交通事故により、車両が、損傷あるいは損壊に至った場合に、修理費を請求できるのか、あるいは、車両の時価額を請求できるのか問題になる場合があります。
購入したばかりの新車について、交通事故で損傷し、修理が、10万円程度発生したような場合には、修理費をそのまま請求できることは、争いはありません。
他方で、初年度登録から、10年以上経過したような一般大衆車の場合、事故発生時点での時価額が、20万円程度と認定されるケースもあり、そのような車両について、修理費が30万円発生した場合、被害者は、時価額20万円を請求できるのか、修理費30万円を請求できるのかという問題が発生します。
この点については、裁判実務及び保険実務ともに確定しており、事故当時の車両の時価額(消費税含む)に、買替諸費用を加えた額が、修理費を下回る場合は、経済的全損と認定され、被害者の方は、全損時価額と買替諸費用のみ請求が認められ、修理費相当額の請求は認められないことになります。
例えば、上記の古い一般大衆車の交通事故当時の時価額が20万円と認定され、さらに、同種同等の車を買い替える場合にかかる買替諸費用(登録費用、車庫証明費用、納車費用等がこれにあたり、通常3~4万円前後になることが多いと思います)が、4万円かかる場合、時価額と買替諸費用の合計24万円ですが、これを超える30万円の修理費の請求は認められなず、被害者は、24万円の請求のみが
認められることになります。
次の問題として、車両の時価額は、どのように立証すればよいのかという問題になります。
これは、保険実務や裁判実務の多くは、オートガイドレッドブックという月報の時価額表をもとに、事故車両の時価額を認定することが多いようです。もっとも、このレッドブックに記載してある時価額に納得できない場合は、カーセンサー等のインターネットで事故車両と同種同等の車両で、走行距離も近い車両を複数ピックアップして、その平均価格をもって、時価額を立証する方法もあります。
また、バイクの場合は、もともと、レッドブックのような資料がないため、グーバイク・サイトのようなインターネット資料をもとに時価額を認定することが多いように思われます。
また、四輪であっても、初年度登録から、10年以上経過した車両については、レッドブックに時価額自体の掲載がないことも多く、その場合の時価額の認定も、やはりインターネットで、同種の車両の市場価格を立証することになると思います。10年以上経過した車両については、減価償却の考え方等を根拠に新車価格の10%であると保険会社側から主張されるケースも少なくないですが、被害者側が、同意しなければ裁判所も、新車価格の10%が、交通事故当時の時価額であるというような認定をすることはなく、インターネット資料等で、時価額が立証されれば、これに沿った時価額の認定をされるケースが多いと思います。
この点について、最高裁S49.4.15は、時価額は、同種同等の車両を中古車市場において取得できる価額によって認定すべきで、減価償却の方法である定率法または定額法によることは、加害者及び被害者の双方がこれによることについて同意している等の特段の事情がない限り、許されないと判断しています。
交通事故による車両の修理をなす場合は、通常、事故車両を修理のため入庫した修理工場に、加害者側の保険会社の物損担当者が出向いて車両の確認を行い、修理工場と修理についての打ち合わせを行い、修理額及び修理内容について、修理工場と加害者側の保険会社の物損担当者との間で、協定を行った上で、修理に着手されることが多いようです。そうしないと、修理が完了した後で、修理費や修理箇所の妥当性について、争いになる可能性も高くなります。例えば、被害者側は、損傷個所について、取り替えを主張したのに、加害者側の保険会社は取り替えまでは不要で、板金修理で足りると判断するような場合です。
ただし、この場合でも、被害者の側で、どうしても、相手保険会社が主張する修理内容に納得できない場合は、修理工場に、被害者側の主張する修理内容が、相当であるとの判断を前提に、修理見積書をつくってもらい、その見積書の内容により、訴訟で、請求すれば、ある程度は、その請求が認められる
可能性も高いと思います。