トランスジェンダーのリアルを知って 当事者が冊子作り

塩入彩
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 【東京】生まれた時の性別と自認する性別が異なるトランスジェンダーの「リアルな姿」を多くの人に知ってもらおうと、当事者たちが冊子づくりに取り組んでいる。インターネットなどで広がる誤解や偏見に対し、あえて紙媒体の冊子を作り、着実に理解を広げたいとの思いから始めた試みだ。

 冊子作りを企画したのは、LGBTの子どもや若者の居場所「にじーず」の代表でトランスジェンダーの遠藤まめたさん(34)だ。きっかけは、ここ数年トランスジェンダーへの差別や偏見が深まっていると感じたことだった。

 2018年、お茶の水女子大がトランスジェンダーの女子学生を受け入れると発表。すると、インターネット上では「女装した性犯罪者と見分けがつかず、犯罪が増える」「女性の権利が侵害される」など攻撃的な投稿が増えた。

 まめたさんは「当事者の実態を知らない人が、勝手な想像で雑な議論をしている。だけど、その攻撃的な言動が、当事者の生きる場所を奪ってしまう」と危惧する。冊子を通して伝えたいのは「当事者たちの複雑さ」だ。登場する当事者は、年齢も経験もそれぞれ。性別適合手術も、受けたり、受けなかったり、考えも様々だ。「多くの人がそのリアルな姿を知らない。そのせいで、差別的な発言に惑わされてしまう人もいるはず」と話す。あえて紙媒体での冊子の製作を決めたのも、「ツイッターで応酬をしても、建設的にはならない」との思いからだ。

 冊子にはトランスジェンダーの当事者6人が手記を寄せる。

 その一人、遠藤れいさん(53)は幼い頃から自分の性別に違和感を抱いていた。40代後半になって、仕事を続けながら男性から女性へ「社会的性別移行」した。就職相談などのカウンセラーとして働く遠藤さん。職場の同僚女性にカミングアウトし、上司や他の同僚にも説明を重ねた結果、周囲に背中を押される形で服装や生活スタイルを女性へと移行していった。

 冊子への参加は、本音では「表だって目立つことはしたくない」と思っていたが、ここ数年、インターネット上でのトランスジェンダーへの心ないバッシングに心が痛んだ。「知らないことで『怖い』と思うのは仕方がない。きちんとリアルな姿を見せて、現実を伝えたいと思った」と、参加を決めた。

 同じく冊子に登場するユーチューバーのじゅんじゅんさん(28)は、21歳の時に性同一性障害の診断を受け、その後、性別適合手術を受けて戸籍変更をした。しかし、24歳の時に勤務先にトランスジェンダーだと打ち明けると、突然解雇された。

 「差別をする人の意識を変えるのは難しいと思う。だけど、それは人を傷つけて良い理由にならない」。性的少数者に関心の無い人も、今悩んでいる当事者も、幅広い人たちに冊子を読んでほしいと願う。

 冊子では、治療や学校生活などについてのコラムや対談も掲載する。9月に完成予定で、希望する学校やNPO法人に配布し、冊子を使ったワークショップも企画している。(塩入彩)