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クラスター対策と行動変容で"第2波"に立ち向かう
インタビューの要点
クラスター対策でぎりぎり抑え込んだ最初の流行の波
――日本は(感染状況が)落ち着いてきているのではないかという認識も広がっていますが、今の日本の状態、一体どうなっているのか最新の状況を教えてください。
日本は、ぎりぎりの状態でなんとか踏みとどまっている状態だと私は思っています。保健所や感染症研究所、地方自治体の皆さん、さらに地方衛生研究所、クラスター対策班の若手の研究者、こういった人たちの不眠不休の努力で、クラスターを見つけて、最小限に抑えることによって、大規模な流行につながらないような状況を作れている状態だと私は思っています。
――都市部を中心に感染の経路が追えないケースが相次いでいて強い懸念を示されていましたが、この点についてはいかがでしょう?
クラスター連鎖も、監視下に置くことができれば、それほど大規模な流行につながらないとわれわれは考えています。大阪は努力によって、ライブハウスのクラスター連鎖を可視化することができました。しかし、その裏には必ずわれわれには全く分からない、見えていないクラスター連鎖があるはずなので、非常に危険な状況ということになります。
今までの対策だけでは難しい“第2波”の対応
――日本の国内の新規の感染者数は、このあとどんなふうになっていくと見ていらっしゃるでしょう?
武漢を中心とする湖北省起源のウイルスの“第1波”の流行では、日本は幸いなことに、ほかの国で見られたような大規模な流行にはつながることなく、ぎりぎり踏みとどまってきています。ただ“第1波”の流行が大都市圏を中心にまだまだ制御しきれていない中で、すでに“第2波”の流行が始まっているのが今の日本の状況だと思います。
――“第2波”というのは 具体的にはどんなものなんでしょう?
今パンデミックの状態で、特に中東、ヨーロッパ、さらにアメリカの大都市を中心に非常に大規模な流行が、残念ながら起きてしまっています。最初の“第1波”の流行では、ほとんど湖北省から感染者が流入していたのですが、“第2波”の流行では、それをはるかに上回る規模で感染者が日本に流入する。在留邦人が帰国し、すでにヨーロッパの旅行者等を基点とする感染連鎖が始まっている可能性が非常に高くなってきています。今までの対策を続けているだけでは、“第2波”は乗り越えられないとわれわれは考えています。
――実際、もう第2波のウイルスの流行は始まっていると。
そういうことになります。
オーバーシュートを防ぐ鍵は、クラスターの早期発見と監視
――国の専門家会議で示された「オーバーシュート」とはどういうもので、何が起こるのか、教えていただけますか?
「オーバーシュート」というのは、感染者数がある一定のレベルを超えて、爆発的に増えることをいいます。クラスター連鎖を見失ってしまうことによって、感染が拡大して、大規模なクラスター、われわれはメガクラスターと呼んでいますが、それが起きたり、医療が崩壊することによって医療現場で非常に大規模な院内感染が起こる。そういうことをきっかけにして恐らく、オーバーシュートという感染者の爆発的な増大が、各地で見られているんだと思います。
――オーバーシュートが起きてしまうと、クラスター対策班でも制御は難しくなりますか?
オーバーシュートが起こると、クラスターを追っていくだけではもう感染を制御することができません。今、世界各地でやっていることは都市の封鎖です。すべての交通を遮断して、都市の中で人が出歩くこともほぼすべて停止しないと、(爆発的な感染拡大は)止まらないという状態になります。
――パンデミックの中心ともいわれます、ヨーロッパ各国の感染者数の推移をみると、イタリア、スペイン、フランス、ドイツなどで急に伸び方が増えていて、現実にオーバーシュートが起きていて、予断を許さない状況となっています。海外のこうした国々と比べて、日本は持ちこたえているのはどうしてなのでしょうか?
アメリカでもオーバーシュートが起きていると考えられていますけれども、ヨーロッパやアメリカでは移民の数が多くて、この人たちは非常に医療へのアクセスが悪い。さらにEUが国境をなくしてしまったということも非常に大きな影響があると思います。一方で日本では多くの人が、医療にアクセスできると同時に、医療現場の医師の診断能力が非常に高い。そういうことによって早期にクラスターを見つけて、クラスターを潰していくことが可能になっているんだと思います。
――早期に感染者に気付くことで感染拡大を抑えられているということだと思います。ただ、日本もPCR検査の数が少ないので、見逃している感染者も多数いるのではないかという指摘もあるのですが?
本当に多数の感染者を見逃しているのであれば、日本でも必ずオーバーシュートが起きているはずです。現実に 日本ではオーバーシュートは起きていません。日本のPCR検査はクラスターを見つけるためには十分な検査がなされていて、そのために、日本ではオーバーシュートが起きていない。
実は、このウイルスでは、80%の人は誰にも感染させていません。つまり、すべての感染者を見つけなきゃいけないというウイルスではないんですね。クラスターさえ見つけられていれば、ある程度、制御はできる。むしろ、すべての人が PCR検査を受けるようなことになると医療機関に多くの人が殺到して、感染している一部の人から感染が広がってしまうという懸念があります。PCR検査を抑えていることが、日本が踏みとどまっている大きな理由なんだと考えられます。
――日本でオーバーシュートが起きてしまった場合、医療体制はどのくらい持ちこたえられるのでしょうか?
オーバーシュートが起こると、残念ながら全く現在の日本の医療でも対応できません。日本でも、世界各国がそうであるように、集中治療のリミットは非常に低いところにある。それをいったん超えてしまうと、救える命が救えなくなるので、いかにこの流行を制御して、リミットを超えないようにしていくか。そういう対応が必要になります。
――改めて、オーバーシュートを起こさないためにはどんな対策を打ち出していかなければならないのでしょう?
感染者、感染連鎖、クラスター、クラスター連鎖、このいずれも監視下に置くことができれば、流行を起こしません。クルーズ船では 700名を超える感染者が出ましたけれども、完全に我々の監視下に置くことができた感染者なので、そこから流行は全く起きていないんです。感染連鎖も、医療機関で起こる感染連鎖はほとんど監視下に置けているので、そこからは流行が起こることは普通は考えにくいと思います。 さらに、クラスター連鎖も、大阪でやったように、リンクが追えて監視下に置ければ、大きな流行にはつながらないと思います。そういうことを丹念にやってオーバーシュートを起こさないことが、われわれの今の日本の戦略だと言えます。
なぜ日本は踏みとどまっているのか、世界が注目
――マイクロ飛まつによる感染はどう起こっていると考えられるのでしょう?
いわゆる空気感染は恐らく起きていないと思います。空気感染が起きていたら日本でも大規模な感染拡大が起きているはずです。大半は、今まで考えられてきた「飛まつ感染」や「接触感染」だと思いますが、マイクロ飛まつの近距離の感染というのは、例外的に起きている可能性があります。くしゃみやせきをしていない、恐らく熱もないような軽い症状の人が、しゃべる、特に大きな声でしゃべる、息が荒くなるような状況になると、のどからかなりの量のウイルスを出してしまう。それによって クラスターが起きている可能性が高いと思われています。
――3条件(3密)、今回の感染拡大の中でやはり重要なポイントとなるのでしょうか?
3条件が非常に高いリスクがあることは、われわれは最初の頃から見つけています。規模の大小にかかわらず、できるだけ避けることが、このウイルスとの闘いにとって非常に重要だということをずっと強調しているんですけれども、今もかなり規模の大きいものも含めて、こういう環境が全く減らされていない。これまで日本はいろんな幸運に恵まれて、大規模なクラスターも起きていませんけれども、いつか大規模なクラスターが起きてしまいます。そうすると医療現場はもたなくなる。いろいろなイベントを企画している人たちには、本当に真剣に、どうしたら日本でクラスターを起こさなくて済むのか考えていただきたいと思います。
――この新型ウイルスとの闘いは、過去のSARSなどと比べても患者の数も多く、かなりの長期戦となりそうです。 この闘い、どんなふうに乗り切っていけばいいのでしょう?
日本では “第1波”の流行で、非常に多くのことを学んできています。クルーズ船という非常に難しいものに対処してきて、さらに都市部を中心とした流行の中からわれわれは非常にいろんなことを学んできています。非常に難しい闘いになると思いますけれども、経験を生かして、さらに対策を徹底することによって、“第2波”の流行も比較的早期に制御する方向に向かわせる可能性があると思います。
――感染症との闘い方(ワクチン・集団免疫・行動変容)、3つ挙げましたが、これについてはどうでしょう?
「ワクチン」は時間がかかりますし、本当にワクチンができるのかどうかということもよく分かっていません。次の「集団免疫」という考え方は、結局、多くの人が感染して人口の7割ぐらいの人が感染し、多くの人が亡くならないとできないというものになります。われわれが今やっている「行動変容」は、中国式ではなくて、社会活動の制限を最小限にして、しかも、感染拡大のスピードを最大限抑えていく日本方式の対策をやることによって、ある程度このウイルスを制御できる、希望の光が見えてきたという段階にあります。ただ、“第2波”の流行はさらに厳しいものになるので、対策を徹底的にやるということが必要なのだと思っています。
――感染症封じ込めのスペシャリストとして、改めて、このウイルスと私たちどんなふうに向き合っていくべきだと思われますか?
非常に対策の難しいウイルスだと思います。ただし、日本はこれまで踏みとどまってきています。クルーズ船の問題やPCRのキャパシティーの問題、日本はいち早く世界の中でも流行を起こすのではないかと懸念されていたんですけれども、日本がここまで踏みとどまっていることで、世界が今、日本の対策に非常に注目しています。アメリカ、ヨーロッパが次々にオーバーシュートを起こしていく中で、まだ、アジア、アフリカではオーバーシュートを起こしていると考えられる国はまだありません。日本の知見が世界のコロナウイルスとの闘いに重要になる可能性があります。われわれは、世界の英知を結集して、やっぱり一人一人の人がこの問題にもっと真摯(しんし)に向き合って、日本に住むすべての人が対策を考えてもらうことによって、この問題を克服できると信じています。
関連番組
NHKスペシャル「“パンデミック”との闘い~感染拡大は封じ込められるか~」(2020年3月22日放送)
2020年3月
- 3月9日 専門家会議「3条件重なり避けて」と呼びかけ
- 3月24日 東京五輪・パラリンピック 1年程度延期に
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