ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

69 / 89
ABCD EDF

こんにちは、謎の達成感があるけど、まだ今日2回ある話し合いに1回も参加してなかったと驚愕している俺は浅井虎徹です。高円寺ショックが大きすぎたね。

 

俺は優待者の選抜に法則なんか無かったと思ってたけど、本当に高円寺が優秀で『法則』みたいなものを見つけてたとしたら……あんまりのんびりしてちゃダメなのかもね。同じように気付く人が出てくるかもしれない。

 

Aクラスはかなり真面目なタイプが多いから、同じように気付く生徒がいるとしたらAが最有力候補だ。平均的な学力は今の所1番だろうし、レイブンクローだし。

 

Bクラスはみんなで仲良く相談して、誰かのアイデアを検証して見つけた、とかありそう。まさに仲良しハッフルパフという感じ。Bクラス内でお互い信頼してるからって自分が優待者かどうかを全員発表してたりするかも。……いやぁ、流石に無いかな。

 

Cクラスは龍園と金田と椎名がなんとなく見つけてたっぽい雰囲気あるけど、まぁ分からん。割と早くから調べてたというアドバンテージはあるだろうけど、だからって、ねぇ?

 

そういや「法則なんてある訳ねーじゃん」みたいに龍園に言っちゃったけど……謝らなくてもいいか。本当に見つけ出してたら褒めるだけでいいや。

 

Dクラスは、ちょっとABCとの差が大きいし、出来たら指名したいんだろうなぁ……。

 

あと、Dはまとまりが無さ過ぎて『意見の統一』ってこと自体が無理そうで怖いね。平田と櫛田ばっかり見てたから忘れてたけど、船の中でのDクラス生徒のバカっぽさとかを見るにマジで不良品共っぽかったんだなぁ、と思った。騒ぐヤツが騒ぎすぎなんだよな。『99%みんなで儲かる』と『10%俺達だけ儲かる』だったとしても、ひたすら議論し続けて結論を出すの無理そうだ。

 

やっぱりクラスとしてどうしようもないから平田と櫛田を入れるしかなかったんだろうな。そのために、なんかそれほどでもない過去にイチャモンつけたりしてそう。

 

うーむ、裏切り指名が1グループで出ちゃったというのを踏まえて、俺の『所得倍増計画』はどうなるんだろか。みんなで稼げば良いと思うんだけど、なーんか難しそうだな。

 

……そういや龍園を説得しなきゃいけなかったんだ。完全に忘れてた。やっべ。

 

どっちにしろ俺が龍園に何か言っても大して変わらない気もするけど、言うの忘れてたのは良くないな。反省。

 

 

---------------------------------------

 

 

時刻は13時、辰グループ部屋には既に全員が集まっていた。みんな緊張しすぎることもなく、リラックスしすぎてる訳でもない、ちょうどよく慣れてきてる感。

 

『ではこれより3回目のグループディスカッションを開始します』

 

3回目か、聞き覚えのあるつまらないアナウンスがまた鳴った。『もう3回目』という気持ちかな、意外と話すこと色々あったからね。

 

ちなみに今日の夜に4回目をやって、明日は合間の休憩日になっている。色々とまとめて相談してみてね、的な事なのかも。いやまぁ試験は1日2時間だけだし、他の時間でいくらでも出来る気もするけど。

 

「それじゃあ、最初の議題は浅井くんが昨日提案してくれたアイデアにでいいかな?……うん、えっと、私達Bクラスから先に発言させて欲しいな」

 

相変わらず一之瀬が司会役をやってくれるみたい。ありがたいね。周りの反応を伺いながら、誰も不快にならないように気を使ってくれてるこの優しさ。見てるだけでも気持ちが良いね。

 

「続けてくれ、一之瀬」

 

「うん、ありがとう葛城くん。……私達Bクラスは、浅井くん提案の『みんなで結果1を目指す』という案に全面的に賛成します!」

 

「おぉ~!」

 

やったー!……なぜか盛り上がってるのは俺だけみたいだけど。なんでだよ。

 

「もう既にBクラスのみんなには『怪しい人が居ても試験終了前の指名をしないように』って伝えてあるよ!……多分、みんな言うことを聞いて守ってくれると思うよ」

 

凛々しい顔でハッキリと言い切る一之瀬、かっこいいね。

 

何はともあれ1クラスは賛成なのか。嬉しいね。

 

「では、次は私からいいかしら?」

 

「えっと、うん。お願いします堀北さん」

 

「まずは、昨日の『猿』グループに関してだけど、あれは私達のクラスの高円寺くんが原因だったわ。彼が独断で指名してしまったようなの、指名が成功だったのか失敗だったのか分からないけど、まずは計画に関して返答してない状態で場を乱してしまったという事を謝らせて。……ごめんなさい」

 

「はぇ~」

 

誰が指名したかをしっかり報告して、しっかり謝罪した……。これ本当に堀北か?無人島と違って干支試験になってからウザい要素が全然見えないんだけど。なんか変なもの食ったのかな?

 

「その上でDクラスを代表して言わせて欲しいのは、部分的に『全員で結果1狙い』の計画に乗らせて欲しいということ。具体的には『試験最終日の16時に全員の学生証端末を集める』という条件で、浅井くんのプランに乗らせて欲しいわ」

 

「……なんで時間制限?」

 

「恥ずかしいけれど、私達Dクラスには統一性も無いし、団結力も無いわ。バラバラよ。それでいて最下位という立ち位置だから、いきなり『CP獲得を諦める』と言った所で反発は間違いないわ……。だから、それぞれの生徒に説得して、理解してもらって、同意してもらうための時間が必要になるということよ」

 

あらためて酷いクラスだな。確かにそう言われると、めちゃくちゃ説得力あるように思える。

 

「なるほどね」

 

でも……これ、視点を変えれば『裏切り指名のチャンス』を確保した上で、それでいて『全クラス強制的に協力して結果1狙い』も狙おうって作戦っぽいかな。両取り狙い。

 

ん~、無人島で堀北がやってきた『金は払わないけどリーダー情報教えろや』の舐め腐りきったクソゴミ提案と同じく『二兎を追う作戦』ではあるんだけど、まぁ曲がりなりにも相手に配慮してる部分があるから許してやってもいいかな。名目上そう言ってるだけじゃなく、本当にそういう部分もあるだろうし。

 

あと特に考えてなかったけど『スマホが使えなくなる時間』は短い方が賛成しやすくなるのかもしれないね。

 

「……今の提案で受け入れてもらえるかしら?」

 

割としっかり俺の目を見てから、周りを見渡して言い放った堀北。なんか知らんけど微妙に成長してるように見えなくもない。傲慢さが薄れたというか。

 

「俺はいいよ。後はまぁ、クラス代表同士での調整でよろしく」

 

「分かったわ」

 

なんか、予想以上にしっかり実現出来そうに見えてきたね。

 

 

---------------------------------------

 

 

「では、次は俺達Aクラスの見解も言わせてもらおうか」

 

「どうぞ、葛城くん」

 

お、ハゲの番だ。ハゲは意外とリーダーシップ取るの好きっぽいかもね、堂々と発言するのに慣れてる気がする。この光景だけ見たら坂柳よりリーダー向いてるように思えなくもない。

 

普通の学校だったら普通にめっちゃ信頼出来る良いリーダーだと思う。……ただまぁ、この学校は試験とかが特殊過ぎるし、龍園とかいう訳分からん破壊装置が居るし、坂柳とかいうヤバヤバ知能ガールも居るから難しいかもね。しゃーない。

 

「浅井が提案した『物理的に学生証端末を使えなくすることで全グループで結果1を目指す』という案だが……我々Aクラスは受け入れられない」

 

はぇ!?

 

「なんで!?……不安点があるなら契約で消していけばいいじゃんか!そのための話し合いじゃろがい!」

 

もう2クラスから同意もらってるようなものだったのに、そりゃ無いぜ……。

 

「……もう既に、昨日の時点で1つのグループは裏切り指名によって試験が終了している。前提条件が変わってしまっているという事だ」

 

「えぇ……。不公平になったから嫌だってこと?」

 

「それも理由の1つだ」

 

それも?まだなんかあるのかよ。

 

「1グループのCP変動は無視していい程のメリットがある作戦だと思うけど……。他の理由ってのは何?」

 

言いながら気付いたけど、また今日も俺とハゲの対談になってんな。合コンはどこなの?

 

「2つ目の理由は、『リスクを負えない』ということだ。考えても分からないリスクがあるかもしれない。多大なメリットがあるのは事実だが、もし失敗した場合、1つのクラスが総取りされてしまう可能性すらあるように思える。その場合、変動するクラスポイントが大きすぎるという訳だ」

 

頑固ハゲー!このバカー!!

 

「そういう可能性を一緒に潰していこうっていうのが話し合いじゃん……」

 

「……それもそうなのだが、無人島であのような形で終わった以上、我々はCクラスをどれだけ警戒してもし過ぎるということはないだろう」

 

なに言ってんだよハゲ。過剰にビビりすぎでしょ、アホくさ。

 

「その2つが理由?」

 

「いや、この2つだけならまだ説得出来たかもしれないが、3つ目の理由が最も大きいかもしれない。その理由というのは『発案者がCクラス生徒』ということだ。……お前のことだ、浅井」

 

発案者が俺だから?

 

「……それがどしたの?」

 

「浅井、そして龍園。我々Aクラスにとって、Cクラスは明確な敵だ。クラスの大半がそのような認識でいる。……無人島試験での結果を踏まえてな」

 

「えぇ~?」

 

なんだよ『明確な敵』って。へこむわ~。

 

「……お前たちに月々80万pp、つまりCP200相当を支払い続ける契約は残ったまま、無人島試験で増えるはずだったCP300も露と消えた。俺達から見たら、お前たちCクラスにCP500奪われたように見えるという訳だ」

 

まぁ、そう言われるとそうかもだけど……。

 

「だから『Cクラスのヤツの言うことなんか聞けるか!』ってこと?」

 

「そういう事だ。お前たちに反発する声は決して少なくない……。クラス全体を動かす以上、多数決を無視する訳にはいかないからな」

 

んだよも~、あーあ……。

 

割と実現出来そうだったのに、恨まれちゃってたせいで計画は水の泡ってか。嫌になっちゃうね。

 

 

---------------------------------------

 

 

「えーっと……龍園くんは何かある?」

 

Aクラスの拒絶によって『所得倍増計画』が消えてしまったっぽいけど、一応という感じで一之瀬が龍園に話を振った。

 

「フン。……クク、Aクラスが原因で結果1狙いが出来ねぇってんなら、そんな邪魔なクラスはB,C,Dで協力して潰すべきなんじゃねぇのか?なぁ鈴音、一之瀬」

 

なんかいきなり楽しそうになった龍園が変なことを言い出した。

 

「……どういう意味かしら?」

 

「クク、つまりはAクラス以外で優待者を共有して、そこから法則を割り出すのさ。それでAクラスという獲物を山分けすりゃあいい。簡単な話だろ?」

 

あー、なるほどね。12グループ、12人居る優待者と、3クラスから集められるメンバーの情報を見れば法則もそりゃ分かるだろうってか。そしてAクラスはただ指名されるのを待つだけ、と。

 

なんていうか、全グループで結果1の場合と比べるとしょぼすぎるリターンしかないけど、そりゃまぁ無いより良いのかね……。

 

「龍園くんのことは、ちょっと信頼出来ないけど……」

 

一之瀬が迷った感じで返答した。Aクラスに上がれるチャンスっちゃチャンスだけど、龍園が信じられないって感じか。

 

「だったら契約でまた縛れば良いだろが。鈴音はどうなんだよ、オイ」

 

「考えさせて欲しいわね。1人で決めていい事ではないし」

 

あーあ、せっかく全員で協力して、全員で幸せになれそうだったのにね……。一瞬で殺伐としちゃったよ。

 

「……ちょっと待ってくれ、Aクラスに現状を説明し、結果1狙いで協力するよう説得する時間をくれ」

 

そこそこ焦った感じでハゲが言い出した。そりゃそうなるか。

 

「クク、ハゲてめぇビビってんのか?」

 

龍園は何を楽しんでるんだよ。どう考えたって俺の計画の方が儲かるんだからええやろが、邪魔すんなアホ。

 

「……お前たちも、Aクラス優待者を3分割したとしても、仮に猿グループの優待者じゃなかったとしても、対象はたった3人だけなんだぞ。等しく分けたら1人ずつしか指名できず、CP50の増加と50万ppを1人が手に入れるだけだ。それよりは浅井の計画の方が利益が大きいだろう」

 

じゃあ最初からAクラスを説得しとけよハゲ。なんだよもう。

 

「話は終わりだ。Aクラスはくだらねぇ恨みを捨てなきゃ死ぬ、他のクラスは何もせず契約に不備が無いか考えとけって話だ。……今日2回目の集まり、20時までに話まとめとけよザコ共」

 

ムカつく龍園だけど、割と軌道修正してくれた……?

 

『終了時刻になりました。これ以降は自由時間となります』

 

おっと、ちょうど良く船内アナウンスが鳴った。

 

 

---------------------------------------

 

 

割と慌てて出ていくAクラス勢を見ながら、俺は今回の話し合いを振り返っていた。

 

なんかAクラスのせいでゴチャゴチャっとしたけど『全員で結果1狙い』で協力出来る可能性はまだあるっぽいかな。

 

……いやはや、『人間は素直に協力出来ない生き物』っていうのをまざまざと見せつけられた気分だ。Aクラスはアレだし、Dクラスはまだ裏切り指名を諦めてない可能性が高いし。信じられるのは一之瀬だけだ。

 

やっぱ、利益を度外視して、みんなで手を取り合うっていうのは人類には無理なのかね?

 

必要なのは『敵』と『危機感』なのかもしれない。

 

Earth Defense Force、地球防衛軍だって、宇宙人が攻めてきて人類が滅びかけなきゃ多分設立しないんだろうね。現実には今そんな組織は無いし。

 

ついでに言うと、もしかしたら宇宙人が攻めて来ても人類が死にまくらないと協力出来ないのかもしれない……。下手したら、死にまくったとしても無理なのかも。

 

なんか嫌になっちゃうね。人類は愚かだ。

 

相手も高校1年生だったし、良心とか優しさとかを信じたかったけど……やっぱ『協力しないとヤバい』って思わせないとダメなのかも。

 

虚しいね、人間。


▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。