季節のフルーツでしか果実酒が仕込めないことに、ずっと勿体なさを感じていた。いつでも仕込めて、すぐに楽しめる果実酒があったらいいのに。
そうだ、ドライフルーツを酒に浸けたらどうなるんだろう。
2度目の梅雨がきて、雨の勢いが凄いなあなどと考えてるうちにまた夏になった。今年の天気はどうしてしまったのだろう。
感染症の流行で「外に出るな」と言われているが、そもそもこの天気の中外に出たくないのである。ヘルスケアアプリ曰く「あなたの今日の歩数は82歩です」。
おそらく今後も長いこと家にいるわけだから、家の中でできる趣味を増やしていかなければならない。
1回目の梅雨の時期はどうやって暇を潰していただろうとカメラロールを遡ってみたら、青梅を仕入れて梅酒を浸けていた。
こちらの記事で、北向ハナウタさんも未来の自分に向けて梅酒を浸けているが、果実酒というものは素晴らしい仕組みだ。旬の果物を仕込んで(手間がかかるがその「ひと仕事した感」がまたいい)、あとは放っておくだけで出来上がる。
いつか元気がない日が訪れても、「自分には梅酒があるから大丈夫」という気持ちの担保ができる。
果物の旬の時期にしか果実酒を仕込めないというのは、ちょっともどかしいものだ。今のおうち時間に必要なものは、いつでも仕込めて、いつでも飲める果実酒ではないか。
そうだ、ドライフルーツを果実酒にできないだろうか。
ラムレーズンのラムの方って飲んだことある?
思い立ったが吉日とばかりに、近所のスーパーと酒屋にあったドライフルーツを全種類買ってきた。
酒に浸けたドライフルーツは、よくパウンドケーキなんかに入っているが、なぜか「ドライフルーツを浸けていた酒」は出回らない。フルーツの風味が移って美味しそうなのに、一体なぜなのか。酒好きにとってありがたいのは「ラムレーズン」よりも「レーズンのラム」ではないか。
左からウイスキー、ブランデー、ホワイトラム、テキーラ(レポサド)、ダークラム。
こういう場合の酒は「果実酒用だし…」と一番安いものを選びがちだが、筆者の経験上、「ちょっといいやつ」を選んでおくと仕上がりが格段に良くなる。
果実酒を浸けるときは、腐敗や再発酵を防ぐために20度以上の酒を用いる。つまり、焼酎(ホワイトリカー)や今回買った酒群のような『蒸留酒』ならだいたいなんでもいける。
以前、ライターの馬場さんがこちらの記事でドライフルーツを日本酒で戻して大変おいしそうであったが、長期保存と酒を美味しく味わうことを考えると、なおさら蒸留酒を使うのがおすすめである。
酒とドライフルーツ、組み合わせはあなた次第
さっそく仕込んでいこう。
といっても、ドライフルーツを入れて酒を注いで終わりなのだから、手間としてはカップラーメンにお湯を注ぐ程度である。
一度揚げられているのか、原材料に「ココナッツオイル」とある。果たして上手く浸かるだろうか。
酒に対してドライフルーツの量が多いほど、フルーツのエキス分を濃く感じる仕上がりになるはずである。今回は厳密に図らず、「ひたひたになればOK」くらいのラフさで仕込んでみた。
「果実酒なのに氷砂糖いらないの?」と思われるかもしれないが、フレッシュな果実を使った果実酒に氷砂糖を入れる理由は、浸透圧なんかがこう…良い感じになって……果物のエキスを抽出させるためだ。
すでに諸々が凝縮されたドライフルーツに使用しても、さしたる効果はないのではないかと考え、今回は使用していない。というかめちゃくちゃ甘くなりそうだからやめました。
果実酒の醍醐味は「ひと仕事した感のある仕込み」と思う。
ドライフルーツに洋酒を注ぐだけだと、いまいち「やってやったぞ!」感が少ない気がしたため、ラベルシールを作って貼ることにした。
こういった無駄な一手間で、「ていねいに作ったぞ」感が高まり、後の「自分には仕込んだ酒があるから大丈夫」という気持ちが強く担保される。刺激を求める方はぜひラベルシールメーカーをお求めいただきたい。
煮込むとどうなるか
よく「お酒のレシピは美味しそうだけど、お酒に弱い体質だから自分で作らない」というお話を伺う。
ドライフルーツ、酒で煮込んだらどうなるのだろう。アルコールが良い感じに抜けて、「洋酒風味のおいしい液体+おいしい液体を吸った果物」にならないだろうか。
というわけで、最後のデーツはダークラムで煮込んでみる。
デーツ風味になった液体を楽しみにしていたのに、ほとんどデーツに吸われてしまった。わたしのダークラムを返しておくれ。どうやら、最初の投入時にもっと思い切った量が必要だったらしい。
一方そのころ仕込んだ酒は
すでに様子が変わりはじめていた。
レーズンの表面の白い膜がなくなり、固かったマンゴーが戻ってきている。
レーズンとバナナチップスは油が浮いてきてしまったが、飲むときに取り除けば問題ないだろう。
ラムをたっぷり吸ったデーツをいただく
酒を一週間ほど放置している間に、先ほどのデーツを試食してみよう。
「おいしそう」よりも、「酒が減ったな」の気持ちの方がギリギリまさる。
種に気をつけながら、やわらかくなったデーツをいただきます。
酒を返してなんてひどいこと言ってごめん。ちょっと引くほど美味しい。デーツの甘さと洋酒の香り、ねっちりした食感が合わさって、言うなれば洋風の羊羹。もしかしたらこの記事、タイトルを「今すぐデーツを洋酒で煮込め」に変えた方がいいかもしれない。
※煮込んでもアルコールが全て飛びきるわけではないため、運転前や妊娠中の方、お子様などはお控えください
一週間経ったドライフルーツ酒を飲んでみよう
さて、浸けて一週間放置したドライフルーツ酒を試飲してみよう。
レーズンをコーティングしていたオイルがやや浮いているが、気にならないレベル。
元のジャックダニエルズよりも明るくて華やかな香りがする。
甘みが足されて飲みやすい!しっかりとレーズンを感じる飲みごごち。
ジャックダニエルには「テネシーハニー」という、蜂蜜フレーバーで甘めのウイスキーがあるが、雰囲気としてはそれに近い。
華やかな香りで、かなりリッチなハイボールだ。しかし上品な甘さ故にいくらでも飲めてしまうという危険が伴う。
飲み終えたグラスの底には梅酒の梅のごとく、芳しいウイスキーが染み染みになったレーズンが残る。
浸けたてはテキーラの香りが強く、不安に思っていたが、一週間経った今はしっかりマンゴーの香りがして嬉しい。それぞれの香りが複雑な調和を生み出していて、なんだかすごく高級な酒な気がする。
一口飲んだ感想は「危ない」。
南国のフルーツの風味とテキーラのスパイシーさ、合いすぎる。マンゴーの甘さがテキーラにしっかり染み出して、「絶対そんなはずないのに異様に飲みやすい酒」になっている。
テキーラを吸ってシャキシャキの食感になったマンゴーも、筆者としては顔がニヤついてしまうほど美味しいが、インパクトの強いアルコールを感じるため(当たり前だ)お酒に弱い方は要注意。
しばらくノンアルコールの液体に浸けておくといい感じに酒が抜けるため、炭酸水等で割る時に一緒に入れておいて、最後にいただくのが良いだろう。
香りの第一印象としては、黒糖や餡子に近い。先ほどのデーツといい、ダークラム×ドライフルーツ=餡子なのだろうか?
ラムはサトウキビ原料のため、元からある程度甘い酒だが、ドライフルーツを浸けると酒というよりシロップの印象が強くなる。
甘さが足りないときは蜂蜜を足すと良い。ヨーグルトのまろやかさが際立って、チーズのような印象になる。とても贅沢な味がして美味しいのだが、並みのカクテルよりも度数が強いため要注意(ダークラムとデーツよろしく鍋で煮込めば、ただのシロップとして美味しいレシピになるのかもしれない)。
ドリンクとして飲む場合は、ソーダ割りや、牛乳割りがおすすめ。
「これって洋酒漬けじゃなくてシロップ漬けだっけ?」というテクスチャになっていた。
プルーンの甘酸っぱい香りをしっかりと感じるものの、黒蜜のような濃密さが食欲を煽る。
だいぶ酸っぱい。こちらも酒というより、プルーン味の美味しいシロップ(度数30オーバー)といったところ。
これがものすごく美味しかった。
バニラアイス、牛乳などといっしょにブレンダーにかけ、大人のフラペチーノ状態にして飲むのもいいだろう。
オイルが浮いてしまっているものの、香りはものすごくバナナ。ホワイトラムどこいったんだというほどのバナナ。落ち着いて注意深くかいでもバナナ。
もしかしてバナナチップって、酒デストロイヤーなのか。
他のドライフルーツは、酒の「角を取る」というか、全体的にまろやかな調和を生んでいたのだが、こいつは反逆児だ。ホワイトラムの刺々しさをそのままに、オイリーかつものすごいバナナフレーバーで挑んでくる。
見た目は柔らかそうな果肉も、元の甘さが強くないためか、「もきゅもきゅした食感を持つ何か」になっていた。
カップラーメンの麺は一度揚げることによって小さな気泡をつくり、お湯を吸い込みやすくさせるらしいが、おそらくこのバナナも大量のホワイトラムを吸っていることであろう。
アイスクリームが酒に負けている。今回作った他のなによりも強烈なアルコールを感じるし、「決して何とも馴れ合わないぜ」というバナナの強い意志を感じる。
筆者は特別な訓練(※)を受けているため完食したが、一度鍋で煮てから召し上がっていただいた方がいいかもしれない。
(※)…日々の飲酒
組み合わせを考えるだけでちょっとしたエンタメ
今回ドライフルーツ果実酒5種類と、デーツのおいしい何らかを作ってみたが、結果は
酒として美味しい…レーズンウイスキー、マンゴーテキーラ
シロップみたいになってしまう…イチジクダークラム、プルーンブランデー
お前は一体何なんだ…バナナホワイトラム
であった。
おそらくデーツも酒に漬けると「シロップみたいになってしまう」カテゴリなのだろう。
もちろん今回試していないドライフルーツと酒の組み合わせでも、果実酒を仕込むことができる。
ステイホームで新しい趣味を探している方は、冬に向けてドライフルーツ果実酒を仕込んでみるのはいかがだろうか。
<お酒は二十歳になってから>