令和2年 ごあいさつ

金沢大学整形外科 教授
土屋 弘行 Hiroyuki TSUTHIYA

 金沢大学整形外科同門会の皆様におかれましては,平素より教室に絶大なるご支援を賜りまして,厚く御礼申し上げます

 まず,恒例の昨年1年間のおもだった教室業績をご報告します.2019年3月にラスベガスで行われた米国整形外科学会(AAOS)の発表演題数は24題(今年=2020年は,オーランドでの開催が中止になりましたが,21題が採用されていました),リスボンで開催された欧州整形外科外傷学会(EFORT)には15題,JOAの3学会を合わせて61演題,国際学会発表演題総数が94題,医学博士取得者が7人,科学研究費の獲得が17件,受賞および研究費獲得が25件,英語論文発表が90編でした.昨年と比較しまして,英語論文数が一気に増加しまして,4日に1本のペースで出ていることになります.ちなみに2014年から2018年の5年間に講座単位で発行された英語論文数は全ての学部を含む金沢大学全体でトップでした.今後も,この勢いを堅持して行きたいと思います.

 一つ嬉しいお知らせをご報告させていただきます.かつて先進医療として施行していました液体窒素処理骨移植術が,“処理骨移植”という分類で,今年4月1日に保険収載されました.日本整形外科学会,骨軟部腫瘍委員会,社会保険等委員会の関係の先生がたにこの場をかりまして厚く御礼申し上げます.処理骨移植とは,パスツール処理骨,放射線処理骨および液体窒素処理骨を含みます.骨軟部腫瘍を扱う整形外科専門医の常勤など満たすべき施設基準が必要ですが,基準を満たせば,通常の治療として行うことが可能です.日本整形外科学会のホームページで各種処理方法が解説されています.液体窒素処理骨移植は,金沢大学整形外科で開発された術式で,誠に嬉しい限りです.現在では,アジア地域はもとより,米国や欧州,南米でも行われるようになっています.夢・挑戦・実現のモットーのもと,一つ達成できました.少しでも,患者さんのために役立ってほしいと思います.
2019年の巻頭言では,「30年ぶりの御代替わりがなされ,平成から令和へと時代は移り変わりました.夢と希望に溢れた時代になってほしいと思います.」と述べました.しかし,令和2年は,武漢発新型コロナウイルス(COVID-19)のおかげで,世界中が大変なことになっています.
 1月中旬に日本で初めての新型コロナウイルス感染者がでると,2月に入って感染者が一気に増えていきました.3月に入ると学校は休校,様々なイベントやコンサートは自粛,プロ野球のオープン戦や大相撲は無観客開催となりました.高校球児の夢である春の選抜高校野球も中止となりました.東京オリンピックも来年に延期,日本整形外科学会学術総会をはじめほとんど全ての学会や関連セミナーがWEB開催,中止,延期となり,国際学会もしかりです.4月には日本全土に緊急事態宣言が発動され,今後どのように感染が拡大,もしくは収束するかはわからない状況です.医療も経済も非常に緊迫した状況で,今年中の学会活動はかなり厳しくなってきました.石川県は13ある特定警戒都道府県の一つとなっています.原稿執筆時点で,緊急事態宣言は1ヶ月の延長となっています(5月14日には宣言は解除されましたが,当然のことながら自粛要請は続いています).
 このコロナ危機に関しては多くのことが議論されていまして,ここでは語り尽くせませんが,広く浅く課題をあげて意見を述べたいと思います.
 まずは,1月23日に武漢が閉鎖された時に,日本への外国人や帰国者の流入を制限すべきではなかったのかという問題があります.少なくとも中国全土からの日本への流入は完全にシャットアウトすべきだったと思います.この新型コロナウイルス感染症の正体が中国から情報開示されない状態で(故意でしょうか?),なかなか判断は難しいかと思いますが,国防(安全保障)という観点からは未知のウイルス感染症は,バイオテロや生物兵器と同等ですので一番レベルの高い危機管理で臨んでほしかったと思います.実際に,台湾,米国,シンガポールをはじめとする危機管理意識の高い国々は素早い行動をとっています.現状,台湾ではほぼ制御できていますが,米国はズタズタです.何もしなければ,米国はもっと悲惨なことになっていたでしょう.

 この頃,国会は何をしていたか?野党勢力は,既に見頃を過ぎた“桜”の質問ばかりで,国家の危機を前にして何たることか!立憲民主党の某氏にいたっては,時間があればコロナを議論すると,アホなことを言っていました.国会議員の仕事は何か?国民の生命と財産を守ることが第一です.政府としっかり議論を戦わせて,速やかに政策を正しい方向へ導いていくことが要求されます.野党のレベルの低さはどうにもなりません(与党もスッキリしません).
 マスメディアはどうでしょうか?日本や政府を貶めるような偏向報道を続けていて,公明正大かつ中立な質の高い報道ができずに,マスゴミとまで言われています(もちろんまともなメディアもあります).中国の春節のとき,中国人観光客を止めたら日本への経済的ダメージは計り知れないと言っていました.中国人が日本で消費するお金は,実際には日本のGDPの1〜2%にも満たないのですが.現在進行中のコロナ危機で受ける経済的ダメージは,リーマンショックを遥かに超える予想となっています.朝日新聞の編集者がツイートで「あっという間に世界を席巻し戦争でもないのに超大国の大統領が恐れ慄く.新型コロナウイルスは,ある意味で痛快な存在かもしれない.」と嘯きました.事件が起こって面白ければいい,権威が貶められればいいというこの姿勢はあいも変わりません.人,国民,国家の不幸を喜ぶマスコミの存在価値はありません.今もマスコミは,政府の対応に難癖をつけ,国民にコロナの恐怖を煽り,医療従事者がなぜ感染するのだとか冷たい視線や差別を向けています.
 地方自治体の首長も結構なもんです.あろうことか,東京都知事や兵庫県知事はマスクや防護服を中国へ大量に寄付しています.医療の現場では,それらが足りなくて奔走しているというのに.石川県知事も,金沢,北陸は患者も少なく安全ですからどうぞ観光に来てくださいと言っていました.その結果,いまや人口あたりの感染者数は,石川県は東京に次ぐ2番めで,市町村単位では全国トップを走ります.もちろん,上述しましたが,石川県は13の特定警戒都道府県の中に入っています.危機管理の甘さが完全に露呈しました.
 また,国民であるわれわれも反省しないといけません.マスク不足に乗じて,通常の50倍や100倍の値段で転売する輩が出てきました.どこかの県会議員もしていました.このような卑劣な振る舞いは日本人であることを疑ってしまいます.そして,われわれは,「どうせたいしたことにはならないだろう.SARSの時も凌いだし.」とたかをくくり,のんびりとしていたのではないでしょうか.こういうのを正常性バイアスが働いたというらしいですが,もっともっとSNSなどを利用して政府やメディアをプッシュしていく必要があったのだと思います.人間は,経験したことでしかうまく対応できないという弱点があるのも事実です.

さて,今回,WHOの見解が大ブレでした.WHOのテドロス事務局長がだいぶ問題になっています.かなり中国寄りの見解を述べて混乱を招いているために,米国,英国,仏国などが激怒しています.確かに,彼の発言を経時的に見てみますと明らかにおかしいです.

1月10日:人から人への感染はない.または限定的である.
1月28日:中国は時宜にかなった有力な措置を講じている.
1月31日:渡航や貿易を不必要に妨げる措置をすべきではない.
2月 4日:中国以外の国々は感染者のより良いデータを.
2月12日:特定の地域を連想させる名前を肺炎の名称にするのは良くない.
2月24日:パンデミックには至っていない.
2月27日:中国の積極果敢な初期対応が感染拡大を防いだ.
2月28日:パンデミックの可能性がある.
3月25日:われわれは最初の機会を無駄にした.
3月27日:全ての国で積極的な行動がなければ,数百万人が死亡する可能性も.
4月 5日:中国は毎日科学的なデータを発表,提供している.
4月 8日:われわれは天使ではなく人間,間違うこともある.私に対する中傷はすべて台湾から行われてきた.断固として抗議する.
4月27日:WHOは,早期から最高レベルの警告を発してきた.その忠告に従わない国があったことに遺憾の意を示す.1月末に,国際的な公衆衛生上の緊急事態を宣言した.世界はその時にもっと適切な対応を取るべきだった.

 どうでしょうか?知識,見識,胆識があり,誠意に溢れた事務局長にすぐにでも変わっていただきたいと思います.トランプ大統領は,中国とテドロス事務局長との間のお金の動きを調査し始め,WHOへの支援打ち切りや脱退まで宣言しています.ちなみに彼は,中国からテドロス同志と呼ばれているそうです.

 さて,今後の見通しですが,未知のウイルス感染症ですので誰にもわからないとなります.現状では,ウイルス感染を避けるべく逃げるしかないわけですが,このウイルスと戦うためには,一刻も早く抗ウイルス薬やワクチンが応用可能になりこの感染症をコントーロール下に置くようにすることが重要なポイントになります.いくつかの抗ウイルス薬がすでに候補にあがっていて,米国ギリアド社のエボラ出血熱に対して開発されたレムデシビルが既に米国で承認され,日本でも承認されました.富士フイルム富山化学がインフルエンザ用に開発したアビガンも軽症や中等症の患者に有効と注目されていますが,承認までには結構な時間がかかるようです.日本製のアビガンは,いわゆるドラッグリポジショニングに相当し,既に有害事象に関してはわかっている薬ですので,もっと速やかに承認にこぎつけてもいいと思いますが(もちろん有効性があればですが),なぜ,米国製のレムデシビルが優先されているのかよくわかりません.その他にも,ノーベル賞受賞者の大村博士が開発した抗寄生虫薬のイベルメクチンも注目されています.これもドラッグリポジショニングですので,早急に対応して欲しいものです.とにかく,新薬の登場を期待します.英国や米国では,既にワクチンが開発され,9月から使用できるというニュースも飛び込んでいます.今後,さまざまな武漢発新型コロナウイルス感染症のデータが蓄積されていくのにともない,適切な診断と治療のガイドラインが出される日も近いと思います.現在,国ごとの死亡率で差が出ていることでいろいろな議論がなされていますが,どうもBCG接種が関係しているのではないかと言われています.BCGは結核だけでなく,このコロナウイルスに対しても免疫力を増強しているのでは?と.現状,PCR陽性者数というのは実際に新型コロナウイルスに感染している人の実数全てを反映しているわけではありませんので,確実な比較は,全人口に対する死亡者数が妥当と思います.ちなみに5月19日現在,米国における人口100万人あたりの死亡者数は約250人(既にベトナム戦争の死者数5.8万人を上回る9万人超です),日本では約6人です.最多はベルギーの約790人で,スペインが約590人,イタリアが約550人,英国が約520人などとなっています.日本は,積極的なBCG接種国です.BCGを接種していない,米国,英国,仏国,伊国での死亡者数は多く,接種国のロシアやポルトガルでも少なくなっています.また,アジア圏での死亡率は低く抑えられており,人種的な問題や未知のファクターもあるかもしれません.
 米国のトランプ大統領や仏国パスツール研究所の元研究員が,今回のコロナウイルスは武漢病毒研究所発だと,かつ人工的に作られたウイルスである可能性とか言っています.これが事実なら,今後重大な局面に発展する可能性があります(中国は既にワクチンや抗ウイルス薬を持っていて出すタイミングをはかっている?).SARS問題のあと,この武漢病毒研究所は仏国の援助により建てられ,米国も多額の研究費を拠出していましたが,何らかの理由で2−3年前には両国ともそこから撤退しています.こういうことは,しっかりと検証してほしいところですが,中国が本当のことを言うはずありませんので,未解明で終わります.ネガティブなことばかり言っても始まりませんので,この困難な状況において,是非とも日本政府には頑張っていただき,われわれ国民に感染症の制圧と経済の回復に向け,希望の道筋を与えてほしいと思います.われわれ国民もこういう時こそ心を一つにしてこの逆境を乗り切り,再び栄えある日本を取り戻す必要があります.No guts, No glory.
2021年5月20日から23日にかけて,第94回日本整形外科学会学術総会を金沢大学整形外科が担当して開催する予定です.今年5月に福岡で開催予定でした第93回日本整形外科学会学術総会は,武漢発新型コロナウイルス危機により残念ながらWEB開催となりました.東京オリンピックが1年延期されたことにより,開催時期の影響を受けるかもしれず,1週遅れの神戸開催や1ヶ月遅れの金沢開催も検討していましたが,幸いにも東京国際フォーラムとJPタワーから許可が出て,予定通りの開催となりました.もしやの金沢開催もありということで,内心盛り上がりましたが,その夢はすぐに忘却の彼方に消えました.しかし,新型コロナウイルス感染症の収束なくして,開催はできないと思いますので,引き続き情報収集をきちんと行っていきます.
 教室では,学会の準備も順調に進んでいます.プログラムに関してですが,約70のシンポジウムを用意する予定で,本学会のテーマに準じて“伝統と創造”シンポジウムを特別に企画します.腫瘍,脊椎,股関節,膝関節,足の外科,手の外科,スポーツなど14の領域で,オーソリティーとバリバリの整形外科医に議論していただく予定です.先人の足跡を辿り,現状を見つめ,未来につなげる充実したシンポジウムを目指す予定です.教育研修講演は約100演題を予定しています.海外招待講演者も40名にのぼります.ランチョンセミナーなどのスポンサードセミナーも50を超える予定です.世の中の情勢を見ながらですが,全員懇親会,企業展示ブースでのサービス,学会晩餐会などにおいても可能な限り金沢色を出していきたいと思います.先生がたにおかれましてもできる限りのサポートを何卒よろしくお願い申し上げます.われわれも,持っている力の限り,本気を出して学会を盛り上げていく所存です.

 2019年は,百田尚樹氏の「日本国紀」という本を推薦させていただきました.100万部以上売れているそうでその影響力はかなりのものだと思います.しかし,これだけ話題性のある本が出版されたのに,メディアは黙殺しています.ということは,やはり本当の歴史が書いてあって素晴らしい本であることの証明だと思います.一方で,テレビという最強の洗脳装置が存在し,朝から晩まで影響を受けている人たちが問題です.進歩的知識人と称して,全く進歩的でない話をしているコメンテーターもたくさんいます.反日メディアを何とかするのが今後の課題です.今年は,「危うい国・日本―百田尚樹X江崎道朗」(WAC)を紹介します.現在の日本の問題点をことごとくあぶり出していて非常に勉強になります.皆さんは,“Dupes(デュープス)”という言葉をご存知でしょうか.デュープスは,左翼に騙されて正義ぶるお馬鹿さんのことで,今日本を危機に陥れている元凶で,官僚やマスコミを支配しているそうです.あと一つ,「これだけは知っておきたいほんとうの昭和史―渡辺昇一」(致知出版社)です.日清戦争,日露戦争に勝利して坂の上にのぼった日本に何が起こったのか,今このような日本になってしまった経緯が非常にわかりやすく書かれています.なぜこのような歴史教育を小中学校,高校でしてくれなかったのか.腹が立ちます.あとどうしてももう一つ,百田尚樹氏の「カエルの楽園」(新潮文庫),余裕があれば,「カエルの楽園が地獄と化す日―百田尚樹X石平」,「カエルの楽園2020」をあわせて読むと理解が進みます.言わずもがな,カエルの楽園は日本のことで,襲ってくるのは中国です.世界中がコロナ危機で疲弊しているなか,ウイルスを広めた責任をよそに,中国は南アジアの島々,日本の尖閣諸島に50%以上増しで侵入を連日繰り返しています.日本が地獄と化さないように,われわれも対抗していかなければいけないと感じています.

 後になりますが,来年の第94回日本整形外科学会学術総会のテーマは「伝統と創造―夢・挑戦・実現」です.同門の先生がたにおかれましては,引き続き倍旧のご厚情を賜りたく,切にお願い申し上げます.金沢大学整形外科学教室へのご支援とご協力を何卒よろしくお願い申し上げます.

2020年6月吉日
〈令和2年同門会誌 巻頭言より〉