すみっコぐらしに関わる人に、仕事について語ってもらう「すみっコ仕事人」。
2回目は、玩具メーカーの「株式会社アガツマ」です。「ピノチオ」ブランドで幼児・知育玩具を多く発売しており、中でも有名なアンパンマンのおもちゃは、誰もが一度は手にしたことがあるのではないでしょうか。
2020年9月に発売された「ゲームもおべんきょうもできちゃう! すみっコパッド」。作り込まれたゲームや学習の内容から、すみっコぐらしも大事に育てていることを知った人も多いはずです。
キャラクターを大切にしながら、制作に情熱を傾けている様子がインタビューの節々から分かります。時には、思いがけぬ苦労もあるようで……。
制作秘話に加えて、最後の方では各自の好きなキャラクターも教えてくれました。
(すみっコぐらし学園認定記者・朝日新聞社 影山遼)
影山遼 自己紹介
今回は東京都台東区の浅草橋にある会社で、総勢5人が出迎えてくれました。
みなさん、新商品を生み出す開発部に所属しています。どのような人物か想像がつくよう、少し長くなりますが、なぜ今の会社に入ったのかとともに紹介します。
・小泉良江さん:部長。大学で美術を学び、プロダクトデザイン(製品のデザイン)に興味があり入社した。多岐にわたる商品をこれまでに開発している。
・中村有希さん:中村チーム(熊原さん、渡邊さん、本田さんらが所属)のリーダー。大学では生活環境情報学を専攻。洋服やテディベア作りなども単位になる珍しい学科。生活に密接なものを考える中で、自身も楽しんできたおもちゃの存在に至った。「どんどん良さを発信したい」
・熊原友里さん:理系で、高齢者向けのコミュニケーションロボットなどを作っていた。周りはシステムエンジニアになる人が多い一方、もの作りがしたいと就職。入社の面接の際に提出した「自分の持っているおもちゃをしゃべらせる」という企画書は伝説になっている。
・渡邊芽生さん:大学では保育について勉強しており、「おもちゃは生まれた時から身近にあり、成長に欠かせない」と気づいた。おもちゃの良い部分は、子どもの好きなものに親の込めた思いも加わり、相乗効果で育っていくところ。中でも、根強い人気のある会社を選んだ。
・本田秀平さん:大学でメディアを専攻。幼少期から、様々なおもちゃやキャラクターが好き。一番はまったのはドラゴンボール。コンテンツに関わることを「仕事にするしかない」と玩具メーカーを中心に就活。最近は、呪術廻戦やPUI PUI モルカーも。もちろんすみっコも大好き。
左から渡邉さん、中村さん、熊原さん、本田さん
――まず、どのような経緯ですみっコぐらしを商品化することになったのですか。どなたかがファンだったという話でしょうか。
小泉良江さん(以下、小泉):きっかけは今から8年ほど前のことになります。
今、20歳になった娘が小学生の時でしたが、すみっコ(特にえびふらいのしっぽ)が大好きで、パスケースを買いに行くのに付き合って、何軒も店を回ったことがありました。
買い物をする娘の様が可愛くて、かつ、娘の友達も好きな子が多い。そこで、ふと「おもちゃであったら欲しい?」と聞いたら、大喜びでうなずいてくれました。
当時はまだ、会社の上層部もすみっコの存在を知らなかったのですが、地道にコミュニケーションを続けたことで、市場の調査を進めることにOKが出て、さらには商品化に至りました。
――ほほえましいきっかけですね。その時の子がもう成人しているとは。アガツマというと、就学前の子どもの商品がメインのイメージがありましたが、最初から売れたのでしょうか。
小泉:第1弾はスノードームでしたが、いきなり成功です!
すみっコは可能性があると確信し、その後も1点ずつ商品化を地道に進めていきました。
たしかに、すみっコが出るまでは幼児玩具が多く、使っていた子が成長してアンパンマンを卒業すると、お客様が離れていってしまうという悩みがありました。小学生向けの商品を供給できていないという点です。そこで、すみっコは完全に小学生をターゲットにしました。
本田秀平さん(以下、本田):ちなみに現在のスノードームは3作目です。9月に4作目が発売になる予定です。
――他の方々は元々、すみっコを知っていたのでしょうか。
中村有希さん(以下、中村):私は今、入社15年目なので、最初のスノードームを作る時に、初めて存在を知りました。知ってからは、細かい設定に興味が尽きませんでした。
熊原友里さん(以下、熊原):私は入社7年目で、入った時には知っていました。(熊原さんの手元には取材当日も、いくつかのすみっコ文具がありました)
熊原さんの手元にはすみっコグッズが
――続いて、商品はどのように作っていくのでしょうか。
中村:一つの商品につき、1人がメインで担当することになります。どんなデザインにするか、どんなアイテムを入れるかは、みんなでワイワイ話しながら決めることもあります。
今も基本は出社し、近くの席にいるため、雑談しながら「こんな風にしたら可愛いね」と。
小泉:デスクでの話から良いアイデアが出てくることもあります。もちろん、イメージだけで作る商品を決めているわけではありません。時には、数字で攻める必要もあるので、売れている商品のデータはみんな頭の中に入っています。はやりの商品と、当社がこれまでに作ってきた強みとを重ね合わせて、時代とつなげながら生み出していきます。
例えば、アンパンマンは約30年にわたって商品化に携わっているので、好きな年齢や遊びについての知見があります。
会社の風土として、1年で結果を出すわけではないので、単発で見るのでなく、低いハードルから少しずつ、どのキャラクターでも着実に育てるようにしています。
――画期的な商品といえば、「ゲームもおべんきょうもできちゃう! すみっコパッド」(85種類のアプリが入って、181種類という多くのメニューですみっコたちと遊びながら学べる。税込み1万6500円)でした。
制作は難しかったのではないかと推測します。
ゲームもおべんきょうもできちゃう! すみっコパッド
中村:当時、子どもたちの市場ではパッドが人気でした。ただ、今まで、そこまで複雑なおもちゃにチャレンジしたことがありませんでした。
小泉:開発費もかなりかかります。アプリもメニューも数が多いので、全力で開発しました。
熊原:私がパッドをメインで担当しました。それまで、編み物→電池を使って音が出るもの、と担当してきて、いきなりレベルアップしました。前例がなく、ゼロから作り上げていくのが大変でしたが、自分のアイデアをいくらでも取り入れられる点はありがたかったです。
中村:子どもたちが、どうやったら楽しく勉強をしてくれるか……。
「えびふらいのしっぽに登場してもらい、お買い物で算数を学んでもらおう!」というような形で、キャラクターと絡めながら決めていきました。
現代に合わせて、しろくまのプログラミングなども入れています。
他のおもちゃだと、デザインさえ決めればできる場合もありますが、パッドだとストーリーが必要。キャラクターの性格が分からないとできないこともあり、世界観を壊さないように気をつけました。
小泉:今回は、本田が色々と分析し、入れるアプリを表で一覧にまとめました。熊原がそれをくみとった上で、プログラミングをするメーカーに向けて、分かりやすい説明書を作ってくれました。チームでの連携がうまくいった感触がありました。
熊原:作業は、プログラミングの会社とデザインの会社と一緒に、定期的に打ち合わせをして、「こんな風に動いたら、矛盾なくできるよね」などと話しながら進めていました。作っている時は楽しかったのですが、最後のデバッグ(機械のバグや欠陥などを発見するためにひたすら繰り返す作業)が大変でした。
デバッグ作業が夢に出てくるほど、追い詰められていたこともありました笑
それでも発売までこぎつけ、無事に楽しんでいただいている様子が口コミなどで分かった時はうれしかったです。
――発売までに、人知れず苦労が……。評判はだいぶ良いと聞きます。次に「お手紙もカードもかけちゃう! おえかきトレーサー」(全20枚のお手本シートを組み合わせて写し絵をすると、すみっコのイラストが描ける。税込み5,478円)について教えていただけますか。
渡邊芽生さん(以下、渡邊):私がメイン担当でした。いつも見ているすみっコたちの絵を、なぞるだけで描くことがきるようになっています。メッセージカードに添えることもできます。ステイホームが一般的だったということもあり、よく売れました。
すみっコに共感しながら、ストーリーも自分で書く人が多かったようです。商品のレビューに、自作の物語の写真を載せている人もいました。作る段階では、新たな物語を生み出すことまでは想定していなかったので、ここまで活用してもらえるんだと驚きました。
おえかきトレーサー
――商品のデザインはどのように決めていくのでしょうか。
小泉:市場から求められそうなデザインをベースに、サンエックス社に提案しています。みんな、「すみっコぐらし大図鑑」(主婦と生活社)を持っていて、勉強しています。
今は商品を1年スパンで変えることが多いです。2022年はサンエックス社の盛り上げにも合わせて、色々やりたいと思っています。新作のテーマを、おもちゃにも取り込んでいきたいです。
――では、おまちかね。それぞれが推しているキャラクターを教えてください。
本田:聞かれるだろうな、と思い(取材の)2日前から考えていました。私はしろくまです。単純だけれど真面目。散歩で穴に落ちるなど、頑張っているけれど抜けているのが良いですね。
――2日前から考えるという真面目さに、しろくまっぽさがありますね笑(わくわくパーティーゲームズを担当したという本田さんは胸元にしろくまのスノードームをつけていました)
本田さんの胸元にはお気に入りのしろくまが
渡邊:改めて考えたら、私はぺんぎん?好きでした。自分を探しながら、環境が変わるごとに自分に合っているのはこれなんじゃ?と思い込むのが、私に似ています。
――ぺんぎん?好き仲間がいて、一気に親近感がわきました。
熊原:えびふらいのしっぽとあじふらいのしっぽです。かたや無表情でクール、かたやいつもニコニコ。一緒にいるのを見て「はあ〜、可愛い……」と思っています。これからもいっぱい登場してほしいです。
渡邊:そういえば、トレーサーを作っている時に、あじふらいのしっぽを入れてほしいと熊原から猛プッシュを受けたことを思い出しました笑
中村:私は、元々猫が好きだったこともあり、ねこ推しです。私も陰に隠れていたい……。恥ずかしがり屋なところも可愛いです。
小泉:私はもちろん、すみっコの商品化に導いてくれたえびふらいのしっぽを神としています。エピソードも面白く、心をつかまれました。
――最後に、今後どのようにすみっコぐらしを始めとしたおもちゃを作っていきたいですか。
小泉:就職の面接でも、アガツマの商品を小さい時に使っていて良かったという話を聞きます。すみっコぐらしに関しても、そんな商品を作り続けていきたいです。すみっコの可愛い様子と、おもちゃの楽しさ、両方をいかに表現する。もちろん安心・安全という前提はいつでも同じです。
中村:子どもの世界を広げる、成長を豊かにしてくれるという可能性がおもちゃにはあります。すみっこなどのキャラクターがついていることで、子どもが新しい何かにチャレンジする時に背中を押してくれていると思っています。小さい時に自分が楽しんだ感覚を忘れないようにしたいです。
でも、まさか自分が、大人になってからトランポリン(すみっコぐらし ぴょんぴょんジャンプ)を飛んだり、ホッピング(すみっコぐらし ホッピング)をやったりするとは思いませんでした笑
すみっコたちの世界観を愛してくれているファンの方々。私たちもその愛に応えて、大切に一つ一つの商品を仕上げていきます。
――今回も、すみっコ愛があふれたインタビューとなりました。話を聞いていると、あっという間に時間が過ぎます。楽しそうに作る姿、見習いたいものです。すみっコぐらしの新商品は、今年も出るようなので期待しています。ああ、物が増える……。広い部屋に住みたいものです。