いや、目指しただけでは書けない。それはもう書いてきた人の作品である。たしかに彼女は既に十冊以上の著作を世に出した作家であるわけだが、それらの著作の多くは自己啓発エッセイというべきもので、そこにも技量は必要だが、小説となるとまた少し違うものである。
小説としての処女作『とにかくウツなOLの、人生を変える1か月』はそういう意味では、自己啓発エッセイと小説の中間に位置する珍しい作品だった。しかしこの『通りすがりのあなた』や次の『仮想人生』は彼女の小説家としての才能を存分に発揮している。
いずれにせよ彼女は小説家になっていた人である。それは間違いない。それだけの力量は最初から持っていた。それなりの努力を十代からしてきた人である。普通ならば新人賞などを目指して愚直に小説に向き合う選択肢もあっただろう。
しかし、彼女はそういう道ではなく、敢えてネットという世界を選び、ブロガーとして、インフルエンサーとして、読者から共感や批判を浴びる場に身を置いた。水栽培のヒヤシンスである。透明なガラスの花瓶の水の中に自らの魂の球根を沈めたのである。その球根は否応なくガラスに透けた水に根を伸ばし、芽吹き、やがて花を咲かせる。
普通の作家なら、あまり見せたくないプロセスが尽く丸裸である。読者や視聴者に見せるべきは”花”なのであって、土の中にあるべき根の部分は、とても恥ずかしくて人には見せたくないものだろう。
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