自分がバンドの存在を知ったのは2012年2月。さいたまスーパーアリーナで行われた『EMI ROCKS2012』という音楽フェスで観たのが出会いだ。まだデビュー直後で会場の観客も彼女たちのことを知らない人ばかり。東京事変や吉井和哉など大物が出演するイベントだった。はっきりいってアウェイの状況で求められていないステージだったかもしれない。自分も彼女たちのことを知らなかった。
そんな無名の新人が演奏を始めた瞬間に状況が一変した。重低音響くバンドサウンド。転調が多い複雑な楽曲を見事に演奏する技術力の高さ。コアでマニアックな演奏でありつつも、メロディは覚えやすくてキャッチー。その不思議な個性に衝撃を受けた。バランスが新しい。誰も聴いたことない新人バンドが、2万人近く入る会場を轟音で包み込む。他のバンド目当ての客の心も確実に掴んでいた。アウェイを一瞬でホームに変えてしまった。
バンドはどうしてもフロントに立つボーカルが目立ちがちだ。特に前ボーカリストの佐藤千明は圧倒的な声量と表現豊かな歌唱力で、ステージでの立ち振る舞いも存在感があった。現ボーカルの石野理子もステージの立ち振る舞いが美しく華やかである。
しかし赤い公園はボーカル以外のメンバーが脇役にならず、全員が主役と感じるようなバンドだ。
ベースの藤本ひかりはベーシストとしては珍しくエフェクターを多用して、不思議な音色を演奏する。またメロディを奏でるような複雑なベースラインを弾くことも特徴だ。
ドラムの歌川菜穂は勢いと迫力でリスナーを圧倒させるのではなく、独特な間を空ける粘り気があるドラミングをする。聴き手の心を掴んでじわじわと引き込むようなプレイだ。
おそらくバンドのリーダーである津野が、個性豊かなメンバーの演奏を上手くまとめ、全員が必要不可欠と思えるようなバランスを保つように努めていたからだろう。
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