アナザーラウンドの作品情報・感想・評価

アナザーラウンド2020年製作の映画)

Druk/Another Round

上映日:2021年09月03日

製作国:

上映時間:117分

ジャンル:

あらすじ

冴えない高校教師マーティンとその同僚3人は、ノルウェー人哲学者の「血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」という理論を証明するため実験をすることに。朝から酒を飲み続け常に酔った状態を保つと、授業も楽しくなり、生き生きとする。だが、すべての行動には結果が伴うのだったー。

「アナザーラウンド」に投稿された感想・評価

 以前、神主と書道の先生との三人で焼鳥屋で酒を飲んだことがある。二人は長い付き合いらしく、殆ど口を利かない。ただ黙ってビールを飲み、焼鳥を食べ、日本酒を酌み交わす。当方はまだ若輩だったが、特に居心地が悪いわけではなかったので、自分から話題を切り出したりせず、一緒に黙って飲んでいた。
 1時間半ほどもしただろうか。書道の先生が「ああ、酔うた」とボソっと言った。そしてまた同じようなペースで静かに飲みはじめたが、ほどなくして散会となった。このときの焼鳥と日本酒ほど美味しいと思ったことはない。若山牧水の「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり」という歌が心に浮かんだ。

 本作品は4人の高校教師が普段のパッとしない生活から脱するために少量の酒を飲む実験をするという話である。うまくいくこともあるが、酒に頼っていればいずれは破綻するのは目に見えている。そのアホさ加減を笑ってばかりもいられない。この作品には悪意にも似た不穏な思想が底流にある。
 不穏な空気は音楽の教師が生徒に合唱させるシーンから感じはじめた。合唱するのがデンマーク礼賛の国家主義そのものの歌なのだ。加えて、酒を飲んだときの盛り上がり方が、日本で言えば大学生程度のノリである。コロナ禍の前までのハロウィンや大晦日やサッカーワールドカップのときの渋谷の夜みたいだ。あそこにいたのは二十歳そこそこの若者だけである。
 いい大人が酒を飲んで騒いではいけない。騒ぐのは軍隊や体育会の若者に見られるように、全体主義、国家主義のノリがあるからである。国家主義の歌を歌わせる精神性と、酒を飲んでみんなで騒ぐ精神性は、根っこは同じである。本作品が高評価を受けているとすれば、デンマークはヨーロッパでも危険な国のひとつだと言えると思う。

 本作品の飲み方と、冒頭に述べた神主と書道の先生の飲み方は対照的だ。若いときは酔っぱらえればいいと酒を飲む。本作品と同じである。しかし大人は違う。料理を食べるときには料理人に感謝し、そして素材を提供した農家や漁師に思いを馳せる。酒を飲むときには造り酒屋の努力に感謝し、酒米を育てた農家に感謝する。
 想像力がなければ他人を思いやれない。思いやりがなければ残るのは憎悪だけだ。そして憎悪は戦争に繋がっていく。ケタケタと笑う観客がたくさんいたが、当方は終始もやもやとした不安を覚えながら鑑賞した。

 デンマークの国民が想像力に乏しい国家主義者ばかりではないと信じたい。大多数は当方と同じように酒を愛し、酒を味わい、状況を愉しみながら飲んでいるに違いないと願う。酒はしづかに飲むべかりけり、なのだ。
rollin

rollinの感想・評価

5.0
🍻マッツ・デラックス🍷

あ‥ありのまま 今観た映画の事を話すぜ!
「おれはトマス・ヴィンターベア監督×マッツのデンマーク映画を観ていたと思ったらいつのまにかインド映画を観ていた」

という訳で『偽りなき者』コンビによる偽りなき超絶傑作でございます。ほとんど情報を入れずに観たので、物語がテイクオフし始めた時には「え?ほんまにそんなネタで離陸して大丈夫?笑」というワクワク感と、映画の着地点が予測出来ないハラハラ感とであっという間の2時間でした。

何不自由のない暮らしだけど何か満たされぬpure soulを抱えた4匹のおっさんたちが、“常時血中アルコール濃度を0.05%に保てば何か変わるんじゃね?”というイヤな予感しかしない仮説を実行する‥、ただそれだけの映画にございます。

タチが悪いのは、彼らが教育者であるという点と、あくまで研究のためという学術的開き直りをかましている点。ヘミングウェイに倣って、飲酒は勤務中で夜8時以降は禁止という謎の縛りプレイを己に課したおっさんシンデレラたちは4者4様の結果報告を上げてくるんだけど、血中濃度0.05%の段階では皆のウィット&ユーモア値が上昇していて、特にトミーがコーチするちびっ子サッカーチームの試合でメガネ坊がゴールを決めるシーンはこっちも気持ち良いしメガネ坊きゃわわ過ぎてたまらん!!

テロップで現在の血中濃度を示すのも何だかあほあほなんだけど、意外とこのレポート演出のお陰で映画のテンポが整えられていました。あとやっぱ一般家庭の家具や調度品がおしゃれ過ぎて最高。

そしてノリノリの前半とは打って変わり地獄のハングオーバー展開となる後半。
観客の誰もが「うん、そうなるよね」と心の中で頷く正真正銘の自業自得展開は観てる側も頭痛に見舞われそうな居た堪れなさ具合で、血中濃度0.1%overの世界はひみつ道具を悪用したのび太に天罰が下るような倍返されパートでした。おねしょ伏線回収は笑えるとして、マッツのは一番あかんキレ方よね。あとトミーの別れ際の台詞はあかんて(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

この映画は”飲んでも飲まれるな”とか、”酒がアカンようにするのではなく、その人が元々アカン人だということを酒が暴く”といった有難い道徳精神を諭す映画ではありまへんでした。人生に飲まれた大人だからこそたどり着けた肯定の境地を描く映画。これを言うのは恥ずかしいけど人生賛歌ってヤツ。

全体的にはコメディという印象だけど、マッツのオン・ステージに至り、喜怒哀楽すべての感情が詰まったインド映画へと昇華いたしました。DUNEの仕上がり次第では今年ベスト筆頭作品!本当に観てよかったと思える大好きな作品です。緊急事態宣言下で生活する我々には酷な映画だけど。
lena

lenaの感想・評価

4.0
序盤の泣きながら赤ワイン一気飲みするマッツミケルセン可愛すぎて死んだ。全ての酒飲みに観てほしい。
常に酔ってる時のメンタルでいられたらどんなに生きやすいだろうってめっちゃ思うよね、めっちゃわかる。笑
酔いはいつか覚めるし、自分の弱いところに目を瞑るんじゃなくてちゃんと向き合いなさいってことですね。

生タラを採るくだりでめっちゃ笑った。ミニシアターって一人で観に来てる人ばかりだから、上映中は各々が黙々とスクリーンを見つめてるけど、思わず笑いたくなるシーンになるとみんな遠慮がちにクスクス笑い出すの。シアター内に生まれるあの一瞬の一体感がめちゃくちゃ好き。笑
かたや

かたやの感想・評価

4.0
大好きなマッツが終始かっこよすぎだしラストが最高だった……!!!
とりあえず下戸の私は生きていけない国だった。。
dadada

dadadaの感想・評価

3.3
オヤジ達のほろ酔いワークがくだらなく楽しいし気になるテーマだったけど羽目をハズしているだけでホドホドにしないとロクなことにならない当たり前の結果にシラフで頑張ってお疲れのビールしかねぇとリアルそのまま頂いて呑みたくなった。
horry

horryの感想・評価

3.0

このレビューはネタバレを含みます

映画の主要人物である4人の男性たちは、安定した職業があり、貧困層ではない。しかし、はっきりとした理由があるわけでないが、ぼんやりと虚ろで満たされていない毎日を過ごしている。このあたりは、デンマークという国の社会的な背景が反映されているように思う。世界幸福度ランキング2位、北欧福祉国家。41歳の女性が首相になったリベラル色が強い。アルコール依存症の人は多いらしい。安定していることと、中年男性の抱える満たされない感覚。これをアルコールで風刺した作品なのかな?と思う。しかし、4人の「男同士の絆」は、本人たちにとってはかけがえないの物かもしれないけれど、仲間内のノリによって人生が壊れたことを考えればろくでもない。一人の死によって、三人は新しいスタートに立つのだけど、「男同士の絆」は特別なままでアルコールが介在していること、再スタートがどうも女性のリードや影響が大きそうで、本人たちは危なっかしい。不安定になっている教え子に飲酒をすすめ、アルコールの力を借りて試験にパスできたというエピソードからは、「(教員と学生の)男同士の絆」とアルコールのつながりは持ち越されることが示されているように思う。ラストのダンスシーンは、素直に「人生に祝杯を」あげるものとは思えず、風刺なのだろうと感じた。
misuzu

misuzuの感想・評価

4.0
あらすじからコメディ的な印象を受けたけれど、お酒とからめて人生の中の明暗が描かれている人間ドラマ。
教訓的なことも盛り込まれているのに説教臭くなく、メリハリのある物語でおもしろかった。
良くも悪くもお酒の思い出がある人は共感できる部分があるのでは。

118 / 2021年
patsuko

patsukoの感想・評価

4.5
ポスターでマッツ・ミケルセンに一目惚れしてから数ヶ月ついに観賞…!!

一枚一枚がどこを切り取っても絵になるような映像でたまらなかった…。
コメディ映画で終わりそうなネタをそれぞれの家庭環境や性格、環境を混ぜる事でこんなにグッとくるドラマに仕上げるのすごいなって思いました。
私は個人的にあんまりヒューマンドラマ(?)好きではないのですが←
ちょっと良さがわかった気がします。
いいもの観たなー🥃🥃🥃

映像も話もたまらなかったですが音楽も素敵でした。あーたまらん。
あ、見終わったあとはしっかりお酒飲みたくなりました笑

このレビューはネタバレを含みます

「血中アルコール濃度を常に0.05%に保つと仕事もプライベートもうまくいく」という仮説の証明に挑む男たちを描く『アナザーラウンド』。実験の結末は案の定なのだけれど、悲劇でも喜劇でもなく、必死に生きる人々への讃歌となっていて、鑑賞後の余韻が心地良い。飲酒の功罪を描きながら、一概に「飲酒をやめろ」と説教臭くないのが良いんだよな。主役のマッツ・ミケルセンと言えば、『007/カジノ・ロワイヤル』の血の涙を流す男ル・シッフル。冷酷無比な悪役もハマり役だったが、今作の人情味溢れる役も良かった。神々しささえ感じさせるラストのダンスシーンは秀逸。
Arioch

Ariochの感想・評価

4.2
人生酒でも飲んで明るく楽しく!と言うわけにもいかず、時には問題にもぶつかる。
でも失敗してもそれで終わらず、自分の不完全さを認めることが重要であるという言葉が印象的だった。
なんだかんだ明るい気持ちになる映画だと思います。
マッツ・ミケルセンの競歩とダンスが見られるだけでも最高でした
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