<専門医に聞く> 今こそ知りたい感染症(2)粘膜から侵入 2m以内で会話ならマスク(静岡県立こども病院・荘司貴代さん)

2020.7.10

 ウイルスや細菌は、どこから体に侵入するのか。それは病原体ごとに異なります。新型コロナウイルスの感染を防ぐために、侵入経路を知っておくことが大切です。

オフィス内で、マスクを着けずにせきをした人の飛沫の広がりをシミュレーションした動画の一部。正面の人に飛沫がかかる一方で、隣や斜め前の人にはかかりにくいことが分かる(理化学研究所・豊橋技術科学大提供、京都工芸繊維大・大阪大協力)
オフィス内で、マスクを着けずにせきをした人の飛沫の広がりをシミュレーションした動画の一部。正面の人に飛沫がかかる一方で、隣や斜め前の人にはかかりにくいことが分かる(理化学研究所・豊橋技術科学大提供、京都工芸繊維大・大阪大協力)

 新型コロナは、目、鼻、口の粘膜から侵入します。皮膚からは侵入しません。粘膜には、においや味を感じたり、吸い込んだ冷気を温めたり、栄養を吸収したりする役割があります。体の外と内の“境界”であり、外から来た物質にとっては“入り口”。感染を防ぐには粘膜に、ウイルスが付着しなければいいのです。
 (1)手にウイルスが付いたまま、目、鼻、口を触る(2)せきをしている/大声でしゃべっている/歌っている人の前に立って、飛沫[ひまつ]を直接浴びる―そのいずれかで感染します。(1)を遮断するのが、こまめな手洗い。(2)を遮断するのが、3密回避。どちらかだけでは防げません。両方が必要です。(1)については、顔を触らないことを徹底しましょう。いざ意識してみると、何回も触っていることに気付きますよ。
 エスカレーターの手すりや公衆トイレのドアロックなど、大勢の人が触るところには、あらゆる病原体が付いています。新型コロナの感染のうち、それらの「高頻度接触面」を介したケースは1割。私は、エレベーターのボタンは肘で押します。肘で顔を触ることはないので、リスクを減らせます。
 マスクは、自分の飛沫を飛ばしにくくするために着けます。「2メートル以内で、向かい合って会話をする時」に、装着が推奨されています。それ以外の場面では必要ありません。しゃべっている人とすれ違うだけでは感染しません。お互いの顔の近くを、飛沫が一瞬通り過ぎるだけで、目、鼻、口に命中する確率は低いです。
 保健所は「室内の場合、感染者と1メートル以内に近づいて、マスクなどを着けずに15分以上接触した人」などを目安に、濃厚接触者を特定しています。こうした追跡調査で、県内で感染経路が分からない感染者はほとんど出ていません。
 フェースシールドなどの医療者向けの予防具を市民が使っているという報道を見掛けますが、これには首をかしげています。感染対策のトレーニングを受けている医療者が、何らかの病原体に感染しているかもしれない患者に接する時に、その他の予防策と組み合わせて使う物です。予防具の費用は病院の持ち出しになるので、厳選して使います。
 ウィズコロナの今、発熱やせきの症状がある人は、自宅療養しています。過密状態を避けられない人は、マスクで自分の飛沫をブロックしています。予防具は、市民がなんとなく「安全そうだから使ってみる」という対象ではありません。過剰な対策で、熱中症やけがが増えてしまわないか、心配です。(荘司貴代・県立こども病院感染対策室長)

 しょうじ・たかよ 感染症専門医。小児科専門医。県新型コロナウイルス感染症対策専門家会議委員。東京都出身、東京女子医大卒。2014年から静岡県立こども病院勤務、18年から同院感染対策室長。感染防止や抗菌薬の適正使用について、院内外に情報発信している。特殊な感染症の外来治療や当直勤務も行う。趣味は歌。ゴスペルクワイヤ(聖歌隊)の一員。44歳。

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