菅首相は、８月３０日、二階幹事長を首相官邸に呼び、党役員人事の刷新を検討していることを伝えました。自民党総裁選や総選挙を前に役員人事を行う菅首相の思惑とは・・・

ホラン千秋キャスター：
総裁選を巡る動きを改めて整理していきましょう。事実上の総理を決める自民党総裁選。スケジュールを確認していきますと、９月１７日に告示、９月２９日に投開票というものなんですが、総裁の任期は３年です。２０２４年までの自民党のリーダーを決めるという総裁選挙になるわけなんですが、ここに出馬を既に表明している人、そしてこれから表明するのかどうか注目されている人をご紹介します。

まずは菅義偉総理です。現時点では「時期が来たら出馬します」というふうに表明しています。続いて、岸田文雄前政調会長が既に立候補を表明しています。そして強い意欲を示しているのが高市早苗前総務大臣。８月３０日の時点で出るか出ないか、全くの白紙というふうに話しているのが石破茂元幹事長です。立候補に当たって、自民党国会議員２０人の推薦人確保が条件になってきますので、この推薦人を集められるかどうかというところがまず一つのハードルになります。

そして、総裁選をめぐって駆け引きが行われているというところをご紹介します。岸田前政調会長が８月２６日の総裁選への出馬会見の中で「総裁を除く党役員は、１期１年、連続３期までとすることで権力の集中と惰性を防ぐ」と述べ、改革をしていきたいという意欲を示しました。実はこれは、二階俊博幹事長に向けられた言葉なのではないかというふうに見られています。二階幹事長は５年以上幹事長を務めていて、歴代最長の幹事長となっているからなんです。
これを受けて二階幹事長は、８月３０日に岸田さんの発言について問われた際「岸田が言ったからどうしなきゃいかんってそんなことはないじゃない」というふうに不快感を示したわけなんです。これが岸田さんに対する反応です。
一方、菅総理なんですけれども、党役員の人事を刷新する考えを二階幹事長に伝えています。「刷新する党役員」の中には幹事長も含まれるということですので、岸田さんと訴えていることは、具体性があるかどうかを除けば、方向性としては同じですよね。では、この菅総理の意向に対して二階さんはどう反応したのかというと、理解を示しているということですので、この反応がどのような影響を生むのかというところなんだと思います。

井上貴博キャスター：
二階幹事長は党内に睨みも効く。そして政治はきれいごとだけでは語ることはできない、なんて言われてる中で、二階幹事長の処遇が一つ焦点になっていると言えるんですか。

ＴＢＳスペシャルコメンテーター 星浩さん：
若干割引いて聞かなくちゃいけないんですけれども、二階さんは菅さんに対して「自分のことはどうでもいい、自分はもうクビになってもいいから人事を刷新して、党役員とか内閣改造の人事で勢いをつけて、総裁選や総選挙に臨んでほしい」と本当に言ったらしいですね。

井上キャスター：
額面通りに受け取ってもいいと。

星さん：
そこはそうだと思います。菅さんは非常に心強いと感じたことは間違いないでしょうね。

井上キャスター：
ど素人の質問で恐縮なんですが、組織の中で年長者へのリスペクトとか、幹部に対しての忠誠心とか大切だと思うんですが、それにしても二階さんという方には、それほどみんながみんなお伺いを立てて、ビクビクしなければいけない。そこまでのことなんですか。

星さん：
二階さんは私も田中派の時代からの取材対象ですけれども、二階さんの場合はその硬軟合わせを持つといいますか、非常に厳しく対応するときもあるし、非常に面倒見のいいところもある。そういうところがどんどん偉くなっていく一つのきっかけなんでしょうけど、さすがにもうお歳ということもありまして。それから永田町というのは、どちらかというと客観評価よりも自己評価の高い人が多いものですから、なんで自分が処遇されないんだと。二階さんがあそこにドンと居座ってるから、二階人事によって自分はそのいい面を受けられないんだ、と思ってる人がいっぱい出てきていますので、そういう人たちが二階さんに対する不満がたまってることは間違いないですね。

井上キャスター：
二階さんを変えないと自民党が変わらないと言われている中で、今回の総裁選挙、もう一段若手の方などが手を挙げるということはもうないのですか。

星さん：
もう一段若手の人は今回は難しいでしょうね。２０人の推薦人が必要という壁がありますし、やはり総裁というからにはちょっとした主要閣僚とか党役員の経験がないと、一応総理大臣になるわけですから。総理大臣として国を率いるという点からすると、ある程度の経験も必要ということでしょうね。

ホランキャスター：
ちなみに二階幹事長は、岸田さんに対してはどのような思いをお持ちなんですか。

星さん：
二階さんは岸田さんに対しては、元々は政策的な隔たりがあるというわけじゃないんですが、中国に対する理解とか意外と共通するところがあるんですけれど。やはり二階さんは叩き上げということでプライドはありますよね。岸田さんはどちらかというと世襲で、ややプリンス的に育ってきたという人からすると、二階さんは「俺はちょっとお前らとは違う」というところはあるでしょうね。

ホランキャスター：
皆さんいろんなプライドのぶつかり合いという部分があるのかもしれませんが、総裁はどのように決まっていくのか、鍵を握るのは地方票の行方だと言われています。一つ目。総裁選は、国会議員票３８３票。党友党員などの地方票３８３票、合わせて７６６票で争われるものなんです。この地方票が果たして誰に入ってくるのか。
もう一つ鍵を握るのが、安倍さんと麻生さんの動きです。派閥で見てみますと、安倍さんの出身の派閥“細田派”。こちらは自民党内で一番大きい派閥なんですけれども９６人。そして麻生さんが率いる“麻生派”が５３人。こちらは２番目に大きい派閥ということになります。合わせて１４９人。現時点では、安倍さんと麻生さんそれぞれご自身は菅総理を支持すると見られているんですけれども、派閥として誰を応援するのかというのが非常に注目されています。

井上キャスター：
岸田さんが党改革を打ち出したときは、これはいいんじゃないかということで高く評価された。ところが争点潰しのような形で菅総理は二階さんを変えると言い出した。現状で票読みはどうご覧になっていますか。

星さん：
菅さんの方は大派閥とかボスがついていますので、足し算していくと多いんでしょうが、やっぱり今回の総裁選挙は党員投票もありますし、党員投票の人はちょっとこのコロナ対策から見ると菅さんという名前は書きにくいなということもありますし、若手中堅の議員たちも地元の後援会の人たちから「誰に投票するんですか」と聞かれると「菅さんです」となかなか答えづらい。非常に珍しい局面だと思いますので、今のところ菅さんはリードしているんでしょうが、岸田さんがかなり追い上げているという状況じゃないですかね。

井上キャスター：
派閥も自主投票のような形になっていくのですか。

星さん：
派閥も一致結束してどちらかに行きましょうというのは、岸田さんは自分の派閥はまとまるでしょうけれど、それ以外はなかなかそうはいかないような状況ですね。

井上キャスター：
キーマンは誰になるでしょうか。

星さん：
今はもちろん安倍・麻生この２人は大派閥を率いてますし、キーマンだと思いますが、やっぱり菅さんが新しい幹事長をどうするかというのと、党役員の刷新をどこまでやったかというのもポイントですし。一つ覚えておきたいのは、この総裁選挙はもちろんこれから動き出すんですけども、新しい自民党の役員人事と内閣改造をやって勢いがついたとき、菅さんは新しい自民党の体制を世に問いましょうということで、総裁選の前に解散に打って出るという可能性は、まだ菅さんの頭の中には残っていると思いますね。

井上キャスター：
総裁選の前に。

星さん：
９月１７日に総裁選の告示ですので、１７日の前に解散してしまうと、総裁選は選挙の後ということになりますので、そのウルトラＣはまだ残っていると思いますね。

　※９月１日、菅首相は総裁選前の解散を事実上否定しました。