2話 アドバイザー
バンッ!
「僕は今まで
カイロスが座っているデスクを叩き、肉薄しながら叫ぶ。
僕は鑑定士ではない。
実際、僕のおかげで何人もの冒険者が早急に芽を開花させてきた。本来なら埋まっていたはずの才能も、幾つも採掘してきた。
そんな僕を今、カイロスはボロの雑巾のように捨てようとしているのだ。
「
「ないぞ? だから言っただろう。こやつの妄想だと。ロイド、幹部だからといって言ってはいいことと悪いことがあるのは分からないのか?」
「……ッ!」
僕はその瞬間、堪忍袋の緒が切れてしまい、目の前にあった憎い顔めがけて拳を繰り出そうとする。
しかし、その拳は、
「ギルマスに手を出すのはお止めください。カイロス様の親友のよしみでこのギルドに入ったと聞きましたが、今の行為は度が過ぎます」
カイロスの斜め前に立っていたアレンは僕の右手をしっかりと掴んでいた。
彼は僕をぎろりと睨みつけてくる。その表情から、どれだけカイロスに忠誠を誓っているのかは一瞬で理解できた。
カイロスは僕を見て同情するような視線を送ってくる。
「まぁ許してやれ。ロイドにこんな重大なことを事前に知らせなかった私も悪い」
「なんと寛大なお方なんですか! ロイドさん! カイロス様のご慈悲に感謝してください!」
「……」
僕はもう何も言葉を返す気力がなくなっていた。
僕が自意識過剰なのだろうか。僕だけが活躍していた気になっていたのだろうか。
やはり【鑑定】のような非戦闘職の不遇スキルは、どれほど活躍しても意味をなさないのだろうか。
僕の中で今まで自信となりえていたものが一瞬で崩れるような気がした。
そんな目の光を失った僕を見て、カイロスは優越感に浸っているのだろう。
歪な笑みを浮かべながら一枚の紙を渡してくる。
「親友のよしみだ。雑用でもいいなら雇ってやるぞ?」
「もういい。さっさと出ていけばいいんだろ」
僕はカイロスを無視して二人に背中を向けた。
もちろん、その書類には鑑定で目を通したが、完全な奴隷契約のような書類である。
衣食住を提供する代わりに配分は全て彼のものになるようになっていたのだ。
戦闘職ではない
ギルドから追放されてしまえば記録に残る。簡単に新しく仕事など見つけることは出来ないのだ。戦闘職でないならなおさらである。
「なっ! ロイド! お前の今の状況、分かってるのか?」
カイロスからは先ほどの余裕がなくなり、少し焦ったような様子を見せる。
おおよそ、僕を幹部の座から引きずり落して、更に雑用として奴隷のようにこき使いたかったのだろう。
だが、僕がそんな罠に易々とはまってやる義理もない。
僕はゆっくりと再び二人の方を振り向く。
すると、カイロスは安堵を漏らしながら、再び嫌らしい笑みを浮かべる。
「そうだろ? やはりお前には――」
「今までありがとうございました」
「は? おい! ちょっとま――」
僕は彼の言葉を遮り、心のこもっていない片言な言葉とともに頭を下げる。
そして、彼の言葉を最後まで聞くことなく、すぐに再び背中を向けこの部屋を立ち去った。
僕はこれから何をすればいいのだろうか。
そんな不安を抱えながら僕はギルドを出た……いや、追放されたのだった。