本日は,一昨日のアラブとカンティガの合わせでもご一緒したウードの方の,ソロでのレクチャーとコンサート。

といっても,関係者(音楽科教員)を中心にした,閉じてはいないけど広く宣伝をしているわけでもないという感じのコンサート。

ちょっと風邪気味で体調が不十分で,しかも1日電車で往復4時間かかるところでの仕事の後だったけど,これはやはり行ってよかった!

今関わり始めている古代オリエントの調律や調弦の復元,またヘブライ語聖書に付いている「音符」というか朗唱記号の解釈にも何かヒントになるかもしれない感じ。


第1部はレクチャー。

まず1曲,とてもアラブっぽいイラク音楽で「光り輝く街」。
10+12+3拍子。

ウードの歴史についてひとくさり。
印象的なことだけに絞ると,ウードعود‎という語は「木片」「枝」とのこと。
楽器は概して軽く,今日のは2kgだそうだけど700gというのもあるらしい。
ローズの部分が3箇所あって,大きいのは「太陽」あとの小さな2つは「月」とのこと。

「アラブ音楽」というのは「ヨーロッパ音楽」というくらい大きすぎるくくり。
全体的に重要なのは,メロディーとリズム。
それらが気持ち良かったら良い。
メロディーを司るのがマカーム,リズムはイーカーア。

マカームは音階。
大きくまとめると10だが,各地域などで違うので1000位あるらしい。
(ただ後で個人的に話した時に,これは近代西洋的な7音組織ではなくて4音(テトラコード)や3音(トライコード)が1単位とのことで,それは前日ブログに少し書いた通り)

5つほど紹介。
マカーム・ラスト:喜びを最大限に表すが少しくすむ。
これをピアノと比べたのが面白かった。
マカーム・バヤティ:集中,静けさ。
マカーム・ヒジャーズ:アラブっぽい。宗教的。美。
マカーム・サバ:悲しみ
マカーム・フザム:ミ♭が微分音程で好まれる。
それで「ドミソ」を弾かれて「ヨーロッパの鐘に聞こえません?」と言われて,確かに街の教会から聞こえるカリヨンの音程ってこうだなぁと懐かしく思い出した。
また,ただ明るいのは安っぽいとされるし,悲しみも強さを含む感じとのこと。

楽譜上では半音を2分割して4分の1とするが,その音程は美しくないし音楽的ではない。
実際には全音を9分割すると合う音程があるとのこと。
フレットがないウードだから自在。
ピアノの方とされた時に,チェンバロが持ち込まれてそれで合うように音程を作ったとのこと。


続いてリズムのイーカーア。

タンバリンのようなレクに持ち替えての演奏。
この間も思ったし文献でも扱ったけど,レクも両手で叩くからとても細かなリズムが刻めるのがとても興味深い。

これも拍子としては2拍子から30数拍子があり,10拍子までは常用。
言葉,詩優先なのでこうなる。
低い「ドゥン」と高い「ティク」と休止の組合せ。

紹介されたのは5つ。
マスムディー・サギール:4,8拍子。エジプトの踊りだが「コンチキチン」に酷似!
倍テンポでゆっくりにしたのが,マスムディー・カビール
トゥラン:7拍子
アクサック:9拍子。トルコの他バルカン半島でも。
ジュルジュンナ:10,5拍子。イラク。
サマーイー・サキル:10拍子。終わりは8。これは今合わせている曲でも出てくる。


もともと楽譜はなく口伝。
1932年のバルトークも参加したカイロでの会議で,5線譜を使うことと(でも楽譜はアラビア語と反対に左から書く!)微分音の表記が決められたとのこと。
ただ,楽譜を使うようになってアラブ音楽はダメになったと師匠が亡くなる前に言われていたとのこと。
時間をかけて口伝で伝えるものだということ。

休憩時にCDが2つ合ったので買う。
あとでサインしていただいた。



休憩後はコンサートだがトークもたくさん。
そして正式な衣裳をまとっての演奏。

エジプトの比較的近代の曲。
アルジェリアやシリアの生々しい情勢のお話。

シリアの古典曲。
アレッポは伝統音楽が盛んな地。
お父さんがイラン人のダルビッシュくんの名前の話も。
あと,戦争による死と自殺による死の対比。

曲の演奏前にその曲の雰囲気に入るために,タクシームと呼ばれる即興を入れながら。
どこだか忘れたけど,「カエルの歌」を使っていくつかのマカームを弾かれたのはとっても面白かった!

トルコの踊れる曲。
スパニッシュな感じなのは,同じ地中海圏だから。

エジプトのマカーム・バヤティを使った近代の曲。
ただ1曲の中で多数のマカームを使い,マカームで転調も。
私が聴いた感じでは割と西欧風の和音も。
原曲は40分。
1曲1時間もよくあり,20分イントロ,本人始まっても歌ったり歌わなかったりで,聴衆とのやり取りを楽しむとのこと。
そしてアンサンブルで使う楽器の話。

最後にチュニジアの20年前の,兄弟子さんの現代の曲。

* * *

自分としてはマカームは今実際にアンサンブルで聴いているし気持ち良く面白いと思っているので今日もとても面白かったけど,会場からの質問で
「昔の日本みたいにどこか懐かしい」
というのがあって,
「同じアジアですから」
と答えられたのは,本当にそうだと思った。

旧約聖書や古代オリエントの音階や調律を復元する時も,古典ギリシア音楽は微分音が出てくるからアジアに近いと思うけど,グレゴリオ聖歌や中世ラテンの音楽理論だとかなり無理があるのではないか,そこがもしかしたらIdelsohnの限界かもしれないと感じた。

あとは,3月の本番に向けて,このウードの素晴らしい即興に見合う即興をもうちょっとしっかり自分なりに考えなくては…と改めて思った。

今日は笛の練習を全くしなかったけど,とても多くのヒントをいただいた。


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