サッカーJ1鳥栖の金明輝(キム・ミョンヒ)監督(40)によるパワーハラスメント行為などが常態化している趣旨の通報が日本サッカー協会に届いた問題で、クラブが設置した第三者委員会の聞き取り調査で挙がった同監督による被害を訴える証言を、クラブ側がJリーグに報告していなかった疑いがあることが7日、分かった。Jリーグの担当者が同日のオンライン会見で明らかにした。Jリーグは事実確認を急いだ上で、必要に応じてリーグ主導での調査を行う方針を明らかにした。
金監督による暴力疑惑が新たな展開を迎えた。この日、Jリーグの内部監査室・コンプライアンス法務室の萩原和之室長は「クラブからの報告は(処分済みの足払いの1件)そのものだったと認識している」と指摘。「我々のところに何か(別の)情報が入ることはありませんでした」と述べ、処分の対象となった問題とは別の暴力行為などについて、クラブ側から報告がなかったことを明らかにした。
選手に足払いをしたとされる暴力行為は6月26日の練習中に発生。クラブは7月9日、金監督の暴力行為を認定し、3試合の指揮資格停止処分を発表した。同31日から始まった第三者委の調査では、トップチームの全選手・スタッフが調査の対象となった。その中で、金監督の暴行や暴言、パワーハラスメント行為が常態化しているとし、改善を求める複数の証言があったとされる。
クラブは処分が必要な問題があった場合、リーグ側に報告することが義務づけられている。鳥栖は第三者委の報告書をもとに調査結果の報告を行ったが、既に処分済みだった「足払い」の1件を除き、聞き取り調査で寄せられたパワハラなどが疑われる事案のリーグ側への報告は行われなかった。クラブはリーグへの報告後、金監督への追加の処分を見送っている。鳥栖の福岡淳二郎社長は取材に「報告内容はJリーグにしっかり報告し、共有している」などと述べていた。
暴力問題などについて外部組織による再調査を求めた告発文は、金監督の指導について「選手を殴り、突き飛ばし、胸ぐらをつかみ、人格を否定する」などと指摘。選手らからの被害を訴える証言をクラブがあいまいにしたと疑問を呈し、「クラブがSOSに耳を貸さず黙認している」などと記載されている。
スポーツ報知の取材では、金監督が鳥栖ユース(高校生年代)を率いていた少なくとも18年以降、一部の選手・スタッフに暴力行為や暴言などを繰り返していたとの証言がある。萩原室長は「(告発文以外にも)さまざまな情報が今、入ってきている。その分析、評価に入っている」とした。今後はリーグ主導での調査を行うことも視野に、事実関係の確認を急いでいく。
◆鳥栖の第三者委員会 金監督の足払いに対する処分検討、再発防止策提言を目的に、7月26日に設置される。牟田清敬弁護士、荒尾彰・佐賀商工会議所青年部部長、土井志穂・佐賀県障がい者スポーツ指導者協議会会長の3人で構成。全選手・スタッフへの聞き取り調査や、トレーニング動画の視聴で調査。「さらなる処分は不要であると判断する」と調査結果を発表し、「フロント、強化部、監督がそれぞれ対等な立場に立ち、各権限を明確にし、バランスのとれたクラブ運営を行ってほしい」と提言した。
■村井チェアマン「客観的対応が必要なら動く」
Jリーグの村井満チェアマン(62)はこの日、リーグとしての鳥栖への対応について「情報が入った瞬間から、クラブへの事実確認を続けている。客観的な対応が必要と判断された場合、我々が弁護士とともに動く」と述べ、必要に応じてリーグ主導での調査を検討する方針を示した。チェアマンは「前提として自浄作用、自立的な課題解決をクラブに要請している」とした上で「人の感情が差配する。クラブ判断が正確に事象をとらえることが難しいこともある」と述べた。
また、東京Vの永井秀樹・前監督にパワハラ疑惑が浮上している問題について、萩原室長は「(クラブからの)報告書が現時点で到着していない。進捗を確認している。報告書が届いた後に分析・評価し、我々が取るべきスタンスを報告させていただく」と語った。