球磨川治水 想定最大流量に波紋広がる 国交省「洪水時、安全に流せぬ区間も」

熊本日日新聞 | 2021年09月13日 06:24

球磨川水系の河川整備基本方針案を検討する小委員会にオンラインで出席する蒲島郁夫知事(中央)=6日、県庁

 球磨川流域に昨年7月豪雨と同等の雨が降れば、全ての対策を講じても安全に水を流せない区間が生じる-。熊本県の球磨川水系の治水対策を検討中の国土交通省は、全国の1級水系でも過去に例がない河川整備基本方針案を示した。従来の国交省の姿勢とは一線を画す案に、関係者の間に波紋が広がった。

 「ウソだと思った。大雨をもたらす気候変動の影響が生じている以上、いつかは、とは思っていたが、こんなに早いとは」

 今月6日、東京・霞が関。河川整備基本方針案を検討する小委員会の小池俊雄委員長は、会合終了後、国交省が示した案に対する驚きを隠さなかった。

 新たな基本方針案は気候変動を加味。洪水時に球磨川に流れる想定最大流量について、人吉(人吉市)で現行の毎秒7千トンを8200トンに、下流の横石(八代市)では毎秒9900トンを1万1500トンに引き上げる。

 支流の川辺川で検討中の流水型ダムや遊水地といった洪水調節施設を整備すれば、7月豪雨と同規模の洪水でも堤防は越えない。しかし、人吉より下流の大部分では安全に水を流せる目安となる「計画高水位」は超えてしまい、堤防や護岸が危険な状態になる恐れがある。

 国交省河川計画課は「過去のパターンを考慮して設定した雨の降り方に比べ、7月豪雨は降り方に偏りがあり、球磨川中・下流域の雨量が大きく上回ったためだ」と説明する。県幹部は「国交省はダムなどの洪水調節施設によって安全に水を流す目標の設定を“金科玉条”としてきたが、今回、大きく転換した」と受け止める。

 小委員会メンバーでもある蒲島郁夫知事は6日の会合後、報道陣に囲まれた。洪水時に安全に流せない方針案を受け入れるのかとの質問に「昨年の豪雨に対応する計画にしないのかという疑問は出てくると思うが、委員会が最大限に努力した結論だ」と答えた。

 蒲島知事は7月豪雨を「500年に1度」の異例な事態にたとえ、「千人にテストを作る時、500年に1人の天才のために作れば誰も答えられない。それより、999人の平均に合わせないといけない」。地元知事として方針案に理解を示した。

 洪水時に安全に流せない区間が生じる危険性に対し、国交省と県は「被害の最小化を図る」との考えで一致する。リスク情報の提示や避難体制づくりなどのソフト対策を強化し、地元住民を巻き込んだ「流域治水」を推進すると強調する。

 しかし、長期的な治水対策の目標が過去の実績に届かない現実は横たわる。「実際に起きた洪水に対応できない目標では住民は安心できない。異常気象が続く中、もっとひどい豪雨の発生も念頭に置くべきではないか」。球磨川流域を地盤とする県議の一人は疑問を口にした。(嶋田昇平、内田裕之、潮崎知博)