2020年、コロナ禍。娯楽は不要不急なものの最たるもの。2020年を振り返るのに最適なアングルは2020年の娯楽を振り返る事ゆえ、視線を向ける。
①台頭する個の時代
上に列挙した芸能人の共通点はお分かりだろうか?
2020年に芸能事務所を退社し独立した芸能人だ。独立理由/動機/背景も異なる相次ぐ独立劇の評として公取の発言がどーたらと述べたりしているが、本質は『事務所に所属するメリットが死んだ』事にある。
盾から矛へ
戦中の大本営発表への反省から知る権利尊重に守られた記者は紙面を埋める事が出来ない状況にてフェイクニュースを平気で掲載する。そういった悪質な記事への抗議と不当な非難からの防御を請け負う事に事務所所属メリットがある。
写真週刊誌Flash4月14日号掲載の宮迫博之氏によるブランド米買い占めという記者の食い扶持目当ての酷いフェイクニュース。配偶者と大学生の息子の3人家族が1kgあたり700円のコメを8kg購入という普通の行動に対して買い占めという表現を用いて貶めた典型的なタレント叩き記事。
宮迫氏が吉本興業所属時代ならば書かれなかったはずで、事務所という抑止力を失った人間をターゲットにしたものであるが、宮迫氏は自身のYouTubeチャンネルにて事実無根と表明、Flashを刊行する光文社に直接電話で抗議する動画をup。推測の域を出ないが、少なくない支持者を生み様々な形での抗議は発せられたはずだ。
もう一つ。2019年初旬の山口真帆さん暴行事件。3月開催のAKSによる第3者委員会調査報告会見内容への批判を自身のSNSで会見中に投稿し虚偽報告がなされている旨を主張。その模様を会見場の記者から直接質問されるという前代未聞の事態となった。
2つの事例はSNSやネットの持つ力の強靭化によってタレントは盾ではなく矛によって自らイニシアティブを握れるようになり、フェイクニュースで私腹を肥やす出版社、自己保身に走る大企業幹部というパブリックエネミーを固有名詞付きで世に放てば烈火のごとく攻撃にさらされる好例だ。ただテラハ木村花自殺も、この構造が招いた悲劇であり、パブリックエネミーへの集団攻撃というカタルシスには正負両方の側面がある事も事実だ。
多様な媒体を用いた自己防衛を可能にする技術革新によって事務所という盾への魅力が薄れてしまった事は想像に難くない。
封建社会の崩壊
芸能界は興行に端を発し、取り仕切る反社会勢力との関係は色濃い故に封建的風潮は根強い。公取からの警告のトリガーとなったSMAP解散騒動を封建社会的なアングルで眺めよう。
喜多川組組長の高齢化に伴い、若頭藤島への継承目前で本流と道をたがえる組内傍流組織飯島組が藤島体制にて上がり目がなくなることを見据え組を割って出た(独立)、ケツを持つ(受け入れ先となる)と約束した組織も情勢を見て梯子を外し、喜多川組は造反飯島組を敵対行為とする絶縁状(メディア統制)を回し、出戻るとシマ(集金装置として有用な中居、木村)を取り上げて、指を詰めさせて(TV番組で謝罪)、組は潰した(SMAP解散)。
これは封建社会では組を割って出て行った逆賊への処罰、という当然の帰結となる。ジャニーズ事務所がヤクザ事務所なら問題はない。この問題は芸能界に存在する封建社会的な因習帰結と言え、事務所独立による社益減収防止の負のセーフティガードが陰湿に映った事だろう。
事務所は競合他社への圧力を中心に仕事を斡旋し、お抱えのスポーツ新聞を使って誇大宣伝、バーター出演を使って大手マスコミへの出演実績形成、人気を『作る』事を可能にする。
しかしSNSの発達によってアウトプットが容易で2019年にTVの広告費をネットのそれが抜き、その差もますます拡大する中、大手チャンネルの数で勝負する事務所に所属しても理不尽封建社会に身を投じるほどの対価を得る事は期待出来ない。
上記のメリットの消失から集団の時代は緩やかに減退をむかえ、個人による多種多彩なテクノロジーを用いた柔軟な選択によるキャリア形成が可能になった。また封建社会の保全も時代の波と実力者の高齢化に伴い厳しい。オスカー事務所からの大量退社は公取云々ではなく代替わりの失敗という失政によるものと、音事協という力学団体に非加盟である事により他事務所が手を出しやすかった事によるものだろう。
移籍や独立は発信力のあるタレントや人気のあるタレントでなければ不可能であり汎用性への疑義はあろうかと思うが、既にTVや大手メディアからスターは生まれていない現状を注視しなければならない。
港区外交によって大手事務所と大手媒体と広告代理店の鉄のトライアングルによって利益を生めるのは大手事務所に人材があってこそであり、発信力のあるタレントが減っていけば自ずと志望者の質も落ちる。SMAPが好きな男の子はジャニーズ事務所に憧れるだろうか、封建的処刑を行った事務所に身を委ねるだろうか、NGT運営の酷さを見てAKB系に娘を両親は預けるだろうか。
『今の時代、1人に向けて言うのは1000人に言うのと同じだ』敬愛するデビッド・フィンチャーが手掛けたドラマ作品ハウスオブカーズの台詞だ。SMAPに対してジャニーズ事務所がした事、山口真帆に対してAKSがした事、それはこれから芸能界に来るはずだった多くの若者に対して行使した事と同義だ。
才能のある人間は柔軟に組織を選んだり抜けたりする、といった未来はすぐそこまで来ているし劇的ではないだろうが確実に変わりだしている。
②フェアリーテールは死んだみたい
職業仮想恋愛への抵抗
アイドルという言葉の適切な和訳とは何か?偶像という訳がポピュラーかもしれないが自分は『職業仮想恋愛相手』だと考える。ファンを仮想彼氏/彼女と見立て恋愛禁止を遵守し、仮想パートナーとしての振る舞い、様々な活動への援助を賜るのが近年のアイドルの実態と言えるからだ。
『日本のアイドルって恋愛に関して厳しくて、男性の人が応援してくれる代わりに自分はプライベートでは恋愛せずアイドル一筋で頑張る人が多いです、私はアイドルではないので、全然自由に恋愛もしたいと思います。アイドルって、男性に媚びるというか、ちょっと男ウケを狙っているんですけど、私がやってることって全く異性ウケしないことをやってるので、アイドルではないです。もっとアーティスト寄りのことをやってます』
きゃりーぱみゅぱみゅの2013年フランスのTV番組の中で峯岸みなみ丸坊主騒動への質問に対する回答から抜粋した。実に示唆的だ。
きゃりー自身は音楽家/表現者であり、仮想恋愛によって集めたファンを相手に商売をしているわけでなく異性の視線を意識せず音楽性や芸術性の向上に努めている、と主張したいのだろう。
この主張はジャニーズ事務所からの相次ぐ退所に関わる非常に重要なイシューを提示している。仮想恋愛で集めたファンを前提とするモデルによる音楽的成功はフェアなものでないという価値体系だ。
職業音楽家としての才能が豊かなアイドルにとって一番の苦痛は自身の音楽的才能を発揮しても成果が正当なものとして評価されないことにあるのではないか、だからこそ退所を選ぶメンバーが増えたのではないか?
ジャニタレ、AKBのようなアイドルがオリコンチャートで首位をとっても、もはや誰も気にも留めない、『どうせ、事務所の力で売れたんだろ、どうせ付属商法なんだろ』という視線があり、大箱に沢山の人を集めてもユニバーサルな評価は獲得できない。秋元Pは現役メンバーが結婚しながら活動することへの配慮も見せていて仮想恋愛ビジネスからの脱却を次のフロンティアと見ているのだろう。
日本のトップアイドル嵐のリーダー大野智は30代後半という結婚適齢期に同棲している女性を週刊誌に報じられ、『僕の軽率な行動でファンの皆様を悲しい気持ちにさせてしまったこと、申し訳ない気持ちでいっぱいです、友人の1人で同棲という事実は一切なく、お付き合いも一切していません。もう会うことも一切ございません』と謝罪した、これが仮想恋愛ビジネス従事者の現実だ。
これはアイドルに限った話ではなく、声優の仮想恋愛ビジネス従事という問題もあり、恋愛発覚/結婚発表後に大きくCDシングル売り上げを落す声優が多発しているのは事実であり、音楽活動に対する純粋な評価を受けていない、と考えられ、男性声優は結婚している事実を隠す傾向にもあり、宮野真守の結婚発表時のネット上での騒動(具体的な文言は書く事がはばかられる程)から急速に広がったと言える。
ジャニーズ事務所を退所するメンバーを見て深刻に感じるのは、彼らが事務所への感謝を心の底から述べている点、出ていきたくはないけども出ていかなければならない、というのは構造上の欠陥があるのではないか。
滝沢秀明が副社長に就任してから世代交代に加えて綱紀粛正路線が採用され仮想恋愛ビジネスの徹底が実施されている。これからも少なくない退所者を輩出することが予想され、その多くが主だった不祥事が原因でない、という事態を招くのではないか。
アイドルを否定したり仮想恋愛を根絶させたいわけではない。しかし私的空間と公的空間の境目が曖昧になる現代、『閉じた幻想』は危く、音楽性の高い楽曲を発表するアイドルグループが正当に評価されていない事に痛恨の念を禁じ得ない。
でんぱ組の古川未鈴は漫画家麻生周一と結婚を発表し、活動を続けているし、Negiccoはメンバー全員が結婚しながらアイドルとして活動していて、アイドル在籍時は恋愛はおろか結婚する事も許されない、という不文律は一部緩和されてきていて、進行形の恋愛を公表しながらの活動、というのも不可能ではないかもしれない。
崩れ去る虚構
近年は虚構を生み出すことが困難になった、職業仮想恋愛の遵守も週刊文春を始めとするマスコミの追求、国民の大多数が高精度カメラ付きスマートホンを有しSNSの発達による容易なアウトプットと伝達速度の速さから『日陰』は減った。
隠す事が困難な時代に『神話』は難しくディズニーランドへ行ってミッキーマウスの着ぐるみを剥がして『ここに人間がいるぞ、俺たちは騙されてたんだ。』と大声で叫ぶ人間が増え、正論を言う事が正しいとは限らないように我々の世界の様々な虚構が揺らいでいる。
一昔前の芸能人は映画内のキャラクターを現実世界でも体現し虚構に徹していた、しかし今のバラエティ番組における『ぶっちゃけブーム』を見ると美しい虚構を見て楽しむより凡人と変わらない共通点を見て安心したいという思想が垣間見える。無知の上での幸福/既知の上での不幸のうち後者を選びたがる国民性は、仲間外れにされたくない、というものなのか、それとも単なる知的好奇心なのか、答えは出ないが社会自体が病的な様相を呈している。
2020年初春完結の『100日後に死ぬワニ』炎上事件も電通案件と知らずに、まんまと乗せられてしまった事への八つ当たりのように感じ、虚構の裏側を見ようとする国民性があるのか。日本のような小国においては有能な少数者を担ぐ方が理想的なのだが、担ぐよりも引きずりおろす力が強い中でノイジーマイノリティへの配慮も要求され、ますます息苦しい世界となった。
加熱するスキャンダル合戦も出版社という社会的なものだけでなく将来的にはネット媒体でイリーガルな取材によって獲得した情報の暴露を繰り返す過激な媒体も発生するだろうし無秩序の極みを見せるかもしれない。
有名芸能人の相次ぐ自殺の中でもテラスハウス出演者であった木村花さんへのネットリンチをトリガーとした自殺は半虚構として冷静に見る事が出来なかった人々による悲劇であり、虚構との向き合い方において大きなゆがみが我々の社会に巣くっている。
③閉じるという提案
仮想恋愛ビジネスからの卒業ではなく海外挑戦を含めた日本のクローズドな世界からの離脱を考えての事務所退社も少なくなかった。
山下智久、手越祐也の退社はこれに分類される。既存メディアとのあり方において事務所にいるメリットがなくなってしまった、というシンプルなものだ。
不祥事自粛中退社となった山下、手越両名は謹慎の有無に関わらず退社していたろうし(手越はグループ活動がひと段落するであろう数年後の卒業に向け退社準備をしていた、と発言)未成年飲酒、自粛期間中の外出、というスキャンダルはむしろ退社のきっかけになってしまった。
海外への憧憬
常々感じるが、日本人は欧米でユニバーサルな評価を受ける事に過剰な拘りをを持っている。例えば海外の映画祭で賞を獲得すれば大いに拍手を送り、海外リーグで活躍するアスリートをほめそやす。日本人自身が自分達で下した評価よりも海外の評価を神聖視する傾向にある。
芸能においても海外、特にアメリカで評価されるものこそ真のエンタメと考えて海外進出を栄転と見る向きが強いように感じる。外国人に比べて劣っているからこそ勤勉に生きるという事を是とする海外への過剰な劣等感から海外ウケを過剰に気にしているように思える。
日本人の島国故の特異性は災害時に暴動が起こらなかったり、コロナ禍で少額の補償に文句を垂れながらボイコット運動もせず働き、リーダーシップのない政府を抱えていても国民の清潔意識の高さから先進国の中では指折りの感染者の少なさ、に見て取れる。
海外のほうが国内よりも先進的な事も少なくはなく海外志向を持つのも不思議ではないし近年のグローバルな活動を可能にするテクノロジーの進化が加速を生んでいる。
手越祐也、山下智久、両名も目指すのは米国でのユニバーサルな評価のためのグローバルな活動で、日本の事務所に所属していては難しいという結論に向かうのは当然。SNSでの発信もジャニーズ事務所は認め出してはいるが認可速度は速くなく最大の武器であるルックスが劣化しないうちにキャリア形成を図る上で事務所にいるデメリットを感じていたと思う。NEWSの元同僚、森内がワンオクのボーカルとしてグローバルに評価されている事も影響しているのかもしれない。
競合他社に圧力をかけて露出を確保し仮想恋愛で集金する国内向け閉鎖戦略で勝ってきたジャニーズであるが海外進出となると事情は異なる。KPOPに代表される実力者の台頭により欧米向けの実力志向と仮想恋愛の平衡が取れなくなってきていて、この柔軟性の獲得のスピード感のなさが高速化するエンタメにおいて大きな足かせとなっているのが苦しい。
反グローバルとしての鎖国
世界的に成長が見込まれる国内産業、アニメは閉じたローカルな体系故に独自の発展を遂げた。
最近、中国からの観光客が政府誘致もあって急増していて中国語を話せるスタッフが登用されてて多言語に応用される可能性が高い。ただ想像して欲しい、海外旅行先に求めるのは異文化接触なのに母国語でガンガン話されてしまえば『海外旅行』の楽しみは半減する。グローバリズムによるローカル性破壊の最たる例だ。
日本アニメは美しい手書きの画に代表される特異性にこそ最大の強みがあり近年では欧米受けと効率を考えて3D作品が相次いで製作されていてグローバル対応がローカル性の良さを潰している。Netflixの進出も手放しで喜べないのが、この点にある。
資源が少ない国が外国に対して優位性を獲得するには技術しかなく、グローバリズムに敢えて抗い独自の文化を建築する事が重要で世界から離れる事で世界に近づく、というのが世界戦略の上で重要である。
手越祐也の自叙伝は、おおむね間違った事は言っておらず対バンオファーがあっても受理されない事を含めた硬直化した事務所の対応への不満による退社は十分納得できるものだ。
ただ彼が掲げる米国への進出を最終到達点と考える思想には賛同できない、ネット媒体を中心にした活動と人脈を用いて独自のビジネスを展開していく方が良いと思うし、グローバル路線よりもローカル路線を走る方が良い帰結を得ると思う。
韓国の国策としてのエンタメは欧米向けの音楽体系を作り欧米人の評価を勝ち取る事が目標で、それに比べて日本はけしからん、という主張もあるが、個人的に日本は独自のローカル路線を歩むべきだ。
グローバリズムによって多国籍企業の進出に伴い地方経済はガタガタになり貧富の差は拡大した米国では既得権益のための共和党、多国籍企業のための民主党という2大政党に救われないベーシックな人々の怒りが分断を生み、トランプ大統領が生まれた。
トランプが分断を生んだと言われるが分断がトランプを生んだ、と言うのが正しい。共和党、民主党の両党共に中道であるブッシュ、クリントンに対する人気よりも既存路線に反するトランプ、サンダーズに対して期待が高まっている事を深く考える必要があるだろう。
ウォルマート問題に代表されるグローバリズムのローカル破壊はアメリカ社会に大きな影を落し、世界各国で同時多発的に反グローバリズムが急進的になっている、日本でも民営化を含めた安易な小さな政府への移行には注視する必要がある。
バイデン政権はトランプ政権を終焉させたカタルシスに舞い上がる時間はない、トランプに投票した7400万人もの民意を無視すればどうなるか、米国の分断の原因がトランプではない事に気づかなければ痛いしっぺ返しを食らう事になるだろう。
④心<技<体
ラグビーW杯が教えてくれたこと
2019年の事になるがラグビーW杯日本大会で日本代表は史上初のベスト8入りを達成した。日本人という世界的に見ても小柄な体型の選手が多い故に肉体的接触を避ける『柔よく剛を制す』事が困難な競技において外国人に勝てたのはとても大きいことだ。しかしマスコミは、この勝利を『ONE TEAM』という精神論で結論付けようとし、そこに乗っかる残念な人が多いのは事実だ。
ベスト8入りを成し遂げることが出来たのはフィジカル能力の向上を図った事が主因であり、エディーHC以降、受け継がれてきた『剛を制さなければ柔は出せない』に基づくものだ。
現代スポーツにおいては、体(フィジカル)で競れて技(テクニック)で差が付き、技(テクニック)で競れて心(メンタル)で差が付く。
この観点から『巨人は何故2年連続で4連敗したのか』、『何故サッカー日本代表は世界で勝てないのか』という疑問に対する回答は容易に浮かぶ。フィジカルが足りていないからだ。
日本スポーツマスコミは、専門スポーツへの造詣が浅い人間が担当する事が多く、専門性の高い技術論やフィジカル論ではなく、安易に誰でも理解できるような精神論を展開させがちで、ラグビー日本代表の成功に関しても海外選手のフィジカルに負けないように外国人を補強しフィジカル練習の徹底で勝ち得た、という評論は本当に少なかった。
巨人軍がソフトバンクに勝つためにDH制を導入しようとしているが、個人的には外国人登録制限を解除して、外国人まみれのチームに変えてしまえばフィジカルでの優位性は消滅するため、巨人というブランド力による人的資本収集能力によって新たな優位性を獲得できる、と考える。
個人的には巨人軍は勝利よりも優先される建前が多すぎるのが主因に思えてならず、フィジカル増強に加えて組織改革が必要なのではないか。
多様性による束縛条件の破れ
ラグビー日本代表を見て、きっと多くの人が同じことを思ったはずだ、『日本人少なくないか?』そうである、先も外国人補強という話をしたが、
1.出生地が日本
2.両親、祖父母のうち一人が日本出身
3.日本で3年以上継続して居住
1~3のいずれかを満たせば日本代表としてプレー出来る。この日本代表の勝利を『多様性の勝利』と見る向きもある一方で、感情移入し難く外人ドーピングでフィジカル優位性を解消したに過ぎず日本代表の勝利であっても日本人の勝利とは言えない、という意見もある。
日本人の外人コンプレックスの裏返しとして、フィジカル的に劣る『日本人』が体の大きい『外国人』を倒すカタルシスに惹かれるが故に難しい心情を抱くのも無理はない。
多様性が拡張し、サッカー日本代表に関しても外人ドーピングが実施されれば、ラグビー日本代表と同様に少なくない外国人がいる日本代表を我々は応援する事になる。
しかし海外サッカーにおいては、もはや各国代表チームよりもクラブチームの方が強いのは自明である、国籍という縛りがなく自由に選手補強が出来るのだからクラブの方が強いに決まっている。
仮に各国代表において外人ドーピングがテンプレ化すれば束縛条件が破れてしまうために劣化クラブチーム世界大戦へとサッカーW杯が変容する可能性があるばかりか、各国の代表を『自国の代表』として応援してもらえるのか、という懸念はある。
またLGBTの問題もあり男性から性転換した選手が女性選手として登録される、という事も想定され、ボーダーが曖昧化する事で『束縛による面白さ』はなくなる可能性があると言える。多様化された組織への受け入れ拒否がレイシズムと捉えられ閉口してしまう事も含めて、近い将来、小さくない課題となる、と予想される。
鬼滅は何を残すのか
2020年、コロナ禍において国内上映映画作品歴代最高興行収入を記録した『鬼滅の刃』であるが、例の如くヒット分析が各所で実施されているが、どれも的を得ず正確な解析は少ない。
おそらく本質的にはコロナ禍における映画館の上映本数を爆発的に増大させた事とコロナ禍においてユニバーサルに参加出来るお祭りを欲していたのだろう。盛り上がれるなら何でも良かった、そして選択肢が鬼滅しかなかった、というのが真実なのだろう。
鬼/ヒトの2項対立は進撃の巨人、妹を元通りに戻す旅を続けるスキームは鋼の錬金術師、といった風に採用されているシークエンスには一切の新規性はなく、作画やルックスは良いが、興収300億作品にしては語る点が少ないのが本作の特徴である。
しかしヒット作とは往々にしてレガシーを残し、作家は、そこから同様のヒットを狙うべく二番煎じを生み出すものだ。
君の名は。鬼滅の刃、呪術廻戦といった作品に共通するのは圧倒的な作画力である。日本アニメは90年代のエヴァの大ヒット以降目立ったユニバーサルを獲得出来ずにいて佳作な原作を下地にしたアニメが少しばかりの優位性を確保するのが背の山であった。
技術による違い作りが限界に達し、考え得る設定が出尽くした感のあるアニメ界において、余地は作画しかなかったのかもしれない。これから数年のアニメ界の覇権は既存の設定スキームを採用しながら資本を投下した圧倒的な作画力で差をつける作品というのがポスト鬼滅時代の描像と予想する。
⑤不倫だとかなんだとか
近年、芸能人の不倫が取りざたされる事が多く、他人の家の話なので口を出さない、という正論を実践できる人間は少なく、様々な芸能人の様々な不倫に沸いている。2020年は多目的トイレでの不貞行為などスキャンダラスなものがあり、不倫ブーム止むこと知らず、である。
オープンマリッジ実装の可能性
結婚とは婚外交渉禁止条約と等価であり婚外交渉行為となる不倫が罪として扱われるのは納得。分かっているはずなのに男女共に不貞行為に走るケースは少なくなく不倫を題材にした作品の熱狂ぶりを見ても背徳への憧憬があるのだろう。
3年3か月の民主党政権が教えてくれたことを思い出そう。『守れない約束はしてはいけない』。いっそのこと婚外交渉を認可する婚姻関係を結んでみてはどうだろう。貞操を守れないなら貞操を守らない婚姻を結べば良いのだ。
婚外交渉を認可する婚姻はオープンマリッジと呼ばれアメリカの社会学者オニール夫妻によって提唱された既存の概念だ。1970年代に提唱され婚外交渉欲求抑制放棄という観点ではなく互いを尊重し所有権や独占権に縛られない『開かれた婚姻』として成立している。
LGBTを始めとする多様な性の許容はデジタルネイティブ世代の成長に伴い浸透しつつあり同級生に同性愛者がいるのも普通の光景になる日も遠くない、そして父親が2人いるカップル、母親が2人いるカップル、といった多様な婚姻関係が採用されるだろうし、世間体もあるが芸能人や影響力のある人がオープンを実装する可能性も否定できない。
恋愛関係においてもそうだが他人の人生にどこまで介入すべきなのか、という事に関して公私の境界が曖昧な中で互いを真に尊重するためにはオープンという結論に行きつく事も決して不自然ではない、と考えられる。
リッチシングルとデザインベイビー
元でんぱ組の最上もがさんは妊娠を公表したものの父親を明かさず未婚の母として育てていく決意を表明した。とても勇敢な選択だと思うと同時に経済的に独立した女性にとって夫が合理的に不要とされてもおかしくないと考えさせられた。
男性が女性に求めるのはルックス、女性が男性に求めるのは金銭、このバーター関係こそが恋愛そのものである。
男性が恋愛をするのは性欲によるところが大きいのは事実で恒常的性交渉相手として恋人を求めるケースがベーシックと言える。そして肉体関係を複数年続けていくと飽きが来るのは必然で不倫に走るのは動物的には自然で『不倫は本能によるもの』という言い分にも一理ある。
女性の立場から見ると、自分に対して将来的に肉体的興味が失せる可能性があると分かっていて婚外交渉禁止条約を締結して裏切られるくらいなら旦那など欲しくない、と考えるのは、それもまた当然と言える。
「結婚願望ない理由として、どんな美人で素敵な奥様がいたとしても不倫する人はいるっていうの、ニュースでみるたびに結婚への憧れが消え失せる」
これは最上さんがtwitterで渡部氏の不倫報道後呟いた内容。
最上さんは昨今の不倫が取りざたされる世の中を見ていて半永久的な婚外交渉禁止の困難さを感じていたのだろう、いつか不倫するかもしれないパートナーに神経をすり減らすなら旦那を設ける必要はあるのか、しかし子供は欲しい、となれば未婚の母となる、というのは合理的判断だ。
女性の社会進出に伴い、自立し経済的に余裕のある未婚の母は増えると思う。これまでの貧困と格差に苦しむシングルマザーの描像とは違ったリッチシングルが一定数発生する、と考えられる。もちろん、そこまで資本に余裕がある人間は少ないので流行するとは思わないが。
また遺伝子解析技術が進んだ現在においては子供の素養をデザインする事も可能であり背の高い子供が欲しい、といったオーダーに応え得る人口精子を用いた体内受精による授かりも可能になるのではないだろうか。
2020年度の税制改正で寡婦(夫)控除制度に未婚のひとり親が追加され、死別・離別した人と同じ水準になり、年間所得500万円以下の未婚のひとり親は課税所得から最大35万円を控除する事に伴い選択的シングルマザーは増えていく可能性はある。
愛情、家族という一種の『虚構』に付き合うのではなく、合理的で現実的な選択をする人々はこれから増えるだろうし、自分も、もしかしたらオープンといった選択をするかもしれない。テクノロジーによって適度な『日陰』は消失しつつある現代に伝統的な家族観の実現は困難なのかもしれない。
⑥これからのセカイ
これから数年で起こりそうな事を付す。
You Tubeバブルの崩壊
コロナ禍前夜、YouTubeはTVに変わる新たなプラットフォームとしての可能性を示しカジサックの成功モデルを足掛かりにTVタレントは緩やかにYouTube進出を果たすと予想されていた。しかしコロナにより、この進出速度は予想を上回る速度でネット媒体でのアウトプットを誘発した。
芥川龍之介『蜘蛛の糸』のお釈迦様が垂らした蜘蛛の糸によじ登る罪人の群れの如く大勢がYouTubeに進出した結果、物語同様に蜘蛛の糸に引きちぎれんばかりの負荷がかかり登り始めた新参者から地獄へ墜ちようとしている。
実際に再生回数が伸びなくなったと嘆く配信者も多くTV収録を専門とするスタッフの介入によって一本の映像にかける労力は増すばかり、またTV局も流行に乗るべくYouTuberを出演させているが、それも厳しい様相を呈している。
刻一刻と一本の動画に求められる質が向上していけばTV収録という時間帯効果の低い食い扶持にかまけている余裕はないし、人生を切り売りして成り立つ配信者にとっては時間の無駄でしかない。
これから残存するのは、おそらく『重再生動画』を持つ配信者となる、実際上位層でも毎日奇抜な事を絶え間なく続けるのは厳しい故に最も強いのは『動画遺産』を有している者だ。
代表格がオリラジ中田敦彦である。彼が展開する動画の主軸は書籍の要約を中心とした教養動画であり、何度も見直せる仕組みとなっている。他の配信者の動画は基本的にライブ感のある人生の切り取りであるのに比べ優位性が強い。
YouTubeに飽きが来るのは遠くなくオンラインサロンといった閉じた系への誘導窓口としてYouTubeを運営するのが最適手となりつつあることを踏まえても厳しい情勢と言わざるを得ず、上位層と最下層の二極化が進み緩やかにブームは収束するとみられる。
先行利益がどこまでもつかをにらみながら、いつ勝ち逃げするか、を上位層は考え始めている事だと思うしYouTubeは緩やかに没する。片手間でやる/見るからこその面白さが競争力の増進によって片手間で作れなくなってしまえば割に合わないと捨てる人間が現われるのも時間の問題だろう。
私権制限議論勃発
コロナ禍において我が国の政府は後手後手と形容されることが多かった、法律を決めるにも会議を開かなければならない民主主義によるものであり果てしない議論の繰り返しと煩雑な事務処理に追われては先手先手など不可能である。
コロナは『密の病』であり、人口密度の高い地域では感染対策を行っても『波』を避ける事は困難で有効なワクチン接種が不可能な状況では『引き籠る』しかない。
しかし日本において私権の制限も含めたロックダウンは法律上できず、コロナが過ぎ去れば憲法改正が党是の自民党にとってもポストコロナにて法整備に着手するのは必然で憲法改正議論にも波及させるはずだ。
マイナンバーカードに口座番号といった個人情報を紐づけておけば役所業務減るだろうに、私権制限への抵抗から給付金配布も迅速には行われなかった事を踏まえても私権の制限も含めた緊急事態条項を中心とする議論は必要だ。
我が国は軍隊の事を自衛隊と呼び、売春婦の事を風俗嬢と呼び、パチンコ(ギャンブル)をスロットマシーンだとして合法だと誤魔化し続けてきた。このようなグレーゾーンをどうするのか、を含め国家の形を議論する事は大切であり9条に関しても条文を読む限りは自衛隊解散か改憲か、の2択しかないはずである。
赤信号をみんなで渡って無理やり青信号とするのも良いだろう。しかし、そろそろ臭いものにふたをするのも限界で、種々の法律改正も含めた抜本的議論が実施されると予想される。
緊急事態において民主主義は最大の障壁になる、という耳障りの悪い教訓に耳を貸す政治家が少なくない事を祈るばかりだ。
⑦おわりに
大抵の未来予測は外れる、リーマンショックに3.11大地震やコロナ禍は誰も予想できなかった。しかし、そのような予測不可能な災害を除いても20年代はテクノロジーの変化が我々の周囲の景色を変えていく。AI技術の発展、自動運転、宇宙旅行、夢のように思える事柄が我々の生活を豊かにする中で、様々な障壁が眼前に広がる。
2020年は本当に重い一年であった。コロナ禍、YouTubeバブル、相次ぐ芸能人の独立、イギリスのEU離脱、トランプ政権の終焉、胃もたれするほどのラインナップである。コロナ第3波に揺れる2021年初頭に、この記事を書いているのだが、まだ2020は終わっていないように感じる。
テクノロジーの進化によって、『人間』という言葉に代表されるヒトとヒトの『間』が消失し、今までは誤魔化せていた虚構が揺らぎ、サピエンス全史で示された、虚構=支配、という関係から支配構造も揺らいでしまっている。
芸能事務所の支配構造は発信力のあるタレントには無用の長物と化し、仮想恋愛も様々な限界を示し、ベーシックな家族観も揺らいでいる。
ただ2020は大きな分岐点となる重要な一年であり、ここから激動の20年代が始まろうとしている。このような膨大な文章を読んでいただいた方に感謝を述べるとともに、そんなあなたの20年代が幸福に溢れる事を祈念して記事を結ぶこととする。