Special Talk Session#57

2021年初夏にリリースが予定されているKeyのキネティックノベルプロジェクトの第2弾となる作品『Project:LUNAR』は、 シナリオライターに『雨の日のアイリス』『君死にたもう流星群』などのライトノベルを上梓している松山剛さん、 ディレクターに大地こねこさんを迎えたプロジェクト。そんなふたりに制作秘話から作品のテーマまで幅広く語ってもらった。

photo = Toru Izumisawa
interview = Katsuyoshi Tanaka
Location = TOKYO VIDEO GAMERS

01-01左:大地こねこ 右:松山剛

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キネティックノベルらしい
テンポ感にこだわった作品

『Project:LUNAR』について掘り下げていく前に、まず聞いておきたいことがあります。おふたりはKey作品に初参加となるんですよね?

そうなります。

私もKeyさんでお仕事をさせていただくのは初めてになりますし、まさか声がかかるとも思ってもいませんでしたので私も最初は驚きました。

そんな状況で、なぜこのタッグが生まれたのでしょうか?

私の作品にというライトノベルがあるのですが、それをディレクターの大地さんが読んでくださり声を掛けていただいたみたいで……。それまでお互いの接点はありませんでしたよね?

はい。順を追って説明しますと、私がビジュアルアーツで仕事をするようになり、ある時プロデューサーの丘野塔也さんから「eスポーツを題材にの企画を作ってみて」と提案されました。そこからしばらくいくつ企画を出してもボツが続くといった状態が続くんですが……(笑)。eスポーツもの以外にもVRもの、AIものなど別の企画も並行して提出していたのですが、その中のひとつに「月の裏側にサーバーがあって、そこにAIが住んでいる」という設定があったんです。それを見た丘野さんが「この企画自体はイマイチだけど、月の裏にAIが住んでいるという設定はなんだかいい気がする」と引っかかってくれたんです。

どうして月の裏側だったんですか?

「人間の想像が及ぶ範囲でいちばん遠い場所」が月の裏側なのかなと。つまり究極の遠距離恋愛の物語を作りたかったんです。

なるほど。「銀河系の果て」とかだと読者それぞれの想像に委ねないといけませんけれど、ふだんから目に見える月だとイメージも共有できますし、たしかに月は人間が想像し得るいちばん遠い場所かもしれませんね。

そこで「月の裏側に住むAI」に「VR」、そして最初のオーダーにあった「eスポーツ」を合体させて……まあそう簡単に合体できるわけないので、ここから様々な紆余曲折があったんですが(笑)、なんとか『Project:LUNAR』のたたき台が完成しました。

どのような経緯で松山さんにたどり着いたんですか?

この企画を実現させるためには、SFが書けるだけでなく、Keyの要素となる「泣き」を押さえられる方をライターに起用しないといけない――ということで、泣けるSFライトノベルと評判の作品を読み漁りました。そこで、ふとポチった『雨の日のアイリス』を読み進めているうちに「これをそのままキネティックノベルにしてもいいんじゃない!?」と思うくらいしっくり来たんですね。そして現行作品であるも拝読して、『Project:LUNAR』との親和性をとても感じたんです。

『雨の日のアイリス』を読んで、それから『君死にたもう流星群』という流れだったんですね。

『雨の日のアイリス』では女の子のロボットが登場して、『君死にたもう流星群』は宇宙を舞台にしているじゃないですか? そして両者のクオリティの高さ。「これは運命かな」と声をかけさせてもらったんです。

去年の11月ぐらいのことでしたよね? 私、本当にびっくりしたんですよ。もちろんKeyというブランドは知っていましたけれど、その会社から仕事のお話がくるなんて想像の埒外でしたから。それにライトノベル作家としては20冊以上出させていただいていますが、ゲームのシナリオは書いたことがありませんので本当に私でいいのかといった不安もありましたし……。最初のころのメールで「ゲームのシナリオは書いたことがないんですけれど、本当に大丈夫なのですか?」と何度も確認するくらい不安でしたから。

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不安を感じながらも受けたということは魅力を感じた仕事だったわけですよね?

はい。そもそも『雨の日のアイリス』や『君死にたもう流星群』を読んでお声掛けいただいたなんてとても光栄な話じゃないですか。自分の書いた作品に魅力を感じてもらったこと自体も感慨深くて、がんばってみようかなと。

ただ同じ物語を書くといってもゲームと小説ではかなりの違いがありますよね? とくに地の文なんてまるで別物です。そこはどう乗り越えたのですか?

大地さんとも話し合ったんですが、小説しか書いたことのない人間が最初からゲームシナリオのテイストで書いてもうまくいかないだろうと、最初は無理にゲーム的な文章にするのではなく小説のように書かせてもらいました。まずは私が自由に書いてみて、そこから完成した原稿を大地さんに指摘してもらって……と、その繰り返しでした。

キネティックノベルは2、30ワード×3行のテキストだけでなく、絵や音や演出なども読者に届きます。だから、それらを総合して得られる情報が読者の感情とリンクしていなければならない――みたいなところが小説とは異なると感じています。雑に言ってしまうと、小説ならば地の文でヒロインの容姿を細かく書き伝えなければならない部分でも、キネティックノベルであれば絵を見て声を聞いてもらえたら一発で解決するので、テキストによる描写は控えめに、テンポを重視しよう……という感じです。これは演出を含めた話になりますが、私はテンポよく読んでもらえるのがキネティックノベルのいいところだとも思っていて、そんな部分でも「こんな感じにしてみましょうか?」みたいなアドバイスはさせていただきました。それこそ毎週のように打ち合わせしましたね?

小説を書いていると、なかなかその「3行でひとまとまり」みたいな部分は考えませんからね……。お仕事をするにあたって、いくつかKey作品をプレイさせていただきましたが、やっぱり2、3行のテキストがぽんぽんと流れていく形でした。一方の小説は地の文でまとまった情報をバッと出すみたいなところもあるので、ひとつの文章にどれくらいの情報量を込めていいのかという部分は悩みどころでもあったんです。

松山さんはKey作品にどのように触れていましたか?

最初に知ったのはのアニメーションでしたね。毎週VHSのビデオテープに録画しては繰り返し見ていましたし、とくにオープニング曲のが大好きで! なので大地さんから依頼があったときも「ああ! あの『Kanon』を作っていた会社だ!」というのが第一感でした。

松山さんの好きなヒロインは誰でしたか?

月宮あゆと沢渡真琴です。ふたりのエピソードを見て画面の前で泣いていたくらい好きです(笑)。いまでこそアニメを見て泣くというのはふつうのことになりましたが、当時はなかなかなかったじゃないですか? だから「こういうのもあるんだ!」という新鮮な驚きがありましたし、真琴のラストシーンなんてじつは私が書いた別の作品でもインスパイアさせてもらっていたりもするんですよ。

ファンにはそれがどの作品のどこかを調べてもらいたいですね。ちなみに大地さんはライバル会社でもあるKeyの作品についてどう見ていたのでしょう?

ライバル……なのかなあ(笑)。出会いはでした。まだ私が学生のころ、当時の友人から「とにかくやれ、いいからやれ」と猛烈にプッシュされまして……。その友人はまずOPムービーでのを聞かせてくるわけですよ。絵と音楽と演出の総合力に圧倒されたのを覚えています。業界に入ってから印象に残っているのはですね。当時「より作品の面白さだけで勝負していくのか!?」と驚愕と羨望の眼差しで見ていました。

最近だと私もキネティックノベルを勉強しようとをプレイしてみましたが、あれもすごい作品ですよね。

後半から終盤にかけての込み上げる感情はすさまじいものがありますよね。そんな『planetarian』と肩を並べるくらいの作品を作らねばお客さんは満足してくれないだろうし、納得してくれないだろうと、『Project:LUNAR』のクオリティラインとして目標にしている作品でもあります。

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