美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
心機一転Twitterのアイコン変えて9月28日は一周年記念配信もあるので頑張って更新もしていきます対よろ
それはそれとしてTwitterのイラストが可愛いから見ろ
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「ではこちらの資料はハクア先生に共有させていただきます」
机の上に広がっていた月間スケジュール、箱全体の企画書、企業案件の案内、その他今後配信予定のゲームタイトルの申請書等々……。そして最後にわたしが見せた新衣装のイメージ図を九条さんが片付けていく。
普段はDiscordで済ませる打ち合わせもこうして対面だと資料が沢山広げられて情報の共有がしやすい反面、相手の顔が見えるせいで変に緊張してしまう。
バーチャルなんだから何も本社で打ち合わせなんてしなくても……、とは思うけど毎月最低一回は本社で打ち合わせをしよう、というのが最近の方針らしいので仕方がない。
まあ、オンラインでやるとスマホを触ったりあくびをしてしまったり気がそぞろになってしまうから顔合わせって大事だよね、とは思う。
「ん~~~っ、はぁ……」
張り詰めていた緊張の糸を解すように、肺いっぱいに空気を吸いながら思いきり伸びをして、吐き出す。
空気うま。
「お疲れさまでした。やはり対面での打ち合わせはスムーズに進みますね」
「ぁ、はい、そですねー……」
Discordで打ち合わせをするときはわたしがよそ見ばかりするせいで終盤には少し疲れた雰囲気を漂わせている九条さんも、本社での打ち合わせのときは終始生き生きとしている。
さすがのわたしも本人を前にしてソシャゲのスタミナ消費をしたりまとめサイトを見たりとか、そこまで非常識ではないつもりだ。ま、まあ、あくびは出そうになったけど……。
打ち合わせ疲れでだらけようと思えばいつまでもだらけられそうな調子だが、朝っぱらからミーティングルームを一つ占拠しているのでそろそろ退室しないとまずい。
カップに僅かに残った
「ところで黒音さん」
「あ、はい」
着席した。
まるでタイミングを見計らったかのような言葉に少し顔が火照る。
「先日のスカウトの件に関してですが」
「スカウト? ……あっ、ハックライブの」
某VTuber事務所からウチに移籍しないか、というメールが届いたアレだ。
結局九条さんに報告したあとはゴミ箱に叩き込んで、そのまますっかり存在すら忘れていた。
「連絡を頂いた翌日に社内で協議したところ、A of the Gとしてはスカウトに関しては現状不対応という方針に決まりました」
へー、てっきり黒服の厳ついお兄さんが相手企業に乗り込んでオトシマエをつけるんじゃないかって心配してたんだけど、どうやら杞憂だったらしい。
ライバル企業の本社を爆破とかちょっと見てみたかった。
「というのも、今のVTuber業界ではライバーに対して直接の勧誘が横行しているのが実状です。あるてまでも黒音さん以前に何人か同じような勧誘が来ていたと伺っています」
え、それは初耳だ。
他所に勧誘されたからってホイホイ付いていくような人はウチにはいないと思うけど、たまに企業から企業に移るVTuberはいるから少し心配だ。
「おそらくこの業界が発展していけばいくほど、そういった手段を選ばないグレーな行為は増え続けるでしょう。我々が相手企業に直接抗議をしたとしても、あくまでスカウトをしているだけと言われればそこまでです。業務に実害が出ることがあれば話は別ですが、特にそういったこともありません。正直、現状では何もしないというより何も出来ない、というのが本音です」
確かに、別にスカウトメールが来たからと言って何があるわけでもなく、よくある迷惑メールや広告メールと同じ感覚で気にも留めずゴミ箱へシュートしていた。
これが連日届くとか脅迫めいてくるというのなら話は別だけど、あれから一切音沙汰が無いから存在すら忘れかけていたぐらいだ。
多分、他のVTuberさんたちも同じ感覚で勧誘メールを無視しているから業界全体で問題視されることなく、不干渉のグレー行為として見過ごされているんだろう。
例えるなら街中で変なアルバイトの勧誘をされたからと言っていきなり警察を呼ばないように、ある程度はスルー精神が大事、ってことかな。
「とはいえ先程も言ったように実害があれば別ですので、なにか困ったことがあればすぐに相談してください。その時は直接抗議をしますので」
「わかりました」
うん、そう言ってもらえると心強い。
「ですが一般には公開していないビジネス用のアドレスにメールが届いた、というのは問題ですね。これまで仕事をしてきた企業からアドレスが流出している可能性があるので、そちらについては調査、対応を進めています」
言われて気づいた。
このアドレスは企業案件で取引先が連絡してくるときか、極々稀にスタッフから社内全体の業務連絡が届くだけでどこにも公開されていないものだ。
そんなアドレスにメールが届くということは、わたしのアドレスを知っている数少ない誰かがハックライブに横流ししたということ……。
うわ、普通にこわっ。
あれ以来変なメールは届いていないから他に流出はしていないんだろうけど、もしもリスナーとかに共有されてガチ恋メールとか毎秒来たらと思うとゾッとする。
まあ、そのときは【悲報】アドレス流出【メール晒してみた】とかタイトル付けて配信で届いたメールを読み上げよう。
そんな今後の配信に想像を膨らませていると、
「さて、」
と、言って九条さんは腕時計を確認して、
「そろそろ出ましょうか」
資料が纏められたファイルを小脇に立ち上がった。
打ち合わせ疲れでへとへとになっていたわたしの身体もさっきまでの会話でだいぶ回復したのか、すんなりと動いてくれた。
そして朝からお世話になったミーティングルームに別れを告げ、わたしたちはふたり並んで
お互いに世間話をするタイプではないから、こういうちょっとした移動や空き時間の無言が少し気まずい。まあ、わたしが一方的にそう感じているだけで、九条さんは無言の気まずさとか全くないんだろうけど。
でもなんか喋ったほうがいいかなー、と口をモゴモゴさせていると、
「そろそろ昼食の時間ですが、このあとの予定は?」
カツカツと歩きながらも少し視線を落として九条さんが聞いてきた。
「えと、特にないです」
別に隠すことでもないので正直に話す。
休日の昼間に予定がない美少女JKですまん……。
「でしたら
「祭さんたちが?」
「ええ。今日はダンスレッスンの予定ですので。そろそろ休憩の頃かと」
3Dモデルを得た祭さんたちは前にも増してレッスンの量が増えた。
Live2Dの頃から大切にしてきた歌は当然のこと、今までは重視されなかった身体の動きもこれからは重要視されるということでダンスもバリバリに特訓しているらしい。
これで夜はいつもと変わらず配信も頑張っているというのだから、本当にまつきりの二人には頭が上がらない思いだ。
「じゃあ、行ってみます」
ダンスレッスンがあったということはふたりとも疲れていて迷惑になるかもしれないけど、このまま帰って一人Uberでモソモソとご飯を食べるというのはさすがに寂しいが過ぎる。
それにこうやって日々配信のネタを自分から探しに行かないと、休日に引き篭もって動画を見てUber頼むだけじゃ話題が無くてロクに喋れなくなる。
「ではここで。何かあればすぐに連絡をください」
そうこうしているうちに九条さんと別れることになった。
さっきは昼食の時間とか言っていたけど、あの人のことだからご飯を食べる前に打ち合わせで決まったことを関係各所に連絡したり、仕事を優先するのだろう。
多分あるてまは九条さんがいなかったら崩壊してるね。
そんな取り留めのないことを考えながら歩いていると事務所に到着した。
まつきりのふたりはおそらく休憩中とは聞いているけど、もうここにいない可能性もあるから扉を開けることにちょっとした躊躇いを覚える。
例えば「おはようございまーす!」と元気に挨拶しながら入って誰も居なかったら一人で凄い気まずい思いをするし、よしんばまつきりじゃない誰かが居たとしても「え、キミってそんなキャラだったっけ……」って変な目で見てきたらそれはもう凄い羞恥心を覚えることになる。
でも無言で扉を空けて静かに入ったら入ったで仲良く談笑しているまつきりが、こちらに気づかずしばらくしてから「あれ、いたの?」とか言ってきたらそれはそれで悲しいじゃん!
はぁ、嫌な想像をしたら気分が沈んできた。
もういっそのこと帰ってふて寝しよっかな……、と考えていると、
「今宵ちゃん?」
肩を叩かれた。声を掛けられた。
「ぴぃ!?」
不意の出来事に思わず情けない声が漏れ出る。
バクバクと暴れる心臓を労るように胸を抑えながら振り向く。
「ご、ごめんね? 驚かせちゃった?」
「ぁ、きりんさん……」
そこにいたのは件の
まさか部屋の中にいるかも知れないと思っていたふたりがわたしの背後にいたなんて……びっくりして腰が抜けるかと思った。
「あはは、後ろ姿が今宵ちゃんだなーって思って声かけたんだけど、まさかこんなに良い反応をされるとは思わなかったよー」
「わ、わたしも、後ろにいるなんて思ってませんでした……」
「ちょうどレッスンが終わったところでね」
「今宵はミーティング?」
「あ、はい。さっき終わりました」
しかし不幸中の幸いと言うべきか、あれだけ悩んでいたふたりの会話の輪に交じるという行為がごく自然に出来ているではないか。
ほら、わたしが先導して扉を開けることによって後に続くようにふたりが事務所の中へと入っていく。
これはもう黒猫燦が実質まつきり幻の三人目と言っても差し支えないかもしれない。いや推しの中に交じるとかちょっと恐れ多いというか解釈違いなんですけど?
あ、ふたりに近づいたらシャワーを浴びた後なのか、いい匂いがした。
そんな至福のひとときに浸っていると、凛音さんがどことなく悲しそうな表情で、
「おなかすいた」
「ねっ。朝からずっとレッスンだったからお腹ペコペコだよー。今宵ちゃんはこれからお昼かな? 良かったらお姉さんたちと一緒にランチに行かないかーい?」
「っ! ぜ、ぜひ!」
うぉお、会話出来たは良いけどどうやってお昼に誘おうか、ちょっと悩んでいたけど向こうから誘ってくれた! さすが年上の貫禄! わたしが苦手とする事をことごとく先回りしてくれる!
「っと、少しだけ時間もらってもいいかな? お腹ペコペコだけどさすがにちょっと疲れちゃったから、一休み」
そう言って七海さんは倒れ込むようにソファへもたれ掛かった。
朝から歌って踊ってのレッスンを繰り返していたんだから、足だって立つのが精一杯なぐらい疲労しているんだろう。
いつもは頼れる先輩として出来る姿を見てきたから、こういうちょっと弱っているところを見るのは新鮮だった。
「やっぱり3Dアバターでダンスって大変ですか?」
「んー、まぁ大変だねぇ。今まで歌うことはあってもそれって基本的に立ったままの姿勢とかだったけど、これからは指先ひとつまで意識して動かなきゃいけないわけだからね。ダンスなんて学校の授業でやったぐらいの素人だから、イチから覚えるのが大変だよもー」
「
「
「あはは……」
3Dお披露目のときの七海さんはステージを縦横無尽に駆け回っていて別に素人感はなかったけど、あれも本人の努力があってこそのものなんだろう。
わたしも少しずつ色んなレッスンを重ねているけど、体力が無さすぎて基礎どころか土台が無いから話にならないってトレーナーに指摘されたしな……。
「今宵ちゃんは打ち合わせどうだった?」
「特に問題なく終わりましたよ」
「なにしたの?」
「えと、スケジュールの確認したり、あと新衣装のイメージ図提出したりとか」
「イメージ図!? え、新衣装のイメージ描いてきたってこと!?」
わたしたちの新衣装は作製されるとき、最初にアンケートみたいなのを取ることになっている。
例えば漠然と「可愛い系でお願いします」とか、ちょっと凝って「和服を基本にワンポイントで髪型をポニーにしてください」とか、そういった衣装の方向性をマネージャーを通して自分の担当イラストレーターさんにリクエストするのだ。
しかし、今回のわたしは新衣装のリクエストに文字で伝えるのではなく、脳内イメージをイラストにして持ってきた。
九条さんに見せたときも、まさかこれから新衣装をお願いするのに既に簡単なラフをわたし側が作っているとは思わなかったのか、とても驚いた顔をしていた。
「え、でも今宵ちゃんの絵って……」
「おうなんだ文句あるのか」
「画伯……」
「ぐっ」
ま、まあ、わたしの画力はちょっと独創性が強いというかアーティスティックなようで、常人や凡人には少し理解が及ばない領域にあることは認めよう。
でも、わたしは自己分析が出来る美少女なので自分のイラストでは想いを伝えきれないと思い、イラストが描ける友達にお願いしてイメージ図を用意してもらったのだ。
で、何枚か予備に印刷しておいたものの一枚をふたりに見せる。
「おぉー、かわいい」
「夏服?」
「今の時期だと実装は夏頃になると思って。それに二期生って夏前にデビューしたから夏服が無いんですよね」
「たしかに。冬の暖かそうな衣装は作ってもらったけど涼しそうな私服がないもんね。ミニスカートも可愛らしくていいねー」
「ラフでもイメージしやすい」
ま、まあ、なんでイメージ図を用意したかっていうと、前回文章で伝えようとしたらあまりにもハイセンスな説明をしてしまって、次からは似たような服装かキャラクターを用意してくれると助かるって言われたからなんですけど……。
兎も角、ふたりにも好評なようで良かった。
「今宵ちゃんの新衣装見たら私も元気が湧いてきちゃったな! よーしそろそろご飯に行こっか!」
「お肉が食べたい」
「うんうん、午後もレッスンがあるからお肉でパワー付けないとね!」
午前にレッスンがあって午後もレッスンとは、このふたりあまりにもハードスケジュール過ぎないか……? これで夜には配信もするつもりだっていうんだから、本当にまつきりは凄いと思う。
「よーし、じゃあ──」
「おや、何やら皆さん集まって楽しそうですね?」
「うっ、神代さん」
七海さんの号令と共に事務所を後にしようとしたわたしたちだったが、それより早く扉がガチャリと開いて新たな来訪者がやって来た。
神代姫嬢とその後ろに続いて暁湊だ。
おいおい、急に大所帯になったな。
「はーい、みんな大好き神代さんですよー?」
神代姫嬢が手を振ると辺りにパッと花が舞った、気がした。
「私たちこれからお昼に行くところなんですけど、おふたりはどうしてここに?」
「ふふ、どうしてでしょう?」
「はぁ……、年下をからかわないの。今なら皆を誘ってお昼に行けるかも、とか言って急いで事務所に来たのはどこの誰?」
「もう、湊さんっ」
おぉ、普段は神代姫嬢に振り回されてる印象のある湊が今日はちょっと強気に出ている。
なんていうか大人の余裕を感じた。
「はい、というわけで一緒にランチしませんか? 美味しいところ知ってますよ?」
「お肉が食べたい」
「えぇ、任せてください。この辺りのオススメはすべて暗記していますから。湊さんが」
「ちょっと」
「じゃあお腹ペコペコだし甘えちゃおっか」
「結局こうなるのね……」
そしてわたしたちは揃って廊下へ出る。
と、ここでふとした疑問が。
「こういうときよく誰かがご飯を奢るって話を聞くけど、この場合先輩である七海さんが奢るのか年上の神代姫嬢が奢るのか、どっちなんだろう……」
ボソッと独り言で呟いたつもりが、意外と周りに聞こえていたようで、
「きりん先輩、ごちそうになりますね?」
「いやいや、ここは神代さんが、ねぇ?」
あわわ、何気ない言葉のせいでふたりの間にバチバチと火花が。
正直、わたしたちの配信で得る収入からすればランチを人数分奢るとかそんなに負担でもないんだけど、奢られたらなんとなく気分が良いという妙な意識のせいで変な空気になってしまった。
まあ、わたしは一番の年下だし後輩だから奢られるのは確定で関係ない話なんだけど!
「仕方がありませんね。ここは間を取って湊さんに奢ってもらいましょうか」
「なんでそうなるのよ」
「ゴチ」
「いぇーい。おっごりー」
「あぁ、もう。ほんと、仕方ないんだから……」
いくら年上とはいえ先輩ふたりに乗せられると断れるはずもなく、湊は何度目かのため息を吐きながら観念した様子で言った。
下手に言い返したり神代姫嬢にパスを返さない辺り、なんていうかこのふたりの関係性がなんとなく見える、気がした。
そんな感じで神代姫嬢が周囲を振り回しながら七海さんがツッコミを入れて凛音さんは相変わらずマイペースで湊は諦めの表情を浮かべながら、わたしたちはランチを楽しんだ。
Uberじゃ考えられないぐらい高いお昼は賑やかさも相まってとても美味しかった。
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