あくたの虫

■芥の虫[あくた‐むし]

▽解説

 『神道由来の事』に記述のある怪虫です。
 これは室町時代頃の写本が残されている書物で、天地開闢から天岩戸、八岐大蛇退治などの神話を神仏習合的世界観のもと語るものです。

 「あくたの虫」は「さくゝの宮」の由来を説く部分に登場します。
 用明天皇(在位585~587)の時代、帝よりとある宣旨が下されました。
 それは空にあるという「あくたのむし」なる鉄(くろがね)を食らうものを見てみたいという内容で、ほどなくして天から一匹の虫が降ってきました。
 これを見た帝は「これこそ私が見たいと願っていた虫だ」と言って、芥の虫を飼育させました。
 虫は鉄を食って成長し、やがて山のように大きくなりました。
 鉄がないときには人を食うようになり、勅命にも従わなかったために、芥の虫は帝に仇なす存在とみなされるようになりました。帝はこれを滅ぼさんと欲しましたが、鉄の塊となった体には太刀さえ刃が立ちません。
 この朝敵に人々が万策尽きたことを知った天照大神は、自ら虫を大川へ沈めて遂に退治するのでした。
 海などで採れる「ぎしやく(磁石)」というものはこの虫が滅びたあとに残った骨であるといいます。


 ゴキブリの古称のひとつに「あくたむし(芥虫)」というものがありますが、『神道由来の事』にある「あくたのむし」の記述が実在の虫を想定していたかは今のところ不明です。
 時の権力者が鉄を食う珍しい生き物を飼いならそうとした結果、それが成長し人を襲う怪物となって破滅を招くという展開は仏典などにみられる「禍(わざわい)」の説話が元になっているようです。
 鉄を好む禍の骨もまた鉄を取る磁石になったとする説は延慶本『平家物語』にもみられます。


▽関連




 
 これがゴキブリのおばけだったら面白いね…ということで思いきりゴキブリっぽく描いてみました。
 神様が出てこないと倒せない大怪獣っぽさがたまらないですね。
 「芥の虫」表記は『お伽草紙事典』や『妖怪文化研究の最前線』「わざはひ(禍、災い)の襲来」を参考にしました。