会社の都合で休業した場合には、労働基準法26条により、休業手当をもらえることがあります。
休業手当について定めた労働基準法26条について、弁護士が解説いたします。
また、新型コロナウイルスにより休業させられた場合についても、併せて解説いたします。
労働基準法26条の概要
労働基準法26条は、使用者の責めに帰すべき休業が発生したときの補償(休業手当)について規定した条文です。
第26条(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。
引用:労働基準法26条
「使用者の責めに帰すべき休業」とはどのような場合か
「使用者の責に帰すべき事由」(労働基準法26条)とは、会社都合(使用者の都合)によるものをいいます。
具体例としては、機械の検査による操業中止、資材不足による操業停止、監督官庁の勧告による操業停止などがあります。
地震などの天変事変の場合は、「使用者に帰すべき事由」にはあたりません。
また、「休業」(労働基準法26条)とは、労働義務のある時間について労働ができなくなることをいいます。
休業は時間単位でカウントされますので、所定労働時間の一部のみ休んだ場合も「休業」時間としてカウントされます。
休業期間中の休日、代休日などの場合は、労働義務がないため、休業手当の対象外となります。
休業手当によって保証される金額
休業期間中に支払われる休業手当(労働基準法26条)の金額は、「平均賃金×60%」以上です。
平均賃金と休業手当全体の計算例を解説いたします。
参考:休業手当(平均賃金の60%以上)の計算方法|厚生労働省大分労働局
(1)一日分の平均賃金の計算方法
原則として、平均賃金には、次のAの金額を用います(労働基準法12条1項)。
ただし、賃金が時間額や日額、出来高給で決められていて、労働日数が少ない場合などの場合は、A・Bの内、いずれか高い金額を用います。
A 直前3ヶ月間の賃金の合計÷直前3ヶ月間の暦日数
B 直前3ヶ月間の賃金の合計÷直前3ヶ月間の労働日数
(1-1)「直前3ヶ月間」とは
平均賃金の計算式A、Bに出てくる「直前3ヶ月間」とは、「休業事由が発生した日の直前の賃金の締め日から、3ヶ月間遡った期間」のことを指します。
なお、次の期間は直前3ヶ月間の期間から除きます(労働基準法12条3項)。
- 業務上のケガや病気により療養するために休業した期間
- 産前産後休業期間
- 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
- 育児・介護休業期間
- 試用期間
勤務期間が3ヶ月に満たない場合は、入社から直前の給与締め日までの賃金の総額を計算することになります。
(1-2)「賃金」とは
平均賃金の計算式A、Bに出てくる「賃金」とは、賃金の締日ごとに、基本給のみならず、交通費、皆勤手当、残業手当など諸手当も合算した金額です。
税金や社会保険料などの金額は控除しません。
また、以下の賃金は、平均賃金の計算で用いる「賃金」には含まれません。
- 臨時に支払われる賃金(慶弔見舞金、退職金等)
- 3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(6ヶ月に1回支払われる賞与など)
- 労働協約で定められていない現物給与(なお、労働協約によらない現物給与は違法)
(1-3)3ヶ月間の暦日数・労働日数を計算する
直近3ヶ月間の暦日数・労働日数を計算します。
「暦日数」には、労働日以外の休日も含みますが、「労働日数」には、労働日以外の休日は含みません。
なお、次の期間は直前3ヶ月間の暦日数・労働日数から除きます(労働基準法12条3項)。
- 業務上のケガや病気により療養するために休業した期間
- 産前産後休業期間
- 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
- 育児・介護休業期間
- 試用期間
勤務期間が3ヶ月に満たない場合は、勤務開始日から前締日までの暦日数を計算します。
(2)休業手当(労働基準法26条)の計算例
10月2日~10月26日までの間、会社都合で休業。
この間の所定労働日数は20日。
賃金の締め日は毎月末締め
7月末に支払われた賃金→31万円
8月末に支払われた賃金→31万円
9月末に支払われた賃金→30万円
この場合、休業手当(労働基準法26条)の計算は次のようになります。
STEP1 まずは平均賃金を計算しましょう。
この場合、「7月1日~9月30日」までの3ヶ月間が平均賃金の計算対象となります。
とすると、直近3ヶ月間の賃金の総額は、
(7月)31万円+(8月)31万円+(9月)30万円=総額92万円
となります。
また、7月1日~9月30日の暦日数は92日です。
したがって、この場合の1日あたりの平均賃金は、
直近3ヶ月の賃金総額92万円÷直近3ヶ月の暦日数92日=1万円
となります。
なお、小数点第2位未満の端数は切り捨てにします。
STEP2 次に1日あたりの休業手当の額を計算しましょう。
1日あたりの休業手当の額は,平均賃金×60%以上でありますから、
少なくとも1万円×60%=6000円となります。
STEP3 最後に休業期間の休業手当の総額を計算しましょう。
1日あたりの休業手当の額が少なくとも6000円であり、休業日数が20日となりますから、
少なくとも6000円×20=12万円となります。
なお、1円未満の端数は四捨五入となります。
休業手当の対象になる人
休業手当(労働基準法26条)の対象になる人と、ならない人を解説いたします。
(1)休業手当の支給対象となる人
雇用関係にある労働者であれば、休業手当(労働基準法26条)の支給対象となります。
例えば、次の方が支給対象です。
- 時短勤務
- アルバイト、パート
- 日払いで雇用
- 派遣社員
派遣先とは雇用関係がないので、派遣先は休業手当を支払う義務はありません。
一方で、派遣元企業との関係では労働者なので、派遣元企業が休業手当を支払う義務があります。
参考:新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)|厚生労働省
(2)休業手当の支給対象とならない人
雇用関係にない労働者の場合、休業手当(労働基準法26条)の支給対象外となります。
例えば、次の方が支給対象外です(実態に即して判断されます)。
- 業務委託契約をしている方
- 個人事業主として業務を依頼されている場合
(3)新型コロナウイルス感染症による休業の場合はどうなる?
新型コロナウイルスの影響で会社が休業せざるを得なくなった場合に、会社が休業手当(労働基準法26条)を支払う必要があるか否かはケースバイケースです。
在宅勤務などにより労働者を働かせることが可能であるにもかかわらず、休業をした場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」として、休業手当(労働基準法26条)の支払が必要となることがあります。
他方で、労働者本人の都合で、休業した場合には休業手当(労働基準法26条)の支払いは必要ありません。
例えば次のような場合が、基本的に、労働者本人の都合による休業となります。
- 労働者本人が新型コロナウイルスに感染して休業した場合
※ただし、雇用保険から傷病手当が支給される可能性があります。 - 労働者が発熱しているため自主的に休業する場合
※ただし使用者の指示により、発熱の事実だけをもって休業させる場合には、休業手当を支払う必要があります。
また、会社では如何ともしがたい不可抗力による休業の場合、会社には休業手当(労働基準法26条)を支払う必要がありません。
新型コロナウイルスの影響で休業したのに休業手当が貰えなかった方は、「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」をチェック!
新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金は、新型コロナウイルス感染症の影響で休業させられた中小企業の労働者のうち、休業中に休業手当を貰えなかった方に対し、支給されるお金です。
対象者は、2020年4月1日~12月31日までの間(※2020年11月20日現在)に、使用者の指示により休業したが、休業手当(労働基準法26条)の支払いがなかった中小企業の労働者です
おおよそ、1日当たりの平均賃金の80%が支払われます(1日1万1000円が上限)。
正確には、次の式で算定されます。
休業前の平均賃金(日)×80%×休業日数(※)
※休業日数には、就労した日や労働者の都合で休んだ日は含みません。
労働者本人、または事業主を通じて、一定の書類を添付して申請する必要があります。
申請の締め切り日(郵送の場合は必着)は次の通りとなっていますので注意しましょう。
2020年4~9月の休業の場合⇒2020年12月31日が締め切り
2020年10~12月の休業の場合⇒2021年3月31日が締め切り
※申請開始日は「休業した期間」の翌月の初日です。
今後、新型コロナウイルスの関連の制度については、流行の状態に合わせて、内容が変更される可能性もあるため、最新の情報に注意してください。
参考:新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金|厚生労働省
【まとめ】労働基準法26条は休業手当について定めた条文
労働基準法第26条は使用者の責めに帰すべき休業が発生したときの補償(休業手当)について規定した条文です。
本来は休業手当が支払われるはずなのに、支払われないと言った場合は、弁護士に相談しましょう。
また、新型コロナウイルスの場合、「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」という制度により、休業手当が貰えなかった中小企業の労働者(一定の要件を満たす必要あり)に給付金を支給する特例がありますので、対象となる方はチェックしてみましょう。