《閑話》 おしえて、レオ兄ちゃん―家庭科―(中)
「こんにちはー」
完成したスープを小鍋に移し替え、冷めないようにと急いでやってきたアンネたちは、ヒルデ婆さんの家に到着すると、厚い樫の木のドアをノックした。
「ヒルデ婆さん、アンネです! 誰かいますかー? 開けてくださーい!」
「アンネ。開いているようだ」
誰も出てこなかったらどうしようと、今更ながらに焦るアンネに、ブルーノが静かな声で指摘する。
普段施錠されているはずの家が、開いているということは――どうやら先客がいるようだ。
細い廊下を抜け、小ぢんまりとしつつもきちんと整えられた寝室に辿りついたとき、三人は先客の正体を知った。
「ハイノ先生……」
横たわるヒルデの傍に座っていたのは、駆け出しの町医者だったのである。
下がった目尻がいかにも善良そうなその医者は、名をハイノと言う。
その若さとお人よしな性格のために、患者からも医者仲間からも舐められている、苦労人な青年であった。
今日なんて、珍しく上等なシャツを着ているところを見ると、おおかた休診日だからとデートにでも出かけようとしたところに、他の医者からヒルデ婆さんの件を押し付けられたのだろう。
下町に住む老人の看病など、医療費が踏み倒される可能性しかないのだから。
よほど踏み倒しが気掛かりなのか、ハイノの顔色は悪い。
くしゃくしゃの髪もほつれさせたまま、「ん……?」とぼんやりこちらを振り返り、ようやく来客に気付くと、大きく目を見開いた。
「君たち、来てくれたのか……!」
隈の浮いた顔に、ほっとした表情を浮かべる。
彼はふらりと立ち上がると、くたびれたシャツに包まれた腕を伸ばし、がしっと三人を抱きしめた。
「よかった……! ヒルデ婆さん、身寄りが誰もいないうえに、近所付き合いもろくろくしていなかったらしくって。誰も見舞いに来ないし、かといって放置もできないから、僕は身動きが取れなくて……このままもう『おしまい』かと絶望していたんだ……!」
「そんな……」
ハイノが感極まったように言うのとは裏腹に、アンネたちは顔をこわばらせる。
誰も見舞いに来ない、という状況もさることながら、彼が口にした「おしまい」という不吉な言葉が受け入れがたかったからだ。
医者が口にする「おしまい」とは――すなわち、死。
ヴァイツでは、人が亡くなった直後に、導師を呼んで「
つまりハイノが焦っているのは、このままでは導師を呼びに行けず、香油の儀が間に合わなくなってしまうためで――言い換えれば、それだけヒルデの死が近いということだろう。
「じゃ、悪いけど、僕は教会に行ってくるから! 君たち、ちょっとの間、頼んだよ! いっぱい話しかけてあげてくれ」
言うが早いか、ハイノは素早く立ち上がり、さっさとその場を出て行ってしまう。
残されたアンネたちは、呆然とその場に立ち尽くした後、おずおずと横たわるヒルデに視線を向けた。
「そんな……ヒルデ婆さん……」
もっと元気だと、思ったのに。
声を掠れさせながら、アンネがぽつんと呟く。
寝台の民となったヒルデは、普段の気難しそうな表情を緩ませ、静かに目を閉じていた。
頭にぐるぐると包帯が巻かれているのが痛々しいが、それを除けば、ただ眠っているだけのようにも見える。
実際、やじ馬から話を聞いて、ヒルデはただ眠っているだけなのだと、アンネは思っていたのだ。
気力がなくて、意識を取り戻せていないだけ。
きっかけさえあれば、きっと目を覚ましてくれるのだと。
なのに、もう香油を必要とするほどに、死が迫っていたなんて。
「嘘だ……」
鍋の持ち手を掴んだ両手が、小さく震える。
じわりと涙を溢れさせそうになったところを、レオが声を張り上げた。
「諦めんな、アンネ!」
「だって、レオ兄ちゃん……」
「だってもへちまもあるか。見ろよ、顔色だって悪くねえし、呼吸だってしてんじゃねえか。肌だってあったかい。まだ、ちゃんと生きてる!」
そう言いながら、レオは、ヒルデの枯れ枝のような腕をぶらんと持ち上げてみせた。
「意識が無いっつってもさ。超必死に呼びかければ、起きるてくれるよ。な!」
「いや、レオ――」
ブルーノが眉を寄せて何事か言いかけたのを、レオは素早く「おまえは黙ってろ」と視線で制した。
レオとて、妹分に無責任な励ましをするのは趣味ではない。
だが、この場合はそうしなければ、アンネはただ泣き崩れて、孤児院に帰ってしまうだろう。
そして彼女の性格的に、もっとああできたのでは、こうできたのではないかと、できたはずのことを後から考えては苦しむ羽目になる。
たとえ、嘘つきだと罵られようが、無責任だと蔑まれようが、アンネにすべての手を尽くさせる。
それが、自分のできることだと、レオは瞬時にそう考えたのだった。
ブルーノが感情の読めない顔で黙り込むと、レオは明るく妹分に笑いかけた。
「ひとまずさ、せっかくアンネが頑張って作ってきたんだから、そのスープのお披露目といこうぜ」
「――……うん」
しばしの逡巡の後、アンネは小さく頷いた。激情をこらえるような表情だった。
小鍋を、寝台の傍らにある小さな棚に置き、そっと蓋を開ける。
ふわりと湯気を立ち上らせたスープと中味を、持ってきた小皿に移し取ると、アンネはさらにそれをスプーンですくい、ゆっくりとヒルデの口元に近づけていった。
「ヒルデ婆さん。スープだよ」
が、しかし。
――ガシッ
スプーンが口に触れる直前で、レオがその腕を押しとどめる。
金銭感覚以外は実にまっとうな感性の持ち主である彼は、引き攣った笑顔でアンネに尋ねた。
「――ちょ……ちょーっと待とうなー? アンネ、一応聞くけど、なんでそのごろっごろした人参の塊を、口元に運んでいるのかなー?」
「え……だって、ヒルデ婆さん、にんじん好きだから」
「ば……――っ! ……うん、そうだよなー、好物は食べさせてやりたいよなー? でも、ヒルデ婆さん、今、寝てるからなー?」
馬鹿野郎、意識ない人間が固形物食えるかよ! 窒息するわ! とツッコミを入れるには、あまりにアンネは真剣だったし、かわいい妹分だった。
「ほら、好物は最後に残したいタイプかもしれねえし、まずはこう、匂いをかがせてみるとか、スープについて耳元で語ってみるとか、そういうアプローチがいいんじゃねえかなー?」
「ええ? でも、ヒルデ婆さん、好きなものから先に食べる人だし」
レオ渾身の遠回しな注意は、残念ながらさらっと受け流され、アンネはヒルデの顎を掴み、そのままスプーンで口をこじ開けようとした。
「ねえねえヒルデ婆さん、にんじんだよー?」
「あばばばばば、やめろアンネ!」
「あ、それとも最初の一口はスープからがいいかな」
「うわああああ! 意識のない人間の口元で、勢いよくスープ皿傾けないでええええ!」
なにを思いついたか、今度は皿ごとヒルデの口元に近づけたアンネから、とうとうレオは皿を奪い去ってしまった。
「なにするのよ、レオ兄ちゃん」
「うん、いやな? だからな?」
これでアンネには善意しかないのだというから恐ろしい。
もともとレオとしては、意識がないというヒルデのために、スープの匂いをかがせてやったり、場合によっては、スプーンで唇を湿らせてやる程度のことを考えていたのだ。
しかしまさか、大ぶりに切った具材ごと食べさせようとするとは。
アンネはしっかり者だが、やはり、意識を失っているというのが――死が近いというのがどういうことか、わかっているようで、わからないのだろう。
「なんで食べさせちゃいけないの?」と困ったように首を傾げるアンネの前で、レオもまた、どうやって説明したものかと眉を下げた。
「――アンネ」
だがそこで、沈黙を守っていたブルーノが声を上げる。
彼はわずかに身をかがめ、アンネと視線を合わせると、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「触覚を刺激して、人を起こすというのは、確かに一理ある。拷問で気を失った相手に、水を掛けて起こすのも、同じ原理だ。だが、いいか。人間には、触覚よりも、他の感覚の方が反応しやすい場合がある」
「ほかの、感覚……?」
アンネが目を見開くと、ブルーノは静かに頷いた。
「ああ。聴覚だ。たとえば人は気絶するとき、まず平衡感覚と視覚を失い、触覚を失い、倒れる。だが、倒れた後も、声だけは聞こえる。いいか。声や音は、最も長く知覚していられるんだ」
「あれ、嗅覚は?」
「知らん。だがまあ、敵が倒れた時は、匂いを気にしている様子はなかった」
「――ねえ。おまえらなんなの? なに急に不穏な話してんの? ツッコミ待ちなの?」
半眼になったレオがぼそぼそと突っ込む。
無視しよう、無視しようと思っているのに、あらゆるボケを丁寧に拾ってしまう自分の優しさを呪うのは、こういう瞬間だ。
「つーかブルーノ! おまえの話は、いつもちょいちょい無駄に血なま臭えんだよ!」
「はて」
「はてじゃねえ!」
鋭くとどめのツッコミを炸裂させてから、はあっとため息をついてアンネに向き直り、
「アンネ、こいつの言うことは無視していいから、とにかく――」
「わかったわ、ブルーノ兄ちゃん! 私、ヒルデ婆さんに聴覚でアプローチしてみる!」
「マジかい」
なぜか妹分が、ブルーノの導きによってまともな方向に動き出したのを目の当たりにし、愕然とした。
「いや……別に結果がよけりゃそれでいいんだけど……別に……」とぶつぶつ呟くレオをよそに、アンネはヒルデの耳元に顔を近づけ、真顔で語り始めた。
「うわあ、なんて美味しそうなスープ! スプーンで掬って、と……うわぁー! 見えますかね、このふんわり立ち上る白い湯気! スープ自体は透き通ってるんですけど、野菜や鶏肉のエキスがぎゅっと凝縮された感じ。口に入れて……はふ、はふ……んんー! 煮溶けた野菜の甘みが、口いっぱいに広がってくう!」
「なんでグルメレポーター風なんだよ!」
急に胡散臭い口調で語り出した妹分に思わず突っ込みを入れると、アンネは「だって、臨場感があった方が、美味しさが伝わって反応しやすいかと思って」と真剣な顔で答えた。
「ああ……うん、そうな……いや、そういう問題じゃなくてな、アンネ……」
明らかなボケだと思うのに、本気なのがわかるだけに突っ込めない。
レオが遠い目をしていると、傍らのブルーノがぽんとアンネの肩に手を置いた。
「おまえは勘違いをしている、アンネ。今はな、大げさに叫ぶよりも、しみじみ呟く系の方がトレンドだ」
「そうなの?」
ブルーノは重々しく頷くと、寝台の近くに跪き、ヒルデの耳元で囁いた。
「――このスープは正解だった……。こうでなきゃいけない。スープを飲むときはな、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃ……」
「おまえのレポートは孤独感が漂いすぎなんだよ!」
つい我慢できずに鋭く突っ込むと、ブルーノが煩わしげに眉を寄せた。
「……ふん。自分ではトライしないくせに、文句だけは一人前か」
「そうよ、なんにもしないで文句だけ言うやつは最低だって、レオ兄ちゃん、いつも言うくせに」
「え」
まさかの妹分からの反撃に遭って、レオは呆然とした。
「ヒルデ婆さんは、グルメな人って言ったでしょ! きっと、目が覚めないのは、スープの美味しさが伝わりきってないからよ。食べさせることができないなら、それを補うくらいに、聴覚情報で美味しさを伝えなくっちゃ!」
「えええ……」
「私は諦めない。きっとこのスープの美味しさを余すことなく伝えてみせるわ……!」
「…………」
普通、意識のない人に話しかける内容というのは、「ほら、好物のスープよ」とか「ふふ、お婆さんに美味しいと言ってもらおうと頑張ったの。なのに……ぐすっ」とか、そういったハートウォーミングなものではないのだろうか。
それでもって、場内が感動に包みこまれ、それに誘われるようにして相手が意識を取り戻す、というのがお約束なのではなかろうか。
にもかかわらず、なぜだか「いかにスープを美味しそうに描写するか」というミッションに心を滾らせている妹分を見て、レオは掛ける言葉を失った。
(……なんなんだろ、この展開)
だが、アンネがあまりに真剣な表情を浮かべているので。
「――……おまえらの食レポには、擬音語が少なくていけねえよ」
溜息とともに、レオはそれに付き合うことにしたのだった。
「わあ! このぷりっぷりの鶏皮! 一口噛むと同時に、じゅわっとうまみが口中に走り出す。これはもう、エキスの大運動会やー!」
「じゅわ……じゅわわあああ」
「そう……細かに弾けるような押し麦の感触。追いかけるようにして広がるローズマリーの香り。この味。この味だ」
「ぷち、ぷち……ふわあっ……」
どれほどの時間、そうしていただろうか。
アンネは印象的なフレーズを叫ぶスタイルを、ブルーノは余韻深く呟くスタイルを確立させ、レオはといえば、すっかりヒューマンパーカッションを体得しつつあった。
が、ヒルデは一向に目を開かない。
それどころか、先ほどよりも苦しそうに、ほんの少し眉を寄せているようにすら見えた。
「ヒルデ婆さん……もう、起きないのかな……」
ぽつんと、アンネが漏らす。
自らの呟きに頬を叩かれたかのように、はっと顔を上げた後、彼女はぷるぷると首を振った。
「ううん。まだ……まだ、私たちの食レポが足りてないだけだよね」
ね? とぎこちなく笑いかけられ、レオは言葉を詰まらせる。
無責任な励ましをしたと、恨まれてもいい。詰られてもいい。
けれど――傷つかれるのは、たまらない。
「あ、ああ……。でも、アンネ――」
「わああ! この押し麦の粒々感! あっちでぷちん、こっちでぷちん、と、これはもう、ぷっちん押し麦の反抗期だあ!」
「アンネ」
「鶏のうまみ、ローズマリーの香りと一体となって、舌に沁み込んでいく塩味がたまんない! 薄味なのに、どっしりとした塩味……が……」
言葉が途切れる。
ひくっと、アンネは喉を鳴らした。
「塩味、が……。……しょっぱい、よお……」
彼女は、あどけない大きな瞳から、ぼろぼろと涙をこぼしていた。
涙は幼い頬を伝い、むりやり笑みの形に引き上げた唇に、じわりと吸い込まれていく。
その痛ましさに、レオはきゅっと眉を寄せた。
「アンネ……」
「どう……どうして、かなあ」
震える唇で笑みを浮かべながら、アンネは小さく首を傾げた。
「どうして、お、起きて、くれない、のかなあ」
「アンネ」
「どうして、……いつも、……いつもいつも、私に優しくしてくれる人は、いなくなっちゃう……か、なあ……っ」
とうとう、アンネは両手で顔を覆った。
彼女は、四歳のころに、再婚の邪魔になると思った母親に捨てられた。
けれど聡明で愛嬌もあったアンネには、すぐに里親の申し出があった。
孤児院とも付き合いの深い、人格者と評判の老齢の教会導師に、引き取られることになったのだ。
彼に妻は居なかったが、母親代わりなんていなくても、アンネは十分幸せだった。
有り余るくらいの、穏やかな愛情を注がれて過ごした、夢のような日々。
しかしそのわずか一か月後、彼は流行病で、あっさりとこの世を去ってしまう。
後継者として認められるほどの期間すら過ごせなかったアンネは、結局、再び孤児院の門をくぐることになった。
もう、五年も前の出来事。
レオのように、昔から孤児院にいる者でないと、知らないことだ。
「――……」
レオは口を引き結ぶと、ぽんぽんと妹分の頭を撫で、そっと腕の中に抱き寄せた。
かつて里親を失ったとき、今より更に幼かった妹分は、しょっちゅう夜泣きしては飛び起きていた。
そうして、虚空に向かってひたすら謝っていたのだ。
たすけられなくて、ごめんね。
看病できなくて、ごめんなさい。
つらかったよね。さむかったよね。くるしかったよね。
しかられてでも、そばにいたら。
そうしたら、死の精霊にお願いして、わたしもいっしょに、つれていってもらったのに。
せめて、手をにぎって。さいごまで、ぎゅっと、あったかくして。いっしょに。
そのほうが、ずっとずっと、よかったのに。
病を移さないようにとの配慮のもと、里親から強いられた隔離は、アンネの命を救ったが、しかしその心に大きな傷を残した。
たとえ無駄に終わろうと、手を尽くさせること。
それが彼女のためだと考えたレオだったのだが――もしかしたら、間違っていたのかもしれない。
レオはぎゅうっと妹分を抱きしめて、ふがいない己を責めた。
「……ヒルデ婆さんね……」
やがて、レオの胸元に顔をうずめたアンネが、涙声で呟いた。
「いっつも、意地悪なことばかり言うの」
「……うん」
「褒められると、怒ったみたいな顔するしね、嬉しくても、やっぱり怒ったみたいな顔するの」
「うん」
じわ、とシャツに涙がしみ込んでいく。
「でもね、そういう時はね、灰色の目が、ちょっとだけ青っぽくなるのよ。それで、ああ、本当は嬉しいんだって、私、わかるの」
「そっか」
「レオ兄ちゃんのスープを初めて飲んだ時もね、目が、ぱあって輝いて……青っぽく、なってたから。『まずい!』とか、言っても……ほんと、は……」
でも、とアンネはしゃくりあげた。
「でも、目を閉じてちゃ、私……っ、わかんないよおお!」
小さな拳でシャツをきゅうっと握りしめ、彼女は叫んだ。
寝室に、幼い嗚咽が響く。
レオは何度もその背を撫でてやりながら、途方に暮れて幼馴染を見た。
――のだが。
なぜかブルーノは、悲しむでも、戸惑うでもなく、実に平然とした面持ちで、じっとヒルデを見下ろしていた。
「ブルーノ……?」
「――ヒルデ婆さん。そろそろ、起きてはどうだ」
挙句、そんなことを口にするではないか。
レオは「は?」と声を上げたが、ブルーノは淡々と言葉を紡ぐだけだった。
「アンネの泣きが、フェーズ2に移行した。3になると厄介だ。女を泣かすなと、院長からきつく言われている。構われて嬉しいのも、泣きだされて戸惑っているのも、わからんでもないが、いい加減、起きてもらわなくては困る」
「は……?」
ぽかんと口を開けるレオとアンネの前で、その口を更に驚愕に開かせる事態が起こった。
「――……なんだい、……うるさいねえ……」
ヒルデが、皺の寄った瞼をゆるりと持ち上げ――目を開いたのだ。