ドラマ「キイハンター」や映画「柳生一族の陰謀」などで知られ、ハリウッドでも活躍した俳優千葉真一(ちば・しんいち)さん(本名前田禎穂=まえだ・さだほ)が19日午後5時26分、新型コロナウイルス感染症のため千葉県君津市の病院で亡くなった。82歳。葬儀・告別式は近親者で行う。元妻は女優の故野際陽子さん。 所属事務所によると千葉さんは7月末に新型コロナウイルスに感染した。しばらく入院せず療養していたが、その後肺炎の症状が悪化し、8月8日に入院したという。酸素吸入を続けるなど治療したが、回復に至らなかった。関係者によると、ワクチンは接種していなかったという。
◇ ◇ ◇
ものすごい迫力だった。10年近く前、数人とともに、千葉さんと会食したことがある。開始から約1時間。千葉さんが、後輩の芸能関係者と大げんかを始めたのだ。
「おまえ、今、なんて言った? 今言った言葉忘れるなよ!」。千葉さんが激高すると、その関係者も「ああ、おれだって忘れないですよ!」と言い返した。落ち着いた高級料理店の中で、まさにつかみ合い寸前。どちらが悪いわけではない。本気の演技論を交わした末の、真剣なぶつかり合いだった。
膝がガクガク震えるほどの緊張感に包まれたが、正直、どこかうれしかったのを覚えている。数々の映画で見た国際派俳優が、目の前でガチで怒っている。数分間激しくやり合った後、千葉さんは「おれは夢があるんだよ。日本の映画で、もっと世界で勝負したいんだよ」と熱く、映画論を語り出した。その関係者も、「先輩、僕もそう思ってるんですよ」と応じ、気持ちよく仲直りした。
キャップをかぶり、シャツから鍛え上げた腕がのぞいていた千葉さんは、ギラギラしてかっこよかった。当時70代前半。その年齢で、ほぼ同年代の相手と本気で大げんかし、スカッと仲直りできるエネルギーに、ある種の感動すら覚えた。
そんな千葉さん、力尽きるまで復活に向けて闘い続けたのではないかと思っている。【広部玄】