卵と麹から生まれた「熟成卵黄」
Vol.1 おいしさの秘密
※掲載内容は2019年7月時点での情報に基づきます。
キユーピーグループが独自に開発した新素材「熟成卵黄」。
熟成卵黄は、卵麹で卵黄を熟成させてうま味を引き出した、キユーピーグループ独自の素材です。
「塩麹」や「味噌」で知られるように、麹には、素材のうま味を引き出す力があります。麹で卵黄を熟成させた熟成卵黄も同様に、卵黄のうま味やコクが増し、独自の味と香りが広がります。
熟成卵黄は、キユーピーグループの原料へのこだわりから生まれた
熟成卵黄の独自のおいしさの鍵となるのが「卵麹」と「熟成条件」です。
味噌が大豆を豆麹で熟成させて作られるように、熟成卵黄は卵黄を卵麹で熟成させて作ります。
開発当初は、一般的な米麹や豆麹で卵黄を熟成させてみましたが、味噌のような味になってしまい、私たちのめざす味にはなりませんでした。
卵黄のコクやうま味を引き出しながら、独自のおいしさを持つ新素材。そこにたどり着くためには、新しい麹が必要でした。
そこで麹菌を長年研究し続けてきた樋口松之助商店と、卵を基にした「卵麹」の開発に着手したのです。
▲卵麹
実は一般的な麹の作り方では、卵から麹を作ることはできません。また麹に使う麹菌の選択は、味に大きく影響します。こうした難しさを克服して卵麹を開発できたのは、麹菌の専門メーカー「樋口松之助商店」のご協力のおかげでした。新しい麹を創り出そうという共通の想いのもと、共に根気強く試行錯誤をして独自の製法にたどり着くことができたのです。
卵麹による卵黄の「熟成条件」についても検討を重ねました。熟成の温度が低く、時間が短いとコクやうま味が不十分になりますが、一方で温度が高く、時間が長すぎると苦味や嫌な香り成分が出てしまいます。
卵麹に使う麹菌の種類と熟成条件を掛け合わせると、無限の組み合せがあります。
独自のおいしさを実現するために試作・試食・分析・評価のサイクルを何度となく繰り返すことで、「熟成卵黄」に至る最適な組み合せを見つけることができました。
キユーピーグループには創業以来、「良い商品は良い原料からしか生まれない」という考えがあります。
新しい素材を生み出すことは、想定以上に困難の連続でしたが、その考えを大切にし挑戦し続けることで構想から約4年、ようやく「卵麹」そして「熟成卵黄」を生み出すことができたのです。
熟成卵黄には、卵黄のおいしさにつながる成分が一般的な卵黄より多く入っている
宮本 哲也
(研究開発本部 技術ソリューション研究所 機能素材研究部 発酵・微生物研究チーム)
未来の食生活を創造するべく、「発酵」の切り口から新素材・新技術の開発に日々取り組んでいます。
私たちは長年、卵の研究をする中で、卵のおいしさにつながる成分についても研究をしてきました。熟成卵黄を使うと卵料理の味が引き立つのですが、それは卵黄のおいしさにつながる成分が熟成卵黄に多く含まれているためです。
舌で感じる“味”の成分と、鼻で感じる“香り”の成分の両方が、一般的な卵黄よりも多く入っています。
熟成卵黄のアミノ酸と香気成分を機器分析した結果がこちらです。
熟成卵黄の味を分析装置で調べると、アミノ酸総量が一般的な卵黄と比較して約5倍も含まれています。
また、熟成卵黄の香りについては、卵黄の香りが大幅に増えるだけではなく、新たな香りが生じています。熟成することで次に挙げるような新たな香りが生まれ、熟成卵黄独自の香りを作り上げています。
<熟成により新たに生まれた香り>
- 卵の濃厚な香り
- チーズのような香り
- 味噌や醤油などの熟成素材と同じ、香ばしい香り
- カラメルのような甘い香り
- はちみつのような香り
▲香りの測定機械。中央の筒から、研究対象物の香りを確かめることができます
熟成卵黄で作ったカルボナーラの官能評価
こちらは、熟成卵黄で作ったカルボナーラ。一般的な卵黄で作ったカルボナーラに比べ、卵黄の味と香りが強く感じられます。チーズの風味もぐっと引き立ち、濃厚に感じます。
その味の違いを官能評価した結果がこちらです。
熟成卵黄で作ったカルボナーラは、一般的な卵黄で作ったカルボナーラに比べて、卵感・コク・チーズ感が強く、それらの風味が口の中に入れた直後から強く現れ、持続時間も長いという評価になりました。
▲官能評価をしている様子
味覚テストで一定の水準を上回った研究員が、安定した環境で集中して評価ができるように壁に仕切られたブースのある「官能試験室」で、熟成卵黄の使用の有無を伏せて評価を行いました。
▲熟成卵黄を使って試作をするコーポレートシェフ
さまざまな料理に試したコーポレートシェフからは「卵、肉、魚、野菜など、どんな食材にも合い、いろいろな料理に使えます。熟成卵黄を使うことで高級感のある深い味わいになりますね」という評価でした。
このように、新素材「熟成卵黄」はさまざまな試行錯誤のプロセスを経て生みだされました。
これからも、独自の味・香りを有する熟成卵黄の研究を進め、おいしさの提案につなげていきたいと考えています。