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政治について語れない日本人 友人からの「ダサい」がコンプレックスになった日

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自分の住んでいる社会のこと、語れないのはダサい

さらに、私には「世の中のことがわからないコンプレックス」を植え付けられたエピソードがある。

アメリカ育ちの友人Aと、韓国育ちの友人Bと三人でランチを食べた後、新宿の街を歩いていたのだが、私以外の二人はアメリカ大統領の選挙について話していた。私は興味もないし、どんな思想で争っているのかもわからないので、黙っていた。

すると、Aがくるりとこちらの方を向いて、「日本人は政治のこと全然話せないよね。幼稚でダサい」とはっきり言ったのである。

それまでの私にとって、政治に関する話題はおじさんたちのものだったし、「バカ」と言われても仕方ないと思ってはいたものの、まさか「ダサい」と言われるとは思っていなかった。

写真AC

「自分が住んでいる社会のこと、考えたこともないの?」と彼女は続ける。まったく考えたことない自分が、まぬけに思えた。確かに、自分のことなのに、意見がないのはダサい気がする。それからである、「自分は世の中がわからない」ということがコンプレックスになったのは。

後天的なアイデンティティに対するコンプレックスは、過去の自分を責めることに似ている。自分ができないことに対して、どうしてこれまで取り組んでこなかったのか。どうして克服できないのか。

私の「世の中がわからないコンプレックス」も、20代も後半になった今、何かアクションしようとすると悩みが襲ってくるがんじがらめの状況の中で、自分が所属している「日本」のことについて、どうして今までこんなにも考えてこなかったのか?という自責がより一層強まっている。

半径数メートルの一歩先へ、思考を広げる

しかし、そんな孤独な自責の念の中で、もしかしたら私と同世代、あるいは下の世代の若者たちもまた、同じ気持ちに苛まれているのではないか、とも少し思う。何不自由ない日々を過ごしている間は透明に見えた、自分を入れるハコである日本について、痛みだせば意識ができる。

学校にも行けず、友達にもろくに会えない小さな部屋で、課題解決にひたすら手こずってばかりの僕らのクラブのリーダーたちを見ている若者たちは、さすがに私が学生だった頃よりは、政治をまるっきり誰かに任せておくことへの危機感を抱いているのではないだろうか。

だからこそ、最近では、政策だとか、SDGsだとか、ジェンダーとか、社会を変えていこうと発信する若い人が増えているのではないだろうか。

Getty Images

半径数メートルの自分の幸せを考えていればいいじゃないか、と大声で言える時代は終わったのかもしれない。だからこそ、これまで身近なトレンドのことについてばかり執筆していた私も、社会のニュースやもっと広い世の中について書いてみたいと思った。

遅いスタートになってしまったかもしれないが、読者の皆様に叱られながら、あまりにも無知であることに笑われながら、一緒に半径数メートルを出た世界について一緒に考えるきっかけになれば嬉しい。

たとえそれが、日本で一人暮らしていくことに対しての生きづらさを自覚してしまうことにつながっても、見なかったふりをしていた頃にはもう戻れない。なんといっても、自分が所属している組織について語れないのはやっぱり「ダサい」し、それによって損もし続けているならば、ダサいだけでなく「バカ」でもあるに違いないのだ。

いつしか友人の声から自分の声になっていた、「自分の所属している社会に意見がないなんて、ダサすぎる」という声を振り切って、自分が進んでいく未来について、もっと解像度高く悩みたいと思うのである。

プロフィール
りょかち
1992年生まれ。京都府出身。コラムニスト。学生時代より各種ウェブメディアで執筆。新卒でLINE株式会社に入社し、アプリやWEBサービスの企画開発・コンテンツマーケティングに従事した後、独立。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎刊)。その他、朝日新聞、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで連載。
Twitter:@ryokachii

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