令和3年度(2021年度)の税制改正で電子帳簿保存法が改正され、インターネット等でやりとりする電子取引に関する規定が大きく改訂され、全事業者が対応を迫られます。
これまでは例えばPDFで送られてくる請求書や領収書は、紙で出力して、それを保存することで税法の規定に即した帳簿書類の保存として認められていましたが、紙で出力しての保存が全面的に廃止されます。
一定の要件にしたがってそのPDFを電子データのまま保存しなければならなくなりました。
どうやって保存するの?
いつから強制されるの?
全事業者が対象なの?
私は関係ないんでしょ?
このような疑問に答えながら電子帳簿保存法の電子取引の保存についてわかりやすく元国税調査官税理士が解説していきます。
- 電子帳簿保存法の電子取引の保存の概要
- 電子帳簿保存法 電子取引とは
- 電子帳簿保存法 電子取引情報をそのまま保存するメリット
- 電子帳簿保存法 電子取引 保存要件
- 電子帳簿保存法 電子取引情報の保存の攻略法
- 電子帳簿保存法 電子取引情報の保存の強制適用はいつからか
- 電子帳簿保存法 電子取引の取り決めどおりやらなかったら
- 電子帳簿保存法 電子取引に関する不正に対する重加算税の加重
- 電子帳簿保存法 電子取引の取り扱いまとめ
電子帳簿保存法の電子取引の保存の概要
令和3年度(2021年度)の税制改正で電子帳簿保存法は次のように運用されることになりました。
電子帳簿保存法は、次の3つに大きく分類されます。
- コンピュータを使って自社が作成する帳簿書類の電子保存
- スキャナ電子保存
- 電子取引情報の電子保存
電子保存の種類 | 対象書類 | 保存方法 |
---|---|---|
❶ 自己が最初から一貫してコンピュータで作成したデータの保存 | ① 帳簿(仕訳帳・総勘定元帳・売上帳・仕入帳等) ② 書類(決算書・契約書・領収書の発行控え等) | オリジナルの電子データ又は出力した紙 |
❷ スッキャナ保存 | 受領した契約書・領収書等 | スキャンした電子データ又は出力した紙 |
❸ 電子取引情報の電子保存 | 電子的にやり取りされた契約書・請求書・領収書等 | オリジナルの電子データ |
この記事のテーマである電子取引の保存は❸がそれに当たります。
新電子帳簿保存では電子取引情報を紙で保存することは廃止となりました
【保存方法】を見てください。上の4つの保存方法には、「出力した紙」または「オリジナルの紙」という表記があり、紙での保存が言及されていますが、❸の行にはそのような表記がなく、「オリジナルの電子データ」としかないのがわかると思います。
つまり紙での保存はNGということです。
電子帳簿保存法はこれまで、紙での保存に代えて、電子帳簿やスキャナで電子情報で保存すると帳簿書類の保管コストが削減されて、検索性も向上して便利だから導入しませんか?というスタンスだったので、それを面倒だからやらない!ということができました。
しかし、今回の改正でこの電子取引の電子的保存に関しては任意の選択ではなく、強制的に原則事業を行っている者全員に適用されることになります。(なお、他の電子帳簿とスキャナ保存は任意です。)したがって
電子帳簿保存は難しそうだし面倒だから私はやりません
それは通用しません!
はい、諦めます。全員に関係するはわかりました。
で、そもそも電子取引って何のことを言ってるの?
電子帳簿保存法 電子取引とは
電子帳簿保存法 電子取引の定義
電子取引は、電子帳簿保存法2条5項で次のように規定されています。
電子取引 取引情報※の授受を電磁的方式により行う取引をいう。
※ 取引情報:取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。
具体的には、インターネット等による取引、EDI取引、電子メールにより情報をやり取りする取引(添付ファイルによる場合を含みます。)、インターネット上のサイトで取引情報をやり取りする取引(Amazonや楽天等のいわゆるASPを利用した取引)等をいいます。
このサイトでは、電子取引で電子的にやり取りされる領収書等のデータを「電子取引情報」と呼びます。
電子帳簿保存法 電子取引の具体例
電子帳簿保存法で規定している電子取引の具体例を挙げてみます。
- 電子メールにより請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)を受領
- インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ (PDFファイル等)又はホームページ上に表示される請求書や領収書等のスクリーンショットを利用
- 電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービスを利用
- クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、スマートフォンアプリによる決済データ等を活用したクラウドサービスを利用
- 特定の取引に係るEDIシステムを利用
- ペーパレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用
- 請求書や領収書等のデータをDVD等の記録媒体を介して受領
- クラウドサービスを利用しての請求書等の受領
- スマホの決済アプリの利用明細等
(引用:電子帳簿保存法一問一答 問3、問6、問7)
電子商取引やクラウドサービスが普及した現在では、スマホやPCからモノを購入したり、サービスを申し込んだり、クラウドサービスを利用したりと企業活動には電子取引は不可欠となっていますので、その電子取引も多岐に渡ります。
これを紙で出力して保存しなくてよくなるのは便利ね。
便利という言葉が出てきましたので、電子取引情報を電子保存した場合のメリットを挙げておきましょう。
電子帳簿保存法 電子取引情報をそのまま保存するメリット
電子取引情報をそのまま保存できることで得られるメリットは大きく3つ挙げられます。
- 保管コストの削減
- ストレス軽減
- 検索の利便性アップ
⒈ 保管コストの削減
電子取引情報をそのまま保存できるメリットでまず第一に挙げられるのはこの保管コストの削減でしょう。
電子帳簿保存法を適用していない場合、これまでは電子取引情報を紙で出力し、それを個人事業主では最長7年、法人では最長10年紙で保管してました。
規模の大きい会社であれば、倉庫に保管しているということもあるでしょう。規模の小さな会社であってもファイリングした書類を保管する書棚やキャビネを用意し、ファイリングのためのバインダー等の文具類や出力する場合にはトナーや紙が必要でした。
またファイリングしたり、保管場所に移す作業等の事務処理にも時間を費やしてきました。
これらのコストを大幅に削減することができます。
⒉ ストレスの軽減
電子帳簿保存法を適用していない場合、前述のとおり、すべて印刷してファイリングしていたわけです。取引情報が目の前のディスプレイに映っていて、必要があればいつでも簡単に呼び出すことができている状態であったとしても、税法に規定されている帳簿書類の保存要件をクリアするためだけにわざわざコストをかけて印刷し、さらにファイリングまでしていたわけです。モチベーションが低いですよね。これはストレスでした。
これがなくなるだけで経理担当者の負担が軽減するかご想像ください。これだけ電子取引が行われている世の中でこれまですべて印刷してたんですよ!?それがなくなるというのはまさにストレスフリーです。
⒊ 検索の利便性アップ
電子取引情報をそのまま電子的に保存するための要件の中には次の3つの事項を検索可能であることが挙げられています。(詳しくは後述)
- 取引年月日
- 取引金額
- 取引先
つまり電子取引情報を最低でもこの3つの内容で検索が可能になります。
例えば、請求書をPDFでメール送信している場合、これを印刷してファイリングしてました。何年か前のあの会社に送った請求書をみる必要が出てきた場合、請求書はエクセルで上書きして作っているのでパソコンでは検索できない。どのファイルに入れたっけ?そのファイルどこにあるんだ?なんてことがなくなります。
便利なのはわかったけど、どうせ保存する要件がたくさんあって面倒なんでしょ?
そう思いますよね。これだけ便利な面があってもこの電子取引の電子保存が普及してこなかったわけですから。
ではどのように保存しなければいけないか、その要件を解説します。
電子帳簿保存法 電子取引 保存要件
電子取引情報をそのまま電子的に保存するにはこのように要件が大きく3つあります。
- コンピュータ、ディスプレイとカラープリンタの備え付け
- 不正な改ざん防止策を講じる
- 検索機能の確保
一つ一つ確認していきましょう。
⒈ コンピュータ、ディスプレイとカラープリンタの備え付け
電子帳簿保存法施行規則2条2項二号ではこのコンピュータ、ディスプレイ、カラープリンタの備え付けについて次のように規定されています。
電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、当該電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておくこと。
要するに電子取引情報をパソコン等のデバイスで見読できる形で速やかに表示して見せれるようにして、必要があれば出力できるような状態にしておくということです。
また操作説明書については、オンラインマニュアルやオンラインヘルプも認められていますので、それらがあればわざわざ説明書を備え付けておく必要もありません。(電子帳簿保存法一問一答 問19)
これは通常の会社であれば備わっているものかと思いますので、この要件は容易にクリアされると思います。
⒉ 不正改ざんの防止策を講じる
電子的な情報は容易に改ざんが可能です。それでは会社の帳簿や決算の信頼性が確保できません。
そこで電子取引データを電子保存するための要件として不正な改ざんを防止策を講じる必要があります。改ざんの防止策として次の4つのうち、いずれかを行う必要があります。
- タイムスタンプが付された後の授受
- 速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付すとともに入力した者等を確認できるようにする
- データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用
- 訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け
この4つのうち1つができていればOKです。
この部分はかなりヘビーです。覚悟して一つ一つ詳しく見ていきましょう。
① タイムスタンプが付された後に電子取引情報の授受を行う
タイムスタンプが付された後に電子取引情報をやり取りすればOKというのは、例えば請求書を電子的にやり取りする場合、請求書を作成する側が、その請求書データにタイムスタンプを付与していればOKという意味です。
タイムスタンプとは
電子帳簿保存法でいうところのタイムスタンプとは、次のものさします。
タイムビジネスの信頼性向上を目的として、一般財団法人日本データ通信協会が定める基準を満たすものとして認定された時刻認証業務によって付与され、その有効性が証明されるものです。
また、認定を受けたタイムスタンプ事業者には、「タイムビジネス信頼・安心認定証」が交付され、以下に示す「タイムビジネス信頼・安心認定マーク」を使用できることから、その事業者の時刻認証業務が一般財団法人日本データ通信協会から認定されたものであるか否かについては、この認定マークによって判断することもできます。
(引用:電子帳簿保存法一問一答 問35)
自社が交付するときは、自社がタイムスタンプを付す必要がありますし、電子データを受領するときは相手側がタイムスタンプを付している必要があります。
電子取引情報を交付する場合は、自社でタイムスタンプを押せなければ、基本的にはこの要件を採用することはできません。受領する場合は、相手がタイムスタンプを押してくれていれば、自社で改ざん防止策を講じる必要がなく、何もする必要がありません。
タイムスタンプ自体が現状そこまで普及していませんので、この要件はハードルが高いと言えるでしょう。
② 速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付すとともに入力した者等を確認できるようにする
2つ目は次の方法で改ざん防止策を講じます。
❶ 次に掲げる方法のいずれかにより、電子取引情報にタイムスタンプを付す
- 電子取引情報にタイムスタンプを付すことを取引情報の受領後、速やかに行うこと。
- 電子取引情報にタイムスタンプを付すことをその業務の処理に要する通常の期間を経過した後、速やかに行うこと。
❷ 電子取引情報を保存する者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと。
❶ 電子取引情報にタイムスタンプを付す
タイムスタンプを付す場合は、タイムスタンプを付す期限の違いで2パターンあります。
a.電子取引情報にタイムスタンプを付すことを取引情報の授受後、速やかに行う
一つ目は電子取引データを受領した後、速やかにタイムスタンプを付すというものです。
速やかにというのは
おおむね7営業日以内に
タイムスタンプを付すということです。
おおむね7営業日以内としている理由を電子帳簿保存法一問一答 問36では、次のように解説しています。
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の記録事項について、データ改ざんの可能性を低くする観点からは、電子取引により取引情報を授受した後直ちに行うことが望まれますが、休日等をまたいで処理する場合があることも勘案し、7営業日を基本とすることが合理的と考 えられます。 さらに、業種業態によっては必ずしも7営業日以内にタイムスタンプを付与することがで きない場合(例えば、毎日事務所へ出勤しない勤務形態の社員がタイムスタンプの処理を行う場合等)も考えられ、それらを一律に排除することは経済実態上合理的ではないことから、 おおむね7営業日以内に付与すれば速やかにタイムスタンプを付与しているものとして取り扱うこととされています。
b. 電子取引情報にタイムスタンプを付すことをその業務の処理に要する通常の期間を経過した後、速やかに行う
もう一つは、一つ目よりもタイムスタンプを付す期間が伸びます。
電子取引データを受領した場合、自社の業務処理に通常要する期間を経過した後速やかに(おおむね7営業日以内)にタイムスタンプを付すというものです。
その業務の処理に要する通常の期間とは、電子帳簿保存法では、書類の経理処理などの業務を一定の業務サイクル(週次及び月次等)で行うことを前提としています。
例えば、領収書を受け取って、それを支払い、経理担当者が帳簿に記載するというのを一月等の一定のサイクルで行っていた場合のその期間を指しています。
その業務処理サイクルは最長2ヶ月であればよいことになっています。(取扱通達4-18)
つまり、まとめると次のようにいえます。
2ヶ月以上処理する期間があるなら楽ね
実はそう話は簡単ではありません。小規模の法人にはヘビーな要件があります。
この「業務処理に通常要する期間を経過した後速やかにタイムスタンプ」要件は、
電子帳簿保存法は、前述のように業務処理サイクルの中で事務が行われ、その場合には適正な入力又は処理を担保するために、その業務サイクルを事務の処理に関する規程等で定めることが通例であるという考え方に基づいていることからこのような厳しい規定となっています。
つまり、この電子取引情報の電子保存に関しては、最長2ヶ月+7営業日を獲得するには事務処理規程がなければならないことになります。
どのような規程を作ればいいかというと、国税庁がスキャナ保存の事務処理規程のサンプルを公開していますので、それを参考にすることができます。
読んでもらうと普通は愕然とするのではないでしょうか。容易にできるものではないことがわかると思います。
結論をお伝えすると、この要件は次の理由で多くの中小企業では採用されないでしょう。
- タイムスタンプを押せない
- 事務処理規程がないまたは作る気になれない
❷ 電子取引情報を保存する者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと。
電子取引情報を保存する者又はその者を直接監督する者を特定できるような事業者名、役職名、所属部署名及び氏名などの身分を明らかにするものの電子的記録又は書面により、確認することができるようにしておくことをいいます。
③ データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用
3つ目の要件です。これは2パターンあります。
❶ データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステムを利用
データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステムを利用すれば改ざんされてもそれを確認できるので、OKということです。
ただし、データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステムとは、次のような機能が求められていて、かなり厳格です。
たとえば通常のクラウドサービスのストレージの場合を考えてみると削除した場合、30日保存されるという場合はありますが、通常なくなってしまいます。このように厳格にバージョン管理をするサービスはそう多くないように思えます。
❷ 訂正削除ができないシステムを利用
訂正削除ができないシステムを利用すれば、そもそも訂正・削除ができないので改ざんしようがないため情報の信頼性が担保されます。
銀行の取引明細をインターネットで確認する場合がこれにあたります。銀行口座の取引明細データはもちろん利用者が削除・訂正できません。
PayPalやSquare、Amazon payやスマホの決済サービスが提供する取引明細などもそうでしょう。
Amazonや楽天、yahoo shoppingなどのASPからモノを購入した場合の取引履歴や領収書も内容を訂正したり、削除できませんのでこれにあたります。
一般的にインターネットを通じてお金の授受が行われている場合、その取引内容が訂正できたり、削除できたら誰も使いませんので、これに当たると考えていいでしょう。
やっと誰でも利用できる要件が出てきましたね。
このように取引内容を訂正・削除できないサービスを利用している場合は、要件クリアです。
ただ税法で規定している帳簿書類の保存期間※中そのサービス内のデータが保存されるかという点は一度確認しておく必要があるでしょう。
※帳簿書類の保存期間:個人事業主では最長7年、法人では最長10年
④ 訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け
4つ目の要件です。
この電子取引の電子保存がすべての事業者に適用されるため、当局としては誰でも適用できる要件を用意する必要があったと思われます。それがこの要件です。
どういう事務処理規程を用意すればいいのかしら
実は、国税庁が公表してくれています。
正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程とは
国税庁が次のページでそのサンプルを法人と個人の別で公表しています。(電子帳簿保存法一問一答 問24))
各種規程等のサンプル(電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規定 )
国税庁が公表している事務処理規程のサンプルをここに紹介しておきます。
電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程のサンプル(法人の例)
出典:国税庁ホームページ(参考資料(各種規程等のサンプル))
電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程のサンプル(個人の例)
出典:国税庁ホームページ(参考資料(各種規程等のサンプル))
タイムスタンプの事務処理規程に比べればかなりシンプルになっています。すべての事業者が適用するためのものなのでハードルを低くする必要があることがうかがい知れます。
このサンプルを自社用に加工すればそんなに負担なく対応できるでしょう。
法人の例はそれでも規程が複雑よねぇ。うちの会社なんて従業員3人の零細企業だけど。
経理担当者が独立していない程度の法人やマイクロ法人などの場合は、「個人の例」を参考にした簡易なものでもよいと思われます。
要するに改ざんがないように訂正・削除の場合は、所定の手続きをとって履歴も残すことができる規程を設け、実際にそのように運用されていればいいわけですので。
この4つ目の要件である訂正及び削除の防止に関する事務処理規程を設けて運用しさえすれば、3つ目の要件である「データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用」していなくても電子帳簿保存法に則った電子保存になります。
つまりDropboxやOnediveといったクラウドサービスに保存していたとしてもパソコンのハードディスクに保存していたとしてもOKです。
この4つ目の要件はすべての事業者で適用可能でしょう。
実務では電子取引情報の保存をどのように行えばいいか
4つの要件をすべて見てきました。要件によって難易度が様々でした。実務ではどのように運用していけばいいかを考察してみましょう。
もう一度電子帳簿保存法の電子取引の保存要件4つを一覧にしてみます。
要件 | 難易度 |
---|---|
⒈ タイムスタンプが付された後の電子情報の授受 | 高い |
⒉ 速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付すとともに入力した者等を確認できるようにする | 高い |
⒊ ①データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム ②訂正削除ができないシステムを利用 | ① 高い ② 低い |
⒋ 訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け | 低い |
⒈〜⒊①の要件については、小規模の会社にとっては難易度が高いと言わざるを得ません。(ただしタイムスタンプが押された電子取引情報を受領した場合のみ何もしなくてもいいので難易度は低い。)
そこで、どんな会社でもそれほど負担なくこの電子帳簿保存法に則った電子取引情報を電子保存する方法は、「⒊②訂正削除ができないシステムを利用」と「⒋訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け」を駆使する方法でしょう。
これが実務で一番負担少なく電子取引情報を保存する方法といえます。
2つ目の不正な改ざんの防止策を講じる要件がだいぶ長くなりました。続いて電子取引情報をそのまま保存するための最後の3つ目の要件です。
⒊ 検索機能の確保
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に当たり、以下の要件を満たす検索機能を確保する必要があります。
- 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索できる
- 日付又は金額については、その範囲を指定して検索できる
- 2以上の任意の項目を組み合わせて検索できる
先ほど実務では「⒊②訂正削除ができないシステムを利用」と「⒋訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け」を駆使する方法を取るといいと言いました。
「⒋訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け」を行った自社のパソコン内にメールで送信された請求書データを電子的に保存することを考えてみましょう。
どこかのフォルダにただ入れ込んだだけで1つ目の「取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索の条件として設定することができる」これができるでしょうか?
無理ですね。そこで電子帳簿保存法一問一答 問33で次のような方法が紹介されています。
ファイル名には①、②…と通し番号を入力する。
エクセル等の表計算ソフトで以下のような票を作成する。
(各種規程等のサンプル(国税庁HP)でこの一覧表をダウンロード可能)
(日付範囲指定例)
「日付」の列をフィルタ機能で検索しています。
(金額範囲指定例)
「金額」の列をフィルタ機能で検索しています。
このように表計算ソフトで一覧表を作成し、フィルタ等で検索し、検索後その連番のファイルを参照すればすべての検索要件を満たすことになります。
つづいて2つ目の方法です。こちらはもっと簡易な例です。
2022年(令和4年)11月30日付の株式会社霞商事からの20,000 円の請求書データの場合にファイル名を次のように編集します。
「20221130_㈱霞商事_20,000」
「年月日_取引先名_金額」という規則ですべてのファイル名を編集することによりフォルダ内を日付、取引先名、金額で検索することが可能。
しかしながら、この方法だと1つ目の要件はクリアされますが、通常は2つ目の要件「日付又は金額については、その範囲を指定して条件を設定することができること」と3つ目の要件「2以上の任意の項目を組み合わせて条件を設定することができること」を満たすのは難しいのではないかと思われます。
この方法だと検索要件を満たせないじゃないか。
いいえ、実は方法があります。
当局もすべての事業者が対象なので、ハードルを低くする努力を行なっています。次をご覧ください。
税務職員による質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じることで検索要件緩和
つまり1つ目の要件だけ具備していれば、2つ目の要件、3つ目の要件はなくてもOKです。
先ほどのファイル名を変更する方法でも税務職員のダウンロードの求めに応じることができるようにしていれば要件クリアです。
ここまで見てきてやっと新しい電子帳簿保存法でみんなに強制される電子取引情報の電子的保存が実践できる見通しが立ちました。ホッ
でも、やっぱり事業をやっている人みんなに強制適用されるの?
うちは売上も大してない小さな商売なんだけど。
この電子取引情報の保存は、事業をやっている者全員に適用されますが、実はこの検索機能の確保要件がまったくなくても大丈夫な事業者がいます。
基準期間の売上高が1,000万円以下の場合は、検索要件のすべてが不要
基準期間の売上高とは
個人事業者 | 電子取引が行われた日の属する年の前々年の1月1日から12月31 日までの期間の売上高 |
---|---|
法人 | 電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度の売上高 |
この売上高が1,000万円以下で、さらに
税務職員による 質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合
は検索要件が不要になります。
なお、判定期間に係る基準期間がない新規開業者、新設法人の初年(度)、 翌年(度)の決算期などについては、検索機能の確保の要件が不要です。
ここでもう一度確認しておきますが、基準期間の売上高が1,000万円以下の事業者は検索要件がなくなるだけで、電子取引情報を電子的に保存するというのは全事業者がやらなければならないことに変わりありません。電子取引の電子的保存自体をしなくていいという規定はありません。
電子帳簿保存法 電子取引情報の保存の攻略法
一通り要件を解説し終わりましたので、ここで電子取引情報の電子保存を実際に実務で運用する場合、どのように攻略すればいいかを提案します!
わかりやすい!これならできそうね。
それで強制適用されるのはいつからになるのかしら?
すごく大事なところですよね。
令和4年(2022年)1月1日以後に行う電子取引について適用されます。
電子帳簿保存法 電子取引情報の保存の強制適用はいつからか
例えば決算期が令和3年4月1日から令和4年3月31日の場合は、決算期の途中から開始することになります。令和4年4月1日からのようにはなりませんので、ご注意ください。
この通りに電子取引情報を保存しなかったらどうなるのかな?
最悪は青色申告の場合は、青色申告取り消しや消費税の仕入税額控除が認められないことになりかねません。
電子帳簿保存法 電子取引の取り決めどおりやらなかったら
これまで新しい電子帳簿保存法の下で電子取引情報を保存しなければならない要件について説明しましたが、この要件どおり保存しなかったらどうなるか。
例えば、検索要件を具備しないとか、従来どおり紙での保存を続ける場合どうなるのでしょうか。
そうなった場合は、税法で決められている保存すべき帳簿書類が保存できていないことを意味します。
その場合、税務上大きな問題となるのは次の2つです。
青色申告取り消し
青色申告の要件として、法定の帳簿の備え付けと一定期間の帳簿書類の保存が必要になりますが、それが法令どおりに行われていないことになりますので、要件に違反しており、取消しの理由になります。
青色申告が取り消されても文句は言えません。
そして青色申告でなくなると最悪の場合は、推計で課税標準を決められてしまうということもなくはありません。
税務署長は、内国法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合には、…その内国法人の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその内国法人に係る法人税の課税標準を推計して、これをすることができる(法人税法131条)
消費税の仕入税額控除の否認
消費税の申告・納税義務がある場合、仕入税額控除が認められないケースがあります。
違反していた書類が支払いに関するモノであった場合、仕入税額控除の適用を受けるためには、法定事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が要件とされています。
(参考)No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿及び請求書等の記載事項
これがないということになりますので、仕入税額控除が否認されても文句は言えません。
電子帳簿保存法 電子取引に関する不正に対する重加算税の加重
電子取引情報の電子的保存に関して、隠蔽し、又は仮装された事実があった場合には、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が10%加重されます。
従来の紙での保存よりもデータを改ざんされるリスクが比較的高いということでそれを防止するために電子データを隠匿したり、改ざんしたりした場合は、重加算税が増えるという措置が講じられました。
電子帳簿保存法 電子取引の取り扱いまとめ
かなり長くなりましたが、いかがだったでしょうか。
絶対抑えておかなければいけない重要ポイントを再確認しておきましょう。
今回の電子帳簿保存法は、最近の税法改正の中でかなりインパクトの大きいものだと思います。なぜなら事業者全員が事務処理の方法をかなり大きく変えることを強いられるからです。
これは知らないでは済まされません。まだ知らない人にはぜひ教えてあげてください。
2022年開始の新電子帳簿保存法のすべてを理解したい方はこちらをご覧ください。
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