東京パラリンピックが5日、閉幕する。東京五輪開幕後、国内の感染状況はこれまでになく悪化し、パラリンピック期間中も収まることはなかった。五輪やパラリンピックと、新型コロナウイルス感染症の広がりとの関係はどのように考えられるのか。
五輪開幕前の6月、政府分科会でコロナ対策を議論する専門家の間では、東京都で「ステージ4(感染爆発段階)」の感染状況が続けば、五輪の開催は難しいとの意見が相次いで出ていた。
しかし、新規感染者数や療養者数、重症病床の使用率がステージ4に達し、開催についての世論が分かれる中で五輪は開幕。感染力が強いデルタ株が広がり、開幕から4日後の7月27日に都内の新規感染者は過去最多の2848人を記録し、8月5日には初めて5千人を超えた。パラリンピック開幕後も2千~4千人台が続いた。
厚生労働省にコロナ対策を助言する専門家組織の資料によると、都内の繁華街の滞留人口は7月12日の緊急事態宣言前と比べ、7月下旬から8月上旬で17~20%減、8月下旬で13~16%減にとどまった。過去の宣言よりも効果は限定的だった。分科会の尾身茂会長は8月25日の衆院厚生労働委員会で、五輪の開催が「矛盾したメッセージになった」と述べた。
感染爆発に伴ってコロナ病床は逼迫(ひっぱく)し、医療関係者からは「現場は限界」「なぜ今、五輪なのか」といった声が相次いだ。
一方、政府は「五輪、パラリンピックによる感染拡大はなかった」との立場を崩していない。
感染者情報を管理する「HER―SYS(ハーシス)」に登録された症例を国立感染症研究所が集計したところ、五輪関連の感染は453例で、このうち海外からの渡航者が147例だった。田村憲久厚労相は「海外からの渡航者に関連して市中に感染が広がった事実は確認していない」と述べた。
選手やコーチらの感染は80例で、76例が海外からの渡航者だった。71例は入国時の検疫や入国後14日以内の診断をしていたが、残りの5例は14日間経過後、宿泊先や競技会場などの大会組織委員会が管轄する特定区域内で感染した可能性があり、感染研は「さらなる調査が必要」としている。国内選手の感染は確認されなかった。
分科会メンバーの舘田一博・東邦大教授は、「バブルや選手村での検査がうまく機能した」と振り返る。選手や大会関係者の間での感染拡大は限定的だったとの評価だ。一方、バブル外で感染が拡大したことと、大会開催との因果関係は、「科学的に分析するのはなかなか難しい」と指摘する。(枝松佑樹、下司佳代子)
- 平尾剛スポーツ教育学者・元ラグビー日本代表2021年09月06日11時32分 投稿
【提案】東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京オリパラ)の開催が新型コロナウイルスの感染拡大にどれほどの影響を及ぼしたのか。それを科学的に立証するのは私も極めて難しいと思います。なぜならこの度のパンデミックは複合的な要因が重なって生じたからです。
「矛盾したメッセージ」が気の緩みをもたらしたというのは、確かにそうでしょう。オリパラが開催されているのだから飲みに行くのも街に出かけるのも、少しくらいならいいだろう。そう考えた人は少なくないはずです。では「ワクチン頼みの対策」とそれの喧伝がもたらす「気の緩み」はなかったのでしょうか。ワクチンさえ打てば、もうワクチンを打ったのだから、大丈夫だろうと考えた人はいなかったのでしょうか。
あらゆる蓋然性を吟味すべき現段階で「感染拡大はなかった」と断言する政府の見解は、だから恣意的です。希望的観測でしかありません。科学的な分析が難しいとはいえ、少なくとも誠実な態度で調査を行っていただきたいと私は思います。…続きを読む - 牧原出東京大学先端科学技術研究センター教授2021年09月05日22時02分 投稿
【提案】オリンピック・パラリンピックと国内の新型コロナウイルス感染症の急拡大との関係をどうとらえるかは、やはり公的・第三者からの検証が必要でしょう。オリンピックなどの国家行事をどう振り返るかも重要ですし、今後のコロナ下でのイベント開催の可能性にも関わってきます。
そもそも安倍政権・菅政権もコロナ対策の検証後は「終息後」との立場でしたが、それはパンデミックが一年程度で終息し、オリンピックも「コロナ克服」の証として開催できるという見通しと表裏一体でした。しかし、現実には終息がいつになるかますまる見えなくなっています。
本来ならば菅首相退任のタイミングで、ここまでの全体を一旦検証すべきときです。少なくともオリ・パラについては、「無事済んだ」以外に、どうやれば安全に開催できるのかなど、今後の対応を含めた検証を期待したいところです。
これは自民党総裁選や次期政権のテーマにもなり得る問題でしょう。野党からの問題提起も重要です。…続きを読む
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