個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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2話

『キャラを作って放置、究極のクソ運ゲーRTA第2部 はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 

 

「……899……900……901」

 

 

 

『プロヒーローというゴールに向けてハイ、よーいスタート(棒読み)』

 

 

「……913……914……915……916」

 

 

『しかもここにきてホモ子が怒涛の勢いで育っているのは良いですね、今までのクズ運は乱数調整だった……?

 

 前回の事故のおかげで学校に行かないでいい期間ができましたので、人に会わず家で集中して鍛えることができます。

 

 一時はガバったけど見事なリカバリですね(ご満悦)』

 

 

「桃子? 少しいいかしら……」

 

「938……なに? お母さん」

 

「今日のご飯はみんなで食べないかしら、あなたの好きな大学芋も作ってるのよ」

 

「943……いいよ、今そんなにおなか減ってない」

 

「桃子、たまには外に出るのはどうかしら!! お母さんとお買い物とか」 

 

「……だったらなんでもいいから重いものが欲しい、今のバーベルじゃもう負荷がかけられないの」

 

「ふふ、全くもう……女の子らしい物をもっと揃えたほうがいいわよ」

 

 お母さん顔は笑ってるけどすごく辛そうで、私はそれを見るとたまらなく申し訳ない気持ちになる。

 

「じゃあ下で先に食べてるわよ」

 

 小柄なお母さんのさらに小さな背中を見た時、私は強烈な後悔に襲われる。

 

 

 昔みたいにお母さんと買い物に出るのもいいかもしれない、きっとそうすれば喜んでくれる。

 

 何よりここ1年は人としゃべらないせいで孤独で押しつぶされそうだった。

 

 私は部屋に置くには邪魔なバーベルを床にそっと置いて、お母さんに話しかけようとした。

 

 

「お母さん、今度…」

 

 

 

『個性を育てよう』

 

 

 

「どうしたの桃子?」

 

「……………………今度からはいつも通り、ご飯は部屋の前に置いて欲しいの、ちゃんと自分で食器は洗うから」

 

『雄英高校の受験に向けて個性は必要値を最速で完成させなければいけません、今の時期は鍛えて足りないということはないので、安定を取るためにここは個性を育てる一択です。このゲームは気を抜くとすぐにイベントが起きて自分や仲間(にくかべ)が死にますからね』

 

 自分が人に関わればどういうことになるか思い出した。

 

 一度置いた二つのバーベルを両手に持ち直す。

 

「976……977……978」

 

「そう………、分かったわ、桃子……」

 

 

 

 

 お母さんが下に降りて、部屋を通ってリビングまで歩く、そして私に聞かれぬようにと口を手で覆い、小さな嗚咽を一つ漏らした。

 

 お父さんはいたわるように近づき、そっと母さんを抱きしめる

 

 

「あの子……、もうずっとあんな風に自分を痛めつけて……!」

 

「今はあの子も何かしていないと不安なんだよ、お前も自分をそんなに追い込むな」

 

「あんなに明るい子だったのに……!! あんなにふさぎ込んで…… 」

 

「………今は時間が必要なのかもしれない、ここは……、少し悲しいことが多すぎた……」

 

「うッ……、うぅ……」

 

「実は静岡県あたりに転勤の話が出ててな、お前の実家からもかなり近いしちょうどいいんじゃないかと思うんだ。家族みんなで少し休もう」

 

 

 

 

 

 私の個性で強化された聴覚は、お父さんとお母さんの会話をまるで横に突っ立っているように聞き取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日から私は小学校に行くのを止めた。

 

 声に従って毎日を過ごしていると気づけば小学校を卒業していたらしい

 

 

 中学校は行かないつもりだった。

 

 

 中学はエスカレーター式でほとんどが顔見知り、行ってしまえば、仲のいいみんなは私を心配してくれる。

 

 

 純粋な善意によって言葉をかけられ、気遣われ、励まされるだろう。

 

 

 私はそれを抗えず受け入れてしまう。

 

 

 

 

 そして私はまた人と関わり……、繰り返す。

 

 

 

 だからお父さんが別の学校に行こうと言った時、私は少しほっとした。

 

 

 知らない他人なら、仲良くなっていない内なら、初めから関わろうとしなければ耐えられるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『事件に巻き込まれて敗北すると結構な確率で転校します。転校先はどこでしょうかね、まぁ最悪でも鎖マンがいるところじゃなければどうでもいいです』

 

 私は頭の声をぼんやりと聞き流しながら挨拶をする。

 

「本条 桃子です。私は鳥取からの転校なのでこの中学校に顔見知りがいませんが、どうぞよろしくお願いします」

 

「へぇ、また暗そうな奴が来たな、緑谷とタメを張れるんじゃねぇか爆豪?」

 

「あっ? 確かに根暗そうな女だな、てかキョーミねーよあんなモブ」

 

「やめようよ、かっちゃん、人をそんな風にいうのは……」

 

「あ゛? なに俺に説教たれてんだ、クソナード」

 

 片隅でガラの悪そうな男の子のグループが小声で隣のくせ毛の男の子に絡んでいた。

 

 

『…う、うわああああ(イスから転げ落ちる)

 

 ファッキンデクの棒と下水煮込みじゃねーか!!!!!?????

 

 タイムこわるる^~ お兄さん許して^~↑』

 

 あれが声の言う主人公らしい

 

 私は自己紹介を終えて席に座ると、主人公と言われる二人をチラリと見た。

 

『気を付けろホモ子!! 相手は袖振り合うもどころか、目が合った瞬間にフラグを創造する化け物だぞ!!!』

 

 私はその言葉を聞いて自然に、なおかつ素早く目線を戻した。

 

 だというのにくせ毛の彼はこちらを見て、少し難しそうな顔をしているのが視界のかたすみに映っている。

 

 

「あの子……」

 

「なんだよ緑谷! 好きになっちゃった?」

 

「オタク君が色づいちゃったか~」

 

「ちっ、違うよ……」

 

 

『お前…もしかしてあいつのことが好きなのか…?(青春)

 

 じゃぁねえぇぇぇぇぇ!!! フラグを立てるのは止めろ! 繰り返す 当然の権利のようにフラグ立てるのは止めろ!

 

 目線すら合ってないのに視界に入れば仕掛けてくるとかポケモントレーナーか何か?』

 

 この人たちに関わるとイベントが起きてしまう、そう頭の声にいわれた私は頭が真っ白になる。

 

 繰り返してはいけない

 

 この二人にだけは絶対に関わらない、私はそう心に決めた。

 

 だというのに

 

 

 

「あっ、ゴミ捨ててくるよ」

「そう、じゃあ、私もう帰るね」

 

『オタクくんには基本塩対応、むしろ少し嫌っている風に接すればフラグが立ちにくいです』

 

 

 

「係の仕事だぁ? メンドくせーな、早く終わらすぞ」

「分かった。私はここから半分をやるよ」

 

『この全身接触信管男は好感度を上げても下げてもイベントが反応する感度ビンビンの実の感度3000倍人間なので可もなく不可もなく、合理的な判断や相手の指示に機械的に従うのがベストです』

 

 

 

「あっ、図書委員会のことなんだけど……」

「今日予定があるの緑谷さん一人でいいよね」

 

 

「郷土史ポスターだぁ?」

「発表のポスターは最低限、見れるぐらいの出来で手早くやろうよ」

 

 

 

 ……偶然、なのだろうか?

 

 

 係や委員会、偶発的な班など、妙に顔を合わせる機会が多い気がする。

 

 

 

 

 

『オレノタイムはボドボドダァー!

 

 本当にこの二人はアホみたいにイベントを発生させようとしてくるな(憤怒)

 

 はい、これは偶然ではありません、トラウマ持ちルート最大の障害はこれです、トラウマ持ちになるとこちらからフラグをたてにくい代わりに向こうから勝手にかかわろうとしてきます。

 

 そしてトラウマを解消されるとその解消したキャラとのルートがほぼ確定してしまうので大ロス、それが主人公共ならリセットです。

 

 しかしこの二人、特に頭部ワカメ野郎は主人公特有のわかるってばよ空間を仕掛けてくるので非常に危険です。

 

 トラウマルートがあまりにリスキーで走る人が少ない理由ですね

 

 しかしそれは次回の反省として本RTAは続行します(鉄の意志)

 

 そうこうしている内にクラス初めての席替えですね、おやクラスの様子が?』

 

 

 

「新しい席は…………えーと………」

 

 

『BBBBBBBBBBBBB』

 

 

「新しい席はここか……、ようやく静かな席にこられたよ……」

 

 

『だから(タイムが)痛ぇっつってんじゃねぇかよ』

 

 

 この特徴のあるくせ毛に大きなくりくりとした目をしている子が緑谷出久、主人公らしい

 

 緑谷君は重度のヒーローオタクであり、それを周りに馬鹿にされがちであるが、私にとっては素直で良い人といった印象だ。

 

 というかクラスで浮いている者同士、妙な親近感を感じているので悪くは思えない

 

 でも申し訳ないけど声の指示の通り冷たい態度をとらせてもらう。

 

 

「独り言が出ていて、聞いてるこちらが恥ずかしいんだけど」

 

「へ、あっ……、えっと、ごめッ……」(女の子に声かけられた……)

 

「別に謝ってほしいわけじゃないから早く座ればいいのに……」

 

「あっ、その……」(いやよく考えたら注意されてる。うわ、僕キモかったな今の……)

 

 

『あっ、そうだ(唐突)「あっ」ていわなくなる薬を売り出されたら欲しい、欲しくない? 俺は100万は出せるけどな~、俺もな~(関係ない話による現実逃避)

 

 

 ……くそ、何度見ても隣の頭部モリゾーが消えてくれませんね

 

 

 ふん、運など初めからあてになどしておらぬ(唐突な武人)

 

 席替えでミドリムシがホモ子の隣の席へきました。常に0歩エンカ状態です。

 

 本当に主人公共の処理をしながら育成するのはキツイっす……

 

 こいつらに関わるとロクなことにならないので、個性の練習は家だけで、学校ではひたすら勉強をして知力を上げ、雄英ヒーロー科入学試験に備えましょう

 

 予定ではもう少し学校で個性を上げてから勉強を始める予定だったのですが、この二人に強個性を見せるとさらにロスですので個性の値が少し心配です。

 

 合格自体は片方が基準値を超え、もう片方もある程度であれば問題ないのですが、受験に限らず学校行事系の強制イベントは成績が反映されたボーナスが出るので積極的に活躍を狙っていきます』

 

 

 

 言われたとおりに私は行動し、家では個性を伸ばす練習を、学校ではひたすら勉強して知識を詰め込んだ。

 

 私の個性「成長」は学習や手技にも反映される。

 

 

「すごいね本条さん、全部ほぼ満点!!」

 

「………ありがとう、でもその答案を返してもらってもいいかな……」

 

「うっそほんとだ!全教科ほぼ100点とかすごっ!」

 

「今度アタシにも勉強教えてよ!」

 

「じ、実はあたしも……、分かんないところがあって」

 

「ナニナニ、何の話よ」

 

 いつもは誰ともしゃべることなどなかったのだが、放課後、クラスメイトの一人に自分の答案を見られたことがまずかった。

 

 このまま人が集まらないよう、申し訳なく思いながらも断った。

 

「ごめんなさい、最近忙しくて、また余裕ができたら誘ってもらってもいい?」 

 

「うん、全然いいよ!」

 

「まぁしょうがないか」

 

「というかアンタの頭じゃ本条の説明なんて理解できないっしょ」

 

「何だと!?」

 

 

「ごめん、じゃあさようなら」

 

 

 じゃあねと口々に声をかける彼女たちに背を向け廊下に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんであんなに勉強しているんだろうね」

 

「本当にずっと勉強してるわよね」

 

「何が楽しくて学校に来てるんだろ」

 

「つーかアレ、声かけても面倒そうな顔するし」

 

「話しかけられたくないのかな」

 

「勉強できないからって周りをバカにしてるとか」

 

「あー、ありそう見下してそう、ちょっとそういうとこありそうじゃないあの娘」

 

 

 

 

 教室のクラスメイトは私がこの会話を聞いているなんて思いもしないだろう

 

 彼女たちが言うように、学校にきて勉強しかせず、人と関わらないように過ごしている人間なんて、他人からどうみられているかなんてわかっている。

 

 

 

 

 

 学校にきて楽しいのかだって?

 

 

 

 ………楽しくない

 

 楽しいわけがない

 

 仲良しの友達も競い合う仲間も誰もいない

 

 登校するとき、廊下を歩いているとき、クラスで自分の席に着くとき、休憩時間 お昼 放課後 部活の時間 私はずっと一人だ。

 

 

 私の青春がなんの意味もなく消費されている。

 

 

 さみしくてみじめで泣きそうだよ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の学校での評判は悪い

 

 正直、無視や仲間はずれのような扱いや陰口も何度かあった。

 

 しかし、無視や仲間はずれは常に一人でいようと心掛けていた私にはあまり関係がなく、唯一陰口は、遠くの音も聞き取れる私にとって非常に効果的だったが、他人から見て、何の反応も示さない私は陰口をしてもあまり効果もないと思われ、次第に私の話すらしなくなった。

 

 

 普通の人間にはこれがいい状態とは言えないが、声の指示に従う私にとっては望ましかった。

 

 

『なんとかイベントはかわして、順調に育ってます。頼むからこのまま安定してほしいですね』

 

 

 声にとっては理想的に安定した学校生活を送る私。

 

 

 そんな私に対する周りの態度が悪い意味で変化したのは二年目の年だ。

 

 

 

「男女二人三脚だぁ? チッ……文字通りの足手まといじゃねーか」

 

 体育祭の参加種目は偏りが大きく、最後は運による割り振りがされた結果、私は爆豪君と一緒の男女二人三脚になった。

 

『このボンバーマン、本当に出たがりすぎだろ……』

 

 爆豪君は不良のような態度とは裏腹に成績や内申点を非常に気にしているらしく、学校行事などは決して休まないし、あからさまな非行もしない、よく言えば完璧主義と言える人なので、嫌と言いつつも参加はする。

 

「体育祭に参加さえすれば内申に問題はない、順位は関係ないよ」

 

 あまりに面倒そうだったので、練習をするフリでもしようか提案するとこちらを睨みながら

 

「あ゛ やるからには一位取るに決まってんだろ、テメーは足引っ張るんじゃねーぞ」

 

 二人三脚という競技を真っ向で否定するようなことを言い出したよ爆豪君……。

 

 私たちは練習時間にあてられた体育の時間も目をつけられないように真面目に練習した。

 

 それにしても同じクラスメイトをテメー呼びは怖い、私が言うのもなんだがこんな態度で人間関係は大丈夫なのだろうか、噂では彼は興味のない人の名前どころか顔すら覚えないらしい、そう考えるとあだ名で呼び合う緑谷君とはある意味仲がいいのだろうか……

 

「おらいくぞ」

 

「うん、いつでもいいよ」

 

「オマエが走るんだよ」

 

 正直、相手のペースなど考えずに走りだすのではないかと思っていたが、さすがにそんなことをしても早くはならないと考えていたようで、私にペースを合わせようとしてくる。

 

 だが私もペースを合わせるつもりだったので、ある程度の速さは出せるがかみ合わない

 

 そんな不自然さを疑問に思ったのか爆豪君が聞いてきた。

 

「おまえ、もっと速く走れるのか?」

 

「女子の中ではかなり速いと思うよ」

 

「そうか、じゃあ全力出せ」

 

 おそらく自分が私に合わせるつもりで言っているのだろうが、私が本気を出して走ればコントロールがきかず、爆豪君の足が折れてしまうので、宣言通り、女子の中では速いくらいの速度で走った。

 

 流石は運動神経が良い人なのでかなりの速度が出る。おそらく彼の望み通り、体育祭では一位になれるだろう。

 

 

「それなりに走れるんだな根暗女」

 

 

 それにしても彼の口はあまりにも悪すぎるのではないだろうか。

 

 

 

 

 そうした一幕もありながら、学校生活を送っていると、ある日、私の机の中に置いていた参考書が消えていた。

 

 私はすぐさま匂いの元を探すとそこは学校裏の雑木林にぐしゃぐしゃになって落ちている。

 

 それを拾いなおしてみると知ってるクラスメイトも混じった複数人分の匂いがする。

 

 

 

 私は陰鬱な気分になった。

 

 

 

 

 

 

「本条って最近調子乗ってない?」

 

「わかるわ~」

 

「この前見たのよ、あの子、体育祭で爆豪君と同じ種目になったからってすっごくデレデレしてた」

 

「うわ~、私たちにはあんなに反応薄いのに露骨じゃん」

 

「マジむかつく奴よねそういうの」

 

 

 …………そういうこと

 

 

『あれ、なぜか能力値の上りが悪いですね、ん? あぁ、いじめですねこれは……

 

 えー、いじめイベントは学校生活中に周りの好感度を上げずにいると時々起きる時があり、学校での能力の上昇値が微減します。(クズ運)

 

 邪魔ですが、積極的にイベントを消化しようとすると中ロスですので、いじめのイベントが勝手に終了するまで無視して鍛えるしかないです』

 

 

 

 言われたとおりに私はなるべく気にしないように過ごした。

 

 

 しかし仲間はずれにしようにも仲間に入っていない私は無視はいじめのうちに入らず、悪口もきかないと思われている。

 

 そうなれば最悪なことに、手法は直接的なものになっていった。

 

 物を隠されたり、壊されたり、それでも声に無視をしろと言われたので私は我慢をしてなるべく学校に物を置かないようにした。

 

『アンチはスルーってそれ一番言われているから、やっぱりメスの争いは醜いな(ホモ特有の男の友情信仰)』

 

 大抵のことで頭の声の言うことに間違いはない、だが何の反応もしない私に明らかに彼女たちは苛立っていた。

 

 ……いや、本当にあっているの? 火に油を注いでいるような気もしない、素直に先生に相談すればよかったんじゃないだろうか

 

 

「ねぇ本条、放課後に空き教室まできてよ」

 

 

そして私はとうとう呼び出しを食らってしまう。

 

『アンチはスルー、ウンチはパクーで』

 

 声が言うなら仕方がない、私は素直に帰ることにした。

 

 

「アンタのカバンのキーホルダー拾ったの……コレ、返したいから来てくれる?」

 

 

 ……最悪だ。

 

 あのキーホルダーは昔の友達の贈り物だ。もう世界に二つとない

 

 もちろん警戒してすぐにカバンから取り外して家で保管していた。盗まれるはずがない。

 

「個性『拾い物』詳しくは省くけど、落し物が集まる個性なの、私に感謝しなさいよ?」

 

 彼女の個性なのか見せつけていたキーホルダーは目の前で瞬時にかき消えた。

 

『さぁ家に帰って筋トレだ!!』

 

 ………

 

 声は優先すべきだ。思えばあれを見ていい気分になったことはない、捨てるいい機会じゃないだろうか

 

『ぼくもかえろ おうちへかえろでんでん でんぐりかえってバイ、レズ、ゲイ、トランスジェンダー』

 

 

 私の足は、夕暮れの校舎へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 教室についた私は案の定後悔した。 

 

 

 

 

 

「本当にムカツク!!」

 

「何でアンタみたいのが爆豪君に顔覚えられたのよ!!」

 

「……別に覚えられてないと思うよ」

 

「だってアンタ根暗女って! 顔覚えられてるじゃない!!」

 

 ……まさかあの根暗女とかいう罵倒への嫉妬がこの事件のきっかけなのだろうか。

 

 

 

『ファッ爆豪!?(驚愕)イジメイベントは特に好感度を変化させなければ原作キャラは関わってこないはず!?いつフラグ立ったんだ(絶望)

 

 すぐにいじめイベントを終わらせないとタイムがががが』

 

 

「爆豪君と、もしかしてとか考えてるんじゃない?」

 

「うわ~身の程知らなすぎ、釣り合って緑谷でしょ」

 

「てかくっ付けてあげる? オタクとネクラでいいコンビっしょ」

 

「あはは、それよくない?」

 

「というかそう考えてあいつにラブレター渡して来たからさ、告白すれば?」

 

「お前天才かよ!!」

 

 

 なぜそこで緑谷君を引き合いに出すのかが分からない、私みたいな人間は分かるが、それでまともな人を巻き込むのはダメだ。

 

 

『ファッ緑谷!?(天丼)

 

 ISTD!!(いかんそいつに手を出すな!!)

 

  あーもうめちゃくちゃだよ、どう責任とってくれるの…………。

 

 イジメイベントは一度でも好感度があがったことがあるキャラが助けにきます。 場所はランダムなのですが、どんな不自然な場所であろうと駆けつけてくるのでちょっと笑えますね。

 

 私は以前、ゴスロリショップの更衣室に閉じ込められた時にどう考えてもこんな店には来ない♰常闇君♰がきたのを見たことがあります』

 

 

 あの二人が近くにいるなんて私の感覚でもわからないのになぜ分かるのだろうか、しかし頭の声が言うのならそうなのだろう。

 

 

 

 

『助けられると例のごとくフラグが乱発するので、もうこいつらが来る前に自力で解決しましょう、まずは文化的に説得を試みます。ラブアンドピース!みんな!愛だよ愛!

 

 

 ……ダメだったらK!(加虐)B!(暴力)S!(折檻)って感じで』

 

 

 

 

 

 私はあの時と同じように嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 だからこそ私はまず自分の意志で動いた。

 

 

「……もう私に関わらないで」

 

 私は瞬時にすぐそばにあった椅子を掴みながら彼女たちの後ろに回りこむ、なにが起きたなんて彼女たちにはわからないだろう。

 

「私、足も速いし力も強い、でも加減ができないの、もうこんなことは止めて」

 

 私は勉強椅子を飴細工のように捻じ曲げ、最後は握りつぶしてくしゃくしゃに纏めたチラシのように手でこねた。

 

「ヒッ…」

 

「やっ、やめたほうがよくない? あいつガチじゃん」

 

「調子に乗るんじゃねぇ!!!!」

 

 

 でもだめだった。幾人かは怯んだが、逆に敵意をむき出しにさせてしまった人がいる。

 

 大股でにじり寄ってくる彼女に本当は喧嘩なんて一度もしたこともない私は怯えすくんだ。

 

「こ、来ないで!!」

 

「ハハッ、お前、人に個性を使ったことなんてないんだろ!! つーかテメーが先に個性を使ったんだから正当防衛だな!!」

 

「あぶないから止めて!」

 

「くくッたいそうな個性持っても、中身がビビりかよ」

 

 体の乗っ取りではない、私の体がまるで何かに縛り付けられるように動きにくくなり、そのせいでパニックに陥る。

 

「私の個性は「金縛り」大の男だって指一本動かせない!! どうだ、息すらできないだろ!!」

 

「あ゛、うぐぅ……」

 

 

 

『ダメみたいですね(諦観)まぁ、そもそも魅力値が低いんだから説得できるわけないですよね』

 

 

 

 私は事態の収拾に失敗した。これが最後のチャンスだったのに、私は一縷の望みにかけて懇願する。

 

『敵の個性は『金縛り』サイコキネシスの完全下位互換、こちらにしてみればリセマラ確定の弱個性ですね』

 

「……お願い……止めて……ひどいことはしないであげて……、おねがいします」

 

「はは、不利になったとたんその態度か? 調子乗るんじゃ…」

 

 

 

 

 

 

『では、戦闘開始です』

 

 

 

 

 

 

 全く感情がこもっていない声が頭の中に響いた。

 

 

 私の体が勝手に動きだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、すぐに空き教室を後にした。

 

 

 その途中、顔を真っ赤にした緑谷君にあったが、私はことのあらましを脚色して伝え、すべてが行き違いであったことを謝罪し、引き返すように忠告した。

 

 そのすぐ後に爆豪君に会った。取りに行かされたという空き教室に置かれていた教材とやらは私が手渡した。不審がってはいたが、すぐに興味をなくした彼が部屋に近づくことはなかった。

 

 例え、大切なものを盗まれたといえども、声に従って帰ればよかった。

 

 無視をすれば彼女たちもあんな目に遭わなかったのに。

 

 

 

 

 最悪だ。

 

『いじめイベントは自分が解決する場合はまず説得に入り、それがだめなら戦闘になるので中ロスです。しかもたとえ戦闘に勝ったとしてもいじめが終わらない場合があります』

 

 こぶしに染み付いたあの感触がいくら手を洗っても落ちない。

 

『これにはモブに与えたダメージの総量分がいじめを止める確率へと換算されるのですが、たとえ体力の99%を調整して削ったとしても改心する可能性は6割ほどです』

 

 ずっとやめてと叫んでいた。私だって止めたかった。やりたくなかった。

 

『本イベントは敵HPの2分の1を削れば終了、しかもHPを10割削りきるほどのダメージを与えると主人公に前科が付いて雄英に行けません、なので普通にやる分にはイベントを確実に終了させることができないんですよね』

 

 自分の口から信じられないほど汚い言葉が勝手に垂れ流された。

 

 『前科者になって、街をうろついて勧誘からのヴィランルートは面白いけどRTAだとクソ面倒なのでNGだ』

 

 耳をふさぎたくても私の両手は勝手にこぶしを握り、勝手に動く、私に許しを請おうとする人たちに、どうすることもできなかった。

 

『なので、特殊な個性でなければ、格闘技に習熟して覚える「ノックアウト」か、夜の街中に現れる不良を何体か養分にするともらえる「恐喝」などの敵にダメージをあたえても削りきらない技を駆使して、最低でも元の体力の二倍のダメージを与えてから処理しましょう』

 

 そんな目で……、そんな声を出すのだけは止めて……

 

『みんなはクッソ手間なのでそもそもこんな状態にならないように気を付けてくれよな!!(中ガバによる自暴自棄)』

 

 あの時の化け物を見るような目で……■■ちゃんみたいな声を出すのだけは…………

 

 

 

 

 

「はは、こんなわたしがヒーローかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日にクラスに入って席に着けば、私に怯えたような目を向ける人が何人かいる。

 

 それを察したのか周りの人からも避けられるようになった。

 

 いてもいなくても変わらない奴から、いないほうがいい奴に私は変わったのだ。

 

 

 

あのあと、彼女たちの幾人かは学校に来ず、その中の2人はもう二度と見かけなかった。

 

 

 

 しばらく、時が経った。もはや私に関わる人は一人もいない。

 

 

 

 

 

 私は以前より、偏執し狂ったように個性を鍛え上げた。

 

 

 家の重りではもう何の枷にもならないので外で重いものを探した。

 

 廃車、岩石、廃バス、直ぐに使えなくなる。使えないので最終的に行き着いたのは自分の力で抑えつけながら自分の力で腕を持ち上げるというよくわからない運動だった。

 

 お昼の授業中も暇さえあれば窓から星空を見ようと目を凝らした。

 

 英語のリスニングをしながら、校外より遠くの音を、より細かく、指向性を加えるように聞き取った。

 

 勉強はむしろ先生の話を聞く時間が無駄なのでもっとより高速で並列な思考ができるように学習した。

 

 人とは関わらない、近づいてくる人には嫌味や罵倒をぶつけた。いい気分ではなかったが、私は人と関わってはいけない人間だと自覚しなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな日々をがむしゃらに過ごすと私はいつの間にか中学3年生、15歳になっていた。

 

 

「本条、進路希望の紙を出していないのはお前だけだぞ」

 

 

 担任教師が私の目の前に一枚の紙を突き出している。

 

 

 もちろん私の未来はヒーローだ。日本最難関、倍率300倍の雄英高校ヒーロー科しか私には許されない

 

 

 たとえ自分がヒーローを口にすることすらおこがましいロクデナシだとしても、私の願いはただ一つ

 

 

 

『プロヒーローというゴールに向けてハイ、よーいスタート(棒読み)』

 

 

 

 頭の声はプロヒーローになればゴールといった。

 

 

 つまりヒーローにさえなれば、私は自由になれるんだ。

 

 

 そうに違いない、そうでなければ許されない

 

 

 私は私が救われるために、プロヒーローになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 正直ノープランで書いているので今後の展開は迷いますねぇ!!

①ホモ子「馬鹿野郎お前、俺は勝つぞお前!!(天下無双)」
 →天の声と反目し、絶望にうち負け、傷つき続けながらも戦い続ける展開

②ホモ子「ORDER is GOD(命令は絶対)」
 →人格レイプ、機械人間と化したホモ子

③ホモ子「もう十分だ・・・もう十分堪能したよ(やだ怖い…やめてください…アイアンマン!)」
 →諦めと恐怖で声に従いながらも、人の心を捨てきれぬゆえに苦悩するホモ子

④ホモ子「あみちゃんごめんなさい…お母さんごめんなさい…お父さんごめんなさい…僕を死刑にしてください!!(早く殺してくれ! もう待ちきれないよ!!)」
 →言い忘れていたけど、これは君が最速でヒーローに()()()()の物語だ(無慈悲)


 諦めながらも実は少し期待しつつ、それが裏切られ、『まぁ、期待なんて初めからしてないし……』と平素なふりをしつつもがっつり傷ついている展開が好きなので僕は3番です。

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