渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

日本刀

2020年08月18日 | open


古三原


私もこれで切ることなどは、いくらなんで
もしません。

この動画、私も見たことある。
たしか、料理人のおいちゃんが家の勝手口
の外の狭いとこで畳表を切る動画群の一つ
では。


私が切りにも使うのはこれ。小林康宏。
(1993年)


この刀が1992年に生まれた場所にて。
(2017年)


私の斬鉄剣小林康宏。号銘「游雲」。


私は斬鉄剣小林康宏刀の製作スタッフの
一人だが、悩みがある。
それは、引退していた小林康宏先生の背中
を押して再度日本刀鍛造の再建にこぎつけ
て、順調に半百の登録数の製作、販売が
できた。注文主の人はほぼ全員が剣士だ。
しかし。
斬鉄剣であり、よく切れる刀であること
は判っているからということもあるが、
康宏を眺めていると吸い込まれるような
透明さがあって、ほぼ全員に近い人が切る
ことに使うのをやめてしまうのだ。
これ、不思議な現象。
実は私もその一人だった。
私の游雲康宏は上研ぎにかけ、切りに使う
のを何年も控えた。
しかし、康宏復活プロジェクトの責任者が
自分の康宏だけ切りに使用しないというの
も人様に対して差し障りがあるだろうと
思い、再建康宏製作リリース開始後にまた
自分の康宏で切り始めた。
刀術の後輩にも手ほどきの中で使わせて
みた。
後輩は試斬用の刀は持っていたが、私の
康宏で切ってみて「なに?これ」となり、
どうしてもあの切れ味が忘れられない、
とのことで康宏を注文した。
「切り稽古の刀持ってるから、無理に注文
しなくていいんだよ」と私は言ったが、
どうしても自分の差料に小林康宏が欲しい
のだという。
ならばと第三次の受注枠に組み込んだ。
できるまでの2年ほどは、楽しみだった
そうだ。年間24作しか文化庁の製造許可
が下りないが、刀工が高齢のため24作
フルには作れない。どうしても50口以上
の注文製作には数年かかる。5年程かかっ
た。
注文は順次順番待ちで注文主にはご納得
いただいた。物理的に時間がかかるので
やむなき事と、発注者の方々はご諒解
くださった。

ところが、多くの注文主の方々は、仮に
一太刀のみ切って「切り味」を確認した
なら切らなくなる。
そして、鑑賞刀以上の「絶対にずっとそば
に置いておきたい刀」としてのポジション
にシフトさせるようになる。鑑賞刀では
なく、なにか名状しがたい「心の支え」
のような日本刀として。
曰く「見てると美し過ぎて切る気がなく
なる」と。殆どの方が仰る。

斬鉄をも成す利刀なれど、鞘から放ちたく
はなくなる刀。あたら抜いてしまいたくは
なくさせる刀。
私は、小林康宏は、日本刀の本当の深い
ところでの境地を拓いた一つの刀なのでは
なかろうかと感じる。
刀と帯刀者の在り方にまで深く関わる刀。
人の在り方に影響を与える刀。
そんな刀が小林康宏だと思う。
正宗と村正の川面を流れる葉の話ではない
が、破邪顕正は「戦わない事」を選ばせる
事も人の世には大切な事であるように思え
るのである。
そんなことを小林康宏の日本刀は感じさせ
る。

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