年間100万人を超える観光客が利用する、京都の人気観光列車、嵯峨野観光鉄道。
片道7.3kmを時速25kmでゆっくりと走行。
四季折々の景色を肌で味わう事ができる。
だが、この絶景誕生の裏には、一人の男の強い想いとそれに動かされた人々の奮闘があった。
長谷川一彦は、『人の役に立ち、日本経済の根幹を担う大きな仕事がしたい』と、大学院を卒業後、キャリア組として国鉄に入社した。
自らの仕事に誇りを持ってエリート街道を突き進み、国鉄がJRとなった後には、100名以上の部下を抱える様になっていた。
そんな時、新会社の社長に任命された。
だがそれは…事実上の左遷のようなものだった。
実はこの前年、JR西日本は輸送力向上のため山々にトンネルを通し、2つの駅をつなぐ最短ルートを新設。
それまで使っていた保津川渓谷沿いの曲がりくねった線路を廃線とした。
だが、保津川渓谷は美しい自然に恵まれた観光名所。
京都府から強い打診があり、廃線となった線路に観光目的の列車を走らせるという案が浮上した。
これまで観光を唯一の目的とする鉄道など、誰も聞いたことがなかったため、反対の声がほとんどだったのだが…京都府の復活を望む声は強かった。
そこで、社内でも成功するはずがないという意見が大半ではあったが、JRは「3年やってダメならやめたらいい」と
新会社を設立、列車を走らせる事となった。
その社長に選ばれたのが…長谷川だった。
長谷川を抜いて社員はわずか8名、投資額は2億円だった。
入社以来、日本経済の根幹を支える仕事に全力投球してきた長谷川は…「これから3年間、俺は何を目的に働けばええんや」と思った。
とはいえ、仕事は仕事。
長谷川は廃線となっていた線路の整備を外部の業者に任せながらも、開業に向け、山積みされた仕事に日々 忙殺された。
そして、開業まで数週間と迫った頃、観光列車が走る線路を見に行ったのだが…線路上は整備がされていたものの、車窓から見える沿線には雑草が生い茂っていた。
しかし、沿線の整備をこれ以上業者に頼むことはできない。
小さな駅舎を作り、4両編成のトロッコ車両を購入するなどした結果、2億あった予算は、すでに100万円しか残っていなかったからだ。
観光列車の開業が迫る中、長谷川が8名の社員たちと顔を合わせる時がやってきた。
彼らは長谷川同様、出向を左遷だと受け止めていた。
彼らは上司に挨拶すらしなかったり、楯を突いたり、規格外の問題社員ばかりだった。
そんないくつもの不安を抱えながら…観光列車事業はスタートした。
すると、開業日には多くの客が詰めかけた。
実は、京都府の熱い要望もあり、開業前から新聞などで宣伝がされていたのだ。
だが…景色が綺麗でなければ、二度と来てくれない。
やがて、一両に乗客5人と言うガラガラの日も出る様になった。
さらに、雨の日に待機する場所がない駅があるなど、客からの不満が続出。
追加の資金がJR本社から出るはずはなく、収入は駅の整備などに消えた。
少しでも経費を削減すべく、社長である長谷川自身が保守点検やゴミ拾い、切符の販売や改札業務、トイレの掃除までしなければならなかった。
そんなある日、社員たちが出社すると…長谷川が会社に泊まり込み、早朝から沿線の整備をしていた。
また、保津川渓谷は斜面が多かったのだが…日中の空いた時間や休日に、命綱をつけ急斜面の草を刈っていた。
その数日前、長谷川はある女性客と話をしていたのだ。
女性は「私にとって この景色は青春なんです。久しぶりにこの景色を見て、夢や希望に溢れてた昔のことを思い出しました。これでまた 明日から頑張れそうです。素敵な景色を ありがとうございました。」と話してくれた。
社員たちに「なんでそないに頑張るんです?」と問われた長谷川は、こう答えた。
「俺は、来てくれる人たちの気持ちに応えたい。観光列車やからこそ出来る事を、疲れた人を癒し、明日を生きる活力を与えたいんや。」
「会社は3年も持たずに終わってまうかもしれん。せやけどそれまでの間、ただ無意味に過ごすんや無くて、今自分に出来る事をやる、そう決めたんや。」
だが、除草が必要な沿線は7km以上にも及ぶ。
腰をかがめての草刈りは何時間もできるものではなく、一向に終わりが見えなかった。
すると…社員たちが草刈りを手伝い始めたのだ。
しだいに長谷川たちの絆は深まっていき…『不器用でもいいからお客さんと触れ合うサービスをしよう』などと、積極的にアイデアを出し合うようになった。
来てくれる人を楽しませたい…社員たちの心を込めたおもてなしもあり、徐々に観光客が増え始め、忙しくなっていった。
そして開業してもうすぐ一年という頃には…沿線の除草作業もほぼ終える事ができた。
これで観光鉄道を軌道に乗せたかに見えたのだが、まだ解決しなければならない大きな問題が残っていた。
実は、保津川渓谷にあった多くの桜の木は寿命を迎えていた。
そこで美しい景観を復活させるため、新しく桜を植えようと考えていたのだ。
だが長谷川は、JRや役所が桜の木を別の場所に植えた際、大きくなるまで育たず、翌年には枯れてしまったことを知っていた。
そこで長谷川は、地元で有名な桜の保存活動を行っている専門家に協力を求めたのだ。 だが、「みんな いっぺん植えたら植えっぱなしや。桜はな生きてんにゃ。『木を植えた』ゆう実績欲しさで桜をダメにする奴に協力なんかでけへん。」と、断られてしまった。
長谷川は、観光鉄道を軌道に乗せるまでのことを話し始めた。
雑草を取り終えるのも、自分や社員たちだけでなく、その家族たちの協力があったこと。
そして、こう言って協力を求めた。
「私には信頼できる部下や 協力してくれる家族がいます。中途半端な事をして 彼らの信頼を裏切る事など私には出来ません。たとえ会社が潰れたとしても私は最後まで桜の世話をやめたりはしません。」
すると…長谷川の真剣な思いを知り、無償で協力をしてくれることになった。
長谷川たちは、四季折々の景色を楽しんでもらおうと、桜だけでなく、紅葉も植えた。
その数、なんと7000本以上。
木の皮を食べる鹿への対策として、何千本もの木々一本一本にネットを巻くなど地道な世話が続けられた。
徐々に沿線の景観が美化されていく中、年間1000万円もの金額で広告看板を出したいと言う依頼が数件舞い込んだ。
駅舎を新設するなど、まだまだ経費が必要だったため、数年で億を越える収入は、喉から手が出るほど欲しかったのだが…長谷川はこれを断った。
お客さんのため、景観の保全を優先するという判断からだった。
その後も、皆でアイデアを出し合い、目の前の事に日々打ち込んでゆく中、最初に掲げた3年はいつの間にか過ぎ去っていた。
観光客はどんどん増え続け…トロッコ列車は連日、笑顔で溢れるようになった。
開業から7年、長谷川は成功を評価され、JR西日本・和歌山支社長に栄転。
だが、その直後から、彼は嵯峨野観光鉄道への異動願いを出し続けた。
和歌山支社長になってわずか2年、長谷川はそのポストを捨て嵯峨野観光鉄道に復帰した。
しかも2度目の“栄転”がないよう、自らJRを退社。
嵯峨野観光鉄道へ完全移籍したのだ。
そして今から6年前、長谷川は70歳を目前に引退。
彼が仲間と作り上げた鉄道の沿線には、今も素晴らしい景色が広がっている。
今では年間100万人を超える観光客が利用する、人気観光列車にまで成長した。
春は桜、夏は青葉、秋は紅葉と四季折々の自然を肌で味わう事が出来る。
長谷川さんはこう話してくれた。
「人間は一人では生活できないように思いますよね。仲間といいますか、友達といいますか、上司であろうが後輩であろうが、家族であろうが色々あると思いますけれども、人間と人間との触れ合いの中で物事が前に進んで成就したりするんじゃないでしょうか。」
今年3月、長谷川さんはおよそ6年ぶりに列車に乗車した。
長谷川さんが去った後もその思いは受け継がれ、社員たちによって木々の世話は丁寧に行われ続けていた。
運輸課 担当課長 小髙岳彦さんは、こう話してくれた。
「長谷川さんがいらっしゃらなかったら、今のような沿線の景色はなかったのかなと思います。長谷川さん自らが桜やもみじを植樹をされましたし、またその背中を見てみながついていってたからこそ、今の景観が保たれてると思います。長谷川さんのこれまで行なってきた意思っていうのは、受け継ぐと共にいつか追い越したいと言う気持ちで、樹木の保全や改善再生に取り組んで提供していきたいなと思っています。」
現 代表取締役社長 井上敬章さんは、こう話してくれた。
「今コロナの中で厳しい状況でお客様から声をかけていただけることがよくありまして、『頑張ってね』『応援してるよ』というのを最近言うていただく回数が増えてまいりましたんで、私どももお客さまのためにしっかり景観を整備して、この渓谷を喜んでいただこうという思いもありますし、お客様のために頑張ろうとつくづく感じます。」
嵯峨野観光鉄道は、現在、感染対策を講じた上で運行されている。
長谷川達が作り上げた嵯峨野観光鉄道は、今も人々に癒やしと活力を与え続けている。
次の放送日時は情報が入り次第掲載いたします。
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