厚生労働省は7月13日、各都道府県の衛生担当者や医療機関などに対し、感染性の神経難病であるプリオン病について、手術器具を介する二次感染予防策の遵守について徹底するよう通知した。プリオン病を疑われる患者に使用された再使用可能な手術用器械器具が再使用に至る一連の過程で、滅菌などのプリオン不活化処理が行われないまま、別の医療機関に貸し出されたという不適切な事例の発生を受けたもの。幸い、当該機器は用いられず、二次感染リスクの可能性は否定されたが、再発防止の観点から、医療機関、製造販売業者、貸与業者が医療器具の利用に当たり、情報共有、伝達を適切に行うなどして互いに緊密に連携するよう要請した。

ヒト乾燥硬膜移植手術などの医療行為を介して感染

 クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)などを含むプリオン病は、プリオンと呼ばれる蛋白性感染粒子によって引き起こされる。異常蛋白が脳内に蓄積され、主に急速進行性の認知症を呈するが、運動失調症、ミオクローヌス、パーキンソニズム、痙縮、自律神経症状などが目立つ。治療法はなく、多くは死に至る疾患であるため、感染予防が極めて重要になる。なお、プリオン病の代表的疾患であるCJDの人口 100 万人当たりの年間罹患数は約1~2人とされる。

 プリオン病は通常の社会的接触を介してヒトからヒトに感染することはない。ヒト乾燥硬膜移植手術やヒト下垂体抽出物を用いたホルモン治療などの医療行為を受けたケースでCJD が多発したため、医療現場での感染予防が重要になっている。

洗浄、滅菌の実施・確認について、医療機関と業者が緊密に連携を

 今回の事例については、2020年度厚生労働科学研究「プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究」において、プリオン病を疑われる患者に使用された再使用可能な手術用器械器具が、製造販売業者等への返却後、次の医療機関での再使用に至る一連の過程で、滅菌などのプリオン不活化処理が行われないまま別の医療機関に貸し出されたことが報告された。ただし、当該器具の貸与を受けた医療機関で適切な洗浄、滅菌が実施され、またハイリスク手技(脳、脊髄、硬膜、脳神経節、脊髄神経節、網膜または視神経に接触した可能性がある手技)には用いられなかったことが確認された。

 プリオン病の感染予防のポイントは、感染因子である異常プリオン蛋白の不活性化であり、感染予防に特化したガイドライン(GL)『プリオン病感染予防ガイドライン(2020年版)』(以下、GL)も作成されている。

 通知では、医療機関に対しプリオン病の感染症疑いの有無にかかわらず、ハイリスク手技を行った場合は、GLに従い、脳、脊髄、硬膜、脳神経節、脊髄神経節、網膜または視神経に接触する可能性があり、かつ、再生可能な医療機器についてプリオン不活化のための洗浄、滅菌を行うこと。さらに、洗浄、滅菌は委託も可能だが、その場合、GLに従った洗浄、滅菌がされていることを確認するよう求めた。

 また、医療機関、製造販売業者、貸与業者に対し、GLに従って対応するとともに、ハイリスク手技に使用された当該医療機器が、プリオン不活化に必要な洗浄、滅菌が行われないまま別の患者に使用されることがないよう互いに緊密に連携するよう要請している。

 一方、製造販売業に対し、こうした医療機器について、添付文書の「使用上の注意」の「重要な基本的事項」の項に、①医療器具がハイリスク手技に使用された場合には、GLに従った洗浄、滅菌を実施する②医療機器がプリオン病の感染症患者への使用及びその汚染が疑われる場合には、製造販売業者または貸与業者に連絡するーとの記載があることを点検することなどを求めた。なお、点検の結果については、今回の通知発出日から3カ月以内に医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告すること、としている。

(小沼紀子)