人で笑えてる事実だけで嬉しいから」 炭治郎はいつも通りに笑いかけてくれた。3人でいる時の既視感は過去に何度もあった事実だったのだ。この2人も鬼殺隊で一緒に過ごしていた、その事実と夢の正体が前世の記憶だということを知ることが出来たことで、痛い妄想をしているかもしれないという可能性が消えたので万々歳だ。ただ、記憶の先が地獄だという言葉だけが引っかかってしまって抜けない。 地獄。 何がいったい地獄なんだろうか。

✴︎✴︎

走って逃げる。 逃げて何になる。 逃げたって仕方ないことだろ。 もうどうしようもないじゃないか。 そう自問自答しながらあの屋敷から逃げるために走り続ける。速さには自信があるが耐久力に自信はない、相手は体力お化けだから先に身を隠したものが勝ちだ。 何処で壊れてしまったのなんかわからない。何がきっかけなのかもわからない。あの人が柱を辞めて、たくさんの人の血が流れて、死体が積み重なった。空いた隙間を埋めるためにも俺は努力して力をつけたし、柱にもなった。任務をこなしてあの人の家に帰る。あの人が「伸ばせ」と言ったから髪も伸ばして結って貰ってる。「好きだ」という言葉に俺もほんとうの好きを捧げた。 なのに、何処で間違ってしまった? 遠くから俺を呼ぶ愛しいあの人の声が聞こえる。振り返ってはならない。 俺は走らなければならないのだ。

❇︎❇︎

「…い、おい!我妻!!我妻おきろ!」 肩を揺すられて無理矢理覚醒させられる。 いつから眠ってしまっていたのだろうか、窓の外は茜色に染まり始めていた。昔の夢をみていた。誰かに追われる夢。誰だったのだろうか。霞みがかった夢を追っていると、起こした張本人がムッとした表情でこちらを見ている。 「う…宇髄先生…?」 「お前、もう下校時刻過ぎてるぞ?いつまで寝てんだ」 「えっ!やばいこんな時間!起こしてくださりありがとうございました!!」 「起こしてやったんだ、ちょっと荷物運ぶの手伝え」 宇髄先生は教室から課題を美術準備室に運ぶのを手伝って欲しいようで、仕分けた課題を手渡してくる。寝起きの身体には重なったスケッチブックは重く感じた。 「先生1人でも運べそうですけどね」 「うるせー、風紀委員が下校時刻まで寝てたの富岡にチクんぞ。荷物運び手伝ってたって言えば怒られねえだろ」 「わぁ、先生頭いい!」 「そりゃ、神だしな」 宇髄先生とのやりとりは、炭治郎や伊之助とのやりとりよりも心地よくて、それでいて強い既視感がある。先生も前世の俺に関わってくれていたのだろうか?だとしてもこんなブッ飛んだ優良物件とは仲良く出来なさそうだけど。前世を夢で追っているからこそ、実は関わっていたのではないかと考えてしまう。先生とたわいもない会話をしつつ日暮れの校舎を歩く。黄昏時だ。前の夢で見た俺とも1人の誰かが話していた時も先ほどの誰かに追われる夢の時も黄昏時のようだった。あの人はいったい誰だったのだろうか。 そんなことを考えながら足を進めていると目的地へあっと言う間に着いた。美術準備室へ着き、ごちゃごちゃした部屋に足を踏み入れる。スケッチブックを机に置いて、ひと段落したときに、先生に聞いてしまった。興味本位だった。 「先生は前世って信じますか?」

宇髄先生から、雷が落ちたような音がした。

先生は目を見開いて、それでいて今までに見たこともないような笑顔を見せた。同時に、俺はその笑顔を直感で怖いと感じた。 逃げなきゃ。 頭の中で警笛が鳴る。 頭に浮かぶ前世の俺が「思い出してはいけない」と叫ぶ。 後ずさりをするよりも先に宇髄先生の腕が俺の腕をがっちり掴んで、引き寄せられる。あっという間に距離を詰められて、瞬きもできない間に唇が重なった。

知ってる。 この唇を、重たい愛を。

唇の隙間を生暖かい舌が割り入ってくる。歯茎に舌を滑らせ、逃げようとする舌を逃がさないとばかりに追って絡ませる。宇髄先生の唾液が一方的に口の中に流れてきて、いっぱいになる。逃げたくても腰に腕をを回され、離れられない。酸欠で頭がくらくらする。溢れた唾液が唇の端から流れていく。抵抗しようと宇髄先生の胸元を押していた腕に力が入らなくなって、だらんと垂れてしまう。抵抗がなくなったとわかった宇髄先生はしっかり俺に腕を回して逃げられないようにしてから唇を離した。 なんだこの男は。 逃げないと、手遅れになる。 そうわかってるのに身体は先生の腕に抱かれて逃げられないし、酸欠の頭は呼吸をすることを優先させる。 「善逸、善逸善逸善逸」 先生は今まで下の名前で呼んだことなんか無かったのに、急に下の名前を壊れたレコードのように紡ぐ。 「せっせんせい、離して」 「もう絶対に離さない。何があっても逃しはしない。善逸、愛してるよ善逸」 満面の笑みで笑いかける先生には狂気しか感じなかった。呼吸が整ってきた俺を見て先生はまた口を塞ぐ。予想もしていなかった事態に混乱して、頭が追いつかなくて、状況が読み込めず、俺は意識を飛ばした。

夢の中で前世の俺が語りかけてくる。 「見つかっちゃったね、もう逃げられないよきっと。今も昔も、俺は宇髄さんからは逃げられないんだなぁ、愛され過ぎでしょ俺」

そう笑った前世の俺の頭が飛んだ。

✴︎✴︎

「善逸、お前が好きだ、愛しい。誰にも渡したくない……善逸…」 宇髄さんと恋仲になったのは遊郭での戦いの後、互いに見舞いをしあっていた辺りからだろうか。お嫁さんが3人もいるのに、俺にも興味を示して本当に頭が狂った男だと思っていた。でも、男である俺にもお嫁さん達と同じくらい、それ以上の愛を注いでくれた。俺もおかしかったと思う。人からの無償の愛っていうものを貰ったことがないから、心地よく感じてしまったんだ。宇髄さんの4人目の恋人。宇髄さんに目をつける興味すら引けない女性には与えられない場所。心地がよ過ぎて長いこと居座ってしまった。長く伸ばした髪も死なないようにの願掛けなんて言葉ばかりで、本当は宇髄さんが伸ばせって願うし、毎日結ってくれるのが嬉しくて、伸ばした。柱になって任務が増えても帰る場所があることが幸せで、いつまでも幸せに浸っていた。互いに互いがいないと生きていけなかったように思う。 そんなある日、俺の元に継子になりたいという少年が現れた。いつかの任務で助けた少年だった。炭治郎や伊之助にも継子が居た、何度も継子を見つけて育てろと言われていたけど、俺は宇髄さんと生きているし勝手に継子なんて作れないと思って断っていた。だけど俺も柱だし、後は残して行かなければならない、そう思って宇髄さんに継子を育てることにしたと話をした。ちょうど日が暮れそうな時間だった。黄昏時の少し前、いつも通りに縁側に座って結った髪を解いてもらってる時に軽い口調で話してしまった。

後ろから硝子が砕け散るような音がした。

今までに聞いたことのない音に恐怖を感じて、瞬間で距離をとる。日が暮れて薄暗くなっており、宇髄さんの顔はしっかり見えなかった。失敗したと思った時には既に遅くて、宇髄さんは距離を詰めようと立ち上がっていた。 「善逸がこれから愛していくのは俺だけじゃないんだな。そうか」 これはやばいやつだ。 踵を返して宇髄さんの屋敷から飛び出る。 逃げれるとこまで逃げないと、多分俺は死ぬ。宇髄さんからはそんな音がした。 多分、2人の距離はもう戻れないところまできていたんだろう。宇髄さんのなかではお嫁さんたちよりも深いところに俺という存在がいたのだ。たしかに俺が柱になった辺りから愛というか執着が濃くなった。柱は激務で常に死と隣り合わせだから、失うことを恐れたのだろう。宇髄さんが継子にしたのは俺だけ、俺の師範は宇髄さんだけ。繋がりはそれだけが良かったのだ。それなのに俺が継子をつけるというもんだから、関係性にヒビが入ることを恐れたのだろう。そんなことは絶対にないのに。だけど宇髄さんは絶対を求めるのだ。 薄暗い森のなかを逃げる。 逃げたってどうしようもない事なんてわかってる。わかってるけど、逃げないとダメだって警笛が鳴る。 遠くで俺を呼ぶ愛しい人の声がする。 「俺とお前だけだって思ってたんだけどなぁ善逸。がっかりだよ善逸。お前は俺の元からもう離れるんだなぁ善逸……?」 後ろを振り向いたらダメだ。 どろどろの愛の海に沈んでいた俺は急に陸に上がって走っている。ずっと大好きだったし一緒に生きていたかったけど、宇髄さんにはそんなつもりはもうないらしい。 俺は継子を育てるってこと賛成してもらいたかったよ宇髄さん。アンタのお陰で立派に柱にもなれたんだからそれを誇っているからこそ、育てていきたかったのに。宇髄さんはそれを否定に捉えてしまった。あっけない終わりじゃん、これが宇髄さんのいう愛なの?? 柱を引退して長い時間たっているはずなのに現役の柱である俺はこうやって追いつかれてしまうんだよね。やっぱ宇髄さんには敵わないや。後ろから伸びてきた筋肉質な腕に長く伸ばした髪を掴まれる。 「ぜんいつ」 「うずいさん」 宇髄さんのために長く伸ばした髪が命取りになるなんて俺は、思っても見なかったですよ。笑えないや。 「ずっと大好きだった、愛してるよ善逸」 多分これも宇髄さんなりの愛の形なんだろうな。俺にはちょっと理解できなかったけど。

あっ、鬼ってこんな気持ちだったんだな。

って考える間に、頭と体は離れ離れになってそこで意識は途絶えた。

❇︎❇︎

「……」 目を開けると、外は暗くなっていた。 「おはよう、善逸」 ソファに横になって寝ていた俺を部屋にある唯一の机を挟んで、満面の笑みを浮かべた男が見つめていた。 「おはようございます……」 「遅いお目覚めだなぁ、善逸。気分はどうだ??愛しい愛しい宇髄さんに会えて最高だろ?」 「思い出さなければ、よかったですよ」 美術準備室は狭くて、一歩一歩距離を縮めてくる宇髄さんから昔のように逃げる事は出来なかった。宇髄さんはソファに座り込む俺を押し倒して、逃げられないように手を抑え込む。 「記憶が無いって知った時は、どうやって手に入れようか悩んだけど、思い出してくれてよかったよ善逸。ずっとずっとずっと善逸に会いたかった、今回は本当の愛を2人だけで育てて行こうなァ。善逸」

逃げられない
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2019年7月20日 20:17
梅味

梅味

コメント
rs
rs
2月28日
うる
うる
大好きです... 続きを恵んでください!!
2019年11月11日
ママン@インドの村在中
ママン@インドの村在中
あー……好き……
2019年9月15日
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